「ぐおーーーっ! あのナルシスホモめがっ!」 司令室には、血を吐くような絶叫が響き渡っていた。 「シンジと一緒に風呂に入ったばかりではなく、あまつさえ手まで握るとはーー! なんて羨まし・・じゃなかった、変態がーーっ!」 『おまえも一緒だろう?』 冬月は心の中だけで突っ込んだ。 「くそがーーっ! わざわざ照明まで落として邪魔してくれたのに、好意に値す るとかぬかしおってーっ!!」 額にぶっとい青筋マークをつけて、ゲンドウが怒りで猛り狂っていた。 「かまわん! 冬月、ドグマに降りて槍を使え」 いきなり無茶な事を言い出すゲンドウ。 「ええっ! お、俺?」 「そうだ! 早くあの口裂け男に串刺し決めてやれ!」 『やばっ! こいつマジだ・・』 すでに逝ってしまった目をしたゲンドウを見て、背筋に悪寒を感じる冬月先生。 「い、碇、わしは持病のヘルニアが・・」 いきなりゴホゴホと咳をしながら、頭を抱える冬月。この辺はお約束である。 「ちっ、役立たずめ! ならば現時刻をもって渚カヲルをホモと認定する!」 ゲンドウはきっぱりと断言した。よほど腹に据え兼ねているらしい。 「ネルフの全戦闘力をもってして、アレを殲滅してくれるわ! ロンギヌスの槍、 ポジトロンライフル、使えるものはすべて使って、必要とあらば戦自や国連軍 にも協力を要請・・・」 「い、碇、いくらなんでもそれはやり過ぎでは・・・」 「何を言うか冬月! これでもまだ足りんくらいだっ!」 ぎりぎりという歯ぎしりの音まで聞こえてくる。彼の髭は、怒りのあまり逆立っていた。 「おのれーー! この私ですらシンジと一時的接触なんぞ、させてもらえんのだぞー!」 原因のほぼ98%は自分にあるのだが・・。 「お、落ち着けって・・。ん? これを見ろ、碇」 駄々っ子と化したゲンドウに、なにか気付いたように声をかける冬月。 「む? こ、これは・・」 モニターの向こうには・・ ◇ ◇ ◇ 再び風呂場。 何やらシンジが絶体絶命のピンチに陥っていたその時、突然シンジは自分の隣に 人の気配を感じた。 ぱっとそちらに目を向ける。 そこには―――― 「あ、あ、あ、あやなみ!?」 心の底から驚くシンジ。 いきなり自分の右側にレイが現れたのだ。なんだか神出鬼没である。 どうやら照明が落ちた後に、風呂に入ってきていたらしい。 「碇君、この変態ハミング男にだまされては駄目」 カヲルの方を睨みながら、きっぱりと言いきるレイ。 「なんだい綾波レイ? 人の恋路を邪魔する奴は、なんとやらってね」 「それはアナタでしょう?」 レイとカヲルの紅い瞳が、真っ向からぶつかり合い火花を散らす。 「アナタが碇君を好意に値するというのなら・・・」 そこでカヲルに対抗して、お湯をザパーっと滴らせながら立ち上がるレイ。 「私は碇君と行為に値するわ・・・(ぽっ)」 頬を染めるレイ。そして――― 「好きって事よ・・・・・・・・・・・? 碇君?」 シンジの反応がないのでそちらを振り向くと、彼はお湯を真っ赤に染めて風呂 場にぷかぷかと浮かんでいた。 どうやら眼前のモノが、彼にとって刺激が強すぎたらしい。相変わらず純情な シンジ君(14歳)だった。 ◇ ◇ ◇ 「無様ね・・・」 発令所のリツコ女史が、コーヒーを飲みながらぽつりと呟いた。 「仕方ないわよ、わっかいんだから」 こちらはまたしても、ビールをかっくらってご機嫌なミサトだった。 「まあ今日のところは、あの二人のお手並み拝見と行きましょうか」 ◇ ◇ ◇ 「碇君!」 慌ててシンジを抱き上げるレイ。だが―――。 「こ、これは、等身大碇君人形ツヴァイ『僕を初号機に乗せて下さいバージョン』!」 いつのまにかシンジが人形に入れ替わっていた。 「この私も手に入れられなかった、2体限定生産の超レアもの・・」 もちろん製造元はネルフである。もう一体は誰が持っているかは言うまでもない。 「どれほど欲しかった事か・・ようやく手に入れる事ができたのね・・」 凛々しい顔に魅入りながら、うっとりと至福の表情を浮かべるレイ。 変わり身という古典的なカヲルの策に、彼女はまんまとはまってしまったようだ。 