レイが好き!増刊号
第五号
嗚呼アスカ様!第壱話「旅立ち」
「マスター・・・・おかわり」
アタシがそうつぶやくと、マスターは優しく微笑みながら、何も言わず、水割
りの入ったグラスをすべらせるようにして、アタシの前へ置く。
アタシは、新しいグラスを右手でゆっくりと目の前まで、持ち上げて揺らす。
カチカチッと氷がグラスに触れて、コハク色の液体のなかで、陽炎のようなも
のが揺れる。
『結婚か・・・・』
アタシは、グラスに口をつける。カッと喉が焼けるような感覚。これで、今夜
は何杯目だろう?・・・・いいわ、今夜は酔い潰れたい気分。
『レイ・・・綺麗だったわ・・・』
アタシは昼間のレイの幸せそうな笑顔を思い出す。真っ白なウェディングドレ
スを着たレイは、本当に真っ白な天使のように綺麗だった。本当に、嬉しそう
な・・・・幸せそうな笑みが満面に溢れだしていた。・・・そして、その横に
は・・・・シンジが照れ臭そうに・・・・レイに腕を組まれて・・・・立って
いた。
『・・・・おめでと、シンジ』
こころの中で、シンジと乾杯・・・・アタシは、今夜は何杯目だかもうわから
なくなったグラスを空ける。
「マスター・・・・おかわり・・・・」
マスターは、やはり、何も言わずに、水割りを作って、アタシの前に差し出す。
「ありがと、マスター・・・・止めないのね、アタシを」
「ああ、誰だって、こんな夜はあるからね・・・・アスカちゃんの気持ち、分
かるから」
ありがとう、マスター。マスターは知ってる、アタシの気持ち・・・ううん、
みんな、知ってるわね・・・・知らないのは、シンジだけ・・・・
「マスター、アタシって、そんなに魅力ないのかしら?」
「何いってんだよ。アスカちゃんらしくもない」
「ううん・・・そうじゃないわね・・・アタシはシンジのお姉さんだものね」
「そうだね。アスカちゃんは、シンジ君のことずっと面倒みてたもんね。レイ
ちゃんが現れてからは、レイちゃんのことも・・・」
「損な性格ね・・・・」
「アスカちゃんの優しさだよ、それが」
「だから、損な性格なのよ・・・・好きなら、盗っちゃえばいいのにね」
「できもしないくせに・・・・だから、アスカちゃんなんだよ」
マスターは、優しくそういうと、空になったアタシのグラスをさげ、新しいグ
ラスを差し出してくれる。
『そうね、アタシにはできっこないわ・・・・』
新しくつくってくれた水割りを口にしながら・・・アタシは考える。
アタシは、いつから、シンジが好きだっただろう?・・・きっと、はじめて会
った時から・・・アタシの初恋・・・でも、シンジは、アタシのことをそんな
風には見てくれなかったわ・・・・シンジは、多分まだ恋を知らなかった・・・
だから、アタシは待ったのよ・・・・シンジが大人になって・・・恋というも
のを知るまで・・・そして、その対象が、アタシであることを願って・・・で
も、アタシじゃなかったわ・・・・シンジが恋を知ったのは・・・・レイに対
してだった・・・・
その頃、アタシは・・・・まだ、子供だったのね・・・・強がってたわ。シン
ジは、ことあるごとに、アタシに相談しにきた・・・・レイのことを・・・そ
して、レイに対する自分の気持ちについて・・・・アタシの気持ちも知らずに・・・
アタシはそんなシンジをはげまして・・・・そう、お姉さんのように・・・・
叱りつけたものだった。アタシは、そんな自分が好きだったから・・・
ちょうど仕事が楽しくなりはじめたころでもあったわ。いくつかのプロジェク
トを任せてもらえるようにもなりはじめた頃・・・帰りが遅くなることも、し
ばしば・・・・ううん、毎日だったわ。毎日が充実して、帰ると、ふたりが・・・
シンジとレイが・・・迎えてくれて・・・そんなふたりを、アタシは冷やかし
たり、からかったりしながら・・・・楽しかった。アタシは、ふたりとも好き
だったから・・・本当に家族に思えて・・・
それなのに・・・なぜ、今ごろ、こんな気持ちになるのかしら?・・・ふたり
