※前作「自転車」の続編なので、まずはそちらをご覧になって下さい。






「シンジの奴め、なんと羨ましいことを…。」

モニターを見つめながら呟くゲンドウ。

そこには幸せそうな顔でシンジにしがみつくレイと、顔を真っ赤にしながらもなんとか
自転車のペダルを踏むシンジの姿があった。

「ふっ、私にできないことはないのだ。」

口元を歪ませニヤリとするゲンドウ。

彼の真意を知るものは作者だけである。








【HIROKIさん帰国記念小説】

自転車2








『バッチーン!!』

盛大な音が2年A組に響きわたる。

「シンジ、あんた飛び出したっきり全然帰って来ないと思ってたら、よりにも
よってファーストと仲良く自転車に二人乗り?あんたバカにしてんの?」

「そ、そんなあ。だって綾波ケガしてて歩けないから…。」

「じゃあ、あれを説明してちょうだい。」

アスカが指さす先には、プリント配りをテキパキとこなすレイの姿があった。

「あ、綾波?」

シンジの声に気が付き、頬を僅かに染めるレイ。

その微妙な変化をアスカは見逃さなかった。

(なによ、ファーストのくせに一人前に女の子しちゃってさ。あ〜超ムカツク。)

「…なに、碇君。」

「足の具合、どうなの?」

「…足?」

「…うん、結構痛がってたよね。」

「…さっき保健室で湿布貼ってもらったから大丈夫よ。それに…。」

「それに?」

「…碇君と一緒に自転車に乗ってたら、…痛みが和らいだの。」

今度はハッキリと頬を紅く染めるレイ。

(クッ、なによなによ、普段人形みたいなくせに。こんな時ばっかりいい子
ぶっちゃって。)

「そ、そう。でもよかったね、軽いケガですんで。」

「…ええ。ありがとう、碇君。」

微笑み合う二人。

その雰囲気にはさすがのアスカも踏み込めなかった。

その様子を遠巻きに眺める三人。

「なんや、センセと綾波ええ雰囲気やないか。」

「でも綾波さん、よくケガなおったわね。」

「く〜、シンジと綾波が二人乗りをしてきたのには参ったな。フィルム切らせて
なければ………、惜しいチャンスを逃したよ。次の機会には必ず……。」


野次馬はいつの時代でも無責任なものである。





その頃ネルフでは……。


「Aの000……、それって特務機関ネルフ総司令への全権委譲のことじゃない!!」

ミサトが叫ぶ。

「そうなんですよ、葛城さん。」

マコトがミサトに耳打ちする。

「なんでも総司令自らの発令とか…。」

休憩室で一服していたミサトはマコトから衝撃の事実を知らされた。





「一体何があったんですか、碇指令。」

司令室に異様な緊張感が漂う。

ゲンドウはいつものポーズを崩さずに口をひらく。

「…ん、その、なんだ、ちょっとチルドレンとスキンシップを図りたく思ってな。」

「は?」

「…その、チルドレンと……。」

「……もう一回言ってもらえます、指令。」

ミサトのドスの効いた声が響く。

気がつけば、横で冬月はゲンドウの話などに耳も貸さず詰め将棋に没頭しており、
あからさまに「パッチン、パッチン」と盤に駒を打ちつけている。

(副司令も今回の話には納得がいってないようね。これは千載一遇のチャンスだわ。)

「誰がこの話に賛同しているのですか?」

見ると机に半分腰を下ろし、まるっきりの尋問スタイルである。
[※刑事ドラマの取り調べなんかでよく見かけるアノ格好です]

(…ううむ、この状況は私には不利か…。仕方ないな。)

一計を案じるゲンドウ。

「………………………葛木三左、私にそんな態度をとってもいいのかね。」

「へ?」

「君は一体ネルフにどれほどの借金をしているのかね?」

「うう、それは…。」

「借金も返せないような人間は、本来作戦部長にはしておけんのだがな(ニヤリ)。」

「…………。」

「何か他に言いたいことはあるかね。」

「……い、いえ。」

「ならばさっさと退出したまえ(ニヤリ)。」

「…はい。」

肩を震わせながらドアを閉めるミサト。

目の前の壁を思いきり蹴りあげる。

(あんの髭親父、後で覚えてなさいよ。)





