第    1     話

 

 ここは第3東京都市。

いつも通りの1日が始まろうとしていた。 

 

ピピピピピピピピピピ………

毎朝6時にしかけられた目覚し時計。

それに手を差し伸べる少年。

「カチ」という音と共に目覚ましの音がやむ。

そしてゆっくりとベッドからはいでる少年。

その足取りは、洗面所へと向かっていた。

冷たい水で目を覚ましたあと、少年が次にする事は朝食の準備であった。

いつもの事なので手馴れているらしく、手際良く朝食ができる。

普通の家ならこう言う事は母親がするべき事なのだが、

彼に母親はいなかった。

少年が産まれた時、息を引き取ってしまったらしいのだ。

父親はと言うと、仕事上ほぼいなかった。そしてその間、

シンジは幼なじみのところでお世話になっていた。少年はその後4歳でドイツから日本に帰国。

何回も父親の仕事のため転校させられ、

そして、少年が12歳の時にここ、第3東京都市の第一中学校に編入させ、

アパートを借りて少年を住まわせると、いなくなってしまった。

かれこれ2年も一人で生活しているのだ。

なれるのが普通である。

彼が準備をし終え家を出る頃、時計は7時50分をさしていた。

彼はいつも通り家を出た。

 

そこの表札には「碇」と書かれていた 

そう、少年の名は「碇 シンジ」 14歳である。

繊細な顔立ちをしていて、体つきは女性ににて、ほっそりとしていてきれいであった。

そして、一人暮しのせいか料理がとてつもなくうまい。

 

そしてシンジは、いつも通りに学校へと向かった。

 

「おはよーさん、シンジ」

「おはよーシンジ」

「あ、おはよー、トウジ、ケンスケ」

最初に声をかけて来た方が「鈴原 トウジ」

彼とは中1の頃知り合った。

体格はがっちりしている。

少し関西弁っぽいしゃべり方をする。

一方後から声をかけて来た方は「相田 ケンスケ」

メカおたくとも称されている。

「しっとるかシンジ。近々この辺りに転校生が来るらしいで。しかも女」

「ふーん、そうなんだ」

「ふーんってそれだけかいな。まあええ、この事はイインチョには内緒やで。

あのひとうるさいからの」

トウジが苦笑しながら言った。そのとき、ケンスケがこわばった表情で

トウジを小さな声で呼んだ。

「ト、トウジ…」

「何やケンスケ、どないしたん…。おわ、イインチョ!」

僕ははっと後ろを見た。そこにいたのは紛れもなく、委員長の「洞木 ヒカリ」だった。

しかも、かなり怖い顔をして立っている。

「鈴原君、誰がうるさいって?」

「あ、そ、それはやの…。ケ、ケンスケ逃げるで」

「あ、トウジ、待ってよ」

二人は疾風のように逃げ出した。

その姿をぽかんと洞木は見ていた。

僕はその洞木を尻目にこっそりと逃げようとした。

僕にも被害が回ってくる可能性があるからだ。

案の定、洞木はシンジに尋ねてきた。

「碇君、あの二人と何を…あら?」

その時僕は教室の入り口まで移動していた。

「あ、ちょ、ちょっと碇君、待ちなさい!」

「ごめん洞木」

僕はそう言うと急いで教室を出た。

朝のホームルームまであと20分くらい時間がある。

僕はとりあえず屋上で過ごすことにした。

 

ホームルーム

 

担任の「葛城 ミサト」先生が教室に入るなり言った。

「えー、もうすぐこの教室に転校生が来ます。しかも女の子です」

そう言うとクラスの男子が「うおおおおお」とか叫んでいた。

僕は客観的にそれを「物好きだなー」と思いながら見ていた。

女子はというと冷たい目で男子を見ていた。

「先生、その娘はどんな娘なんですか?」

委員長の洞木さんがミサト先生にたずねた。

「それは秘密。今言っちゃうと楽しみがなくなるでしょ」

――楽しみがなくなるのは男子だけなんじゃ…

「じゃあ、何時来るんですか?」

「それも秘密」

クラスからブーブーと声が上がった。

「はいはい、静かに。一言だけいうともうそろそろ引っ越してきてるってとこかしらね」

そこまで言うとケンスケがカメラのレンズを磨いていた。

どうやらその娘を写真に収めるつもりらしい。

「先生、その娘どこに引っ越してくるんですか?」

カメラを持ったままケンスケが聞いた。

「ふふ、ひ・み・つ。だって教えたらあなた達そこに押しかけるでしょ」

ギクッとばかりにケンスケの肩が跳ねた。

「楽しみはとっときましょうね」

ミサト先生がにっと笑った時、ホームルームを終える鐘が鳴り響いた。

 

