さわやかな朝の日差しがあたりを包む。
そしておきまりのように鳥のさえずりが聞えてくる。
<ジリリリリリリリリリ………>
結構大きな音でなるなる目覚し時計。
<リリリリリリ……カチッ>
一人の少女の手が目覚し時計のスイッチを切った。
「うーん、あと5分……」
そう言って少女は布団の中にもぐりこんだ。
そして1分もしないうちに少女の布団からは安らかな寝息が聞えていた。
水色がかった髪に真紅の瞳をした少女。まあ、今となってはその瞳は閉じられているが…。
第1話 出会い
朝のキッチンには先ほどの少女の母親が朝食を作っていた。
そして、壁にかけてある時計をチラッと見てふうっとため息をついた。
「もう、レイったらまた遅刻する気かしら・・・・・・」
母親がそう言った直後、先ほどの少女がバタバタと大きな音を立ててダイニングに飛び込んできた。
「ちょっとお母さん! 何で起こしてくれなかったのよ!」
「2回起こしたわよ」
冷ややかに言う母親。この言葉を言われては「う…」というしかなかった。
「はいはい、そんな事はいいけど、早くしないと遅刻するわよ」
「あー!そうだった」
少女はテーブルにおいてあったコーヒーを取ると一気に飲み干した。
そして自分の部屋に戻り、急いでパジャマから制服へと着替えた。
「お母さん、パン1枚焼いておいて!」
「はいはい、もう用意してあるわよ」
少女は急いで洗面所へと向かうと、顔を洗い髪をといた。
そして鞄を持ち、先ほど母親が焼いておいてくれたパンをくわえながら家を出た。
「いってきまーす」
「気をつけるのよ、レイ」
綾波家の見なれた朝の様子であった。
パンをくわえながら走って行くレイ。
そしてその様子を玄関で見ていたレイの母、レナ。
朝のドタバタ騒動はこの家だけではなかった。
碇家
「ちょっと母さん! 何で起こしてくれないのさ」
バタバタとダイニングに現れた少年は言った。
「しょうがないでしょ。母さんも今起きたばっかりなんだから」
少年の母親は眠そうにあくびをした。
「なに言ってるんだよ。僕に引っ越しの片付けやらせて自分は寝てたくせに・・・」
少年はまだ完全に片付けが終わってないダンボールの箱を見ていった。
そう、ここの家族はつい先日、ここ第3新東京市に引っ越してきたばかりなのだった。
「もういいじゃない。あ、そんな事よりいいの? シンジ」
「あ、忘れてた。早く行かないと。初日から遅刻なんてしたらやばいよ!」
シンジ急いで部屋に戻る。母親のユイはというとまだ眠そうにあくびをしていた。
着替え終わったシンジは洗面所に姿を消した。
そして洗面所から出て来たシンジは鞄をつかみ玄関の外に飛び出していった。
「いってきます!」
「はいはい、いってらっしゃい」
シンジは朝ご飯も食べずに学校へと走り出した。
「はあ、はあ」
シンジは学校へ急ぐためにひたすら走っていた。
そして、自分の腕にしてある時計をチラッと見て多少であったが安心した。
(ふう、何とか間に合うな)
そう思ったときだった。
「ちょ、ちょっとどいて!」
「え?」
ドンッ!