そのカヲルはというと、レイがトリップしている隙に、気絶したシンジを抱え て姿を消していた。 ◇ ◇ ◇ 「知らない天井だ・・・」 はっと目を覚ましたシンジの目の前には、またしても知らない天井が広がっていた。 「やあ、目が覚めたかい?」 いきなり横から声がかかったのでそちらを向くと、カヲルがにこやかな表情で こちらを覗き込むようにして見つめている。 「カヲル君? ここは・・・」 きょろきょろと辺りを見回すが、やはり知らない部屋だった。 「僕の部屋さ、シンジ君」 「カヲル君の? でもどうして?」 嫌な予感が全身を駆け巡るシンジ。彼は先ほどのカヲルとの風呂場での会話を 思い出していた。 「ここなら邪魔が入らないからね」 にやりと笑うカヲルの瞳が、爛々と妖しい輝きをおびはじめる。 「やはり僕が上になるよ」 「へ?」 「受と攻は等価値なんだ、僕にとってはね」 「な、何を・・君が何を言ってるのか分からないよ、カヲル君!」 実はそこそこ分かっていたが、迂闊な事を言うとやばいことになりそうなので、 適当にごまかすシンジ。 「提案だよ・・・」 軽く流し目をくれると、カヲルはゆっくりとシンジのところへにじり寄っていった。 「さあ、僕を乗せてくれ」 大真面目な顔で頼み込む。 「そうしなければ、君が乗る事になる。だが、それは君のキャラクターにふさ わしくない・・。君をめくりめく官能の世界に連れていってあげられるのは、 僕しかいないんだ」 言いつつもシンジにのしかかって行くカヲル。 「やめてよカヲル君! どうしてだよ!」 必死の抵抗もむなしく、シンジは布団に押さえつけられてしまった。 「ふふっ、僕と君は同じ身体・・・でも抵抗さえなければ同化できるさ」 「ぼ、僕はホモじゃないよう!」 じたばたと暴れるシンジ。 「そう、君たちリリンはそう呼んでるね。でも、君も本当は分かっているんだ ろう? ホモは誰もが持っている、心の欲望だという事を!」 「そんなもん知るかぁーーっ!!」 シンジの絶叫が部屋の中に満ちる。 「助けてぇーー! 犯されるーーっ!!」 彼の運命は、まさに風前の灯火だった。 ◇ ◇ ◇ 「! 碇君!」 はっと我に帰るレイ。今、確かにシンジの叫び声が心に響いた。 「碇君が呼んでる」 すばやく周囲を見回し、そして己の現状に気付く。 「くっ、罠だったのね・・」 悔しそうに唇をかみ締めながら、ゆっくりと立ち上がるレイ。 「『私の碇君』は、人形じゃない」 ちょっぴり惜しげな視線をシンジ君人形に向けていたが、やがて背後に青白い オーラ・・だかなんだかを揺らめかせて、レイは駆け出していった。 「待っていてね、碇君」 ◇ ◇ ◇ 司令室にも、シンジのピンチがモニター越しに確認されていた。 「もしやシンジ君との融合を果たすつもりなのか・・?」 「冬月先生! 私が初号機で出ます!」 眼鏡の奥の眼差しに、決意の色を滲ませるゲンドウ。 「いかんっ! てゆうよりお前にゃ乗れねーよ」 冬月はきっぱりと本当の事を言った。 「でもこのままじゃシンジが! ぐおーーっ! あんなホモに乗られるくらいな ら私が乗るーーっ!!」 悶え苦しむゲンドウ。だがどっちにしろシンジにとっては災難のような気が・・。 「奪われた貞操は取り戻す事はできないが、自らの手で奪う事はできる!」 なんだか血走った目でマジっぽいことをいうゲンドウ。彼は今にも駆け出しそうだった。 『初めて会った時にはヤバい奴だと思ったが、今では世界一ヤバい奴だと思うよ、ユイ君』 暴れるゲンドウを必死に抑えつけながら、冬月はそんな事を考えていた。 ◇ ◇ ◇ 再びカヲルの部屋。シンジの危機は依然として続いていた。 「君は何をされたいんだい? 僕にして欲しい事があるんだろう?」 「ないない! まったくないっ!」 首をぶんぶん振りながら必死で否定の意をあらわすシンジ。 「ふふっ、照れ屋さんだね、君は」 だがカヲルは全く気にしちゃあいなかった。 「僕は君に乗るために生まれてきたのかもしれない・・。さあ行こう! 二人だけの楽園へ!」 「僕は嫌だぁーーーっ! 誰か助けてっ! あやなみーー!」 シンジの命運が尽きかけようとしていたまさにその瞬間!どかぁーーんっ!