が結婚して、家を出てしまうから?・・・そうかもしれない・・・これからは
帰っても誰もアタシを待っていてくれない・・・きっと、アタシは、さびしい
のね・・・ひと恋しい気分・・・なのね、きっと・・・
でも、いつまでも、ここでこうして飲んでるわけにもいかないわ。ここは、12
時で閉店、そして、朝早くから・・・昼間は喫茶店として・・・開店するんだ
もの・・・きっと、マスターは、ずっと、アタシにつきあってくれるけど・・・
「ホントに、損な性格ね・・・・」
「え?」
「ううん、もう、帰るわ・・・・今日はありがと、マスター」
「大丈夫かい?・・・ひとりで帰れる?」
「大丈夫よ・・・これからは、ひとりなんですもの・・・」
「・・・・本当に、大丈夫かい?」
「ん、マスター、ありがと。明日、元気になって、また来るね」
アタシは、外へ出て、大きく伸びをする。ああ、今日はよく飲んだ。明日っか
らは、また、明るく元気なアタシよ。アタシはそんなアタシが、好きだから・・・・
「さあ!強く生きていかなきゃ!」
つづく?
あとがき
あの・・・・筆者です。
あの・・・・なんといっていいのか・・・・
こんな話じゃなかったんです。
アスカを幸せにするはずだったんです。それが・・・・
本当は、ここに、素敵な人が現れる予定だったんです。
でも、こんなアスカに寄って来るなんて・・・反則ですよねぇ。
そんな、こんな時にいいよって来るような男に
フラフラとひっかかってしまうアスカなんて見たくないです。
だから、誰も登場させずに・・・アスカは強いんです・・・だから・・・
ダメです・・・・嘘はつけません・・・・
ホントは、アスカは、レイなんかよりも、もっともっと、弱いんです。
そして、健気なんです。ホントは・・・そうなんです。
筆者は、すごく、困ってます。
筆者は、アヤナミストなはずなのに・・・・
「レイが好き!」のあとがきでは、
『筆者がアスカを幸せにしてみせる!』と豪語したのに・・・・
こんな・・・こんな風になるなら・・・こんなものかかなければよかった。
かかなければ、こんなに苦しまずに済んだのに・・・・
でも、逃げちゃダメだ・・逃げちゃダメだ・・逃げちゃダメだ・・・・
「ちょっと!アンタ!なに、ウジウジしてんのよ!元気だしなさいよ!」
「で、でも・・・アスカが可哀相で・・・」
「なに、いってのよ。HIROKI にこれだけ想われて、アタシは幸せよ。だ・か・
ら・!元気だしなさいよ!いつまでも、ウジウジしてると、ひっぱたくわよ!」
「う、うん。ごめん、アスカ・・・・ちょっと、元気、出て来たよ」
僕は、なんとか、笑顔をつくって、アスカを見た。アスカも、優しく微笑んで、
僕を見てくれる。
「そうよ。それでいいわ。元気な HIROKI じゃないと、つまんないもの。いい!
これからも、元気に、シンジとレイのらぶらぶを書いて、アタシにチャチャい
れさせんのよ!わかった!」
「うん、わかった。ホントに、ありがとう、アスカ。やっぱり、アスカは、僕
のお姉さんだね」
「な、何いってんよ、突然・・・照れるじゃない。もう、いくわ、アタシ。も
う、二度と、来ないわよ。こんなとこ」
そういうと、アスカは頬を真っ赤にして、小説の世界へ戻っていった。僕は、
クスッと笑って、そんなアスカを見送った。アスカの言葉で、僕はいつも励ま
される。アスカは、ああいうが、きっと、僕が落ち込んだら、また来てくれる
に違いない。僕は、そう確信している。何といったって、僕が筆者なのだから・・・
というわけで、なんとか、立ち直りました。(って、反則ですが・・・)
ホント、物語書くって、いいですね。
それでは、
もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、他の作品も読んで下さるとして、
また、どこかで、お会いしましょう。
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