シンジが振り向くが早いか、シンジは横から飛び出て来た少女とぶつかってしまった。
そして、その時自分の頬に妙な感覚があった。が、今はそんな事気にしてる場合じゃなかった。
「いててて・・・・・・」
シンジはゆっくりと顔を上げた。そして、隣りでしりもちをついている少女をみつけると、慌てて手を差し出した。
「だ、大丈夫?」
その少女はまぎれもなくレイであった。レイは自分とぶつかった少年の手を借りて立ち上がった。
「ちょっとぉ、気をつけてよ・・・」
レイが文句を言おうとした時、レイの瞳に少年の姿がうつった。
(あ、けっこうかわいい顔してる・・・。でも、見なれない子。)
「ご、ごめん。つい、いそいでて・・・」
レイが気が付くと少年が謝っていた。
「い、いいよ。私も急いでて・・・て、あー! 遅刻しちゃうよぉ。ごめん、それじゃあね」
そう言うとレイは落ちていた自分の鞄を拾い上げて走って行った。
シンジはというと、その走って行く少女の姿を見ていた。そして、気が付いたかのように急いで自分の
鞄を拾い上げた。
「ん? なんだこれ。さっきの娘が落として行ったのかな?」
シンジが手に取ったものは生徒手帳だった。
「・・・これは・・・生徒手帳だ。やっぱりさっきの娘が?」
そう言うと、シンジは生徒手帳を開いた。そこには先ほどの少女の写真がはってあった。
「・・・第1中学校2−A、綾波レイ・・・。へえー、綾波レイって言うのかあの娘。
もしかしたらまた学校で会うかもしれないから持って行った方がいいな」
そう言うとシンジはレイの生徒手帳をポケットの中にしまった。
「あ、やばい。急がないと!」
シンジは時計を一目見てそう言うと学校へと向かって再び走り出した。
一方シンジより早く学校に着いたレイは足を教室へと急がせていた。
教室についたレイは自分の友人のところへ向かった。
「おはようヒカリ」
「あ、おはよう、レイ」
ヒカリと呼ばれた少女はくるっと振り返りレイのほうを見た。
洞木ヒカリ。レイの友達でクラスの委員長をやっている。
レイは時計をふっとみた。ホームルームまでまだあと2分近く残っていた。
「レイ、今日はいつもより少し遅いじゃない」
「いつも通り家を出たんだけど、ちょっとアクシデントがあってねー」
レイはぺろっと舌を出した。ヒカリは少し呆れたようになっていた。
「どうせ用具忘れたとかそこら変でしょ?」
「ぶー。はずれ」
「じゃあ、何があったの?」
「実はさあ、今日来る時いつも通りギリギリだったから走って来たのよ。そんでさ、曲がり角を 曲がろうとしたときにさ、そこから男の子が走ってきててさ。そのまま止まれなくってドンッてわけ」
ヒカリは驚いたような呆れたような顔をしていた。
「大丈夫だった?」
「うん。私も男の子も大丈夫だったわ。でさ、その男の子が珍しいの」
「何が?」
レイの言っている意味が分からず首をかしげながらヒカリは聞いた。レイはくすっと笑ってから 答えた。
「その男の子ね、結構かわいい顔してたの。体つきも女の子っぽかったの。それに肌はそんなに日焼 してなかったし。声もかわいかったし・・・」
腕を組みながら自分でうんうんとうなずいているレイをよそに、ヒカリは呆れた顔でレイを見ていた。
「レイ・・・。よくそこまで観察したわね」
べつの意味でヒカリは感心していた。
「で、ようするにその男の子が気になっているってわけね?」
レイは人差し指を立て顔の前で2回ほどふった。
「はーずれ。私はなんとも思ってないもーん」
「なーんだ。好きってわけじゃないのか・・・」
ヒカリはどことなくがっかりしているようだった。
「ざーんねーんでした。私、今まで男の子好きになったことないもーん。話はするけどね。
あ、それと、全く気になってないってわけじゃないのよ。ただね・・・」
「ただ・・・、なに?」
レイはすっと窓の外に視線をうつした。
「・・・ただ。なんか一瞬さみしそうな目をしたのよね・・・」
「ふーん」
「ま、もう会う事もないだろうけどね」
「わかんないわよ。もしかしたらまたどこかで会うかもよ」
「まっさかー。そう言えばここの制服来てたけど、見た事なんかないしなー」
レイは笑って答えた。ヒカリはちょっとおもしろいかなと思ってレイをからかう事にした。
