さて・・・・。
NERV高校野球部の一行は公式戦初勝利を祝って盛大な宴会を開く事となり、
彼らはその為に料亭兼宴会場「青柳」の2階を貸し切り、大はしゃぎをしていた。

一方、その料亭兼宴会場「青柳」の1階ではNERVスワローズの関係者が食事を取りながら何やら重要な話をしていた。
その中で、NERV高校野球部の事が話題になっているとは・・・・2階のおめでたい方々には知るよしもない。


綾波レイは遊撃手

第拾四話

〜プロ野球編 第壱話〜



「・・・・・・どう思う?・・・・碇シンジ君は・・・・?」

こう話を切り出したのは、何とNERVスワローズの監督「若木ツトム」であった。
プロ野球チームの監督の口から「碇シンジ」の名前が出たのである。

「・・・そうですね・・・・彼は即戦力で使えます・・・・私が保証します」

監督の問いに答えたのは、名も無いNERVスワローズのスカウト「影丸カゲオ」である。
名も無いスカウトなのに名前がある・・・・って、そんなツッコミはいらん(ーー;。

「・・・ふうむ、しかし高校での実績は無いが・・・・まあ、お前がそう言うならタダ者じゃ無いんだろう」

監督は目の前のサンマを黙々と食べながら話を進める。
彼はサンマが大好きであったのだが、それでも気持ちだけは話に集中していた。

一方のスカウトは緊張した面持ちで、箸も全く動いて居なかった。
大好物であるハズの油揚げ入りの味噌汁もすっかり冷めてしまっていた。

「・・・もちろんです・・・・それと、もう一人「綾波レイ」と言う少女の事ですが・・・・」

スカウトが「綾波レイ」の名前を口にした瞬間、何故か監督の箸が一瞬ピタリと止まった。
そして監督は何をするかと思えば、そばに居た店員にご飯のお代りを頼んだ。

「・・・・・・・監督・・・・聞いてますか?」

スカウトが少々ムッとした表情で監督にそう確認した。

若木監督と言う人物は、そのおっとりした憎めない性格で選手達からの人気が高い。
しかし、重要な話の時でも場に合わない行動をしてしまうのは困りものだった。

「・・・・あ、いやスマン・・・・えっと、綾波レイだったな・・・・・あのカワイイ女の子か」

監督の言葉に、今度はスカウトが少し驚きを感じた。

「監督、綾波レイをご存知で?」

スカウトの問いに、またもや箸を止める監督。
そして彼は突然席を立ち上がった。

今度は何だと思いながらその様子を見ていたスカウトは、再び監督に対して溜息をつく事となる。

「・・・・・影丸・・・済まない、トイレに行って来る」

監督はそのまま2階のお手洗いの方へ歩いて行った。

スカウトにはそれを呼びとめる気力さえ既に失せていた。

「・・・・まあ、何時もの事だしな・・・・」

スカウトの諦めの言葉が虚しく空中に放たれ・・・・そしてすぐに消えるのだった。



・・・・・一方、2階の宴会の盛り上がりは最高潮に達していた。

「さあ、よってらっしゃい見てらっしゃい!!渚カヲルの大道芸の始りだよ〜〜(^^)♪」

カヲルは、自分の鞄から野球ボールを10個程取りだしてお手玉を始めた。
まわりからは拍手喝采が沸き起こる。

「おお、すげ〜〜!!この勢いでチームも甲子園優勝だな(^^)」

ショウジの言葉に気を良くしたカヲルは、さらにボールを増やして見せた。
お手玉のスピードもどんどん速くなる。

・・・・だが、突如カヲルの手からボールが一つ離れて行ってしまった。
カヲルは慌てて掴もうとしたが、寸手の所で間に合わずに勢い良く飛んで行ってしまった。

そこに居た全員がボールの行方を目で追う中、ボールは最悪のコースを辿っていた。

「あ!おじさん、危ない!!!」

シンジがそう叫んだ頃には既に遅かった。

ボールはトイレに行こうと歩いていたおじさんの頭へジャストミートをかましていた。

「!・・・・痛・・・・・・・ん?野球のボール?」

そのおじさんは、自分に当ってきたボールを拾い上げてマジマジと見つめた。

そんな中、カヲル君とその仲間達がおじさんの元へ謝罪にやってきた。

「・・・・えっと、怪我はありませんか・・・・・あ!!!」

一番最初におじさんの元へ辿り着いたシンジは、驚きの声をあげた。
うしろから来た人々も次々に驚きや歓喜の声を上げる。

「若木監督!!?」

こうなってしまえば、もう監督は揉みくちゃである。
サインを頼まれたり写真を一緒に撮ったりとすっかりスターである。

レイ&マナから両腕を掴まれて写真を撮られた時には・・・・・ムフフ状態だった。

そこへ、1階からスカウトが上がってきた。
中々戻って来ない監督を心配して見に来たのだが、彼は今日三度目の溜息をついた。

「・・・・・監督・・・・・・何やってんですか・・・?」

その時スカウトの目には、監督が美少女二人とイチャついて居るように見えていた。
監督にとっては最悪のタイミングだったのである。

・・・・・しかし、そんなスカウトもすぐに驚きの声をあげる事となる。
NERV高校の野球部員が勢揃いしてるのだから無理も無い。

「あ!!もしかして、君達NERV高校野球部の人達!!?」

スカウトが大きな声を出したので、その場は一瞬騒然となった。
だが、スカウトはそんな事は気にせずに碇シンジの元へ歩み寄った。

「・・・・碇シンジ君だね・・・・丁度良い、話があるんだ・・・・・それと、綾波レイさんも」

その言葉にシンジとレイは顔を見合わせた。
二人は彼がスカウトだとは知らなかったが、球団関係者だと言う事は胸のバッチをみれば明かだ。
球団関係者から話が有ると来れば・・・・・・これはスゴイ事である。

