碇シンジ:15歳。スポーツ優待生として、私立NERV高等学校へ入学。


綾波レイは遊撃手

 第壱話

 碇シンジ。中学では数々の野球大会へ出場し、無敗神話をつくった投手である(神話?)。MAXスピードは146km/h。持ち球は、ストレート、カーブ、シンカー、フォーク、スライダー、シュート、チェンジアップ、ナックル(たんに作者の知っている限りの球種を書いただけなのだが)。ストライクゾーン真っ二つの切れと、針の穴も通すコントロールだ。噂によると大リーグボールを投げるとか投げないとか・・・。とにかく、とんでも無いやつである。打線も、中学時代チームの一番打者をつとめていた。セーフティーバントの名手としても知られ、打率は1.000だったそうだ(人はこれを「天才/怪物」と呼ぶとか呼ばないとか・・・)。当然足も速く、彼にとってはシングルヒットも三塁打も同じ物だったそうな(理由は簡単、盗塁するからだ)。

 バシィイン!!

校庭中に鳴り響く音。勿論シンジの速球の奏でるものだ。キャッチャーは渚カヲル。彼もまた新入生だ。

 「君のボールの奏でる曲は何て芸術的なんだ。文化の極みだね。」

カヲルの言葉に、思わず顔中が?マークと化すシンジだった。その後、部活が終わった後もフレンドリーに話し掛けてくるカヲルに対してシンジが

 「あんた誰?」

と、思ったとか思わなかったとか。とにかく、入部当日から仲良くなった二人であった。一方、今から数時間前の教室では。

 「碇シンジです。よろしく。」

なんて自己紹介するシンジ。シンジは自己紹介が苦手らしい。自己紹介をさっさと済ませて席に戻ってしまった。しばらくすると、男子の自己紹介が終わり、女子の自己紹介へと移った。

 「綾波レイです。よろしく。」

シンジと似たような自己紹介をした女性が約一名。今までボーっと校庭を眺めていたシンジも、さすがに少し驚いて、目を前へ向ける。『綺麗な人だなぁ』なんて思っている所へ、担任の相田ケンスケ先生が

 「綾波?駆逐艦・・」

なんて呟いたのがシンジの耳へ届いた。

「先生!何言っているんですか!?」

思わずシンジは大声をはりあげた。クラスの大半は状況を理解して居なかった。駆逐艦綾波の存在を知っている人なんてそう居ないのだから、無理も無いが(当の綾波レイも知らなかったらしい)。教室の雰囲気はかなり気まずくなっていたが、とりあえずHR(ホームランでは無くホームルーム)だけだったその日の授業は終了した。

 ブン!ブン!!ブン!!!

部活も終わって、誰も居ない校庭で、シンジは一人で素振りの練習をしていた。

 「おっ!やっとるのう。関心関心。」

野球部顧問の鈴原トウジ先生だ。シンジは少し照れたのか、無言で素振りを続ける。

 「しかし気合十分なのはかまわへんが、彼女をあんまり待たせんといた方がええんちゃうか?」

 「・・・え?」

見れば、校庭のはじっこで、こっちの方を見る蒼い髪の少女が一人。

 「あ、綾波ぃ!!?」

思わず叫ぶシンジ。

 「そうかそうか。綾波っちゅーんか。うんうん。」

勝手に納得する先生。そこへ、レイが歩み寄って来て意外な一声を発した。

 「・・私も野球部に入ります」

シンジとトウジ先生は凍ってしまった。

 「・・それじゃ」

入部届を置いて去るレイ。それを追いかけるシンジ。

 「ち、ちょっと待ってよー」

その場に取り残されるトウジ先生。彼の目の前には今さっき受け取った入部届が。

 「・・・・・」

流石のトウジ先生も、その後一時間も沈黙したと言う。


 「待ってよ綾波」

歩くのが速いレイを追いかけるのは一苦労だった(と言ってもシンジにとっては大した事無いが)。

 「・・・何?」

 「何じゃなくてさぁ、野球部本当に入るの」

 「・・ええ」

 「「ええ」って・・・」

よく考えればもう入部届は出したのだから、もうすでに入部した事に成っているのだが・・・。

 「綾波って野球やった事あるの?」

 「・・ないわ」

 「・・・・・・」

内心呆れるシンジ。

 「じゃぁ、野球のルールとかは?」

 「・・知らない」

 「・・・ははは・・」 さらに呆れるシンジだったが、流石は人がいい。

 「じゃあ、明日日曜日だし家に来ない?最初野球のルールとか説明して、その後に少しキャッチボールでもしてさ」

 「・・ええ」

確かにシンジは人がいいのだが、何だかんだ言って女の子と会う約束を取りつけているのがすごい。

 「じゃあ、明日ね」

この時シンジは時間を決めるのをすっかり忘れていた。


 『・・明日・・・、碇君・・』

レイは自分の部屋ですっかり幸せ気分にひたっていた。シンジは知らなかったが、レイはシンジと同じ中学に居て、シンジを追いかけてこの高校へ入ったのだった。

 『・・碇君・・・』

この日、レイは一睡も出来無かったとか出来たとか。

第壱話 完

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