「わかんないわよ。そう言えば、今日先生が転校生がくるっていってたじゃない。もしかしたら
その人かもしれないわよ。・・・・・・よかったわね、レイ」
ヒカリはくすくす笑いながらいった。その様子に、レイも自分がからかわれてるといった状況を
理解した。
「ちょっとヒカリィー。・・・もう、すぐそうやって私をからかうー」
「あはは、ごめんごめん。そう言えばレイ、ぶつかった時なにも落としてないよね。さっきの話聞いてるとそのまま慌てて学校に来たみたいだけど」
「うん、そのまま学校来たよ。だって落とすわけないじゃん。それに落とすって言っても落としそうなものなんかないし」
「だーめ。なにかなくなってたら大変じゃない。さあ、自分で確かめてみて」
ヒカリにそう言われてしぶしぶレイは自分の持ち物を確認していった。
「えっとぉ、ハンカチとぉ・・・・・・」
一つ一つ確認して行く。そして一通り終わったのでヒカリの方を見た。
「終わったよヒカリ。ハンカチとか全部あった」
「レイ、そう言えば生徒手帳確かめた?」
「大丈夫、この胸ポケットの中に・・・」
そう言ってレイが自分の胸ポケットを触った時だった。
「あれ?」
そこには生徒手帳の硬い感覚などどこにもなかった。
「・・・うそ。ヒカリ、生徒手帳がない・・・」
「生徒手帳がないの?」
「・・・うん。どうしよう・・・」
一気にレイの顔が不安げな顔に変化した。そんなレイの肩をヒカリはぽんっと叩いた。
「大丈夫。帰りに一緒に探しましょ。それに生徒手帳だから誰かが拾って届けてくれるかもしれない しね」
「そうだね・・・」
ヒカリのおかげでレイの不安は少し和らいだ。
時刻はホームルームの時間を5分近く過ぎていた。それでもレイとヒカリが話していられるのは
担任が来ていないからであった。
一方シンジはというと
ホームルームのチャイムが鳴ったとき、シンジは職員室にいた。ホームルームのチャイムギリギリで 入って来たのだった。シンジはとりあえずどうすればいいのか近くにいた黒い髪をショートカットに した女性教師にたずねてみた。
「あの、今日転校して来た碇シンジですが、僕はどうすればいいのでしょうか?」
「え? 転校生? ああ、碇君ね。ちょっと待ってね。あなたの担任の先生は・・・・・・」
その先生は職員室の中を見まわしていた。
その時だった。職員室のドアが勢い良く開いて一人の女性教師が入ってきた。そしてシンジの事に 気付くとこっちに向かってきた。その様子を先ほどの先生が気付いた。
「碇君、あの先生よ」
隣にいた女性教師は指を指していった。
こっちに向かってくる女性教師は20代後半ぐらいの年で、髪の毛を腰近くまでのばした、
ナイスバディな教師だった。
「ごめーん、マヤちゃん。またおくれちった」
その先生は少しも反省してないような表情で手を使って謝っていた。
いつもの事なんだろうか、マヤと呼ばれた僕の隣にいた先生はふぅっとため息をついた。
そして、なにかに気が付いたように僕の名を呼んだ。
「あ、そうそう。私は数学科の伊吹 マヤ。よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「葛城先生。前におっしゃられていた転校生の碇シンジ君です」
「あ、初めまして。今日転校して来た碇シンジです」
「はい、聞いてるわよ。あたしはあなたの担任の葛城ミサト。ミサト先生で良いわよ。
みんなそう呼ぶから」
「はい」
シンジはミサト先生をみて思った。
(悪い人じゃないみたいだ。それに結構優しそうだな)
「あ、じゃあ、葛城先生。私はこれで・・・」
「あ、ありがとうマヤちゃん」
そう言うとマヤ先生はプリントとかを持って職員室を出て行った。シンジがその様子を見ていると、 ミサト先生が話し掛けて来た。
「じゃあ、私達も行こうか?」
「はい」
シンジはそのままミサト先生の後をついていった。
「シンジ君のクラスは2−Aよ。みんな優しい人達ばっかりだから心配しなくて良いわ」
「はぁ・・・」
どうやら廊下を歩いている時シンジが一言も話さなかったのを緊張していると勘違いしたらしい。
しばらくすると2−Aとかかれたプレートが見えて来た。
教室の中は先生がまだきていないせいだろう。ザワザワと騒いでいた。
