アタシはアスカよ!
第六話
信じるって?


「もう放っといてよ!」

夕暮れに染まる街並みを進む。今にも泣き出しそうな表情でカヲルに向かって言い放
ったアスカに続いて、その後ろ姿をじっと見つめながら、カヲルが歩く。

街中を真っ赤に染める夕陽がアスカの長い髪を艶のある銅色に輝かせる。いつものカ
ヲルはそんな美しい少女の後ろ姿に見とれながら、少女から一歩下がったところを無
言で歩く。

今日のふたりは、いつもと少し違った。いつもなら、さんざわめき散らして、カヲル
の尾行を咎めたてるアスカが、黙って、彼女らしくもなく俯きながら黙々と歩く。カ
ヲルは、アスカをじっと見つめながら、歩く。

「どうせ、アンタも疑ってるんでしょ?」

アスカの小さな声がカヲルの耳に届く。

「なぜ、そんなこと、思うんだい?」

アスカは、カヲルが自分を信じ込んでいることを知っている。だから、さっきの台詞
は、自分の希望を言ってみただけ。そして、今度は自分が一番恐れている言葉を口に
してみる。

「信じてるってわけ?アタシのこと」

お互いに相手の問いには答えず、質問だけがかわされる。アスカは、振り向きもせず、
小声でカヲルに問いかけて、歩き続ける。

「たぶん、信じるっていうのとは、少し違うと思うよ」

少し考えた後、ようやく、カヲルが答える。

「僕には、信じるっていうのがどういうことなのか分からないからね」

顔を上げて、肩越しにカヲルの方に視線を向けたアスカにカヲルは、表情かえずに付
け加える。

「・・・そう」

アスカは、焦点の合わないような目つきで足元を眺めたまま、呟くように答える。

「ただ・・・」
「ただ?」

「ただ、僕は、アスカが好きだよ」

冷静に静かな声でそう囁くカヲルの声に、アスカの瞳が潤む。アスカ自身、本当に期
待していた答え通りではなかったのかもしれない。しかし、信じるとは言わずに、た
だ、好きだというカヲルの言葉に、アスカは歩みをとめて、静かに振り返る。

「どこが?」
「え?」

「どこがいいのよ?アタシなんか!」
「わからないよ。そんなこと。ただ、好きだ・・・と思うだけだから」

ニコリとカヲルが微笑む。

受験に苛立つ同級生の、受験戦争とは無縁のアスカへの、陰湿な嫌がらせ。レイを庇
うアスカへの、そして、カヲルと付き合うアスカへの妬みの篭った中傷、悪戯。それ
は、クラス中での周知の事実。だから、アスカには、動機ありとされた。そして、状
況は、アスカにとって不利となるように、巧妙にしくまれていた。

孤立無援。

しかし、そんなことは、アスカには関係なかった。いや、アスカは努めて、無関心を
装う。アスカがやったという証拠はどこにもないし、事実、アスカは無実であったの
だから。

ただ・・・アスカのココロは・・・

「アタシは、聖女じゃないわ!」
「それは、僕にはわからないよ」

「嘘もつくし、人を傷付けることだって、あるわ!」
「それも、僕にはわからないよ」

「最低のオンナなのかも知れないのよ!」
「それも、僕にはわからないけど、でも、アスカであることには変わりはないよ」

「なんで?」
「・・・アスカ」

「なんで、そんな風にいうのよ?」

堪えていた何かが突然に切れたように、アスカが涙を流す。


    ◇  ◇  ◇


アスカの部屋の中。アスカは子供のように、泣きじゃくりながら、カヲルに連れられ
て、ソファーに腰を下ろす。カヲルには、アスカをそっと抱えながら、隣に座るって
アスカの長い髪を撫でる。

