【レイVSカヲル】


発令所には、緊迫した空気が満ち満ちていた。オペレーターたちの声がきびき
びと響いている。

「エントリープラグ挿入」
「右腕、固定完了」

「シンジ君、正常位置」
「第一次接続開始」

「エントリープラグ、注水」
「神経接続、異常なし」

「初期コンタクト、すべて問題なし」

「ああ、碇君・・・・(はあと)」

ぎしぎし

「・・やっぱりそうだわ、シンジ君のシンクロ率が落ちてきてる」 リツコが計器類に表示されているデータを眺めながら呟いた。 「どういうこと・・って、聞くまでもないか・・」 ミサトもモニターに目を向ける。 「ええ、いくらレイに乗るために生まれてきたような子でも、10日もぶっ続 けでヤリっぱなしじゃあね」 そこにはカスカスになったシンジが写っていた。 「少しインターバルをとったほうがよいわね」 それを聞いて、ミサトは少し悲しそうな顔をした。 「話しづらいわね。この事。シンジ君はいいのよ、身体を休められるから・・。 でもレイは悲しむでしょうね」 深々とため息を吐く。 「仕方ないわよ。たまには中学生らしい生活を送らせてあげないと。あ、そう いえば・・」 そこでリツコは急に思い出したかのように言葉を続けた。 「委員会からシンジ君と同い年の男の子が送られてくるらしいわよ」 「何のために?」 「さあ?」 結構アバウトなリツコだった。 「上が何を考えてるのか知らないけど、シンジ君に同年代の友達を作ってあげ たいんじゃない? あのおやぢは」 「・・ありえるわね」 二人の脳裏には、ニヤリ笑いをその口元に貼り付けた一人の髭眼鏡が同時に浮 かんでいた。 芦ノ湖畔に一人黄昏ているシンジ。 『綾波には悪いことしちゃったな・・』 彼の脳裏には、悲しげなレイの顔が浮かんでいた。 初めての休暇をもらい、しばらく身体を休められる事になったのだが、そのこ とを告げられた時のレイの表情が、シンジの心に焼き付いて離れなかった。 『ごめんよ、綾波・・さすがに腰が痛くて・・』 なんとなく幸せそうな顔をしながら腰をさするシンジ。 その時―― 「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふーんふふん♪」 突然どこからか第九のハミングが聞こえてきた。少し驚いて辺りを見回すシンジ。 そしてほどなく、湖の中に立っている天使の像の上にたたずむ一人の少年を発見した。 『どっ、どうやってあそこに登ったんだろう?』 シンジはもっともな疑問を持った。 「歌はいいねえ、歌は心を潤してくれる・・」 『いや、そんな事よりどうやってそこに登ったのかを・・』 少しこだわるシンジ。 「そう思わないか? 碇シンジ君」 「いや、あんまり」 きっぱりとしたシンジの答えに、その少年は湖にずり落ちそうになった。 「そ、そうか、そうだよね。実は僕もそう思っていたんだよ」 何だかわざとらしく取り繕う。 「ぼ、僕はカヲル、渚カヲル。君と同じネルフの一員となったものさ」 まだ精神的なショックが抜けていないようだが、取り合えず自己紹介をする少年。 「そうなんだ、その・・渚君」 「カヲルで良いよ、碇君」 「分かった」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「あ、あの、僕もシンジ君って呼んで良いかな?」 カヲルは頬に汗を掻きながら尋ねた。 「あ、気がつかなくてごめんよ」 それが碇シンジと渚カヲルの、最初の出会いだった。 ネルフ本部。 『碇君・・・。私・・・寂しいのね・・』 憂いに満ちた表情でエスカレーターを上がってきたレイ。彼女の心は、悲しみ に満ち満ちていた。 「!」 上に到着した途端、急に前方に人の気配を感じたので、すばやくそちらに目を 向ける。そこには、一人の銀髪の少年が待ち構えていた。 「綾波レイ。君は僕と同じだね」 唐突に切り出してくる少年。心なしか敵意を含んでいるかのような声だった。 「あなた、誰?」 胡散臭げな眼差しを向けるレイ。 「ふっ、シンジ君の恋人さ」 「・・・私は碇君の恋人だけど、あなたはそうじゃないわ」 「これからそうなるのさ」 自信たっぷりに答えるカヲル。 「アナタ、私の敵ね。でも無理よ」 レイの視線の温度は、明らかに下がっていった。 「なぜだい?」 「碇君は初物が良いのよ」 「失礼な! 僕のは初物だよ」 カヲルは心外だといわんばかりの表情で、少し怒りの色をあらわにした。 「そう、でもだめ、アナタじゃ碇君とペアになれないもの」 レイは口元にニヤリと酷薄な笑みを浮かべる。 「いらなくなるのはアナタ・・」 もはや絶対零度と化した視線がカヲルに向けられる。 「シンジ君となら、きっとペアになれるさ」 こちらはいつものアルカイックスマイルで対抗するカヲル。 「まだ分からないの? ぞーさんは用無し、ぞーさんは用無し、ぞーさんは・・」 司令室では、冬月が何か連絡を受けていた。ほどなく手元に受話器を置きなが ら口を開く。 「例の少年がレイと接触したそうだ」 『冬月、それって洒落?』 と突っ込みたかったが、ゲンドウは何とか我慢した。 「ふう、しかしゼーレのじじいどもはいったいなにを企んでいるのだ・・」 自分の事は棚に上げて、思案にくれるゲンドウ。 「今、マギが全力で彼の性癖を洗っている」 「万が一ホモだったらまずいからな」 ゲンドウが多分に危機感を含んだ声で呟いた。 「やあ、僕を待っててくれたのかい?」 ベンチに腰掛けていたシンジに、突然声がかかった。見ると、いつの間にやら 目の前にカヲルが立っている。 「え? いや、そういうわけじゃ・・(綾波待ってたんだけど・・)」 「シャワー、これからなんだろ?」 いきなり訳の分からない事を切り出してきた。 「え? 別にそんな事カケラも考えてないんだけど・・」 「シャワーはリリンが生み出した文化の極みだよ、と言うわけで一緒に行こうか?」 「え? あ、ちょっと・・カヲル君・・」 戸惑うシンジを、カヲルは強引に引っ張っていってしまった。 その数分後・・・・・・・・。 「くっ、遅かったようね」 急いで駆けつけてきたレイだったが、すでにシンジの姿は消えていた。 「大丈夫、碇君は私が守るもの」 レイはその紅い瞳を、さらに真っ赤に燃やしていた。 『な、なんで僕はここにいるんだろう・・』 結局シンジは、カヲルと一緒に風呂に入る事になってしまった。 カヲルはというと、シンジの隣で鼻歌なんぞを歌いながらご機嫌であった。 「旅ゆけばぁー、とくらぁ!」 かなりおやじクサイ。頭に乗せた手ぬぐいが、そのことを一層際立たせている。 ひとしきり歌った後に、いきなりシンジの方に妖艶な流し目をくれてきた。 「一時的接触を極端に避けるね、君は。恐いのかい? 人と触れ合うのが」 『てゆーか僕は君が恐いんだよ・・』 何やら妖しげな雰囲気を漂わせまくっているカヲルから、心なし身体を遠ざけ ているシンジ。 「他人をもっと知らなければ、寂しさを忘れる事はできない」 さりげなくシンジににじり寄って行くカヲル。 「僕ならそれを忘れさせてあげることができるよ・・・・」