「ちょっと待っててね。あたしが呼んだら入ってきてね」
ミサト先生はそう言うと教室の中に入っていった。
ミサトさんが教室に入ると、一気に静かになった。
「きりーつ、礼、着席」
号令がかかる。いたって普通である。だが、どう聞いてもさっきの声は女の声にしか聞えなかった。
そんな事をシンジが考えていると教室からミサト先生の声が聞えた。
「さあ、喜べ女子。今日はうわさの転校生を紹介する!」
ミサト先生のその声によってクラスの中は歓声にあふれた。特に女子の声が大きかった。
(大丈夫かな、このクラス・・・)
シンジは少し不安になって来た。そして、再びミサト先生の声がした。
「はい! 静かに静かに。入ってきていいわよー」
(落ち着こう、大丈夫だ)
シンジは2、3度深呼吸をしてクラスの中に入っていった。
シンジがクラスの中に入るとどよめきがおこった。
「なんかなよっとしたヤツだぞ」
「・・・・・・俺達の敵かも」
「かわいい・・・」
「あれで男の子。うそー」
シンジは耳に入るクラスの人達の声に戸惑いがあったが、なんとか自分自身を落ち着かせた。
「い、碇シンジです。よろしくお願いします」
シンジは軽く礼をした。
レイはぼーっとして窓の外を見ていた。転校生などべつに興味がなかったからだ。
そんな時だった。
「い、碇シンジです。よろしくお願いします」
と、転校生の挨拶をする声が聞えて来た。その声を聞いて、レイはバッと顔を前に向けた。
聞いた事のある声。
「!」
レイはその転校生を見て驚きのあまり立ちあがってしまった。
その様子をシンジも気付き、視点をその子に合わせる。そして、シンジは目を丸くした。
「「あーーーーーーー! 今朝の」」
二人は全く同時に叫んだ。見事なユニゾンとなって教室に響く。
まだ口が声もでなくパクパクしている二人を見てミサト先生は声をかけた。どことなくその目は 笑っていた。
「あら、綾波さんはシンジ君の事を知っているのね。じゃあ、話が早いわ。シンジ君、 綾波さんの隣の席、あの窓際の席に座ってくんないかな」
ミサト先生はレイの方に指を向けて言った。
「わ、分かりました」
ミサト先生に言われたとおりシンジはレイの隣の窓際の席へと向かった。
「おい、あいつ綾波さんとしりあいなのかよ?」
「どういう関係なんだ?」
クラスの中からそんな声が聞こえていた。だが、当の二人はと言うと、 シンジは顔を少し赤くして自分の席に向かって歩いていて、心ここにあらずといった感じであるし、 レイはというと先ほどから立ちっぱなしであり、こちらも心ここにあらずといった感じであった。 早い話が二人とも聞いてないと。 もし、レイが聞えていたらここで顔を赤くして怒り出すに違いない。後ろの席のヒカリはそんな事を 考えていた。
シンジがレイの隣の席についた時、レイもはっと気がついてすとんっと腰を下ろした。
(隣の席なんだから挨拶ぐらいしたほうがいいよな・・・)
そう考えるとレイの方に体を向けた。
「あ、綾波さん・・・・・・だっけ?」
「え、ええ」
レイは驚いたように返事をした。向こうから話しかけてくるとは思ってなかったからだ。
「よろしくね」
シンジはにっこりと笑った。その笑った顔にクラスの4分の3ほどの女子は「はぁ」と息を吐いて 頬を少し赤くしてその顔を見ていた。
(この顔でこの笑顔、一種の武器ね・・・)
そんな事を思っていた。一つ忠告しておくけどマイナスの意味ではなくプラスの意味でだ。
「あ、あの、綾波さん? 僕なにか変な事を言ったかな?」
シンジは無表情のレイに不安になって聞いてみた。もちろん、レイが無表情だったのは シンジのあの笑った顔の事について考えていたからである。レイはいきなり誤るシンジにようやく 気が付いた。
「う、ううん。ごめんね。私は綾波レイ。よろしくね」
レイの頬は少し赤くなっていたがシンジの方にクラスの人の視線が集まっているので誰もそんな事 気付きはしなかった。ただ、レイの後ろに座っていた洞木ヒカリを除いては・・・・・・。
(ふふ、レイったら・・・)
「あ、こちらこそよろしくね」
レイの笑った顔を見てシンジは固まってしまった。
(か、かわいい・・・)
そんな二人を見てミサト先生はにっと笑った。
