未来少女レイ
第参話
決意


わたしは、必死でモリにしがみついた。

『シンジ・・・・まもるんだから・・・・きっと・・・』

水面が近づいて来る。凄い勢いで、翼ごと、水中へと潜っていく。水は、平気。
だって、いつも泳いでる、わたしの海なんですもの。だから、息なんかしなく
たって。手がちぎれそうだって。わたしは、平気。だって、シンジをまもるん
だから。おじいだって、わたしなら、できるって、言ってくれたんだから。

『シンジ・・・』

なのに、なんで・・・嘘。ダメ・・・

『シンジ・・・』

ダメ!手をはなしちゃ、ダメ。はなしたら、二度とシンジに・・・だから・・・・

『ごめんなさい・・・シンジ・・・』


    ◇  ◇  ◇


「次長、落ちたようです」
「そうかい。それで、どうかね?」

「はい。あの速度でしたから。しかも、あの長時間・・・」

兵士たちは、うなだれながら、若い隊長に、少女の運命についての推測を報告
する。

「それは、そうだろうね。しかし、任務遂行のためだからね。そうじゃなくて、
損害はどうかね?ときいているのだよ。僕は」
「は、はい。失礼しました。損害は・・・」

「いや、いいよ。そうだね。ひとまず、バラクーダにでも、おりるとしようか」
「は、はい。あの、アスカ船長の船ですか?」

「なにか、不服かい?」
「いえ。しかし、あちらが、受け入れてくれるかどうか」

「なにをいってるんだい。任務だよ。なにも問題はない」
「はい、そうでした。では、了解しました」

「じゃあ、あとは、まかせたよ」

そういうと、青年は、操縦かんを部下の兵士に受渡して、キャノピーから、海
面を見下ろす。

『なぜ、あんな馬鹿な真似をしたんだろうねぇ。あの娘は・・・・僕には、分
からないよ。自己犠牲の愛って奴なのかねぇ?』

青年は、感情のこもらない表情で、しかし、なにか、心にひっかかるものでも
あるのであろうか。しばらくの間、少女が姿を消したあたりの海を見続けた。


    ◇  ◇  ◇


わたしは、どうしたのか分からない。苦しかった。ううん。違う。分からない。
何も考えられない気持ち。心が・・・

『死ぬって、こういうことかもしれない』

わたしのからだが、沈んでいく。不思議。苦しくないわ。心地よい解放感。い
い。このまま沈んでいくんだわ。きっと、そのまま存在が消えるのよ。それが、
死ぬっていうことなんだわ。

死ぬって、気持ちいいことなのね

いいわ。わたしをつれていって。

『ダメだ!』

なに?誰?わたしを呼ぶのは?

『ダメだ!死んじゃダメだ。レイさんは、生きなきゃダメなんだ!』

誰?『レイさん』?・・・・

「シンジ!」

『レイさん!聞こえるんだね?僕の声が』

黒い優しい瞳がわたしの中に浮かんでくる。シンジ・・・なぜ?死ぬとシンジ
の声が聞こえるの?・・・それなら、わたしは・・・

『ダメだよ!レイさん。また会うんだから!』

「また、会う?シンジと?」

『そうだよ!会うんだ。だから、その時まで、生きてよ。お願いだから・・・
死なないで・・・』

「シンジ・・・」

わたしは、そうよ。生きるのよ。なんで、沈んでなんかいるのかしら。わたし
の海の中なのに。変なの。ほら、手だって、動くし、脚だって、動くじゃない。
泳げばいいんだもの。ほら、泳げるんだもの。わたし、なに考えてたのかしら?

「うん、わたし、生きる!」

『ありがとう。レイさん』

わたしは、水面に顔を出して、あたりを見回す。もう、飛行挺の姿はなかった。
シンジの声も聞こえなくなった。不思議・・・あれは、なんだったのかしら。
でも・・・

「シンジ、ごめんなさい。まもれなくて」

でも、いいの。きっと、また会える。わたしは、そう信じて生きていくことに
したんだから。だから、また、会うんだもの・・・だから・・・

「どうすれば、いいのかしら?・・・」


    ◇  ◇  ◇


「レイさん!」

少年は、飛行挺の窓から、見ていた。そして、飛行挺が水面からはなれた時、
飛行挺の翼にささったモリにかろうじてぶらさがっていた少女の姿が消えて
いることを確認すると、おもわずといった様子で、少女の名前を叫ぶ。

