碇シンジ:15歳。スポーツ優待生として、私立NERV高等学校へ入学。
バシィイン!!
校庭中に鳴り響く音。勿論シンジの速球の奏でるものだ。キャッチャーは渚カヲル。彼もまた新入生だ。
「君のボールの奏でる曲は何て芸術的なんだ。文化の極みだね。」
カヲルの言葉に、思わず顔中が?マークと化すシンジだった。その後、部活が終わった後もフレンドリーに話し掛けてくるカヲルに対してシンジが
「あんた誰?」
と、思ったとか思わなかったとか。とにかく、入部当日から仲良くなった二人であった。一方、今から数時間前の教室では。
「碇シンジです。よろしく。」
なんて自己紹介するシンジ。シンジは自己紹介が苦手らしい。自己紹介をさっさと済ませて席に戻ってしまった。しばらくすると、男子の自己紹介が終わり、女子の自己紹介へと移った。
「綾波レイです。よろしく。」
シンジと似たような自己紹介をした女性が約一名。今までボーっと校庭を眺めていたシンジも、さすがに少し驚いて、目を前へ向ける。『綺麗な人だなぁ』なんて思っている所へ、担任の相田ケンスケ先生が
「綾波?駆逐艦・・」
なんて呟いたのがシンジの耳へ届いた。
「先生!何言っているんですか!?」
思わずシンジは大声をはりあげた。クラスの大半は状況を理解して居なかった。駆逐艦綾波の存在を知っている人なんてそう居ないのだから、無理も無いが(当の綾波レイも知らなかったらしい)。教室の雰囲気はかなり気まずくなっていたが、とりあえずHR(ホームランでは無くホームルーム)だけだったその日の授業は終了した。
ブン!ブン!!ブン!!!
部活も終わって、誰も居ない校庭で、シンジは一人で素振りの練習をしていた。
「おっ!やっとるのう。関心関心。」
野球部顧問の鈴原トウジ先生だ。シンジは少し照れたのか、無言で素振りを続ける。
「しかし気合十分なのはかまわへんが、彼女をあんまり待たせんといた方がええんちゃうか?」
「・・・え?」
見れば、校庭のはじっこで、こっちの方を見る蒼い髪の少女が一人。
「あ、綾波ぃ!!?」
思わず叫ぶシンジ。
「そうかそうか。綾波っちゅーんか。うんうん。」
勝手に納得する先生。そこへ、レイが歩み寄って来て意外な一声を発した。
「・・私も野球部に入ります」
シンジとトウジ先生は凍ってしまった。
「・・それじゃ」
入部届を置いて去るレイ。それを追いかけるシンジ。
「ち、ちょっと待ってよー」
その場に取り残されるトウジ先生。彼の目の前には今さっき受け取った入部届が。
「・・・・・」
流石のトウジ先生も、その後一時間も沈黙したと言う。
「待ってよ綾波」
歩くのが速いレイを追いかけるのは一苦労だった(と言ってもシンジにとっては大した事無いが)。
「・・・何?」
「何じゃなくてさぁ、野球部本当に入るの」
「・・ええ」
「「ええ」って・・・」
よく考えればもう入部届は出したのだから、もうすでに入部した事に成っているのだが・・・。
「綾波って野球やった事あるの?」
「・・ないわ」
「・・・・・・」
内心呆れるシンジ。
「じゃぁ、野球のルールとかは?」
「・・知らない」
「・・・ははは・・」 さらに呆れるシンジだったが、流石は人がいい。
「じゃあ、明日日曜日だし家に来ない?最初野球のルールとか説明して、その後に少しキャッチボールでもしてさ」
「・・ええ」
確かにシンジは人がいいのだが、何だかんだ言って女の子と会う約束を取りつけているのがすごい。
「じゃあ、明日ね」
この時シンジは時間を決めるのをすっかり忘れていた。
『・・明日・・・、碇君・・』
レイは自分の部屋ですっかり幸せ気分にひたっていた。シンジは知らなかったが、レイはシンジと同じ中学に居て、シンジを追いかけてこの高校へ入ったのだった。
『・・碇君・・・』
この日、レイは一睡も出来無かったとか出来たとか。