レイが好き!増刊号
第弐号
シンジが好き!第壱話「出会い」
わたしは・・・座って・・・電車にゆられる。
はじめての電車・・・はじめての通学・・・はじめての風景。
わたしと同じ服をきた人たち・・・わたしとは違う服をきた人たち。わたしと
おなじ年頃の人たち・・・みんな、電車にゆられる。絶えることのない賑やか
な会話、笑いごえ・・・聞きながら
わたしは・・・座っている。
わたしの正面の人・・・わたし・・・みてる。他にもわたしをみてるひと・・・
たくさんいる。なぜ?・・・わたしにはわからない。
わたしの正面の人・・・整った優しい顔・・・深い黒い目・・・黒い髪・・・
わたしを・・・ずっと・・・見てる。
わたしは・・・違う・・・他の人と・・・髪の色も・・・目の色も・・・わた
しは・・・存在してはいけない・・・存在・・・
だから・・・見るの?
わたしは・・・存在しては・・・いけない存在。
なぜ?・・・ここにいるの・・・なぜ?
◇ ◇ ◇
『ルルルルルルルルル・・・・カチャ』
赤木博士の部屋に電話がかかってきた。赤木博士が電話にでる。それがあたり
まえ、わたしが電話にでることは決してない。
「はい、赤木ですけど、どちら・・・」
『碇だ。伝言を聞いた。何のようだ?』
「はい、所長。プロトタイプの件ですが・・・実験は全て終了しました」
『零号体か』
「はい、そうです。全て完了しましたので、処分を検討しています」
『処分か』
「はい、所長。これ以上、存在させておくのは、決してプラスにはならないと
考えます。そもそも、プロジェクトは15年も前に終っているんです。試作体
だけをいつまでも保管しておく必要性に疑問を感じます。それに、最近では変
化が激しく、現状で保管するのは困難と思われます」
『そうか、わかった』
「そうですか。では、あとはこちらで・・・」
『いや、零号体は、君の管轄から外す』
「そ、それはどういうことでしょうか?」
『零号体は、私の直轄に入る』
「どうされるつもりですか?所長!」
『詳細は、追って連絡する。以上だ』
「しょ、所長!」
わたしの取り扱いでもめるのもあたりまえ、いつものことだから。この日も、
赤木博士は、所長と対立・・・・それも、いつものこと。
わたしは・・・処分される・・・あたりまえ・・・もういらないのだから・・・
はじめから・・・いらなかったのだから・・・
16年前の失敗作・・・それが・・・わたし。
◇ ◇ ◇
綾波レイ・・・わたしの名前・・・昨日からのわたしの名前・・・名前・・・・
人の個体識別コード・・・・みんな名前をもっている。わたしは・・・・綾波
レイ・・・・昨日から・・・綾波レイになった。
これからは・・・人と同じ・・・人としての生活。人ってなに?・・・・赤木
博士は人・・・所長も人・・・まわりのものたちも人。目の前の男の子も人。
まだ、わたしをみてる。きっと、同じ高校の人。
高校・・・高等学校・・・・高等普通教育を受ける学校。学校・・・知識と技
能を身につける場。
わたしは、今日から高校へ行く。
なにをするの?・・・・わからない・・・・
・・・・まだ、わたしをみてる。
◇ ◇ ◇
「綾波レイです・・・・」
ミサトという名前をもつ先生が自己紹介をしなさいと命令する。自己紹介・・・
自分の名前をいうこと・・・わたしの名前は綾波レイ。
「えっ、えーと、綾波さん、それで終りですか?」
「・・・・はい」
「そ、それじゃあ、シン・・碇君のとなりの席が開いてるわね。あそこへ・・・」
「・・・・はい」
『さん』『君』・・・人の名前につける敬称。人は、普通、敬称をつけて呼ぶ。
わたしは、先生の命令通り、碇という名前をもった男の子のとなりへ進む。ク
ラスの全員がわたしをみてる。
碇という名前の男の子は、電車でみた男の子だ。いまもわたしをみている。な
ぜ?なにを確認しているの?
わたしは席についた。
「あ、あの、僕は、碇シンジ。今朝、電車であったね」
それはわたしもしっている。
「あ、綾波は、教科書持ってるの?よかったら一緒に・・・」
碇君が、わたしにはなしかける。綾波は確かにわたしの名前。わたしは、綾波
レイ。
「遠慮しなくてもいいよ、一緒に見ようよ。」
「・・・・そう」
これが、教科書・・・教材を集めた書物・・・勉強のための本。でも、知って
るわ。赤木博士が教えたものばかり。
このページの内容を先生は話し終わる。いまはもう次のページ。
「・・・・碇君」
「な、何」
「・・・・ページ、めくるわ」
「ご、ごめん」
「・・・・問題ないわ」
『ごめん』・・・謝罪の言葉。なぜ?なにが問題なの?碇君は、まだ、わたし
をみてる。なぜ?なにか問題があるの?
