何とかうまい具合に先生が来て、トウジたちは慌てて席に戻っていた。

僕はようやく落ち着く事が出来た。

でも、今の僕には授業などあってないようなものだった。

なぜかは分からない。

ただ、異様にその転校生と言うのが気になっていた。

人とあまり接触をしようとしないはずなのに…。

授業中その事ばっかり頭に浮かんで窓のそとの景色ばかり見ていた。

 

 

           第   2   話

 

 

身の入らなかった授業が全て終わり、ようやく下校の時間となった。

普段ならトウジとケンスケと一緒に帰っていた。

彼らはゲーセンによると言っていた。

今の僕はそんな気分じゃなかった。

 

僕の住んでいるマンション前に来た時だった。

そこには引越し業のトラックが置いてあった。

(誰かここに引っ越してくるのかな?)

僕はそのまま自分の部屋のある4階へとエレベーターのボタンを押した。

エレベーターのドアが開くと僕の部屋の隣りにダンボールが2、3個置いてあった。

(僕の部屋の隣りに、やっぱり誰かが引っ越してくるのか)

ふとその時今日ミサト先生が言っていた事を思い出した。

――もうそろそろ引っ越してきてるかもね

僕は本当に転校生が引っ越して来たのか確かめたくなった。

そっとそのダンボールがつんである部屋のドアの前に立った。

そしてチャイムを鳴らした。

ピンポーン

誰も出てくる様子がなかった。がっかりして帰ろうとしたときだった。

僕は後ろに人の気配を感じた。振り返るとそこには見た事ない女性が立っていた。

髪は水色をしていて、ショートカット。

肌は色がぬけたように白かった。

そして、紅の瞳。

普通の人見たら怖いと言うのが第1印象だろう。

だが、僕には怖いと言う感情はわいてこなかった。

「あ、あの。…君? ここに引っ越してくるのって」

彼女はコクリとうなずいた。

「あ、あのさ。僕隣に住んでる碇シンジっていうんだ」

「そう…」

彼女からはそっけない態度が帰ってくる。

(あれ、僕何か悪いこといったかな)

「き、君、名前は?」

「……綾波…レイ」

「へえー綾波か。そうだ綾波。引っ越しまだ終わってないんだろ、手伝おうか?」

「いい、これくらい一人で出来るわ…」

僕はなぜか全身に淋しさを感じた。

「そ…そう…」

僕と綾波の間にしばしの沈黙が流れた。

ふっと僕は何かを思い出したように言った。

「あ、そ、そうだ。綾波って第1中学校に転校してくるの?」

「……そうよ」

綾波は相変わらず無表情で答えた。

「じゃあ、そこでも同じだね。いつからくるの?」

「………明後日よ」

「そ、そう」

再び僕と綾波の間に沈黙が流れた。

「…わたし、まだ準備があるの」

先に口を開いたのは綾波だった。

「そ、そうだね。じゃあ、何か困った事があったら呼んでよ。

 はい、これ僕の携帯の番号」

僕はそう言って綾波に自分の携帯の番号を書いた紙を綾波にわたした。

「じゃあ、綾波。またね」

綾波は結局最後まで表情を変えることはなかった。

僕は自分の部屋にたどり着くとボフッとベッドに倒れこんだ。

「……綾波…レイ…か」

僕の頭の中から綾波の顔が離れなかった。

(なんか人との接触を極端に避ける娘だな)

結局僕はそのまま眠ってしまった。

 

―朝―

「…ん? 朝?」

僕は顔に当たる朝日で眼が覚めた。

「あ、しまったあのまま眠っちゃたんだ。風呂に入らないとな」

僕は風呂に入って、その後朝食の準備をした。

一応まだ起きるのが早かったため時間にゆとりはあった。

でもあれこれと準備をしていたらあっという間に時間はなくなってしまった。

 

―学校―

「はー……」

僕の口からはいつもにましてため息が出てくる。

そんな様子を見かけたのかトウジとケンスケがこっちに来た。

「ようシンジどうしたんだ? 何かあったのか」

まさかここで転校生を見たなんて言えるわけなかった。

だから僕は適当に理由を言っておいた。もちろん嘘のである

 

―帰宅途中―

僕は今日も一人で帰った。

(確かあの娘が来るの明日だったよな…)