「うるさい。静かにしてろ!」

兵士にこずかれ、少年は、口を閉じる。少年は、黙って、海面を見続け、少女
の姿を探す。少女の姿は、いっこうに浮いて来ない。

『なぜ、レイさん・・・なぜ、あんな無茶なことを・・・』

少年は、自分の無力さをはがゆく思いながら、しかし、なす術もなく、少女を
想う。

『お願いだ。生きていて、レイさん。会いたいから。また、会いたいから。だ
から・・・・僕は、強くなって、戻ってくるから』

少年の願いが、少女に届くとは思えない。しかし、強く念じる。少年の目に涙
が浮かぶ。

『僕のせいだ・・・僕のせいで、平和に暮らしてたはずの、レイさんが・・・
それに、あのおじいさんだって・・・』

『僕が逃げ出したのがいけないんだ。だから、もう、逃げない。逃げないで、
そして、強くなって、レイさんを迎えにくるんだ』

『だから・・・お願いだ。レイさん、生きていて・・・』

少年の頭に、海底へと沈んでいく少女の姿が浮かび上がる。真っ白な少女の顔
には、いつもの活き活きとした面影はなく、しかし、うっすらと笑みを浮かべ
ながら、少女が沈んでいく。

「ダメだ!」

「うるさい!静かにしろ!」

「ダメだ!死んじゃダメだ。レイさんは、生きなきゃダメなんだ!」

少年は、兵士の静止もきかずに、窓から海面へむかって、叫ぶ。兵士も、やは
り、先程の少女の運命を思ってか、少年の叫びを、それ以上静止することをた
めらっている。少年は、海面を見つめる。

『シンジ!』

少年の頭に、聞きなれた、そして、驚きを含んだ声が飛び込んで来る。

「レイさん!聞こえるんだね?僕の声が」

「ダメだよ!レイさん。また会うんだから!」

いつまでも、止めない少年の意味不明な叫びに、さすがに、兵士も再度、やめ
させようとする。しかし、少年の様子を興味深そうに観察していた人物がそれ
を静止する。次長と呼ばれるその青年は、感情のこもらない科学者のような目
で、じっと、少年を観察する。少年は、観察者の存在にも気づかぬように、叫
び続ける。

「そうだよ!会うんだ。だから、その時まで、生きてよ。お願いだから・・・
死なないで・・・」

少年の目から、涙がこぼれ落ちる。観察者は、すこし、不思議な表情をみせな
がら、少年の涙を観察する。

「ありがとう。レイさん」

少年は、崩れ落ちるように、その場にうずくまると、そのまま、意識を失った。


    ◇  ◇  ◇


「船長、ファルコが、きますよ」
「なんですって?」

「なんか、飛び方がおかしいようですね。あ、翼になんかささってますね」
「で、なによ。ここに降りて、修理しようって、わけぇ?」

「まあ、そんなとこでしょうねぇ」
「ちょっと、冗談じゃないわよ。手柄をひとりじめしといて、今更・・・そ、
それに、まさか、カヲルがこの船に降りてくるんじゃないでしょうね!」

「せ、船長。そんな、呼び捨てなんかして・・・やばいですよ。委員会に聞か
れでもしたら・・・」
「うっさいわね。大丈夫よ。聞こえるわけないじゃないの。馬鹿ね」

「そりゃぁ、そうですけどね」
「とにかく、しかたがないわ。受け入れ準備よ。一応、丁寧にね」

「はい。了解しました。船長」

飛行挺が向かっている仲間の船の上で、赤い髪の若い船長が、苦虫をつぶした
ような嫌な顔をしながら、部下に飛行挺の受け入れ準備を指示する。それまで、
冗談混じりに、若い船長といつもの会話をしていた下士官は、船長に敬礼をし
て、受け入れ準備にとりかかる。

ほどなく、船の上空に、飛行挺が到達する。船は、既に、エンジンを停止し、
飛行挺の到着準備を整えている。船のすぐ脇に、飛行挺が着水する。飛行挺の
扉が開き、青年が姿を現す。船長がそれを船の上で、出迎える。


    ◇  ◇  ◇


「これは、これは、カヲル次局長殿。ようこそ、バラクーダ号へ」
「やあ、まっていてくれたみたいだね。アスカ船長」

「それは、もう、首を長くして、お待ちしておりましたわ。それより、戦果は、
いかがでしたか?」
「ふふっ、君の尻拭いは、ちゃんとしておいたよ。安心していいからね」

アスカは、カヲルの言葉に、一瞬、言葉をつまらせた。しかし、なんとか、に
っこりと作り笑いを浮かべながら、カヲルの方を見返す。

「あいかわらず、僕に会う時は、嫌な顔をするんだね?君は。普段は、とても
美しいのに」
「な、なにを・・・」

カヲルの突然の言葉に、アスカは、言葉を失う。

「それより、ボートをよこしてくれないかな?」
「は、はい。直ちに」

いまだ、言葉のでないアスカにかわり、下士官のドンゴロスが答え、船員に、
ボートの手配を指示する。

ボートが飛行挺に達すると、カヲルと、そして、部下がひとり、意識のないシ
ンジをつれて、ボートに乗り込む。

「さ、君の尋問は、あとで、ゆっくり委員会の前で、やるとして、僕は、ちょ
っと、休みたいんだよ。我々を部屋に案内してくれないかな?」
「わかってるわよ!・・・・次長殿。では、船長室をお使い下さい。次長殿に
使っていただけるとは、光栄の至りですわ」

