あれから
ちょっと、はやくきすぎちゃったかな。でも、まあ、いいや。待ってるのもデ
ートの内だしね。僕は、駅の改札の見えるベンチに腰をかけ、座って待ってい
る。
こうして待っているのも平和を実感させる。あれから、5年、僕は二十歳にな
った。こうして、待ち合わせをして、待つ人もできた。幸せだなぁと思う。
改札からでてくる人の流れを、僕は、幸せに見ていた。平和になったもんだな
ぁ。つくづくとと思いながら・・・・
改札からでて来た一人の女性が驚いたように、僕を見つめる。二人の間に、例
えようもないない緊張が走る。しかし、僕は、彼女が誰だか、すぐ気づいた。
僕は、おもわず、彼女の名前をつぶやく。
「マナ・・・・」
「シンジくん・・・・」
僕がマナの名前を呼ぶと同時に、マナは僕の名前をつぶやいて、そのまま、じ
っと、僕をみて、僕の前に立ちつくした。霧島マナ・・・・僕がはじめて愛し
た女性。そして、涙を流して別れた女性・・・・永遠の別れのはずだった。い
や、確かに、マナは・・・・霧島マナという名の女性はもういない。僕は、マ
ナに話かける。
「ごめん、もう、マナじゃないんだったよね。今はなんて・・・」
「ううん、マナでいい。シンジくんの前では、あの時の霧島マナでいたいから・・・・
それに・・・」
「・・・・うん・・・・知らない方がいいよね」
「・・・・うん」
マナは、小さくうなづいて、黙りこむ。僕も、暗くうつむいてしまう。折角、
久しぶりに会ったっていうのに、これじゃあ、ダメだな・・・・僕は、気を取
り直して、顔をあげて、マナに話かける。
「あれから、元気にしてた?マナは」
「・・・うん」
「そう、よかった。あれから、どうなったかホントに心配だったんだ。加持さ
んも教えてくれなかったし」
「うん、わたしは元気。でも・・・・そうね・・・・あの後、しばらく、わた
しは、シンジくんのこと忘れられなくて、ずっと、シンジくんのことを想いな
がら・・・・毎日、泣いて過ごしていたわ」
マナの瞳がうるむ。僕は、やっぱり、マナの名を呼ぶ。マナも、僕の名前をつ
ぶやく。マナはやっぱり・・・・・
「マナ・・・・」
「シンジくん・・・・」
マナは、涙をながしながら、いきなり、僕に抱きついてくる。僕は、驚きなが
らも、マナを受け止める。でも・・・・僕は・・・・
「マナ・・・・」
「ごめんなさい。シンジくんを今でも、愛してるから・・・」
「ごめん、でも、僕は・・・」
ごめん、嘘はつけないから・・・僕は・・・僕は、マナの両肩を優しく掴んで、
そっとマナを離す。マナは、少し下を向いたあと、涙を拭きながら、顔をあげ
て、にっこりと笑って、僕を見る。
「えへへへ。ごめんね。シンジくん」
「う、うん。でも、ごめん・・・僕こそ」
「ううん・・・・・・わたしも好きな人できたから・・・・ホントは」
「そ、そうなんだ」
僕は、慌てて答える。でも、さっきのマナの態度は・・・・マナは今でも僕の
ことを・・・・でも、マナはつづける。
「うん、とってもいい人なの」
「そうなんだ・・・」
ホントに、そうなの?マナ・・・無理してない?僕のそんな考えが顔にでたの
か、マナは、拗ねたように口を尖らせて、答える。
「もう!信じてないな!シンジくんは」
「そ、そんなことないよ。マナが幸せそうで、安心したよ」
そうはいうものの、僕は、心からの笑みをマナに投げかけることは出来ない。
マナは、僕の目をじっと見た後、静かに、答える。
「・・・・うん、ホントはね。ずっと、泣いてたの。わたし」
「・・・・・」
僕が、なんと答えていいかわからないで、困っていると、マナは、さらに喋り
続ける。
「だから、その人が最初にわたしにつき合ってくれっていった時も、最初は、
断ったの。わたしには、会えないけど、好きな人がいるって」
「マナ・・・・」
「でもね。それでもいいって、わたしがシンジくんのことを想っててもいいっ
て」
マナは、なにかをふっ切ったように、上をむいたあと、僕のほうに向きなおっ
て、笑顔で話をつづける。幸せそうな笑顔で・・・・いい人なんだね・・・マ