そんな事を考えながら歩いていた。

「ん?」

僕は前方に見かけた事があるシルエットを見つけた。制服を着ている少女。

近づいてみてみるとやっぱり綾波だった。

「綾波」

僕が声をかけると綾波は立ち止まってこっちを見た。

が、すぐそのまま歩き出した。僕は綾波の隣りに並んだ。

「何か用?」

綾波からきのうとおなじそっけない態度が帰ってくる。

だが僕は綾波の返答に馴れていたのでそのまま話しかけた。

「あ、あのさ。どこいってたの?」

「……なぜそんな事聞くの?」

「え…、いや、べつに…」

「…答えなければだめかしら?」

僕は慌てて首を振った。

「う、ううん。いや、別にいいんだ」

「…そう」

僕達は無言のまま歩きつづけた。僕自信こんな雰囲気は好きじゃない。

だから僕は必死に何かないかと探していた。

「あ、そ、そう言えばさ。引っ越し終わった。まだだったら手伝うけど…」

「……終わったわ」

「そ、そう」

僕達は再び無言のまま歩きつづけた。

気が付くともう綾波の部屋の前まで来ていた。

「……それじゃ」

綾波はそう言うと自分部屋に入っていった。

仕方なく僕も自分の部屋に入ることにした。

僕は早速夕御飯の仕度に取りかかることにした。

「今日は何にしよう…。あ、そう言えば綾波引っ越してきたばっかだよな。

 それに今日どっかいってたみたいだし。呼んでみようかな」

僕はあらかた準備が整うと綾波の部屋の前まで来た。

ピンポーン

「……はい」

綾波はさっきと同じ制服のまま出て来た。

「あ、あのさ。綾波引っ越してきたばっかだし今日どっかいってたみたいだし、

 その、疲れてるかなっておもって夕御飯の支度したんだけど

 一緒に食べない。もしよかったらだけど…?」

綾波は何も答えずコクンとうなずいた。

「よ、よかった。じゃあ、綾波、着替えておいでよ」

「……いいわこれで」

「そ、そう」

僕は綾波を自分の家へといれた。

「一応下準備は出来てるからあと5分くらいでできるから。

 そこらのクッションに座ってて」

僕はそのままキッチンに入った。綾波は僕の言った通りクッションに腰を下ろしていた。

僕は急いで食事を作ると、テーブルへと運んだ。

「出来たよ綾波」

僕が料理を運び終えると綾波はこっちを向いた。

「さあ、食べてもいいよ」

僕がそう言うと綾波は箸をもって食べ始めた。

「どう? 味の方は?」

「……おいしい」

綾波は無表情のまま答えるとそのまま料理を食べていた

「……綾波、本当においしい?」

「おいしいわ。…なぜ?」

「いや、なんかそんなにおいしそうな表情じゃなかったから」

そう言うと綾波は箸を置いてこっちを申し訳なさそうに見ていた。

「……ごめんなさい。こう言う時どんな顔すればいいのか分からないの」

「……笑えばいいと思うよ」

僕はそう言った。そう言うと綾波は少しぎこちなかったが笑顔を作った。

(か、かわいい!)

僕はそのまま綾波を見つめていた。

「…碇君、どうしたの?」

綾波が不思議に思って聞いてきた。

「あ、い、いや、べつに何でもないよ。さあ食べよう」

「…うん」

そう言うと僕と綾波は一緒に御飯を食べ始めた。

綾波は相変わらずおいそうに僕が作ったものを食べていた。

「綾波、今度料理の作り方教えてあげようか?」

僕がそう言うと綾波はきょとんとした目で僕を見ていた。

「あ、そ、その。もし良ければだけどさ…」

「そ、そうね。べつに構わないわ」

綾波は少し焦ったように僕に返事を返した。

そんなこんなで夕御飯を食べ終えた。

「あ、綾波いいよ、そこに置いといて。僕が後片付けておくから」

「……分かったわ」

僕は食べた食器を流しに持っていこうとする綾波に声をかけた。

だって実際僕が誘ったんだから…。

時計の針はいつのまにか8時をさしていた。

「綾波、そろそろ帰ったほうがいいと思うよ。明日の準備もあるだろ」

「…ええ。そうするわ」

僕は綾波を見送るため玄関まで行った。

「じゃあ、綾波また明日ね」

僕は笑顔で言った。綾波は少し顔を赤くしたような感じが見られた。

「……あ、ありがとう」

綾波はそう言うと自分の部屋へと戻って行った。

僕は残された食器を洗いながら綾波の事を考えていた。

「初めて綾波の笑ったとこ見たけど可愛かったな。

 明日から綾波学校に来るんだよな」 

(綾波って肉が嫌いみたいだな…)

 

―同時刻―

シンジの家から帰った綾波はそのままベッドにうつぶせになって寝転んでいた。

「ありがとう。…感謝の言葉。…初めての言葉」

そのような事をつぶやいていた。

そして夜は深くなっていった。

 