放課になると、クラスの中は案の定転校生の話でもちきられていた。

僕は先ほどと同じようにその様子を見ていた。気付けば、トウジとケンスケが

僕の机の前に立っていた。

「ようシンジ。転校生ってどんな娘やろーな」

「…さあ?」

「ん、シンジは楽しみじゃないのか?」

「いや、そうでもないけどそんなに騒ぐ事はないと思うんだけど…」

「あ、そうやった。シンジは女子に興味はなかったな」

「いや、別にないわけじゃあ…」

トウジにはああ言われたが、別にシンジは女子に興味がないわけではなかった。

ただ、過去の事が割り切れずにいた。

 

              10年前

ドイツの郊外に幼い日のシンジはいた。

 

天気が良く、絶好の散歩日和だった。

「ほら、シンジ。一緒に散歩行こうよ」

「わ、わかったよアスカ。ちょっと待ってよ」

その頃、シンジは自分の幼なじみといた。

アスカと呼ばれた娘だ。

シンジはアスカと一緒に近くの公園に足を運んだ。

公園は大きかった。

季節は春の終わりぐらい。

ちょうど花見シーズンが終わったくらいだった。

シンジ達は並木道の下を歩いていた。

彼らがたどり着いたのは広い芝生の上だった。

「ねえねえアスカ。気持ちいいよ」

シンジはいつのまにか芝生の上にねっころがっていた。

その様子をふーっとため息をついてアスカは見ていた。

「あんたねー。…でも、いいなー」

そう言うと、アスカも芝生の上にねっころがった。

「うわー、きもちいい。お日様もぽかぽかしてて。ね、シンジ」

「…………」

「…シンジ?」

アスカがふっと横を見ると、シンジは幸せそうな顔をして眠っていた。

「もう、シンジッたら」

くすっと笑うと、知らず知らずのうちにアスカも眠っていた。

 