「・・・・なぜ、わたしを見るの?」
「あっ、いや、その・・・・ごめん」
謝罪の言葉・・・・わたしが謝罪の対象・・・・わたしはいらない存在なのに。
碇君は、謝罪のあとも、わたしをみつめる。
「綾波さん、このあと、職員室まで来て。必要なもののリストを渡すから。あ
とで、購買部にいって注文しておきなさい」
「・・・・はい」
「そうねえ〜、まず、教科書を注文しなさいね。シンジ君が授業に集中できな
いようだから。でも、無駄かな〜?教科書貸さなくても、見つめることは出来
るもんねぇ〜、シンちゃん」
先生は碇君を『シンジ君』と呼んで、『シンちゃん』とよぶ。愛着をこめた呼
び方。わたしは、碇君が授業に集中できないようにしていた?碇君は、まだ、
わたしをみてる。
「ほーら、また見てる!」
先生は、わたしに職員室にこいと命令したはず・・・
「・・・・職員室・・・・行きます。」
「あ、そ、それじゃあ、今日はこれまで、綾波さん、こっちよ」
先生は、わたしをつれて、職員室へいく。
「綾波さん、碇君が、ずーっとみてたの気がついてた?」
「・・・・はい」
「かーいわよねー、シンちゃんって。まあ、綾波さんは迷惑かもしれないけど、
まあ、仲良くしてやってよ」
「・・・・はい」
わたしが迷惑?・・・・いらない存在なのに?仲良く・・・ってなに?
◇ ◇ ◇
2度目の電車・・・・今朝とは反対方向の電車。人もまばら・・・そのかわり、
いろんな年の人がいる。
わたしをみてる人もいる・・・・でも、碇君はいない。
帰宅・・・・始めての帰宅。
今日は、たくさん考えた。こんなことはじめて。明日も、きっと、はじめてが
たくさん。
「疲れたわ」
わたしは、うつぶせにベッドにたおれる。
『・・・・優しい顔の男の子・・・・碇シンジという名前の男の子』
考えるのはつかれるから、しばらく、休憩。
◇ ◇ ◇
「・・・・碇君?」
わたしが、シャワーを浴びて、出て来ると、碇君が部屋にたっていた。
「あ、綾波、やっぱりいたんだ!」
やっぱり、碇君はわたしをみつめる。
「あっ、えっ、・・・ごめんっ」
また、謝罪の言葉。なぜ?こんどは、わたしから目を逸す。やっと、わたしは、
碇君がなぜ、目をそらして謝ったのか理解した。わたしが裸なのがいけないの
ね・・・きっと。
わたしは、洋服だなから赤木博士がそろえた衣類をとりだし、身につけた。こ
れで、問題はないわ。碇君がここにいる理由はなんだろう?
「なに?」
「ミ、ミサト先生が、綾波にプリントを一枚渡して欲しいって、一枚渡すの忘
れたからって・・・」
碇君は、鞄の中から、プリントをとりだそうとしている。その時、一枚の紙が
床へ落ちた。
その紙には、わたしが写っていた。なぜ、碇君がわたしの写真をもっているの?
「・・・・それ、わたし?」
「い、いや、これは・・・」
わたしじゃないのかしら?わたしによく似た・・・・人・・・
「・・・・わたし、じゃないの?」
「そ、そうだけど、べ、別にそんな深い意味で持ってた訳じゃなくて、その・・・」
「・・・・そう」
そんな深い意味・・・・わたしはいらない存在・・・・存在してはいけない存
在。そういう意味?それとも・・・・
「あ、綾波・・・」
「・・・・なに?」
「こ、これ、プリント」
そうね、プリントを持ってきてくれたのだわ。わたしは、碇君からプリントを
受け取る。
「それから、昼間は、ごめん。なんだか、綾波のことじろじろ見てて」
また、謝罪の言葉。人は・・・・碇君は・・・・謝罪の言葉をよく発する。な
ぜ?
「・・・・なぜ、謝るの?・・・・じろじろ見るのは、悪いことなの?」
「だ、だって、僕が見てて、綾波だって、変に思っただろ?」
「・・・・どうして、そう思うの?」
「変に思わなかったの?だって、綾波だって、なんで見てるのかって聞いただ
ろ」
「・・・・わたし・・・・わからなかったから・・・・碇君が、なぜ、ずっと、
わたしをみているのか」
「そ、それは、綾波が綺麗だったから」
「・・・・わたしが・・・・綺麗?」
わたしが綺麗?綺麗って・・・・わたしのようなのが綺麗なの?それで、みん
な、わたしをみるの?