ナの好きな人は・・・わかるよ。マナはマナだから・・・いろんな思い出を含
めて、それがマナなんだから・・・よかったね、マナ・・・・僕は・・・・
「自分はシンジくんの思い出を持つわたしに出会って、そんなわたしを愛して
るんだっていってくれたの」
「幸せなんだね・・・・マナ・・・・」
「うん、幸せ。わたしを支えてくれるから。その人」
「うん、マナ。本当に、よかったね。いい人に出会えて・・・・」
僕は、マナに微笑みかける。本当によかったと、心から思う。マナも幸せそう
に微笑んだ後、今度は、僕に話かける。
「シンジくんは、あのあと、大変だったんでしょ?ニュースでいっつも見てた
から」
「う、うん。ホントに、いろいろあったけど、みんな、ちゃんと立ち直ったし、
みんな、元気にやってるよ・・・・・心配してくれたんだね。ありがとう」
「うん・・・・ところで、シンジくんは、彼女できた?」
マナは、意地悪そうに僕の顔をのぞき込みながらそんなことを聞く。僕は、顔
を真っ赤に染めながらそれに答える。
「う、うん。実は、今日、デート・・・ここで待ち合わせなんだ」
「あ、そうなんだ。大丈夫?わたしなんかと話してて?」
「う、うん。まだ、時間までには大分あるから」
「そうなんだ・・・・シンジくん。ホントにその人のこと好きなのね。そんな
に早くから待ってるなんて」
「そ、そんな。たまたま、早く来すぎただけで・・・・」
「誰?彼女って?アスカさん?」
マナは、僕の言い訳を無視して、質問を続ける。僕は、慌てて否定する。
「ち、ちがうよ。アスカとは・・・確かに、あの後は、アスカに慰めてもらっ
て・・・でも、僕には、アスカは支え切れないから・・・あの時だって・・・・」
「そうかもね。うふふっ」
「そうだよ。それに、アスカには、僕なんかより、素敵な人がいるから・・・
その人が、いつも冷静に、それで、アスカを優しく包み込んでいるから・・・」
「アスカさんはその人のことが好きなのね・・・・」
「うん、だぶんね。アスカは認めないけど・・・・ふふっ、アスカらしいと思
わない?」
「うふふっ、そうね。で、シンジくんの好きな人は?誤魔化してもだめよ!」
「はははっ、もう、いいじゃない。勘弁してよ」
「わたしの知ってる人?」
マナは、僕の誤魔化しを相変わらず、無視して、質問をつづける。マナの問い
に、僕は、考え込んでしまった。確かに、マナも知ってる名前ではあるが・・・・
でも・・・・あの時の・・・・僕は、曖昧に答える。
「・・・・そうだね。マナの知ってる人だよ・・・でも、知らない人かもしれ
ない」
「どういうこと?」
「う、うん・・・・」
「そうだよね・・・・・シンジくんたちにはいろいろあったもんね」
「うん・・・」
「えへへっ・・・でも、その人のおかげで、シンジくんは立ち直ったんだ?」
「う、うん」
「どんな人?わたしに似てる?」
「そうだね。似てるかもしれないし・・・似てないかもしれない」
「もう、さっきからそればっかりだね。シンジくんは」
「う、うん。でも、そうだ。声はそっくりだよ。マナに」
「そう。よかった。わたしに似ててくれて・・・・それに、シンジくんも幸せ
なんだね」
「う、うん」
「よかった・・・・じゃ、わたし、行くね。その人も早くくるかもしれないも
んね」
「そうだね」
「うん、じゃあ、行くから」
「う、うん。元気で、マナ」
「シンジくんもね」
「うん、じゃあ」
「うん」
マナは、そう答えると、僕をしばらくじっと見た後、くるっと後ろをむいて、
歩きだした。僕は、マナの後ろ姿をじっと見つめる。マナは、突然、振り返っ
て、叫ぶようにいう。
「わたしね。今度、結婚するの、その人と。これから、式場の相談」
「う、うん。幸せにね。マナ」
「ありがとう、シンジくん。会えて嬉しかった!」
「僕も、嬉しかったよ」
僕がそう答えると、マナは、まわれ右をして、今度は振り返らずに人混みに消
えていった。もう、二度と会えないかもしれないけど、また、こんな偶然があ