《放課後》


「あれなんだ?」

「なによ、あれ?」

帰り支度をしたクラスメートがワイワイ騒ぎだした。

シンジ達も窓の外に目をやる。

「………と、とうさん!?」

「なんで司令がここにいるわけ?」

「………。」

そう、校庭の真ん中に真っ白なタキシードを着たゲンドウがいた。

傍らにはナゼかシンジの自転車が置いてあり、校庭から校門を超えて遥か彼方まで
真っ赤なじゅうたんが敷き詰められていた。

「なんやあれは。」

「不気味な男だな…。」

ケンスケの眼鏡がキラリと光る。

「そうね、頭のおかしな変質者なんじゃないの?」

もっともな指摘をするヒカリ。

「あれ、僕の…父さん…。」

シンジが俯きながら呟く。

「「「えっ!!」」」

言葉のない三人。

「………な、なんや、よく見ると男前やないか。」

「…そ、そうだよな、髭もよく似合っているし…。」

「そ、そうよ、あんな立派な服を着た変質者なんかいるわけないわよ。」

必死にフォローを入れる三人。

「ありがとう。でも無理しなくていいよ。あれはどこから見ても変だよ…。」

うなだれるシンジ。

「大丈夫?碇君。」

すかさず駆け寄るレイ。

「ちょ、ちょっと、ファースト、なにやってんのよ?」

そう言いながらもシンジを介抱するアスカ。

その時、教室の出口に諜報部とおぼしき男が現れた。

つかつかと三人の前に歩み寄る。

そして一枚の紙を目の前に広げた。

そこにはただ、「A000」とだけ記されてある。

「なによこれ?」

「なんだろう?綾波分かる?」

「…ええ、“特務機関ネルフ総司令への全権委譲”を意味するわ。」

「「ええ!!」」

開いた口がふさがらないアスカとシンジ。

「で、あんた私たちに何の用?」

腰に手を当てドーンと胸を張るアスカ。

「セカンドチルドレンには用がない。」

「…え?」

「サードも同様だ。」

ホッと胸をなで下ろすシンジ。

(えっ、てことは…、まさか!)

「ファーストチルドレン、綾波レイ。総司令がお呼びだ。」

「………はい。」

「一緒に来ていただきたい。」

言葉は丁寧だが有無を言わせない高圧的な態度。

カチンとくるアスカ。

「ちょっとファースト、あんた行くことなんかないわよ。」

レイと男との間に割ってはいるアスカ。

「そうだよ綾波、こんな命令聞く必要ないよ。」

アスカの脇に陣取るシンジ。

「子供の遊びに付き合っている暇はない。さあ来るんだ。」

「…はい。」

歩き出した男の後をついていくレイ。

「ファースト!」「綾波!」

レイは教室を出ていく前にふっと振り返った。そして…、

「…ありがとう、碇君、そして……アスカ…。」


呆然となる二人。

「綾波……。」

「あの子、初めて私のこと、名前で…呼んだ…。」





「やっと来たか…。」

「遅れて申し訳ありません、事を荒立てたくなかったもので…。」

「…まあいい。」

男の横に立つレイを見るゲンドウ。

おもむろに自転車のスタンドを外す。

「レイ、後ろに乗れ。」

「………。」

「聞こえないのか?」

「…それは…命令ですか?」

「そうだ。」

おずおずと後ろの荷台に腰を下ろすレイ。

「では行くぞ。」

ゲンドウはペダルを踏み始めた。

赤いじゅうたんの上をさっそうと駆けていく一台の自転車。



「ファースト…。」

「綾波…。」

教室から覗く二人の瞳には不安の色が浮かんでいた。





もちろん自転車の走る通りは全て通行止め。

さらに10メートルおきに道路の両脇を警備員が固めている。

「気持ちいいか、レイ。」

運転をしながら後ろのレイに声をかける。

レイにとっては不快このうえないシチュエーションだったが、その時レイの頭に
名案(迷案?)がひらめいた。

レイはゲンドウの身体に手を回し、しっかりと抱きしめる。

「…はい。」

(フッ、見たかシンジ。レイはお前ではなく私を選んだのだ。)

勝手な妄想にふけるゲンドウ。

(それにしてもレイの奴め、いつの間にこんな………。)





「司令ありがとうございました。」

自転車から降りたレイがペコリとお辞儀をする。

「うむ。」

幸福の絶頂にいるゲンドウ。

(フフン、これでA000などという禁じ手を使ったかいがあったというもの。)