「ふふっ、いささか、僕の趣味にはあわない部屋だろうけど、それで、我慢す
るよ」
「ささ、こっちです。どうぞどうぞ」

なんとか、アスカの怒りが爆発する前に、二人を引き離そうと、ドンゴロスが、
カヲルを船長室へ案内する。

「あぁ!なんで、あんなに、偉そうにできるのよ!腹たつわね!アタシより、
歳下のくせに!」
「せーんちょ、それをいったら、おしまいですよ。船長だって、若いじゃない
ですか」

あっさりと、カヲルたちを案内して、戻って来たドンゴロスが、いつものよう
に、船長のヒステリーにあいづちを打つ。

「アタシは、だから、年相応にしてんじゃないの?違う?」
「ま、そりゃ、そうですがね」

「だいたいね。あの人を見下したような、あの目が気に入らないのよ。なによ。
自分だけ、全てがわかったような顔しちゃってさ。だいたい、指令のお気に入
りだからって、偉そうに・・・・」
「ま、まあ、実力がありますからねぇ」

「なによ。アタシに、実力がないっての?」
「い、いえ、そういう訳じゃないんすけど・・・」

「じゃあ、なにが、アイツに劣るってのよ!」
「その・・・そういう、人間味溢れる性格ってのが、軍人としては・・・・」

「じゃ、なに?アイツみたいに、指令のいうとおり、感情も持たずに、操り人
形のように、動けっての?」
「はぁ、まあ、そのほうが、委員会には受けるとは思いますがね」

「別に、委員会のために、なんて、働いてるわけじゃないわよ」
「でも、点数がねぇ・・・・はぁ、こんな船長の元にいたら、俺もそのうち・・・」

「うっさいわね。だから、我慢して、アイツの前では、ニコニコしてやったん
じゃないの。はぁ〜、ばかな部下を持つと苦労するわよ」
「そ、それは、ないすっよ。船長」

「いいわよ。もう。で、アイツは、なんていってるの?」
「えーと、修理用具と材料と人手を提供しろって」

「ホント、なんて、高圧的なのかしら!しょうがないわね。で、問題はないの
ね?」
「はぁ、船長の怒り以外は・・・」

「・・・・仮眠をとるわ!寝室を準備して」
「はいはい、それがよござんしょ」


    ◇  ◇  ◇


「おじい・・・・」

少女は、島へ泳いで戻り、島の中央にたつ小屋へ戻った。小屋の主の老人は、
なんとか、自力で、ベッドへたどりつき、少女が戻ると、目をあけて、少女の
方へ顔を向けた。

「おじい・・・」

少女の瞳から、涙がこぼれ落ちる。少女のとなりには、老人が期待する人物は
いない。老人は、少女に手を差しのべる。

「ダメだったんだね?」
「・・・・」

少女は、差しのべられた手をとり、両手で、握りしめる。そして、声をあげて、
泣き出す。

「そうだ。悲しい時は、思いっきり泣くのがいい」

老人は、もう一方の手を少女の頭にのばして、少女の頭を自分の方に引き寄せ
る。少女は、老人の横たわったからだに、顔をつっぷして、泣きじゃなくる。

「わたし・・・わたし・・・」

老人は、少女の頭をさすりながら、優しい気持ちで、少女を見つめる。

「ダメだった。おじいは出来るっていったのに・・・まもれなかった」
「いいんだよ。大丈夫だよ。レイは、精一杯やったんだから」

「でも・・・」
「精一杯、やったんじゃないのかい?」

「そうだけど・・・」
「なら、しかたがないんだよ。それが、人なんだから」

「ヒト・・・」
「そうだ。挫折を繰り返して、人は生きていくんだ。でも、つねに希望を捨て
ては、いけないんだよ」

「すんだことは、しかたがないんだよ。だから、次にどうするのかを考えて、
人は、生きていくんだよ」
「・・・・」

「むずかしいかい?レイ」
「ううん。わかる。わたしは、待つの。そう決めたの。シンジは、きっとわた
しのところへ、来てくれるから」

「いいのかい?レイのほうから、いかなくても?」
「うん。いいの。だって、いれ違いになったら、困るものっ」

少女は、涙を拭きながら顔をあげ、そして、ニッコリと笑いながら、老人をみ
る。

「はっはっは、安心したよ。さすがは、レイだ」
「ちがうわ。わたしは、『レイさん』なの。シンジの『レイさん』なんだから、
いつも、元気でいなくちゃいけないんだからね!」