「じゃあ、今日の1限目の私の授業は休憩ね。みんなもシンジ君と話したいだろうから。 私は職員室に戻るから。じゃあね〜ん」
そう言ってミサト先生はウインクしてから教室を出て行った。
その言葉を待っていたかのようにクラスの人達が席を立ち、シンジとレイをあっという間に囲んだ。
「ねえねえ、碇君はどこから引っ越して来たの?」
「何人家族?」
「綾波さんとはどういう関係なの?」
「付き合ってる人とかいるの?」
「趣味は?」
シンジは質問攻めを食らっていた。そして隣の席にいたレイも今朝の事でシンジの巻き添えをくっていた。シンジは何とか事態をおさえようと一つ一つの質問にしっかり答えていった。
「えっと、旧東京市から引っ越して来たんだよ。理由は何だったかな。今度聞いてみるよ」
「僕の家は三人家族なんだ。僕と父さんと母さんね。父さんはたまに帰ってくるくらいかな。 単身赴任ってやつなんだ」
「僕の趣味は、うーん、・・・とりあえず音楽鑑賞ってとこかな。 そんなにこれといった趣味はないんだ」
「付き合ってる人はもちろんだけどいないよ」
「綾波さんとは今朝ぶつかって2、3言葉をかけたってとこだね。 まさか同じクラスだとは思わなかっよ。 別にこれと言った関係はないと思うけど・・・」
シンジは苦笑して言った。レイは何とか落ち着いたのでほっと一息ついていた。
クラスメート達は「他に何かないかなあ」と探してる感じだった。 そんな様子にシンジは気付いた。
「あ、他になにか聞きたい事とかあったら、今じゃなくてもいいからメールでいれてくれてもいいよ。 もちろん授業中でもいいよ」
シンジはそう言ってにっこりと微笑んで集まってきていた人達に言った。
シンジのその笑顔にクラスの女子の大半は見入っていた。
レイとヒカリもその中のメンバーに入っていた。
(な、なんて顔して笑うのかしら。ある意味私達女子にとっては凶器ね・・・)
ヒカリはそんな事を考えていた。
ようやくシンジはクラスメートが席に戻ってくれたので一息付くことが出来た。
シンジがふうっと息をもらした姿をみて、レイはふふっと笑った。
「ど、どうしたの?」
シンジもレイの様子に気付き不思議そうに聞いた。
「ううん、ただすごいなぁっとおもってね・・・」
「すごい? 僕が?」
「うん、なんとなくね」
「は、はぁ・・・?」
「そう言えばさ、シンジくんってなんか珍しいよね。声とか体つきとかさ、そんなに男の子っぽく ないじゃない? あ、変な意味でじゃないのよ」
「はは・・・、別にいいよ。・・・そうだね、男にしては珍しいかもしれないよね」
「ご、ごめんなさい・・・」
突然レイが謝って来た。どうやらシンジが沈んでしまったと勘違いしたらしい。もちろんシンジは そんなこと思っていなかった。
「いいよ、大丈夫だって」
シンジのその明るい声を聞いて安心したのか、ちょっと顔に笑顔が戻ったレイ。
その顔を見て、シンジはほっとしたように笑った。
そして、自分のポケットから今朝拾った生徒手帳を取り出すとレイにわたした。
レイは驚いたように生徒手帳を受け取りシンジの顔を見た。
「これって・・・・・・」
シンジは笑顔で答えた。
「これって綾波さんのでしょ。今朝僕とぶつかった時に落としたんだと思うよ。もしかしたら また会えるかもって思って拾っといたんだ」
「わざわざありがとう。良かった、なくなったらどうしようかと思っちゃった」
レイの笑みにシンジは見とれていた。そんな中にヒカリがレイをからかいに入って来た。
「いい雰囲気だしてるじゃないレイ。初めまして碇君。私、洞木ヒカリ。よろしくね」
「あ、こちらこそよろしく」
「いい雰囲気ってなによぉ、ヒカリ」
レイは少しヒカリをにらみながら言った。
「そのままよ。説明がいるかしら? 良かったわねレイ、碇君と友達になれて」
「もう、そんなんじゃないって言ってるでしょ!」
レイは再び顔を少し赤くしていた。シンジはどうすればいいのか分からず、 ただ呆然とヒカリとレイのやり取りを見ていた。その様子にレイも気付いたらしい。
「ほら、碇君が困ってるでしょ!」
「そんなこと言ってぇ、碇君をかばってるんでしょ」
ヒカリはいたずらっ子のような瞳でレイを見つめていた。
「もぉー!」