「・・・・・わかりました」

シンジはスカウトに対して頷いた。
それを見たレイも慌ててシンジと同じ動作を取った。

スカウトは二人の承諾を確認したと判断し、二人に1階について来る様に指示した。
それを見た監督も、三人の後を追って下へ降りていった。

そして残された部員達は、何か虚しい雰囲気を漂わせていた。

「・・・・何か知らないけど、あの二人・・・・・スゴイ」

マナがそう呟いた。
そして、その言葉に答えるようにショウジは口を開いた。

「・・・あの二人・・・プロ入りかな・・・・?」

そしてシンジとレイが退部届を出したのは、その次の日の事であった。





・・・・・そして、数週間後・・・・・。


「・・・・・ホントに・・・・これで良かったのかな?・・・・・・でもやっぱり、これが僕の夢だったんだから・・・・・・」

シンジは、神宮のマウンドの上でこう自問自答していた。
彼の背中には大きく「1」と言う数字が印刷されていた。

今日はNERVスワローズの「碇シンジ投手」の初登板の日であった。
レイもベンチからその姿を見守っていた。

そして、シンジの投げる球をうけるのは・・・・・現在世界一の名捕手である「古居カズヤ」である。
シンジは武者震いが止まらなかった。

投球練習を終え、バッターボックスには横山ベイスターズ一番バッター「石囲タク」が入った。

シンジは、一呼吸おいてプロ入り第1球を放った・・・。

「ボール!!」

内角低目、ストライクゾーンの角を狙ったストレートだったが球審の判定はボール。
しかし、そのボールはとてつもないボールであった。
それはボールを受けた古居でさえも青くなる程であった。

スピードガンの表示「166km/h」。

シンジの今までの最高速球が「152km/h」・・・・それから考えても・・・・いや、常識的に考えて異常とも言える数値であった。

「・・・・・な、なんだアイツ・・・・166キロだと!!?」

敵のベンチから、こんな言葉が聞こえて来た。
おそらく客席やテレビ中継からも同じ様な言葉が発せられていただろう。

シンジ自身、自分の速球に驚きを感じていた。
・・・・・・しかし、すぐにその驚きは自信に変わっていた。

「ストラーイク!!」

気が付けばシンジは、ストレートのみで初回の打者を三者連続三振にしていた。
満足気な表情でベンチに向うシンジ。

レイはそんなシンジを暖かく迎えていた。
自分がスタメンで出られない分、シンジが自分の分まで頑張ってくれる。
それが何より嬉しかった。
「166」と言う数字は彼女にはそれほど重要な数字では無かった。

そうしていると、古居捕手がシンジに声をかけて来た。

「いっつもアツアツで良いな。ウチも嫁はんベンチに連れてこよ〜かな(^^)」

一気に真っ赤になる二人を、まわりの選手達は暖かい笑い声で包んでいた。

・・・しかし、そんな和やかな雰囲気を掻き消す出来事が5回に起こるとは・・・・誰も想像しようが無かった。
特に、自分の投球に完璧な自信を持ったシンジ本人には・・・・。



「よしよ〜〜し!!良いぞ!!」

4回裏、スワローズは副嶋の満塁ホームランで4-0と先制。
そしてシンジは持ち前の多彩な変化球と166km/hのストレートで、ここまでパーフェクトピッチング。

スワローズの勝利は間違い無いと思われていた。

さらに5回に入ってもシンジは2者を連続三振に取り、次のバッター「右伯」も2-0と追いこんでいた。

「・・・・よし、次の球で決めてやる」

シンジは古居のサインに自信を持って首を縦にふった。
彼は自分の決め球は166キロのストレートだとすっかり信じ込んでいた。

そしてシンジは力一杯ボールを投げた。
彼の腕から放たれたボールは、勢い良く古居のミットに吸いこまれて行った様に思われた。
・・・・しかし、その時ボールとミットの間には右伯のバットが存在していたのだ。

「!!?・・・・しまった!!!」

シンジは死ぬ思いで打球を見上げた。
打球はどんどんスタンドに向って吸いこまれて行った。

しかし、ボールはスタンド手前で急に失速してフェンスにぶつかった。
運良くツーベースヒットで済んだのである。

「・・・・あのストレートにタイミングを合わされるとは・・・・やはりベイ打線だな・・・・・まだ打たれるかもしれないな」

若木監督の呟きは、声の届かないはずのシンジの胸に突き刺さった。
・・・・やはり、自分はプロの中で食べて行けるのか・・・・・・シンジは急にとてつも無い不安にかられ始めていた。

そんなシンジの青ざめた顔に気付いた古居は急いでシンジの元に駆け寄った。

「どうした、シンジ君?・・・ツーベース打たれただけじゃないか?どんなピッチャーでも打たれないピッチャーは居ないんだから」

そんな古居の励ましの声はシンジには全く届いて居なかった。
シンジの心理状態は今、実はどん底状態にあった。



 作者としての見解(爆)

なんだなんだ!?急に作風が全然変わってしまったぞ!?
しかも舞台がイキナリ高校野球からプロ野球になっちまったし(^^;

実は、最近全然書いてなかったんでイメチェン(?)してみました。
どうでしょう?自分では結構思うように書けました。

基本的に僕はギャグ系の小説が多いですが、シリアス系も「やれば出来るじゃん(^^)」とか思っちゃったりして。

さて、ここで一つ裏話。

みなさんは『ビリーブ』と言う小説を知っていますか・・・・・って、知らんだろうな(^^;
実はこのビリーブって小説、ヤクルトスワローズを題材にした小説なんです。
・・・これが物凄く面白くって・・・・影響受けまくっちゃいました。


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