昼放課ももうすぐ終わりに近づいていた頃だった。

さっきから僕がずっと生返事を繰り返していた僕にトウジが話しかけてきた。

「どうしたんやシンジ。さっきから生返事ばかりやけど・・・」

そこで僕はようやく我に帰った。

「あ、ご、ごめん。ちょっと、ね」

僕がそう言うとトウジは何を言ってるかわからないような感じで首を傾けた。

「ちょっと、なんだシンジ。おまえ、綾波のこと考えてたんだろ」

僕の横にいたケンスケがメガネを光らせながら言ってきた。

まあ、ケンスケが言ってたことに誤りはない。

確かに僕は今綾波の事を考えていたから・・・。

「ち、違うよ!」

「ふーん、そうかなぁ?」

ケンスケはまたも怪しい目で僕を見てくる。

「そうだよ」

「・・・ま、そういう事にしといてやるよ」

そう言うとケンスケはトウジと話し出した。

(綾波、どこにいったんだろ。学校の途中なのに・・・)


第  3  話


今日の授業が終わり、僕が昇降口を出たところで、ミサト先生がものすごい勢いで走ってきた。

「ミサト先生!どうかしたんですか?」

ミサト先生は僕の言葉に気付いたのか、僕の横で勢いを少し緩めた。

「ちょーっちね・・・」

「はあ・・・?」

「じゃ、私急いでるから、またね。シンジ君」

ミサト先生はそう言うと自分の車にものすごい勢いで乗り込み、ものすごいスピードで校門を通過して行った。

(どうしたんだろうミサト先生。いつもより目が厳しかったように見えたけど・・・。
・・・あのままだと3人ぐらい引きそうだな。)

僕はそんな事を考えながら家へと帰った。

帰り道、今日は綾波と会わなかった。ちょっとがっかりした。僕は近所のスーパーに寄って帰った。もちろん、夕ご飯の材料とかを買うためである。

―コンフォートマンション4階―

僕は先ほどスーパーで買って来たものを置いて、綾波の家の前にきた。
この時代鍵というものは無く、暗証番号か、セキュリティーカードを入れる事によってロックが外れるというものだった。だから、綾波の部屋の暗証番号を知らない僕は、綾波の家のドアをあけられない。
けど、部屋の電気がついてるかは外で確認する事が出来る。
実際僕はそれをたしかめにきたのだが・・・。

家の電気はどうやらついていないようだった。
綾波はまだ帰ってきてないみたいだった。
それか、もう寝てるのかな?
僕は、少し心配になったが明日学校で会えるだろうと思い自分の家へと戻った。

家に帰った僕はご飯を食べ終えてから自室にいた。
ベッドの上で、暗い天井を見つめていた。
「綾波、明日学校に来るよね?」
小さな声でつぶやくと、僕はそのまま瞳を閉じた。

次の日の朝、僕はいつも通り仕度をすませると家を出た。
そして、直で学校に行かず、隣に住んでいる綾波の家の前に来た。
昨日と変わらず電気はついていなかった。
僕は一応チャイムを鳴らしてみた。
が、何の反応も返ってこなかった。
(綾波、先に行ったのかな?)
僕はそう思い、急いで学校へと向かった。

教室についた僕は室内を見まわした。
だが、綾波の姿は無かった。
そんな僕が落胆している時だった。

「どうしたんだシンジ、いつもより早いじゃないか」

いつのまにか僕の席の前に立っていたケンスケが話しかけて来た。

「あ、うん、ちょっと、ね・・・」

僕はそんな事を言いつつ無意識のうちに隣の綾波の席を見ていた。

「・・・綾波ならまだ来てないぜ」

「・・・そう」

僕は小さくそう言うとため息をついていた。

(・・・一体どこにいったんだろう。学校にも来ないで・・・)

その後、ケンスケが僕に話しかけていたけど、僕はただ、生返事を返す事しか出来なかった。

ホームルームの時、ミサト先生が一瞬僕の方を見たのは気のせいかな?

