少しくらい部屋の中心に長いテーブルがおいてある。
そこにはサングラスをかけた男と蒼銀髪の少女が向かい合って座っていた。
「レイ、少し時間を置いてみないか?おまえのためにも、シンジのためにも」
レイと呼ばれた少女は俯いたまま無言で頷いた。
用意された部屋は日当たりも良く暮らすには申し分ない、快適そのものの部屋だった。
ただ、いつもいるはずの愛しい人がいないことを除けば・・・・・・。
レイはゲンドウに説得されシンジのためにゲンドウの元にとどまった。
それはレイはシンジのことを信じたいから。
「もし、なんらかの理由でお互いが会えなくなってしまったとき、お前達は今のままで信じあって生きていけるか?」
ゲンドウから告げられた言葉をレイは反芻する。
だからあえてゲンドウの説得通りシンジの前から姿を消した。
その間ゲンドウの元で生活を続けるが心にあいた穴は埋まらない。
何かが足りない、何かが違う・・・・・その理由はわかっていたが、それでもゲンドウの指摘が心に突き刺さる。
だからこそ自分は強くならなければならない。
そこまでわかっていながらどうしても彼を求めてしまう。
彼を自分を信じることの出来ない弱さに押しつぶされそうになりながら・・・・・・。
朝・・・・・いつもいるはずの愛しい人がいないことに気づく。
まるで目覚めない悪夢を見ているように心が痛む。
比較的自由に外へ出ることが出来るが私はここがどこだかわからなかった。
出会う人は少なく、話しかけても笑って応えてくれない。
どうやらどこかの研究都市らしく情報がきっちり管理されていた。
ここを抜け出そうと思えば抜け出せたのだが心に刺さった棘が足をすくませる。
「シンジ・・・助けて」
昼・・・・・所長と食事を共にする。
しかし何を食べてるとか、何を言われたとか、何も覚えてない。
ただ、私を見て少し所長は落胆している様には見える。
私は心の整理がつかないとだけ告げる。
そうただそれだけ。
夜・・・・・・部屋から見える月をベッドの上からじっと見つめていた。
たった数日会えなかっただけなのにどうしてこんなに不安なの?
シンジのこと・・・・信じたい
シンジのこと・・・・信じてる
もしかしたらこのままシンジは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いや、そんなのは嫌
いやだ、いやだ、いやだ
シンジに会いたい・・・・・会いたい・・・・・・・・・
視界がぼやける。
満月が水面に映るように揺れて見える。
やがて私は声を殺し、胎児のように体を丸めてうずくまって泣いていた。
数週間後、レイの部屋に訪れたゲンドウはため息をついた。
それは今のレイの状況があまりにも酷いからだ。
表情はほとんどなく、目はうつろになっている。
本当にただ生きているだけと言った状態だった。
そんなレイに再びゲンドウは告げる。
「もし、何らかの理由で二人の間に逢えない理由が出来たら・・・・・どうする?」
レイはぼんやりとその言葉を聞いている。
「こんな状態ではふたりとも駄目になるぞ。おまえ達の「絆」とはその程度なのか?」
心をえぐる言葉。
レイは今までの不安に押しつぶされるように顔を歪める。
「私ではおまえを支えてやることは出来ない。しかしシンジのことを本当に信じてやれるなら・・・・・・」
バタン!!!!
部屋の扉が開く。
「では、私は行くとするか」
ゲンドウは部屋に入ってきた人物の肩をぽんとたたいて出ていった。
レイは両手で顔を覆いながら泣いていた。
すると後ろから誰かが抱きしめてくれる。
「!!!!」
レイは思わず振り返ろうとした。
しかし抱きしめている人物がそうされてくれない。
背中から涙混じりの優しい声が聞こえる
「僕は・・・・不安で仕方なかったんだ。レイがいない生活なんて考えられない。
だけど父さんの言うとおり、突然の別れがやってきたら・・・・・。
僕たちはもっと強い絆で結ばれないと駄目なんだね。
お互いを信じ切ることの出来るほどの絆・・・・」
レイはシンジと向かい合い心にあいた穴を埋めるかのようにシンジを求めた。
シンジも同じようにレイを求める。
「離さない」
「離したくない」
シンジはレイに口づけをして誓う
「僕はレイのことを信じる。父さんの言うようなことが起こっても信じる。」
「私だってシンジのことを信じる」
そう言ってレイはシンジを自分の胸に抱きしめた。
この人は私のことを本当に信じてくれる。
ならば私もこの人の気持ちに応えたい。
その想いでいっぱいになった時レイはようやく安らぎを得た。
「眩しい」
ようやく長い悪夢から抜け出したレイはぽつりと呟いた。
むくりと起きあがって周りを見回す。
ここが自分の部屋であり、今が朝だと認識する。
ようやく状況が把握できると急にシンジに会いたくなった。
レイは部屋を飛び出してシンジの部屋へと向かう。
ノックもせずにシンジの部屋に飛び込むとベッドにシンジが寝ていた。
そぉっとシンジの寝顔を見ると少し苦しそうな・・・・悲しそうな顔をしているように見えた。
レイの胸の鼓動が高鳴る。
「今度は私がシンジを助けてあげる番だから」
そしてレイはシンジを自分の胸に抱きしめる。
「シンジ・・・・愛してる」
自然と出た言葉・・・・レイはおだやかな表情でシンジを抱きしめていた。
「ん?・・んんん・・・・うわっ!」
「うふふっ、おはよっ、シンジ」
心に広がる幸せ・・・・・この人と生きていけるなら・・・私はほかに何もいらない。
このSSを書くきっかけはHIROKIさんへの感想でした。
一連の流れの欠けた部分を私なりに勝手に想像してメールにして送ってみたんです。
すると超短編でもいいから書いてみないか?とお誘いを頂きました。
お世話になりっぱなしのうえに実は一回も投稿をしたことがなかったので書いてみました。
しかし、HIROKIさんの作品のイメージってやっぱり難しいですね。
ここまでが精一杯でした(笑
レイが好きのレイちゃんをうまく書けたかかなり心配ですがもしよろしければ感想などいただけると幸いです。
この機会をくださったHIROKIさんには感謝しております、ありがとうございました。
解説 どうも、「レイが好き!」の筆者です。 えと・・・ 結局、僕が書けなかったことを木野神さんが書いてくれたということです。 どうも、ありがとう>木野神さん で・・・ >お世話になりっぱなし ってのに、いまいち、心あたりがありませんでして、 こちらこそ・・・本当に、ありがたいですね。 で、解説らしく・・(^^; この作品は、「レイが好き!」第30話〜第33話の直前までを レイ一人称で書いたものです。 本来なら、「レイが好き!」筆者が「シンジが好き!」として、 書くべきものであると思いますが、筆者の力量不足、あるいは、 精神的な不安定さから、とても書けなかったものです。 そこで、「レイが好き!」第30話〜第33話への感想を寄せて頂いた 木野神さんに、無理をいって、書いていただいたものです。 内容自体は、既に、前出の本編から、ある程度読み取ることのできる ものかもしれませんが、 レイの心の内の葛藤・・・彼を思う心と、彼への想いへの苦しみ・・・ が、非常によく、"詩人"木野神さんの手によって、描き出されていて、 とても、好感の持って読める内容となっております。 また、第33話へのつながりも考えて、うまくまとめて頂いたと思います。 「レイが好き!」筆者の描き切れなかったレイの心に触れてみてください。某所にて、HIROKI
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