「アスカがね。どんなに酷いオンナだって、どんなに醜い心を持っていたって、僕は
アスカの味方でいると思うよ」

カヲルがそっと言い聞かせるように囁く。

「きっとね。こういうのを、惚れた弱みっていうんだろうね」
「バカ」

アスカは、泣きじゃくりながら、小さくカヲルに答える。

「ふふっ、人に嫌われるの、嫌なんだよね、アスカは。でも、媚びるのも嫌」

カヲルの腕の中で、アスカは徐々に落ち着きを取り戻して、そして、黙って、カヲル
の言葉に耳を傾ける。

「欠点だらけだと思うよ。でも、僕が好きなのは、そういうところじゃないんだと思
うんだ。僕は、アスカのこと信じてないっていった。でも、本当は、信じてるんだ。
どこが好きなのかは良く分からないけど、僕が好きな部分だけは、きっと、真実なん
だってね」
「そこが・・・」

「わからないけどね。どこだか」
「でも、そこがもし、本当じゃなかったら?」

「そんなことはないさ」
「そんなのわからないじゃない」

「うん。わからないけどね。だから、僕の思い込みだよ。きっとね」
「迷惑な話ね」

「うん。そうだろうね」

ニコリとカヲルが微笑みかける。

つづく

あとがき んとね、筆者ですけど・・ あぅぅぅ、歯が浮くねぇ!(><)8 おかげで、左手首がすっかり腱鞘炎だよ。 で、アスカが疑われる事件・・・・思い付かず。 いいの!だって、それは、本筋じゃないんだもん! じゃあ、本筋・・・言わせたい台詞、言わせられず。 「信じるってなによ!」 「アンタにとって、信じるアタシって、どんなのなのよ! じゃあ、それと違ったら、失望するの?そうなんでしょ!」 ・・・うーん。なぜに、カヲル氏はそれを先読みして(?) 「たぶん、信じるっていうのとは、少し違うと思うよ」 なんて、言えるわけ?・・・うーむ。 困ったもんですが、なんとなく、「信じるってなに?」ってなことが 書けたので、投稿してみます。とても久しぶりですね。 ついでだから、おまけ・・・ ----- 「なぜ?・・・」 彼の呟き。そして、足元に落ちる涙の雫。 彼の想い・・・痛み・・・ココロの痛み。 彼女を求める彼の願いが・・・想いが・・・ だから、彼女は・・・ 「永遠はあるよ」 頭の上から囁きかけられた声にしなだれた頭を上げる彼。 「永遠はあるよ」 「誰?」 顔を上げて問いかける彼。 彼女がそれには答えず、ただ、上から彼を優しく微笑みかけながら・・・ 優しい瞳で見つめながら・・・ 「ほら、ここに」 「永遠・・・永遠の世界が・・・君のところに?」 「おいでよ」 ニコリと彼に笑いかける彼女。 「永遠。時の止まった世界。時の止まった・・・」 「そうだよ。何を怖がってるの?ほら、おいでよ」 「そこは・・・あの世ということか?」 「ちがうよ。永遠の世界だよ。他に呼び名なんてないよ」 「永遠の世界・・・」 彼は、再びそう呟いて、そして、彼女を見つめる。 永遠。時のない世界。それは、彼の想い。彼の願い。 そして、そこに現れた彼女は・・・彼の・・・ 「人はね。弱いんだよ。とっても弱いんだよ。 でも、あなたには、わたしがいるから・・・だから、おいでよ」 どこか懐かしい彼女のどこか寂しげな微笑みを彼はじっと見つめ続ける。 「ね、約束だよ。きっと、来るんだよ。約束だからね」 「約束だからね・・・」 ◇ ◇ ◇ 「なぜ?・・・」 涙をこらえながら下界を見つめる彼女。 彼女の願いは・・・想いは・・・ それは、彼の想い・・・願い・・・だったはずなのに・・・ 「ごめん。やっぱり、僕は戻るよ。あそこが僕の世界だから」 彼女へ向けた彼の言葉。 目を伏せて、そして、呟くような、消えかかった声で・・ 「ごめん。それに、あそこには・・・」 彼は、彼女の目を見ずに、詫び続けた。 そして・・・ 「行ってしまった」 ひとり残された彼女。 「わたしは・・・」 彼女は、また、ひとり。 『約束だよ』 待ち続けた彼女。 『きっと、来るんだよ』 信じ続けた彼女。 「わたしは・・・」 彼女の足元に涙の雫が・・・ ----- それでは もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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