その後、僕は2日間、綾波のいない教室で身の入らない授業を受けつづけた。

――3日目――

今日の授業が終わり、僕が帰ろうとしたときだった。
ミサト先生が僕に近づいて来た。

「シンジ君、お願いがあるの。
綾波さんにこのプリント類を渡して欲しいの」

ミサト先生は僕の手にプリントが入った大きい封筒みたいな紙袋を渡してきた。

「・・・でも、綾波家にいないですよ」

僕がうつむいてそう言うと、上からミサト先生が小さく笑っているのが分かった。
ミサト先生は僕の肩に手をぽんっと乗せてきた。

「大丈夫、心配しなくてもいいわ。
たぶん、今日にはここに帰ってきてると思うから」

「え?」

なぜミサト先生は綾波の行方を知っているの?
僕の口がそう言おうと開きかけたところで、ミサト先生は僕の背中を押した。

「さぁ、早く行った行った」

まぁ、いいか・・・。
ミサト先生は僕がそのまま歩いて行ったのを見て、少し不安そうな顔をした。
もちろん、ミサト先生に背を向けていたので、そんな事知るはずも無かった。


  コンフォートマンション  

僕はとりあえず自分の家に鞄を置くと、隣の綾波の家に行った。
家は相変わらず薄暗いみたいだった。

(・・・本当に帰ってきてるのかな? でも、ミサト先生はいるって・・・)

僕は意を決してインターフォンを押してみた。

ピンポーン

僕はしばらく待ってみた。

シーン・・・・・・

(あれ、やっぱりまだ帰ってきてないのかな? 仕方ない、また後にするか・・・)

僕は仕方がないので自分の家に戻ることにした。

・・・・ガチャ

僕がセキュリティーカードを取り出した時だった。
隣の家でドアのロックが外れる音がした。
僕はセキュリティーカードをしまって、綾波のドアの前に再び立った。
なかなかドアが開かないので、僕は自分で開けることにした。
なぜか僕はそのドアが重く感じた。
綾波に会えると言う感情と、不安と言う感情の二つがあったからだ。
あの日昼で学校から帰った彼女。
そして、今まで姿を見せなかった彼女。
一体何を話せば言いのだろうか・・・。

部屋は電気がついていないため薄暗かった。
僕は中に入ってドアを閉めた。

「・・・綾波ー、いるー?」

ドアのロックが中からはずされた以上、中には綾波しかいないことは分かっていたが、
僕はなぜか本当に綾波がいるのか不安になって言ってしまった。

「・・・・碇君」

部屋のベッドの上に綾波のシルエットが見えた。
僕はそのシルエットを見て少し安心した。

「綾波、あがらせてもらうよ」

僕はそう言って靴を脱ぐと部屋へとあがった。
綾波は相変わらずベッドの上でこっちを見ているようだった。
僕は薄暗くて綾波がよく見えなかったから電気をつけることにした。

「綾波、電気つけるよー」

綾波は何も言わなかった。
薄暗い闇の中探っていた僕の手にスイッチが触れた。

カチッ

部屋は一気に明るくなった。
が、僕はその明るくなった部屋を見て驚いた。
あまりにも部屋の中が殺風景過ぎたからだった。
あまりにも家具が少なすぎる。
着替えがいれてあるだろうと思われる引出しとあと、綾波が座っているベッド・・・

「!」

僕はこの部屋の姿に驚いたが、綾波の姿を見てもっと驚いた。
それもそのはずだ。
僕の目に映ったベッドに座っている綾波は、頭の額に包帯が巻いてあり、
右目も手当てをした後のように白いガーゼみたいので覆われており、
さらに、右手は骨折した時につける三角巾で曲げられていた。
何か事故に遭った怪我にしか見えなかった。

「ど、どうしたの、綾波? その怪我は・・・」

僕はどうしてもいたたまれなくなって聞いた。

「・・・問題無いわ」

綾波はいつも通り表情を変えずにそう言ってきた。
でも、こんな怪我をして、問題無い事ないじゃないか!