「そうだよ、綾波は、綺麗だよ。白くって、お人形さんみたいで」
「・・・・そう」
人形のように・・・・わたしは人形そのものですもの・・・・いらなくなった
人形・・・・
「・・・・わかったわ、人は綺麗だと見つめるのね」
「でも、それだけじゃないよ・・・僕は、気になったんだ。綾波の瞳が、瞳の
奥でなにかが動くのが」
わたしの瞳の奥・・・・動くもの?・・・・
「・・・・わからないわ・・・・」
「僕も、わからないんだ。それがなんなのか。そして、なぜ、それが気になる
のかも。だけど、時々、綾波の瞳の奥が悲しそうに見えるんだ。だから・・・
だから、僕は、そんな綾波が、なんで、綾波が悲しいのが気になったんだ。」
わたしが悲しい?悲しい・・・・心が痛む様子・・・・心?
「・・・・わからないわ・・・・悲しいってなに?」
「・・・悲しいっていうのは、心が痛いっていうか、言葉ではいえないけど、
あまり、心の状態が良くない時のことを悲しいっていうんだと思う」
「・・・・そう・・・・」
やっぱり、心なのね・・・・心・・・・きっと、人だけがもつもの。わたしに、
心があるの?でも、碇君は、わたしの瞳の奥に悲しみを見た。わたしにも心が
あるということ?わたしは人ということ?
碇君は、わたしが考え込んでいるのを見て、違う話しを始めた。
「あの、綾波、僕の家、隣なんだ。」
「・・・・知ってるわ」
知ってる。碇君・・・・所長の子ども・・・・ここは所長のうちのとなり。
「そ、そうなんだ。ま、また話しに来てもいいかな?」
「・・・・なぜ?」
「綾波と話がしたいんだ。そして、綾波のことをもっと知りたいんだ。そうし
たら、なんで、綾波の瞳に悲しみを感じるのか分かるかも知れない。」
「・・・・そう・・・・」
なぜ?知ってどうするの?・・・・わからない・・・・
「ダ、ダメかな?」
「・・・・そんなことないわ」
「ほんと、ありがとう!綾波も、いつでも、僕の家に遊びに来てもいいからね。
そ、そうだ。綾波は、夕食はどうするの?」
わたしの栄養摂取は、栄養剤。そう、洋服だなの上にある。
「あれが食事なの?」
人は食事をとるもの。でも、わたしにはどうやって食事をとるのかわからない。
「・・・病気・・・なの?」
「・・・・病気じゃないわ」
「じゃあ、普通の食事もできるんだろ?」
「・・・・出来る・・・・とおもうわ」
「じゃ、じゃあ、うちにおいでよ。僕も夕食はいつも一人なんだ。父さんも、ア
スカ・・同居人も帰りは遅いし、いつも、一人分だけ自分でつくって、ひとりで
食べてるんだ。僕が綾波の分もつくってあげるから、一緒に食べようよ」
「・・・・わかった・・・・いくわ」
わたしに食事を作ってくれるの?なぜ?でも、なぜだか、胸があたたかい。で
も、わたしに食事がとれるのかしら?それに、なぜ?碇君は、わたしにこんな
ことをいうの?
「ほんと!よかった。じゃあ、早速、今からうちにおいでよ」
「・・・・そうね」
わたしは、碇君に連れられて、碇君のうちにいった。
「あ、綾波は何か、嫌いなものとかある?」
「・・・・わからないわ・・・・」
「じゃあ、適当に作るから、好きなものだけ食べてね」
碇君は、台所で、エプロンをつけながら、優しく、わたしを包み込むように微
笑んでそういった。
なぜ、碇君は、わたしに気をつかうの?わたしのために作るの?ついでにつく
るわけではないの?
そんな碇君をわたしは見ている。なぜ?見ているの?わからない・・・・気に
なるの?なぜ?・・・・わからない。碇君も・・・なぜ、わたしが気になるの
か分からないといったわ。
「・・・・」
わたしがジロジロみているのに碇君も気づいたみたい。こっちに振り向いた。
わたしは、なぜだかわからないけど、こんな言葉を発した。本当に・・・・
なぜ?
「・・・・手伝うことはない?」
「い、いや別にないけど、ごめん。一人で退屈だった?」
「・・・・そうじゃないわ、ただ、碇君の背中見てたら・・・・料理って・・・・
なんていったらいいのかわからないけど・・・・」
「楽しそうにみえた?」
たのしい?この感じがたのしい?