シンジが起きたのはもう夕方だった。

「ねえ、アスカ起きてよ。そろそろ帰るよ」

「……ん、シンジ?」

アスカは眠そうな目をこすって言った。

「…あ、私も寝ちゃったのね」

アスカはちょっと照れながら言った。

「さ、アスカ帰ろう。じゃないと心配するよ」

「そうね、帰ろうか」

アスカはお尻についていた芝を手で軽くはたくと、シンジと共に家を目指した。

「…お腹すいたね」

「ふふ、まったくシンジは…」

ふふっと口で笑うアスカ。シンジは自分の耳が赤くなるのに気付いた。

「えー、だってー」

「もう、…じゃあジュースでも飲む?」

「え? 僕、お金ないよ…」

「大丈夫、あたしがおごってあげるわ」

「ありがとうアスカ」

自販機の前についた二人。

「シンジ、どれがいい?」

「ありがとう、僕これでいいよ」

シンジはうーんとばかりにボタンを押した。

彼らの身長では、自販機のボタンは高かった。

シンジがボタンを押すと直に、ガコンという音がしてジュースが出てきた。

「ありがとうアスカ」

シンジはさっきからアスカにお礼ばかり言っていた。

「いいわよ。…シンジが買ってるの見たら私もほしくなっちゃった」

えへっとばかりに舌を出すアスカ。

「私も何か飲もーっと」

アスカもシンジに次いでボタンを押す。ガコンと言う音が聞こえジュースが出てくる。

アスカはそれをとりシンジとともに飲み始めた。

「あ、アスカ。お釣り取った?」

「あ、まだだった」

シンジにとって、この言葉は後から後悔する事になった。

「よいしょっと」

片手でジュースを持っているため、片手でお釣りをだし、ポケットにしまおうとした時だった。

チャリン

「あっ」

アスカの手を1枚のコインが滑り落ちた。そのコインは道の中のほうへ転がった

シンジはその事に気付かず、ジュースを飲んでいた。

アスカがようやくコインを自分の手に収めたときだった。

ふっと横を見てアスカがいないことに気付いたシンジは辺りをぐるっと見回した。

アスカは道の中にかがんでいた。自分を置き去りにしてなかった。

「アスカー、危ないよー」と言おうとした時だった。

シンジの目は前方から迫ってくるトラックを捕らえた。

「アスカ!」

シンジの声でふっとかがんでいた腰を上げると、トラックが自分目掛けてきているのに気付いた。

「キャアアアアアア!」

「アスカ!」

シンジは駆け出していた。そのままアスカを助けたかった。

シンジがアスカの手を握った時、もう逃げられなかった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

トラックにぶつかる瞬間、シンジの目の前に金色の透明な壁が一瞬見えた気がした。

が、シンジとアスカの体は宙をまっていた。

 

目覚めるとシンジは病院にいた。

白い天井が見えた。

それから、ものの数週間でシンジは退院した。

どうやら奇跡的にさほど重症ではなかったらしい。

アスカはと言うと、まだ入院中だった。

アスカはシンジと違って一歩間違えば死に追いやられるところだった。

シンジはそれをアスカの母「キョウコ」おばさんから聞いた時、ショックで倒れそうになった。

そして、あの時言った自分の言葉に後悔した。

あの時アスカがお金を拾いに行っていた事に気付いていれば、と自分を責めつづけた。

シンジは二日ぐらい泣いていた。キョウコおばさんに何度も

「シンちゃんのせいじゃないから」と言われていたが、シンジは泣きつづけた。

そしてある時、シンジは父親に手紙を書いた。

「日本に帰りたい」

内容はこれだけだった。その後父親から手紙が帰ってきて、日本までのお金が届いた。

父親から手紙がきた翌日、シンジはその事をキョウコおばさんに言った。

キョウコおばさんはジッと聞いていた。

「…分かったわシンちゃん。でも、アスカが哀しむわよ。それでも…」

アスカはまだ入院していた。当然シンジが日本に行くなんて知るわけがない。

だが、シンジは首を縦に振った。これ以上アスカに迷惑かけたくない。

アスカを見ているとまた自暴自棄に陥ってしまう。

たとえ日本に行かなかったとしても、多分アスカとの溝は埋められないだろう。

助けれなかった事や、無神経にジュースを飲んでいた事などに対してアスカに見捨てられただろうな、

と思ったからだった。

シンジは自分でもつらかったが、アスカに比べれば、と思い日本に行くことにしたのだった。

シンジが日本に行って1週間が過ぎた頃、ようやくアスカは退院できた。

そして、アスカは母親からシンジの事を聞き泣きまくった。

もちろんシンジはそんな事知るよしもなかった。

 

「…ンジ、おい、シンジ!」

「え?」

「どうしたんや、くらーい顔しとったで」

トウジの声で僕ははっと我に返った。どうやら考え事をしている時の僕は、

とても暗い顔をしているらしい。

「べ、別に何でもないよ、ただ考え事をしていただけさ」

「へー、何を考えてたんだ。もしかしたら転校生の事か」

「碇君がそんな事を考える人だと思う?」

聞きなれない声が聞こえ僕達は後ろを見た。

そこにいたのは洞木とその友達の4人である。

「碇君はあなた達とは違うのよ。ねー、碇君?」

先ほどと同じ声がした。話していたのは洞木ではなく、その友達のようだった。

当の彼女はと言うとトウジの方を少し膨れた顔で見ていた。

「え、あ、ああ、えーと…」

僕は一刻も早くここから逃げたかった。

それはケンスケも同じだったに違いない。僕の後ろにいた。

トウジはと言うと先ほどの女子と口論をしていた。

僕とケンスケは同じ事を思っていた。

  どうにかしてくれーーーー!

 


あとがき

初めまして。あまり自信はなかったけど、呼んでくれた人達に感謝を致します。

さて、この時点ではまだ綾波レイは出てきておりません。

この後一体どうなるんでしょうか。

この続きもがんばって書きますので応援してください。

それでは、また第2話で…。

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