「そ、そうじゃなくて、その怪我は何なの? なにか事故にでもあったの?」

僕がそう聞くと綾波はしばらくうつむいてしまった。
僕も何を言っていいのか分からなくて黙ってしまった。

しばらくして、綾波の口が開いた。

「・・・ごめんなさい」

「・・・え?」

突然謝られても僕にはなぜ謝ってくるのか分からなかった。

「・・・まだ、言えない」

「・・・そう」

何か事情があったんだろうか? まだ、って言うことはいつかは話してくれるんだろう。
僕はあえてふかおいしないことにした。

「・・・ごめんなさい、碇君」

綾波はまだうつむいていた。
僕は綾波の手をとった。

「・・・もし、何か困った事があった言って。
綾波に何が起こったかはわかんないけど、ほら、その怪我だと、不便な事とか出てくると思うから」

綾波は僕の行動に最初驚いていたみたいだった。
僕も、今の自分が信じられない。
綾波は僕の台詞を聞くと、顔をすこし赤くしながら軽い笑顔を作ってくれた。

「・・・あ、ありがとう」

小さい声だったが、僕にははっきり聞えた。
何か、綾波の顔を見たら照れくさくなって来た。そして、僕は自分の握っている手に気がついて、慌てて手を離した。

「あ、そ、そうだ。その怪我だと、ご飯とか作れないだろ。
良かったら、怪我が治るまで僕の家に食べにおいでよ」

自分で言って、そして、自分の台詞に僕は顔を少し赤くした。
綾波も、さっきと同様、うれしいのか、少し顔を赤らめ気味だった。

「・・・それでいいわ」

「じゃあ、僕、今から作り始めようと思うんだけど、今から来る?」

「・・・そうするわ」

そして、僕が自分の家に戻ろうとした時、今までずっと手に持っていた紙袋に気がついた。

「そ、そうだ。綾波はい、これ。ミサト先生から預かってたんだ」

「・・・そう」

綾波はそれを受け取ると、その紙袋を持ったまま僕のあとをついてきた。

僕は家に着くと、前と同じように綾波をリビングのソファーに座らせた。
綾波はソファーに座ると、さっきの紙袋から、ホッチキスで止められたプリントを取り出して、読み始めた。
チラッとそのプリントの表紙のような部分が見えた。

(・・・・・NERV?)

何の事か分からなかったけど、綾波が何か真剣そうに見ていたので聞かないでおいた。
僕が夕食を作っているときも、綾波は真剣にそのプリントを読んでいた。

「・・・できたよー、綾波」

僕がそう言って出来あがった料理を持っていくと、綾波が立ちあがった。

「・・・私、何か手伝う事・・・ない?」

正直僕は驚いたが、すぐにやさしい顔を作った。

「ありがとう。
じゃあ、あと残っているやつを運んでくれるかな?」

「・・・分かったわ」

綾波はそう言うと、台所から残っている料理を持ってきてくれた。

「じゃあ、そろそろ食べようか?」

僕がそう言うと綾波はこくんとうなずいた。

「それじゃあ、いただきます」

「・・・・いただきます」

僕が手を合わせて言うと、綾波も僕のまねをした。
なぜ、こんな事をするのかと聞かれたけど、僕は前からのくせだったのでそう答えた。
それに、あと多少説明を付け加えると、綾波はどうやら納得してくれたようだった。

僕は夕食の時綾波にちょくちょく話しかけたけど、
綾波は普段の言葉、「・・・問題ないわ」「・・・そう」くらいしか言わなかった。

洗い物を済ませ、ソファーに座って綾波とお茶を飲んでいる時だった。
僕はふっと綾波の視線に気が付いた。

「・・・どうしたの、綾波?」

普段人の顔すらそんなに見ない綾波が、今は僕の瞳を真紅の瞳でじっと見ていた。
僕はそれが気になったのだ。

「・・・碇君、あなたって・・・」

「え、僕がどうかしたの?」

綾波はじっと僕の瞳を見てきた。
だんだんこの真紅の瞳に誘われて、僕の顔は上気して来た。

「綾波・・・、僕がどうかしたの?」

僕はこの状況を逃げるかのように綾波に再び聞いてみた。
綾波ははっと気が付いたようなそぶりをすると、僕の瞳から視線をはずした。
僕はある意味ほっとした。
綾波の方を見てみると、少し綾波の顔が赤くなっていた。

「・・・何でもないわ」

綾波はそう言うと、先ほどのプリントの一部のページを見なおすように見始めた。
おかしな綾波だなぁと思いつつ、僕はそんな綾波の姿を見ていた。

(そう言えば、さっきの文字・・・。あれってなんなのかなぁ)

「ねぇ、綾波。そのプリントの最初のページの表紙みたいなとこに書いてある、
NERV、ネルフって読むのかな? それって何?」

綾波は一瞬驚いたような表情をして、僕の方を見てきた。

(何か変なこといったかのなぁ?)

「・・・あなたなら、・・・そのうち分かるわ」

(・・・僕なら、・・・分かる?)