「私は司令室に戻るぞ、レイ。」

スタスタと歩き出すゲンドウ。

「待って下さい、碇司令。」

「なんだ。」

振り返るゲンドウ。

「さっき、これ落としました。」

見ると、レイの手にはゲンドウの懐に大事に納まっているはずの手帳が握られてあった
。
「そ、そ、それをどこで…見つけたんだ?」

いきなり焦りまくるゲンドウ。

それもそのはず、その手帳には亡き妻ユイの写真が挟まれてあったからである。

しかも、その写真には大学時代に付き合っていた二人が仲良くツーショットで写ってい
た。

さらにゲンドウは今では滅多に見られないさわやかな笑顔さえ浮かべていた。

無言で手帳を手渡すレイ。

ゲンドウは震える手で受け取った。

すぐさまパラパラとめくり写真を確認する。

(な、ない。なぜだ……、……もしや?)

「レ、レイ。」

「なんですか、碇司令。」

「そ、その、なんだ…。」

「…さがしものはこれですか?」

レイは懐から一枚の写真を取り出した。

「なぜ、それを?」

「………(クス)。」

小悪魔的な微笑みを浮かべるレイ。

(ひょっとして、さっき抱きついたときに………。)

「レイ、手帳を拾ったというのは嘘だな?」

「…いえ、司令の懐から落ちそうになっていた手帳を預かっていただけです。」

(とどのつまり、“スった”ということだろうが!)

激怒しそうになったゲンドウだが、そこはネルフ総司令、つとめて冷静にふるまう。

「写真を返しなさい、レイ。」

「……命令ですか?」

「そうだ。」

「…拒否します。」

「…なんだと。」

ゲンドウが近づこうとした瞬間、レイは写真を両手でつまみ、破ろうとする。

(く、レイめ、いつの間にそんなにズル賢く…。)

「…何が…望みだ。」

仕方なく交換条件を提示するゲンドウ。

「分かってもらえて嬉しいです、碇司令。」

その後二人の間でどんな会話がかわされたのかは知るよしもない。





起動実験終了後・・・。

「今日もやっと終わったわね。」

「うん。」

「………。」

ネルフ内の廊下を並んで歩く三人。

「でもファースト、司令に変なことされなかった?」

アスカとシンジはミサトからゲンドウの企んだ一部始終を聞かされていた。

「…特に…何もされなかったわ。」

「“特に”っていうことは、やっぱり何かされたの?」

自分の父親の行動を全然信じない少年、碇シンジ。

「確かにそうよね、あの髭親父一体何考えているんだか、まったく。」

「…いいえ、大丈夫よ。ありがとう、二人とも。」

少しだけ笑みを浮かべるレイ。


[ちょっとシンジ。]

シンジに耳打ちするアスカ。

[なんだよ、アスカ。]

[ファースト、ちょっと変よ。]

[変って?]

[あまりに素直すぎるわ。]

[そうかな?]

[そうよ。いつも“ありがとう”なんて言わないし、しかも私のこと名前で呼ぶし…。
]
[………。]

[…何か企んでいるかもしれないわ。油断しないようにしなきゃ。]

ため息をつくシンジ。

[考えすぎだよ、アスカ。]

しかし、もう既にレイの企みの中にいることを2人は知らない。





シンジの自転車の前に立つ3人。

「僕はこれに乗って帰るから、2人はリニアで帰ってよ。その方が早いし…。」

「「………。」」

なぜか黙り込んでいるレイとアスカ。

「2人ともどうしたの?」

訝(いぶか)るシンジ。

「シンジ。」「碇君。」

「は、はい。」

「「私が後ろに乗るわ。」」

「…は?」

互いを敵意に満ちた瞳で見つめるレイとアスカ。

「シンジは先に行って待ってて。」

「それがいいわ。」

「う、うん。」

2人の気迫に押し出されるようにその場を離れるシンジ。





「さあ、今こそ決着をつけてやるわよ、ファースト。」

「…それはこっちのセリフ。」

「あんた、足はもう痛くないんでしょ?図々しいにも程があるわ。」

「…健康だけが取り柄のあなたに、そんなこと言われる筋合いはないわ。」

「なんですって!!」

今にも飛びかかろうとするアスカ。

それを手を出し制止させるレイ。

「な、なによ?」

「…暴力は嫌い。」

(クっ、なんか調子狂うわね。いいわ、それなら……。)