「はっはっはっは、本当に、好きなんだね?シンジくんのことが」
「そうよ。あたりまえじゃない?」

少女は、頬を少し、赤くしながら、しかし、その感覚を、未だ、把握しきれず、
そして、老人の質問の意図をも把握しきれずに、不思議そうな顔で、答える。
老人は、優しい顔つきで、少女にはなしかける。

「それじゃあ、レイは、ひとりになっても、シンジくんを待って、ひとりで、
生きていくね?」
「おじい、なにいってるの?なんで、わたしがひとりになるの?・・・おじい!」

「すまんな、レイ。やっぱり、私は、そろそろ、逝かねばならんようだ」
「おじい!ダメなのよ。死ぬのは、気持ちいいけど、でも、ダメなのよ。シン
ジが、そういったんだから!」

「はははは、そうだな。でも、私は、長く生きすぎたからな。そろそろ、勘弁
してくれよ」
「おじい!」

「それからな、レイ。人は、待ってるだけじゃダメな時もある。私は、ずっと
待っていたのかもしれない。しかし、間違いだったような気もする。だから、
レイ。レイには、私の間違いを繰り返してもらいたくない」

「わたしの方から、シンジのところに行かなきゃいけないの?」
「わからない。それは、とっても、困難だからね。不可能かもしれない。だか
ら、私には、そうしろとは、いえない。すまんな、レイ。最後まで、レイの力
になれなくて」

「ううん、そんなことないわ。おじいと一緒で楽しかったもの」
「ありがとう、レイ・・・・私の遺言だ。聞いてくれるね?」

「うん・・・」
「おまえたちには、未来があるんだよ。だから、未来へ向かって、歩き続けて
くれ」

「うん、わかった。わたし、歩き続ける・・・・おじい!」
「すまんな、レイ。それから、本当に、いままで、ありがとう。これからも、
頑張・・ってな・・・レ・・・・・・イ・・・・・・」

「おじいぃぃぃぃい!」

つづく


あとがき

どもども、筆者です。

うるうる・・・おじいぃぃぃぃいい!

いやぁ、3人称で書くのって、むずかしいねぇ。
レイとシンジのふたりの時なら、「少年」「少女」で、
なんとかなるんだけど、カヲルは、なんてよべばいいんだ?
アスカは、船長でいいのか?

いやぁ、分かんなくて、「カヲル」と「アスカ」にしちゃいました。
ま、まあ、そんなもんです。この筆者ってのは・・・・・はぁ〜ぁ

で、今回のお話の、手抜き部分、分かります?
あの・・・別に、手抜きじゃないんだけど・・・・(だって、しょうがないんだもん!)
ははは、おんなじ台詞、使い回してるね。
ま、まあ、そんなもんです。この筆者ってのは・・・・(あぁ、また、使い回し)

しかし、あれで、生きていられるものなんでしょうかねぇ?
やっぱ、水面に着水した時点で、ダメな様な気がするけど・・・
ま、まあ・・(以下同文)

あぁ、なんか、言い訳に終始するあとがきだなぁ

あ、ひとつ、お詫び、先週、書けなくて、ごめんなさい。
一応、先週書いたんです。

先週は、レイがどうしても、島でシンジを待つんだって、きかないんです!
しかも、シンジは、「必ず、迎えに来るから」なんて、いってくれるし!
それじゃあ、最終話まで、分かれ離れじゃないかぁ!・・・(おいおい)

と、いうわけで、一週間考えたけど、ダメだね。基本的には、おんなじだわ。
でも、まあ、一応、さすがに、最終話まで、会えないという訳ではなさそうだね。

しかし、このカヲルとアスカ・・・らぶらぶになってくれるんだろうか?
うーむ、なんで、カヲルがこんなに嫌な奴なんだ?(・・おいおい、筆者!)
アスカは、あんなに、魅力的なのに(・・・うーむ、そうかな?)
ま、なんとか、なるようになるでしょう!

さて、次回ですが・・・・

シンジとレイが会話できたのは、一体なぜなのか?
テレバシー?超能力?・・・シンジが逃げ出したこととの関連は?
いよいよ、話は、第三新東京市へと、舞台を移して・・・(本当かなぁ?)

あぁ・・つづきは、あんまり、自信がないんだよなぁ・・・
なんたって、どんどん、原作から遠ざかって行くもんなぁ・・・

え?次回は、レイは、出ないのかって?
ふふふ、筆者は、レイが好き!ですからね・・・ふふふ

それでは、

もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、筆者の他の作品も読んで下さるとして、

また、どこかで、お会いしましょう。


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