「・・・そろそろ帰るわ」

綾波はプリントを紙袋の中に入れると立ちあがった。

「あ、うん、そうだね」

僕も慌てて立ちあがった。
僕は玄関まで綾波を見送ることにした。

「じゃあ、おやすみ」

「・・・おやすみなさい」

バタン。

「・・・・・・・・・」


僕は自分の部屋のベッドに横になった。

「なんか、今日の綾波おかしかったな・・・」

僕は薄暗い天井に向かっていった。

「それに、あのネルフ? 一体なんだろう。
綾波は僕ならそのうち分かるっていってたけど・・・」

僕は体を右に向けた。

「・・・あのプリントって一体何なんだろう・・・」


  一方 綾波

綾波はあのプリントを自分のベッドの上で読んでいた。

「・・・碇君、あなたは・・・」

プリントから目を離して、前を見つめた。
そこには、ただの暗闇があるだけだった。

「・・・あなたは私と同じ?
でも、・・・違う気がする。
・・・あなたと私は似ている?
・・・分からない?」

綾波はプリントを置き、体を横にすると、深い眠りへとついた。


次の日

僕は手際良く用意を整えると、隣に住んでいる少女のもとに向かった。
昨日の夜、「朝呼びにいくから」、と約束したからだ。

僕がインターホンを鳴らすと、綾波は直に出て来た。

「おはよう」

「・・・お、おはよう」

綾波は少し顔を赤くして返してくれた。

「じゃあ、いこうか」

僕達はその後学校へと向かった。
僕が綾波にいろいろ話しかけても、綾波は昨日とあまり変わらないような返事を僕に返して来た。


学校に着いた僕らを何を勘違いしたのだろうか? 
教室の中にいる人達が僕らの方を怪しい目で見てきた。
そんなところに、トウジとケンスケが来た。

「なんやシンジ。綾波と一緒に来たのか。
か〜、まーたくうらやましいやっちゃな。
もしかして、お前らもう付き合ってたりして・・・」

「ち、違うよ。そんなんじゃないよ」

「ふーん、ま、そう言う事にしといたるわ」

そう言う事にしといたるわっていわれても、ほんとにそんなんじゃないのに。

「・・・シンジ、うらぎりものめぇぇぇ」

一難去ってまた一難とはまさにこの事だろう。
今度はケンスケが、メガネを怪しく光らせて僕を恨みの目で見ていた。
どうすればいいんだよ・・・。
僕はその場にいたたまれなくなり、綾波と共に急いで自分の席へと戻った。
僕は少し赤い顔をしていたが、綾波はトウジ達が言ったことがよく理解できなかったのだろうか、
平然とした顔つきをしていた。
僕はそんな綾波の顔を見て、小さくわらってしまった。
綾波はそれに気が付いて、顔を僕の方に向けて来た。

「・・・なに?」

「ううん、何でもないんだ」

「? そう・・・」

綾波は少し首をかしげたが、再びもとの状態に戻って本を読み出した。
僕はその後トウジ達のところへいって、未だメガネを怪しく光らせている少年を、
何とか言い訳をして丸く押さえ込んだのだった。

そして、3限目が始まった頃だろうか。
僕の背筋になにやら悪寒らしきものが走った。

「・・・・・・・」

なんだろうと思って周りを見たがクラスの人達は先生の話を聞きながら、
ノートパソコンの画面に目を落としていた。
簡単に言うと、しっかりとみんな授業を受けているのだった。
綾波の方を見てみると、彼女も他の人達と同じようにしっかりと授業を受けていた。
気のせいかと思い、僕は肩で息をついて机の上の画面に目をうつした。

その時だった。
大きな振動がこの地区を襲った。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

素早く授業をしていた先生がみんなに机の下に隠れるように指示をした。
突然のゆれでパニックになっていたクラスの人達は、それが聞えたのか分からないけど、
机の下にもぐりこんだ。

「綾波、机の下に隠れなきゃ!」

僕は窓の外に視線を向けて動こうとしない少女に向かっていった。
でも綾波はジッと窓の外を見ていた。
そして、チラッと見えた彼女の目は、いつになく冷たい目で外を見ていた。

気が付くと、揺れはおさまっていた。
どうやら、僕は綾波を見つづけていたらしい。
当の彼女はというと、未だ外をにらみつけていた。
その時、この地区全体に聞えるよな放送が外で流れた。

