Fortsetzung ...



少年は、立っている。

目の前のベッドには、少女がひとり、脚を抱えて座っている。

少年は、少女を見ている。

少女は、少年に気づかないのように、中空を焦点のあわない目で見つめる。

「アスカ・・・・」

少年は、少女の名前をつぶやく

少女は、自分の名前を呼ばれたことにも気づかないように、中空を見つめ続ける。

少年の目から涙が一筋ながれ落ちる。

『僕は、何をしにここへ来たのだろう?』

『何を期待して?』

『アスカと話がしたかったのか?』

『いや、違う・・・・分かってたはずだ・・・・アスカがずっとこの状態だと
いうことを』

『では、なぜ?・・・・なぜ、僕はここに来たのだろう?』

『アスカを救いに?・・・・僕を見れば、アスカが元に戻ると思って』

『・・・違う・・・・こんな僕が、アスカを救ってやることなんて出来るわけ
がないんだ。そんなことは、分かってたことだ。』

『では、なぜ?』

『アスカなら僕を助けてくれると思ったから?・・・・だから、来たのか?』

『アスカが僕を助けてくれるなんて、あるはずもないのに・・・・』

少年は、自問自答しながら、少女を見つめて立っている。

少女は、こころを閉ざしたまま、あいかわらず無言で中空を見つめる。

『僕は、なぜ、泣いているんだ?』

『アスカが可哀相だから?』

『アスカが変わってしまったから?』

『アスカを救ってやることが出来ないから?』

『・・・違う・・・アスカが僕を救ってくれないから・・・・』

『きっと、誰かに助けてもらいたくて、ここに来たのに・・・僕は・・・』

『・・・そうなのかな・・・』

少年は、涙をこぼしながら、立っている。

病室のドアが開き、ひとりの少女が入って来る。

少女は、扉のところに立ちつくし、ベッドの上の少女をしばらく見つめたあと、
視線を少年へ向ける。

「・・・・碇君」

少女は、少年の名前を呼ぶ。

名前を呼ばれた少年は、はじめて、少女が入って来たことに気づき、振り返る。

「あ、綾波・・・・」

少年は、驚いたように、少女を見て、少女の名前をつぶやいた後、少女と視線を
合わさないように、床を見つめる。

『3人目の綾波・・・・僕の知らない綾波・・・・』

『僕が好きだった綾波は・・・・僕を守るために・・・・』

『最後は涙を流しながら・・・・僕のために・・・・』

『僕のために・・・・なのに、僕は、立ち直れないでいる』

『綾波の与えてくれた生なのに・・・・』

『・・・・僕は・・・・』

『なぜ、あの時、一緒に連れていってくれなかったんだ・・・・綾波・・・・』

『僕は、綾波が好きだったんだ・・・・あの時、一緒にいけたら・・・』

『今僕は、こんなに苦しまずに済んだんだ・・・』

『なのに、なんで、僕だけ、生き残ったんだ・・・』

『なぜ?・・・』

『・・・・』

『僕が好きだった綾波はもういない・・・・』

『・・・・ここにいるのは、3人目の綾波・・・・僕の知らない綾波・・・』

少年は、床を見たまま、涙を流す。

床に涙滴が、いくつも落ちる。

少女は、じっと、少年を見つめる。

少女の瞳からも涙がこぼれ落ちる。

その涙滴が、床へ落ちる。

少年は、少女が涙を流していることに、気づき、顔をあげる。

少年は、驚いた様子で少女を見つめる。

「綾波・・・・」

少年の口から、少女の名前が洩れる。

少女の瞳からは、涙がとめどなく、溢れてくる。

少女は、自分が涙を流していることに、はじめて気づいたように、目に手をや
りそれを確認する。

『涙・・・・はじめて流す涙・・・・でも、初めてじゃないような気がする』

『わたしは、なぜ、ここに来たの?』

『わたしは、なぜ、泣いているの?』

『この人のせい?』

『この人・・・碇君・・・初号機パイロット・・・サードチルドレン・・・・
碇指令の息子・・・碇シンジ・・・この人、誰?』

『この人・・・・』

『この人は、なぜ、泣いているの?』

『わたしは、なぜ、泣いているの?』

『わたしは、なぜ、ここにいるの?』

少女は、自問自答をくりかえしながら、少年を見つめる。

『わたしは、指令室でモニタを見ていた』

『気がついたら、ここにいた』