「じゃあ、ジャンケンで勝負よ。」

「…じゃん…けん?」

「あんた、ジャンケンも知らないの?」

「知ってるわ。」

コケそうになるアスカ。

(あ〜、じれったいわ。さっさと勝っちゃいましょ。シンジを待たせるのも悪いしね。
)
生涯勝率を8割と自負するくらい、アスカはジャンケンには自信があった。

(どうせ、ファーストはジャンケンなんてしたこと無いだろうし、楽勝ね。)

アスカが考え事をしている間に、携帯の番号を押すレイ。

そして一言。

[お願いします。]



「じゃあ、いくわよ。」

自分の出すジャンケンも決まりふりかぶるアスカ。

「…ええ。」

かまえるレイ。

「最初は、グー………、ってなによ、それ?」

場にはグーと……、そしてパー…。

もちろんアスカがグーで、レイがパー。

「あんたふざけてんの?怒るわよ。」

アスカの剣幕にもたじろがないレイ。

「ふざけてるのはあなたよ。」

「なんですって!」

「最初にグーをだすなんて、誰が決めたの?」

「えっ…。」

気勢をそがれるアスカ。

「分からないの?」

「そ、それは…。」

(どうしよう、そんなこと知るわけないじゃない。でもこいつに言い負けるのは
しゃくにさわるし…。…もう、でまかせでもいいわ。)

「あたしよ。」

「………。」

「あたしが決めたの。」

自信満々に胸を張るアスカ。

「私が従う必要はないわ。」

冷たくあしらうレイ。

「あなたがグーをだして、私がパーを出した。…真実はこれだけ。」

「だからそれは…。」

「…私の勝ちね。」

「……ちょ、ちょっと待った。そう、今のは儀式、そう日本に古くから伝わる“正式”
な儀式なのよ。なんぴとたりともそれを犯してはいけないのよ。」

ことさら“正式”を強調するアスカ。

「さあ、もう一度勝負よ。」

「時間ね。」

「は?」

時計をちらっと見るレイ。

「その必要はないわ。」

そう言うとレイは、振り返って出口に歩き出す。

「待ちなさいよ。」

レイを追いかけようとするアスカ。

しかし身体が動かない。

何者かがその肩を押さえていた。

「なに?」

アスカが後ろを振り返ると、そこには諜報部らしき男がいた。

「なによ、あんたたち。」

「弐号機パイロット、惣流アスカラングレーだな。」

「そうよ。この天才パイロットに何か用?」

「総司令の緊急命令です。これからあなたは臨時の起動実験を行わなくてはなりません
。」

「はぁ?起動実験ならさっきやったばっかじゃない。」

「そんなことは関係ありません。とにかく本部まで来ていただきます。」

「イヤに決まってるじゃない。シンジとファーストはどうなのよ?」

「あなただけです。」

「ちょ、ちょっと待って。ファースト、ファーストってば、なんとか言ってよ。」

少し先に行ってしまったレイになんとか声をかける。

その声にゆっくりと振り返るレイ。そして…、

「…お連れして。」

「へ?」

「分かりました。」

レイの声に反応する諜報部。

「えっ、ファースト、今なんて…。」

「…命令には従わなければいけないわ、アスカ(クス)。」

最後の『クス』になって、やっとアスカは理解した。

「レ、レイ、あんた謀ったわね。」

「なんのこと?」

とぼけるレイ。

「クッ、ちょっと、離しなさいよアンタたち、エッチ変態、どこさわってんのよ。」

男達はアスカを羽交い締めにしながらそのまま車に連行する。

「ファースト、覚えてなさいよぉぉぉぉ……。」

アスカの捨てセリフを残して車は発車した。



「弐号機パイロット、せん滅(クス)。」

昼間の借りをやっと返し、感慨にひたるレイだった。





「アスカと綾波遅いなあ、一体なにやってるんだろ?」

時計を見ながら一人呟くシンジ。

「…碇君?」

顔を上げると、レイが目の前にいた。

その表情からは先程の壮絶な女の戦いの跡は見てとれない。

「綾波…、あれ、アスカは?」

「臨時の実験が突然はいったみたいで、急いで本部に戻ったわ。」

「そうなの。」

「ええ。」

それがレイがゲンドウに頼んで仕組んだ罠だとはシンジは夢にも思わない。

「……あの…?」

「な、なに?」

「後ろ、乗っても…いい?」

上目づかいでシンジを見つめるレイ。

「も、もちろんだよ、綾波。早く帰らなきゃ暗くなっちゃうしね。」

シンジがサドルにまたがる。

「はい、乗って綾波。」

「…ええ。」

少し逡巡(しゅんじゅん)すると、レイはシンジの両肩にそっと手をのせた。

(えっ!)