―学校―

朝のホームルームの前だった。突然ケンスケが走って来た。

「ニ、ニュースニュース。どうやらうわさの転校生、今日来るらしいよ」

「ほ、ほんまかケンスケ」

「ああ。さっき職員室の前通った時聞こえたんだ」

(なぜ職員室の前にいたんだ)

僕は転校生と言う言葉を聞いて綾波を思い出した。

(転校生って綾波のことだよな…)

きのうみた綾波の笑顔が頭にうつった。

「おい、シンジ。どうしたんだ」

僕はどうやら気付かないうちにぼーっとしていたようだ。

僕らがそんな話をしていた時に、教室に先生が来ていた。

トウジとケンスケは慌てて席に戻った。

「さあ、今日は転校生を紹介するわよ。さあ、入って」

先生がそう言うとドアの外から一人の少女が入ってきた。

やはり綾波だった。綾波は相変わらず無表情のまま入ってきた。

綾波が教室の中に入ってくるとざわざわと声がしはじめた。

「何あれ。髪が青いわ」

「それで瞳が赤いぞ」

どうやらクラスの人達は少し綾波を見て引いたようだった。

引いていないのは僕ぐらいのものだろう。あと洞木ぐらいだろう。

「さあ、自己紹介して」

「……綾波…レイです」

綾波は相変わらず表情一つ変えなかった。

「はい、じゃあ綾波さんの席は……。

 あ、碇君の隣りが空いてるわね。そこに座って」

「はい」

綾波はそのまますたすたと僕のところまで来た。

一番後ろの窓際。その時先生は何かに気付いたかのようにいった。

「あ、綾波さん。碇君誰か分かるの? 先生言い忘れてたけど…」

「はい」

そう言うと綾波は僕の横まで来ていた。クラスの人達はその行動をずっと不思議そうに見ていた。

「い、碇君。綾波さんを知っているの?」

「はい」

「そう」

先生はほっとしたようにそう言った。

「綾波、この席だよ」

僕はそう言うと隣りの席のいすを後ろに下げてやった。

「……あ、ありがとう」

綾波は消え去りそうな声で僕にそう言った。

もちろん僕以外には聞こえてない。

綾波は僕が引いた椅子に座ると用具を机の中にしまっていた。

綾波が用具を全部しまい終わるのを見ると、僕は綾波に話しかけた。

もちろん他の人には聞こえ無いように小声であった。

「ねえ、綾波…」

綾波は僕の問いかけに気付くとこっちを向いた。

「何か用…?」

「あのさ、今日も家に食べに来ない?」

僕がそう言うと綾波は淋しそうな顔でうつむいた。

「ごめんなさい。今日は行かなくてはならないところがあるの…」

「そ、そう。……ど、どこに行くの?」

綾波はまた淋しい顔をした。

「……答えなければだめかしら?」

「あ、ご、ごめん」

僕はそのまま前を向いた。

綾波も僕のそのしぐさを見てか前を向いた。

放課になると綾波のところにたくさん人がむらがったが、綾波のそっけない態度にどんどんその数は 減って行った。

そして昼放課の時には誰一人として綾波のそばにいなかった。

そう、近くにいるのは僕だけだった。

「あ、綾波。一緒に御飯食べないかい? そっちの方がいいだろ?」

僕がそう言うと綾波はすまなそうな顔をした。

「……ごめんなさい。今から帰らなきゃならないの…」

「そ、そっか。それじゃあしょうがないか…」

僕の声は明らかに残念そうな声だった。

そう言うと綾波は用具を取り出してかばんに詰めると教室から出て行った。

僕はその姿をずっと見ていた。

そう、近くに来た友人達にも気付かずに…。

「はあーやっとメシやー。シンジ、一緒に食べようやないか」

僕の前には腕の中に購買で買ったパンを持っているトウジとケンスケがいた。

「ん、どうしたんだシンジ?」

僕の様子を見てケンスケが声をかけた。僕はようやくその時にトウジとケンスケがいることを知った。

「あ、ご、ごめん。ぼーっとしてた」

「なんやシンジは最近よう、ぼーっとしとるやないか。 ん? 転校生の綾波のことか。あれ、そう言えば綾波はどこにいったんや?」

トウジが綾波のいないことに気付き僕に聞いてくる。

「さっき、何か用事があるっていって早退したよ」

「へー、さよか。それじゃ、メシでもくうか」

そう言ってトウジはバクバクとパンを食べ始めた。

つられるように僕とケンスケも食べ始めた。

(綾波一体どこに行ってんだろう。明日もちゃんと来るかな…)

僕は食事の時も綾波の事を考えていた。


あとがき

ふう、2話完成です。果たして綾波は一体どこに行っていたのでしょうか。

そのうちあきらかにあると思いますよ。

それでは、3話もよろしく。

御意見、感想はこちら