『なぜ?・・・命令も受けてないのに・・・』

『この人のせい?』

『この人が、泣いていたから?』

『この人・・・碇君・・・2人目のわたしが命がけで守った人』

『わたしじゃないのに・・・』

『わたしの記憶にはないのに・・・わからない・・・この感じ・・・』

『この人・・・・』

少女は、自分の中に湧きおこる感情にとまどい、湧いてくる涙をとめることが
できずに、ただ、少年を見つめる。

不意に、少女の口から、少年の名が洩れる。

「・・・・碇君」

「あ、綾波、どうして、ここへ来たの?どうして、泣いているの?」

少女の言葉で、それまで、黙っていた少年は堰を切ったように喋りだす。

少女は、つぶやくような感情のこもらない声で、それに答える。

「・・・・わからない」

「わからないって・・・なんで、ここに来たのか分からないの?」

「・・・・そう、わからない・・・・なぜ、ここへ来たのか」

「それじゃあ、なぜ、泣いているのかも、分からないの?」

「・・・・わからない」

少年は、再び黙りこむ。

少女も、再び、じっと、少年を見つめる。

「ただ・・・・」

少女の口から、小さな声が洩れる。

「ただ・・・・あなたのせいかもしれない」

「僕のせい?」

少年は、少女を見つめる。

「そう、あなたが泣いていたから・・・・」

「綾波」

少年は、少女の名前を呼び、少女を見つめる。

「わたしは、3人目なのに・・・だから、わからない」

「僕は、君のことが好きだった」

「だから、それは、2人目のわたし・・・」

「・・・・・」

「だから・・・」

「綾波は綾波だよ・・・ありがとう、僕を守ってくれて」

「わたしは、わからない・・・・わからないから・・・」

「いいんだ、いまは、分からなくても。ありがとう、綾波、僕を守りに来てく
れて」

少年は、ふっ切れたように、優しく微笑みながら、少女を見つめる。

少女は、自分の中に湧いてくる感情にとまどいながら、少年を見つめる。

「ごめんなさい・・・わたし・・・こんな時、どんな顔したらいいのか、わか
らないから・・・」

少年は、涙を一筋ながしながら、笑顔で、少女に答える。

「笑えばいいと思うよ」

少女の頭の中で、少年の台詞がこだまする。

『笑えばいいと思うよ・・・・笑えばいい・・・』

『はじめていわれた言葉・・・・でも、初めてじゃないような気がする』

『なぜ?・・・・わたしは、笑える?・・・・笑うってなに?』

少女は、少年の顔を見つめる。

少年は、優しく微笑みながら、少女を見つめ返す。

『笑うって、こういうこと?』

少女の目が、少し、細くなる。

少年は、その少女の微笑みを、なにか、懐かしい思いで、見つめる。

『綾波は綾波だよ・・・やっぱり、綾波なんだよ』

『僕は、綾波のために、生き残ったんだ』

『綾波をまもるために・・・・』

『カヲル君・・・僕は、それでいいかい?』

『いいよね。カヲル君』

少年は、自分の手で、その生命に終止符を打ちつけた昔の友人を思う。

友人の遺言を、思い返す。

『君は死すべき存在ではない』

『君達には未来があるよ』

『君達というのは、僕と誰のこと言ったんだろう?』

『すべての人のこと?』

『それとも・・・・綾波・・・・彼が同じ存在といった綾波・・・・』

『これで、いいよね、カヲル君』

少年は、少女を抱きしめる。

『これで、いいんだよね。綾波・・・・』

少女は、一瞬、驚いたように、体をこわばらせるが、やすらかな気持ちで、少
年の首筋に顔を埋める。

『わからない・・・・でも・・・・分かったような気がする・・・』

『これが、わたしの想い・・・・2人目の?・・・』

『でも、わたしはわたし・・・・想いがあるから・・・』

『・・・・碇君・・・・わたしは・・・・』

固く抱きあう二人。

ベッドの上の少女は、そんな光景をじっと見ていた。

こころを閉ざしていたはずの少女は、いつからか、二人の様子をじっと眺めな
がら、涙を流している。

少年に抱かれた少女がそれに気づく。

「アスカさん・・・・」

少年は、少女をはなし、ベッドの上の少女に視線を移す。

「アスカ・・・」

二人は、じっと、少女を見つめる。