――ただいま、東海地方を中心とした、関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。
速やかに、指定のシェルターへと避難してください。 繰り返します――

特別非常事態宣言? そんなの1度も聞いたことないぞ。
一応何回も避難訓練やらされたからシェルターの場所とかは分かるけど、
一体何が起きたんだろう・・・。
クラスの人達が、我先にシェルターへいこうとあわただしく走っている。
そんな様子を僕は見ていた。
そんな時、シェルターと逆の方向へ行こうとしている綾波の姿が僕の目に映った。

「綾波、どこに行くの? シェルターはこっちだよ。」

綾波は立ち止まって僕の方を見ていた。
と、綾波が口を開いた。

「・・・非常召集が出たの。私は行かなくてはいけないの」

「ひ・・・、非常召集って?」

僕は聞き返したが綾波は黙っていた。
そして、くるっと僕に背中を向けると、走って行ってしまった。
僕は綾波を追いかけようとしたが、なぜか動けなかった。

「綾波・・・」

僕はただ走って行く少女の名を口にしていた。
気付いてみると、教室にはもう誰もいなかった。

「あ、僕も急いでシェルターへ行かなくちゃ・・・」

学校を出て、歩いて2分ぐらいのところにシェルターはある。
僕はようやく校舎からでて、正門へとたどり着いた。

「えっと・・・、確かシェルターはこっちだったな」

僕が方向を確認して走ろうとした時だった。

ププーーー!

後ろからクラクションを鳴らしながら、一台の車が走って来た。
あれ、確かあの車って・・・。
見覚えのある赤い車。そして、その車は僕の横にとまった。

「ミサト先生!?」

車から出て来た女の人は、まぎれもなく、担任のミサト先生だった。
でも、顔の表情がいつもより少し険しいような気がする。

「シンジ君、さぁ、のって。急ぐわよ!」

そう言うと、ミサト先生は僕の腕をつかんだ。
僕は何がなんだか分からず、そのまま車に乗ってしまった。
僕が乗ると、車はけたたましいエンジン音を上げて、ものすごいスピードで走り出した。
僕はミサト先生に安全運転をしてくださいよと言ったが、本人いわく、これが安全運転らしい。
僕は何とか意識がとばないように努力した。

「ミサト先生。一体何が起きたんですか? シェルターは?」

「・・・シンジ君。あなたは必要とされている人物なの」

「え? 僕が必要とされている? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。話がよくつかめないんですけど・・・」

「分からなくてもしょうがないわ・・・。簡単に言うと、わたしは教師じゃないわ」

「え?」

僕は余計意味がわからなくなった。
そんな僕の様子を知ってか知らずか、再びミサト先生が口を開いた。

「・・・国連直属の非公開組織、特務機関ネルフの戦術作戦部作戦局第1課葛城ミサト三佐。
これが本来の私の姿よ。教師は仮の姿ってとこね」

僕は言葉が出なかった。驚きによるものだと思う。
何に対してといわれても分からない。
ミサト先生の言葉。本来の職業。なぜそんな職業の人が第一中学校の教師をやっていたんだろうか。
そして、なぜ、その組織が僕を必要としているのか・・・。

「・・・驚いているっていうような顔ね。無理もないわ。
取り合えず、向こうについたら詳しい事は話すつもりよ」

ミサト先生は僕の方をチラッと見ると、再び前を向いて話し出した。

「それと・・・、私は先生じゃないから、ミサト先生はやめてね」

わざと明るく振る舞ってくれているのだろうか、軽く僕の方にウインクして、ミサト先生・・・いや、ミサトさんは言った。

「わ、分かりました、ミサトさん」

僕がそう言うとミサト先生は満足そうな顔をしていた。


気が付くと車の中はエンジンの音がしていなかった。

「あ、起きたシンジ君」

となりからミサトさんの声がした。

「あ、僕寝てましたか?」

「うん、よく寝ていたわよ」

疲れていたのかな? それにしてもここは・・・?