さわさわ

何とかシンジに手を重ねる事に成功する。 『だ、誰か助けて・・』 シンジの祈りが天に通じたのか、そこでいきなり照明が落ちた。 「じ、時間だ」 心の底からほっとするシンジ。 「もう終わりなのかい?」 カヲルはこの上なく残念そうな声を出した。 「うん、もう寝なきゃ」 「君と?」 ニヤリと笑うカヲル。シンジはお湯に浸かっているにもかかわらず、悪寒を感じ てしまった。 『こ、この人ヤバいよ』 「あ、いや、カヲル君にはちゃんと部屋が用意されていると思うよ。別の」 別の、の部分だけ強調して、シンジは逃げの体勢に入った。 「そう・・」 カヲルは少し寂しげかつ不満そうに、憂いの表情を浮かべる。 そこでおもむろにお湯から立ち上がった。 『はうあっ! か、カヲル君て・・』 シンジは赤面してしまった。原因は不明である。 「シンジ君、君はガラスのように繊細だね。好意に値するよ」 「こ、好意?」 その言葉に少し引きが入るシンジ。 「好きって事さ」 『やっぱりホモだよ、この人・・』 シンジは泣きたい気持ちだった。
つづく

《次回予告》

ついに開始された二人のバトル!
シンジのピンチに、レイは間に合うのか!?
果たして彼の貞操は守られるのか!?
そして愛する息子を守るため、ついにあの男が立ちあがる!
どうやら私は、まだまだ叫ばねばならないようです!!
次回、
【さらばカヲル! ナルシスホモ暁に死す!】
に、レディー・ゴーー!!
君は・・時の涙を見る・・
(ちなみに作者は大うそつきです)




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