ったらいいな。僕は、そう思いながら、マナの幸せそうな後ろ姿を見送った。
マナの姿が人混みに紛れても、僕は、ずっと、マナの去っていった方を見てい
た。
「シンジ、ごめんね。待たせちゃった?」
「あ、ああ、ちょっとね」
突然、腕を掴まれて、僕は、慌てて、返事をする。そんな僕を不審におもった
のか、腕を掴んだまま、質問が飛んでくる。
「シンジ、なに見てたの?」
「う、うん。ちょっと・・・・昔の知合いにあってね」
腕を掴んだ女性は、僕の目をじっとみて、再び僕に問いかける。
「その人、女の人でしょう?」
「え?・・・・わかる?」
「もう!やっぱり!どんな人なの?浮気したら許さないから!」
「ず、ずるいよ!かまかけるなんて」
「うふふっ、でも、信じてるからね。シンジ」
「う、うん。ありがとう」
「で、ホントに、どんな人だったの?」
「ふふふ・・・・僕の初恋の人」
「ひどーい、シンジ、そんな人いたんだ」
「ははは、ごめんね。今度、話してあげるから」
「ダメ。許さない。今日のデートは、全部、シンジのおごりだからね!」
「えー、そんなぁ」
「うふふっ、ダーメ。許さないんだから!」
でも、瞳が許すって、いってるよ・・・ホント、可愛いんだから・・・・いい
よ。今日は、僕が全部おごって、あげるから・・・だからね・・・
「愛してるよ。いまは、君だけ」
「いまは?・・・・なの?」
「もう!すぐ、拗ねたふりするんだから。じゃあ、言い直すよ。これからは、
ずーっと。これで、いい?」
「うふふっ・・・・じゃ、許してあげる」
そういうと、僕の顔をのぞき込みながら可愛らしく微笑んで、僕の腕をひっぱ
る。
「じゃ、行こっ」
「うん」
僕達は、腕を組んで歩きだす。僕の顔をのぞき込んで、キラキラと真っ赤な瞳
を輝かせながら、可愛い声をなげかける。
「でも、今日は、シンジのおごりだからねっ」
つづく
あとがき
どうも、筆者です。
今回の話は、マナにも幸せを!
と思って、書きはじめました。
・・・・マナって、知ってます?みなさん。
・・・・知らない人も結構いるんだろうなぁ・・・・どうしよう?
なんて、少し、思いますが、まあ、いいでしょう。
と、とにかく、そういう話なんです。
でも、なんだか、ちょっと、切ない話かもしれない。
その・・・・読み方によっては・・・・
さて、マナちゃんは、これで、幸せなんでしょうか?
一応、筆者としては、精一杯、幸せなつもりで書いてますけど・・・・
だって、現実的には、これで、精一杯だと思いません?
まさか、シンジとらぶらぶにするわけにもいかないし・・・・
(・・・・だって、「レイが好き!」なんだもん!)
まあ、そういうことなのです。
いいんです。コンセプトが「マナを幸せに!」なんですから・・・それだけで。
というわけで、らぶらぶではありません・・・・最後の赤い目の女の子は誰?(って)
ちなみに、この話は、筆者が札幌出張中に書いた話です。
それなりに、原案はあったんだけど、書く機会がなくて、
飛行機の中で、なんとなく、書きはじめて、仕事がおわって、一杯飲んで、
いい気分で、最後をしあげて、今、あとがきをかいてます。
そういうわけで、はじめて、自宅、あるいは、職場以外から、UP する作品になります。
だから、そういう記念作品ということにします。
・・・・と、いうか、増刊号ってのりでもないしね・・・・
さて、何記念と、名付けようか・・・・
あ、一言。
わたしの読書歴は、新井素子さんの「星へ行く船」シリーズで始まってますし、
高橋留美子さんの「めぞん一刻」は、スピリッツで、リアルタイムに読んでました。
・・・・わかるひとには、わかるでしょう。何がいいたいのか・・・そゆことです。
それでは、
もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、他の作品も読んで下さるとして、
また、どこかで、お会いしましょう。
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