少年は、思う。

『僕は、立ち直ったのかもしれない』

『綾波のおかげかもしれない』

『僕は、生きていく目的が見つかったのかもしれない』

『でも・・・アスカは・・・』

『・・・・・』

『僕になにができるのだろうか?』

『こんなアスカをどうすればいいのだろうか?』

『・・・・・・』

『ごめん、アスカ・・・僕は・・・』

少年は、涙を流しながら、少女を見つめる。

ベッドの上の少女は、なにか喋りたそうに、口を動かす。

長い間、食事もとらず、動かすことのなかった口から微かに言葉が洩れる。

「アン・タ・・ば・か・ぁ?・・・・アタ・・シ・に・・同情・・しよう・・
・なん・・て・・・百・・万・・年・・・早・い・・わ・よ」

「アスカ・・・」

少女が言葉を発したことに、驚いて、少年は少女の名前を呼ぶ。

「ちょ・・っと・・・な・に・・泣・・い・てん・・の・よ」

「ごめん、アスカ・・・僕は」

「そん・・な・の・前・・か・ら・分・かっ・・て・た・・わ・・よ」

「アスカさん・・・・わたし・・・」

「レイ・・・シン・ジ・・を・・・・よ・ろ・・し・く・・ね」

「アスカさん・・・」

「アスカ・・・」

「レイ・・を・幸・・せ・に・・すん・・の・よ・・・バカ・・シン・ジ」

「ア、アスカ!なにいってんだよ。そんな・・・」

少年は、顔を真っ赤にそめて、少女に答える。

少年のとなりに立っている少女も、頬を染めて、少年に寄り添いながら少女
を見ている。

ベッドの上の少女は、優しい瞳で寄り添う二人を見ながら、掠れた声で言葉を
かける。

「い・い・か・・ら・・・もう・・・い・け・・ば?」

少年は、懐かしい思いで、少女の言葉を聞き、涙を拭きながら、答える。

「う、うん。また来るから。ホント、元気になってよかったね。アスカ」

「アン・タ・・ば・かぁ?・・そん・・な・の・・あっ・・た・り・・前・・
じゃ・・な・い・・・ア・タ・・シは・・天才・・アス・・カ・様・・な・の
・よ!」

「うん、そうだったね。ありがと、アスカ」

「ありがとう、アスカさん」

少年と少女は、手を繋いで、病室をあとにする。

ベッドの上の少女は、去っていくふたりの後ろ姿を優しい瞳でみつめる。

ひとり残った少女の瞳に涙が浮かぶ。

『・・・・・』

少女は、ベッドの上でひとり、すすり泣く。

涙がとめどなくながれる。

『アタシは、なぜ、泣いているの?』

『シンジが好きだったから?』

『あんなバカをアタシが好きになるはずがないわ』

『キスだって、単なる暇潰しだったんだから・・・・』

『アタシは、ただ・・・・』

再び、病室の扉が開き、少年が入って来る。

「惣流・アスカ・ラングレー・・・弐号機パイロット・・・セカンドチルドレ
ンだね」

少女は、少年の声に、ゆっくりと答える。

「違・う・・・パ・・イ・ロッ・ト・・じゃ・な・・い」

少年は、少女を優しい瞳で見つめながら、話しかける。

「そうだね。ごめんよ」

少女は、聞き覚えのない少年の声にはじめて気づいたように、顔をあげる。

「アン・・タ・誰・?」

「僕は、カヲル・・渚カヲル・・君と同じ仕組まれた子供、フィフスチルドレ
ンさ」

「フィ・・フ・ス?」

「いや、だったというべきかな?・・僕は、シンジ君に握り潰された第17使徒、
最後のシ者だよ」

「な・ぜ・・使・徒・・が・こ・こ・・へ?」

少女は、驚いたように少年に質問する。

少年は、悲しい目をしながら、それに答える。

「使徒としての役目は終わったからね・・・だから、僕は君と同じだよ」

「お・・な・じ?」

「そう、なぜ、自分が生きているのか、わからない。何のために、存在するのか」

「そ・う・・・ね・・」

「君なら、僕を分かってくれるかもしれないと思うからね」

「アン・・タ・は・・・ア・タ・・シ・を・・わ・・か・る・・の?」

「たぶんね・・・・本当に、こころが痛がりな人間だね・・・君は・・・昔の友
人を思い起こさせる・・・だから、好意に値する・・・好きだよ、僕は」

「・・・あ・・り・・・が・・と」

少女は、涙をながしながら答える。

少年は、少女を優しい瞳で見つめ続ける。

Fin.