いきなりカヲルの部屋のドアが吹き飛んだ。 「馬鹿なっ! 18もある特殊装甲が一瞬で?!」 単にタンスやら何やらで補強してあっただけなのだが・・。 その向こうからは、やはりというか何と言うか、レイがゆっくりと姿をあらわした。 「綾波!」 シンジが心の底から安堵の声を上げる。レイはそんな彼に向かってにっこりと 微笑んだ。 「くっ! 綾波レイ! やはり最後の敵は君だったようだな!」 「碇君は私が守るもの。ナルシスホモは用済みよ」 レイとカヲルの視線が火花を散らす。 「僕たちには、未来が必要だ。消えてもらうよ、綾波レイ!」 「それはこっちのセリフよ!」 その言葉と同時に、カヲルに躍り掛かるレイ。彼女は矢継ぎ早にすさまじい連 続攻撃を繰り出した。 「正拳! 肘打ち! 裏拳っ! はああああーーっ!」 だが、カヲルは余裕の表情で、そのことごとくをかわしてしまう。 「ふん、ふん・・どうした? 君の力はそんなものか。そんな事ではこの僕を倒 す事は・・はうっ!」 なんだか長ったらしい口上を述べているうちに、レイの蹴りが股間にヒットしていた。 「ぐおぉぉ・・」 「光球は潰したわ。アナタの負けよ、ハミング男」 口から泡を吹いて悶絶しているカヲルに、レイは冷たい眼差しを向けた。 「アナタのや○い機関も、もはや役立たず・・」 あらぬ方向に目を向けて、遠くを見詰めながら呟くレイ。 シンジはというと、カヲルの方にほんのちょっぴり哀れんだ視線を送っていたが、 すぐさまレイのところへ駆け寄っていった。 「綾波! よかった・・・綾波が来てくれて・・・」 涙ぐむシンジ。そんなシンジを見て、レイは穏やかに微笑んだ。 「今日は寝ていて。後は私が処理するわ」 「えっ?」 「大丈夫、今日は私が乗るから。碇君に負担はかけない・・・」 「あ、あ、あやな・・み・・」 「碇君・・・・好き・・・」ぎしぎし
◇ ◇ ◇ 「バーカシンヤ!」 「はっ!?」 突然の声に、ベッドで寝ていた少年は意識を急速に覚醒させた。 目を開けると、一人の見なれた青い髪の少女が立っているのが見えた。 「ようやくお目覚めね、バカシンヤ」 「なんだアヤか・・」 眠そうに目をこすりながら、大あくびをかます。 「なんだとはなによ! それが毎朝遅刻しないように起こしてやってる、可愛い 双子の妹に捧げる感謝のコトバーー?!」 「・・うん、ありがとう・・だからもう少しだけ寝かせて・・」 「何甘えてるの。もうっ、さっさと起きなさいっよっ!」 ばっと布団をめくり上げる。が、そこには――――。 「きゃーエッチ、バカ、スケベ、変態、信じらんない!」 頬を染めてそんな事を叫びながらも、しっかり肉眼で確認している少女。 「仕方ないだろ? 朝なんだから・・」 少年は言い掛かりだといわんばかりの顔で、ぶつぶつと文句を言っていた。 ◇ ◇ ◇ 「ふふっ、あの子達、相変わらずね」 リビングにまで朝から騒がしい声が聞こえてくる。そちらの方に耳を傾けながら、 一人の女性が朝食の準備にいそしんでいた。 「あれで結構仲は良いから、親としては安心だけどね」 椅子に座っている男性が、新聞を読みながらそれに答える。 「でもいろいろあったよね。まさか双子が生まれるとは思わなかったけど」 しみじみと過去を回想しながら、そのさらりとした髪の毛をかき上げた。 ふと、何かを思い付いたように、新聞をたたんでそっと立ち上がる。 彼はそのまま愛する妻の背後にこっそりと忍び寄っていった。 そして肩から手を回し、ぎゅっと抱きしめる。 「! あ、あなた・・・」 「そろそろ三人目が欲しくない?」 耳に息を吹きかけながら、そっとささやくシンジ。 「あなた・・こんな朝から・・・駄目よ・・・」 だがレイも、言葉ほどの抵抗は見せていなかった。 「問題無いよ・・・」 優しく妻の頭に手を添えて、ゆっくりと唇を重ねる。 そしてそれから―――――――――――――――― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「気持ち良い・・・・」