レイはぷうっと頬を膨らましてぷいっと踵を返した。その様子を見ていた数人の男子は レイのファンになったと言う事は言うまでもないだろう。 シンジはただただ苦笑するしかなかった。
波乱の1限目も終わり、2、3時間目と、シンジは授業中に入ってくるメールの返答で てんてこまいだった。
そんな4時間目の授業の途中、シンジの目にまたメールが入ってきたのが分かった。 またかと思いメールボックスを開いてみると、さっきのとは変わったメールが届いていた。 差出人は隣の席のレイだった。シンジがレイの方を見ると、レイは他の人には分からないように 笑顔でピースを作っていた。シンジはそんなレイから目を離すとメールを開いた。 『碇君へ なんだか大変そうだね。メールとかたくさん送られて来たり、放課の時とか。 でも一番の問題はこの次の昼食の時間よ。 クラスの人達に捕まって一人一人相手にしてたら体が持たないよ。 そ・こ・で、この授業の終わりのチャイムが鳴ったら同時にダッシュで屋上まで行くよ。 大丈夫、私が誘導するからさ。 ヒカリにもメール出しておくから』
メールを読み終えたシンジは返事を書いておいた。もちろんO.Kではあったが。 少ししてからレイがメールに気付いたのかシンジの方を向いた。 後ろを他の人に気付かれないように見ると、ヒカリもシンジの方に気付き、うなずいた。
(あと10分か)
シンジは少し鞄を開けておいた。もちろん弁当を取りやすくするためである。
そして、短い10分間が経過した。
キーン コーン カーン コーン
チャイムの音と同時にシンジとレイは飛び出した。
そして二人が飛び出したあと、シンジと一緒に昼食をとろうとしていた女子達が二人の机を囲んでいた。
「あら、碇君がいないわ」
「どこにいったのかしら」
「綾波さんもいないわ」
がっかりしたように机を囲んでいた女子(一部レイの近くで昼食を取ろうとしていた男子)は、 自分の席に戻った。
そんな様子をヒカリはふふっと笑いながら見ていた。
「さて、と。じゃあ、私もいこうかなぁ・・・」
そう言ってヒカリは席を立った。
一足先に二人は屋上へとついた。額からはうっすらと汗がにじんでいた。
「はあ、何とかうまくいったかな?」
「そうだね。・・・・そう言えば洞木さんは?」
「ヒカリはもう少ししたらくるわ」
そう言うとレイは腰を下ろした。シンジもつられるようにあわてて腰を下ろした。 そして気が付くとシンジはレイの方を見ていた。
「ん? どうしたの?」
レイもそんなシンジの様子に気がついたようだ。
「あ、あのさ。昼食時って他の人ってどんなのなの?」
レイは少しの間シンジの言葉に考え込んでいたが気が付いたように「あっ!」と言った。
「もしかして、ここにつれて来たの・・・、迷惑だった?」
レイが上目づかいでシンジに語り掛けてくる。
(う、かわいい・・・)
シンジは自分の頬が上気して来るのに気が付いた。
「う、ううん、そうじゃないんだ・・・」
「よかった。迷惑だったらどうしようかと思っちゃった」
レイは顔を上げてにこっとシンジに笑いかけた。 シンジはシンジでその笑顔に見とれてしまう。
「そう、すごい攻撃力なのよ私達のクラス。多分放課の10倍ぐらいはつらいと思うわ・・・」
「へ、へぇ〜」
シンジはそれを聞いて思った。よかった、綾波が屋上に誘ってくれて・・・。
「それで碇君って優しいじゃない。みんなの質問にも一人一人しっかり答えてるし。 だから昼食時ぐらいゆっくりさせてあげようかと思ってね」
「・・・綾波さんも・・・・・優しいよ・・・」
「え?」
シンジはレイに聞えないくらいの声で言ったつもりだったが、どうやらレイには聞えていたらしい。 レイは顔を赤くしている。
「あ、あの。・・・ホ、ホラ、お昼にしようよ!」
「そ、そうね・・・」
「レイー」
その声に呼ばれてシンジとレイが屋上の扉の方を振り返ると、そこにはヒカリが立っていた。 ヒカリはふふっと笑いながらこっちに来た。
「お待たせ。もうちょっとゆっくりして来た方が良かったかな?」
ヒカリは瞳を悪戯っ子のように輝かせていた。
「もうっ!」
レイはぷいっと横を向いてしまった。
「イインチョ、何や用事って・・・。あれ、綾波に転校生も一緒かいな」
聞きなれない関西弁の声が扉の方でした。
(誰だろ・・・?)