「ミサトさん、ここは?」

「ふふ、もうすぐわかるわ」

ミサトさんがそう言ったときだった。窓の景色が一転した。

「ビ、ビルが天井からはえてる!」

僕の目に映ったのは、背景がオレンジ色で上からビルがはえてきている光景だった。あれ、これって・・・。

「も、もしかして・・・、ジオフロント?」

僕が聞くと、ミサトさんうなづいた。
地下の都市。誰が作ったのか、いつ作られたのかも分からない空間。
本当にこんなのがあるなんて思わなかった。

「ふふ、これが人類最大最後の砦、ジオフロントよ」

隣を見ると、ミサトさんは得意そうな顔をしていた。
僕はそのジオフロントをあっけに取られたように見ていた。

大きな扉を通り、エレベーターも何回も行ったり来たり、それに、何かさっきから同じとこを通っているような・・・。

「ミ、ミサトさん。ここ、さっきも通りましたよね」

「う・・・。そ、そんな事ないわよ・・・。多分・・・

迷ったんだな・・・。本当に大丈夫かな・・・。
僕がそんな事を考えていると、後ろでエレベーターがつく音がした。

「遅いわよミサト。どこいくつもりだったのよ」

そのエレベーターの中から出て来たのは、金髪をしていて白衣を着ている、年齢30くらいの女性だった。

「ごめんリツコ。まだここの構造覚えてないもんで迷っちゃった」

ミサトさんはぺロッと舌を出して、子供のように笑った。
それとは別に、リツコと呼ばれた女性は「まったく・・・」とため息をついていた。
そして、その女性は僕の方をチラッと見てきた。

「あなたがサードチルドレン、碇シンジ君ね」

サードチルドレン?

「あ、はい。碇シンジです」

「私は赤木リツコ。よろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします」

そんなに悪い人ではないようだ・・・。僕は内心ほっとした。

「・・・ミサト、これ見て」

リツコさんがそう言って、持っていたノートパソコンを出して来た。
僕とミサトさんがそれを見ると、そこには大きなロボットが二つ映し出されていた。

「使徒! もうこんな所に・・・」

ミサトさんは一気に真剣な目つきになった。

「そうよ、今、零号機が足止めしているわ」

零号機? ミサトさんに聞くと、ミサトさんは映し出されている二つのうち、黄色い方のロボットをさした。

「でも、・・・足止めにしても、今のあの子には少し荷が重いみたいね」

リツコさんがそう言っている様に、その零号機と呼ばれたロボットは、使徒とか言うやつに一方的に攻撃されていた。リツコさんはその様子を見ると、無線機のようなものをポケットから取り出した。

「零号機、ルート192で回収。それから、初号機の凍結を解除しておいて。
パイロット? サードチルドレンが今来たわ」

リツコさんはそう言うと、無線気のようなものをしまってこっちに振り向いた。

「急ぐわよ、ミサト」

「わかったわ」

僕はわけが分からないままミサトさんとリツコさんのあとを歩いて行った。


「ここよ。暗いから足元に気をつけてね」

「は、はい・・・」

僕が少し進むと、リツコさんは電気をつけた。
暗かった闇が瞬く間に消えて行く。

「!」

僕は目の前の光景に言葉が出なかった。
先ほど、零号機と呼ばれたロボットに似たような紫色のロボットの顔が僕の目の前にあった。

「こ、これは・・・?」

自分の声が少し震えているのがわかった。

「これは、人類最後の切り札。人造人間エヴァンゲリオンよ」

「・・・エ、エヴァンゲリオン。じゃ、じゃあ、さっきの黄色いロボットは?」

「あれはエヴァンゲリオン零号機。そして、これがその初号機よ」

ミサトさんは初号機を見つめながら言った。そして、その表情は急につらそうな表情に変わった。

「・・・そう、そして、この初号機にはシンジ君、あなたが乗るのよ」

一瞬僕はミサトさんの言っている事が理解できなかった。

「シンジ君、私達はあなたを必要としているの・・・」

「ぼ・・・、僕がこれに・・・?」

「そうだ」

初号機の上の方から聞き覚えのある声がした。僕はまさかと思って上を見上げた。

「久しぶりだな、シンジ」



Rei-Sinziです。

3話ようやくできました。風邪引いてたもので早く出来なかったです。

感想メール、送ってくれたかた、ありがとうございます。

さてさて、ようやくエヴァと使徒が出てきました。

実際と少しずつ変わってきました。いつか全く違う感じになってたりして(笑)

これからもがんばって行きます。応援してやってください。

それでは4話でまた会いましょう

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新世紀エヴァンゲリオンはGAINAXの作品です