あとがき

どもども、筆者です。

いやー、難しいわ。こういうの。

一体、誰の視点で書いていいかわかんなくて、
こんな形になっちゃいました。

あの続きです。
もちろん、映画をみてませんから、映画は僕は知りません。
とにかく、テレビ24話のつづきです。
あの、シーン・・・碇指令が、レイを・・・は、無視っ!
あれは、気のせい!目の錯覚!・・あんなのは、認めない!
・・・・だから、ビデオが出る前に、これは、公開するのだ!

  で、一応、「あれから」の5年前にあたる話です。
  どうですか?アスカを支えてる人が判明したでしょ?
  っていうか、こっちの方が先にできてたんですけどね・・・

  あ、あとがきだけ、少し、書き加えてるんです、実は。

レイが生き返るなら、カヲルだって、生き返ってもいいだろ?
そう思わないかい?みんな
(・・・・あんな突然あらわれるのはおかしいかな?やっぱ)

  ホントは、言わせたかった台詞がもう一つあったんです。
  だって、カヲルは、弐号機に乗ったんだよ。シンクロしたんだよ。
  レイが初号機に乗った時、あるいは、シンジが零号機に乗った時、
  どうだったか、考えてごらん・・・・・
  ・・・・ネ、カヲル君だって、きっと、感じたはずだよね。
  それを言わせたかったんだけど・・・・まあ、しょうがないね。
  ・・・あぁ、あとがきを、いいわけに使ってるなぁ・・・まあ、しょうがないね。
  うまく言わせる方法を考えついたら、書き直してやろ!

で、これは、「レイが好き!」壱萬ヒット記念のお話です。

このまま続ければ、それなりに続けられる話ではないかと思いますので、
もしかしたら、続編を書くこともありうるでしょう。

  この直後のお話というのも、なんか、よさそうですよね。
  シンジとカヲルの再開とか、
  アスカが照れながら、突っ張りながら、カヲルとつき合うとか、
  あの後のレイとシンジのらぶらぶとか・・・
  たぶん、レイは、まだ、苦しむんだろうなぁ・・・それでも・・・
  そっか、ということは、カヲル君の苦悩もある程度・・・・
  2万ヒット記念かな?・・・そんなに続くんだろうか?

アスカにこれ以上喋らせるのは、辛そうだったので、今回は、一応終わりです。
(書いてても、実は、点を打つのが辛いのです。ちゃんと漢字変換もできないし)

しかし、確かに欲張りすぎかもしれない。
どっちか、一組みに的を絞るべきだったかもしれない。
だから、そういうのをもう一回つづ、書くかもしれない。(って?)

でも、10000ヒットの記念企画だから、みんなを幸せにしたかったんだ。
だから、ちょっと、無理があったのかもしれないけど、
でも、とにかく、みんな幸せになって欲しいと思うから・・・

そういうことなのです。

あっ、もう一つ、今度は、ちゃんと言っとこ。

本作品を執筆するにあたって、秋月さんのこれまでの「レイが好き!」への
感想、あるいは、掲示板への書き込み、あるいは、筆者が送った感想への
返事等、そして、もちろん作品を、かなり参考にさせて戴きました。
ありがとうございます。
・・・・というか、すっかり、秋月教に染まってしまったような・・・・・

あっ、筆者が勝手に思ってるだけですから。
秋月さんは、もっと深いことを思ってるかもしれませんし、
筆者が、まったく、誤解しているという可能性もありますし、
その辺は、良く分かりませんが、とにかく、かなり影響をうけた作品です。
本当に、ありがとうございました。

うーん、「レイが好き!」本編のほうもそうなっていきそうで・・・・
いや、らぶらぶ&ほのぼので続けるのだ!・・・といいな。(・・なんか弱気)

と、とにかく、執筆がんばりますから・・って、あとがきに書くことか?
・・・・なんだか、返信メールみたい・・・すいません。

それでは、

もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、他の作品も読んで下さるとして、

また、どこかで、お会いしましょう。


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