次の瞬間には、レイは後輪の脇の金具に両足を乗せていた。

「…綾波?」

振り向くシンジ。

シンジはてっきり後ろの荷台にレイが座るものと考えていた。

「昨日、アスカもこう乗っていたわ。」

「……見たの?」

コクンと頷くレイ。

(……昨日の2人乗り、綾波に見られたんだ。……別にかくす必要もないんだけど…。
なんか複雑だな…。)

視線を前に戻すシンジ。

(まあ、いいや。)

「いくよ。」

「ええ。」

ゆっくりをペダルを踏むシンジ。

徐々にスピードも増し、車体も安定してくる。

「ど、どう、綾波?」

「………。」

「綾波?」

返事の代わりに両腕をスッとシンジの首にまわし、抱きしめるレイ。

そして、ピトッと自分の頬をシンジの頬にくっつける。

「あ、綾波?!」

「……この乗り方、…私の…オリジナルだから…。」

抱きしめる両腕に力をこめる。

結果としてますます密着するシンジとレイ。

シンジは昼間と同じ感触に、一人真っ赤になっていた。

「…でも…ね、その、む、胸が…、当たってるん、だけど…。」

「…私は平気。」

「そ、そぉ?」

「…ええ。」

(だから違うんだってば!)

焦りまくるシンジをよそに、夢心地のレイ。



(まぁ、暗いし目立たないから大丈夫だよね、多分。)





(フフフ、やっぱりな。)

電柱の影からカメラのファインダーがキラリと光る。

『カシャカシャ』

(惣流と綾波、どっちと2人乗りしてくるかと思えば・・・。)

少年の目の前を自転車が通り抜ける。

(この写真は高く売れるな。シンジ、お金の準備しとけよ(ニヤリ)。」





暗闇の中、一台のモニターを見つめる一人の中年。

「お、おのれぇぇぇぇ…。」

一人わめき散らすその男。

「なぜだ、なぜ、レイ、そんな幸せそうな顔をするのだ。」

「シンジ、お前が全ての元凶だ。許さん、絶対に許さんぞ。」

男はおもむろにそばの受話器をとった。

「私だ、実は…………。」





その少女が解放されたのは“あれ”から2時間後。

「…………。」

足元にあった小石をおもいきり蹴飛ばす。

「ファースト。」

「……ファースト。」

「………ファーストォォ!今に見てなさいよ、必ず、必ずこの借りを返してやるわ。」

少女はおもむろにカバンから携帯を取り出した。

「もしもし加持さん、私アスカ。あのね、一つお願いがあるんだけど…………。」





2人の身に迫りくる危険。

そんなことにはお構いなしに、2人を乗せた自転車は夕闇の第三新東京市を駆けてゆく
。




(…碇君のほっぺた、気持ちいい…。)








                                      《
完》



【予告】
幸せ一杯のレイとシンジをよそに暗躍するアスカとゲンドウ。
シンジは彼らを必死に説得するが、ケンスケの撮った写真がその望みを
打ち砕く。彼らとの間に刻まれた溝は余りに深く、そして大きかった。
シンジとレイを襲う様々な罠。逃げまどう2人。果たして2人は魔の手
から逃れ、幸せな未来を勝ち取ることができるのか。
次回、「自転車3」
さぁて。次回もサービス、サービスゥ(って続くのか?)。




《作者後書き》
みなさん、こんにちは。ご無沙汰してます、Safetyです。今回の作品いかがだった
でしょうか。ここ一ヶ月ほど書いていなかったせいもあり、好き放題書いてしまい
ました。今までにはないレイを描けたかなとちょっとだけ思っております。でも、
書いてる内容が滅茶苦茶ですね。スイマセン、悪気はないんです、ハイ。
もしよろしかった感想を下さい、お待ちしています。続きを書くかは分かりません
けど(笑)。
HIROKIさん、そして読者のみなさん、今後ともよろしくお願いします。
それでは。