「鈴原君、何であなたがここにいるの?」
こっちを向きなおしたレイが聞く。鈴原と呼ばれた少年の後ろにいたもう一人の少年がこっちに歩み 寄って来た。
「ひどいな綾波。僕らはただ委員長に言われただけさ」
そこまで言うと今度はヒカリに切り替わる。
「ごめん、レイ。私が連れてきたの」
「あ、別にいいけど・・・。ねえ、碇君」
「あ、うん」
「それじゃよろしくな碇。僕は相田ケンスケ。趣味は写真を撮ることかな。ケンスケでいいよ」
「あ、よろしく。僕もシンジでいいよ」
ケンスケと握手を交わしたあと、先ほどの関西弁をしゃべっていた人がシンジに向かって来た。
「よろしゅうなシンジ。わいは鈴原トウジっちゅうんや。趣味は食う事かな。トウジでええで」
「うん、よろしくトウジ」
シンジとトウジが握手し終えたのを見とどけてヒカリが口を開いた。
「さあ、お弁当にしましょう」
「せやなぁ、メシにしよかー」
そう言うとヒカリは自分の持ってきた二つの弁当箱のうちの1つをトウジに渡すと、 トウジはストンと腰を下ろしてその弁当の包みを開けた。
「やれやれ。じゃあ、俺も食べるか」
ケンスケはトウジの行動を見るのをやめて腰を下ろし、先ほど購買部で買ってきたと思われる パンをかじり始めた。その様子を見たシンジとレイの二人は互いにふふっと笑ってから 弁当を食べ始めた。
弁当を食べている間、シンジ達はずっと話をしていた。シンジのことについてや、 その他くだらない話などで盛り上がっていた。
「あ、そう言えばトウジは洞木さんにお弁当を作ってもらってるんだね」
先ほどのトウジとヒカリの姿が、いつも通り、いや、当たり前のように感じた事について シンジは聞いた。
「あ、ああ、そうや」
トウジは少し声を詰まらせて言った。ヒカリはというと、頬を少し赤くして気づかないふりをしながら 弁当を食べていた。そして、その会話を聞いて、横からケンスケが口を出した。
「そうそうシンジ。トウジは委員長と今付き合ってるんだぜ」
「ケ、ケンスケ!?」
「いいじゃないかトウジ。それに本当の事なんだしさ」
「へぇー、そうなんだ」
シンジが納得するとそこにヒカリが顔を真っ赤にして割り込んで来た。
「ち、違うの碇君。そう言う訳では・・・」
「へー、どう違うのかなぁー、ヒカリ?」
弁解しようとしていたヒカリの言葉に対して、レイが妖しげな瞳をしてヒカリに語り掛けた。 この感じから見るとトウジとヒカリの事をレイも知ってるらしい。
「え、そ、それは・・・その・・・」
「もういいじゃない。わざわざ何か考えなくても。みんな知ってることよ」
レイがそう言うとヒカリは恥ずかしいのか顔をさらに赤くしてうつむいてしまった。
「そういやシンジ。なんでそないなことを聞くんや? ははぁ、もしかしてうらやましいんやろ」
「い、いや、そう言う訳じゃあ・・・」
「うんうん、シンジ、お前もがんばりや」
そう言ってトウジはケンスケと何かの話をしていた。レイはというと、レイもヒカリも 先ほどのことについて話していた。まあ、レイがヒカリをからかっているだけだが・・・。 一人残ったシンジはなにかするあてもなく空を見上げていた。
「・・・・いい天気だ」
そこには雲ひとつない青空が広がっていた。
あとがき
こんにちは、Rei-Sinziです。
先日、新・エヴァンゲリオンがのったばっかですが、どうしてももう一つの人格のレイが
かきたかったんですよ。
でもこちらの人格のレイはかきやすいです。問題は話のつなげ方ですね。(笑)
でも、大まかな筋道はもうたっています。
さあ、次も期待して待っていてほしいです。
それでは!
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