「・・・・きっと、そうだと思う・・・・私もやってみたくなったの」
わたしのいった言葉・・・・碇君も驚いてわたしをみている。でも、優しく微
笑んでくれた。
「じゃあ、法蓮草、ゆがいてもらおうかな、まず、お湯をわかして・・・」
碇君は、何も知らない・・・・赤木博士は料理についてはなにも教えなかった
から・・・わたしに、優しく教えてくれる。わたしは・・・・はじめてする料
理に・・・・さっきの感じ・・・たのしいという感じがする。
「綾波、たのしい?」
「・・・・そうね、料理ってたのしい」
「よかった」
碇君は、優しい笑みでわたしをみつめる。碇君もたのしそう。人の生活ってた
のしいのね・・・・
「あとは、ネギをきざんだら、おしまいだよ。きざむのはわかるよね」
「・・・・うん」
「じゃあ、それ、きざんで。僕は、料理をテーブルに運ぶから」
「・・・・わかったわ」
そういうと、碇君は、出来上がった料理を皿にもって、テーブルへ運んでいっ
た。わたしはネギをきざむ。
「痛っ」
わたしは、左手の人差指を切ってしまった。わたしの声を聞いて、碇君が慌て
たように駆けつける。
「大丈夫、手、切ったの?」
碇君は、わたしの左手を掴んで、人差指をみる。わたしも、傷口をみる。大丈
夫。そんなにたいしたことわないわ。でも、碇君は、わたしの手を離さない。
あたたかい手・・・・人の手の感触。
「碇君・・・・」
わたしがつぶやくと、突然、碇君は、水道の蛇口をひねり、水を出すと、その
水流にわたしの左手をいれた。
「痛っ」
その瞬間。指に痛みが走った。
「ちょっと我慢して、きれいに傷口を洗っていて、いま、消毒薬とバンソウコ
ウをもってくるから」
そういうと、碇君は、台所をでていって、消毒薬とバンソウコウをもってきた。
わたしの左手を掴むと、タオルで、優しく水分を拭き取って、消毒薬をぬって
くれた。少し、痛い。でも、碇君の手の暖かさを感じて、痛みはあまり感じな
い・・・・なぜ?人の暖かさには麻酔効果があるの?それとも、碇君だから?
そのあと、わたしの傷口を覆い隠すように、バンソウコウを張ってくれた。
「・・・・あ・・・ありがと・・・・」
わたしは、自然に感謝の言葉を口にしていた・・・・はじめての言葉。
「そんなに、深い傷じゃないから、すぐなおるよ」
それは、分かっているわ。ただ、人に・・・・碇君に・・・・手当してもらっ
たのが・・・・・暖かかった。
「ごめん」
「・・・・なぜ、碇君が謝るの?」
「綾波は、料理はじめてだったのに、一人でやらせちゃって・・・怪我まで、
させちゃって・・・」
「それは、碇君のせいではないわ・・・・料理は、楽しかったもの」
「で、でも、怪我までさせちゃって」
これは、碇君のせいではないわ。なのになぜ謝るの? 碇君は暖かさで、わたし
の痛みを和らげてくれたのに・・・・
「・・・・碇君が、これを巻いてくれた時に・・・・なんていうのか分からな
いけど・・・・料理をしてる時よりももっとなにか・・・・楽しい・・・・暖
かい感じがしたわ」
そう、言葉に発した時。わたしの中で、なんていうのかわからないけど・・・
なにかが動いたような気がする。きっと、心が暖かい感じはこんな感じ。きっ
と、碇君にはそれがわかる。いまも、わたしを見つめてくれる。なにかを感じ
たのだわ。
「・・・・今は、なぜみつめているの?」
「綾波がはじめて笑ってくれたから・・・」
「わたし、笑ってる?・・・・人は、嬉しい時、笑う・・・・わたし・・・・
碇君に、手当してもらって、・・・・嬉しかったんだと思う・・・・わたし、
人かしら?」
「な、なにいってんだよ。あたりまえだよ。綾波はれっきとした人間じゃない
か」
わたしが人間・・・・碇君はそういってくれるの?いらなくなった人形のわた
しを?
「じゃ、じゃあ、後は、僕がするから、綾波はテーブルで待ってて」
わたしが人間・・・・わたしは、そんな言葉を反芻しながらテーブルについた。
碇君は、あっという間にネギをきざんで、向かい側へ座る。
はじめての食事。なにからなにまでわからない。碇君は、そんなわたしになに
からなにまで、お手本をみせて、教えてくれる。はじめての食事。楽しい。食
事ってたのしいのね。時々、碇君の方をみると、碇君もわたしをみつめて、微
笑んでくれる。・・・・優しい微笑み・・・・暖かい微笑み・・・・
「あ、綾波、ちょっと、話してもいいかな?」
食事がおわって、お茶をひとくち飲んだ時、碇君が話しかけてきた。
「・・・・ええ、いいわ」
「綾波は、ここに来る前、どこにいたの?」
ここに来る前・・・・碇君がわたしを人間だといってくれるのは、わたしを・・・・
わたしが何なのか、知らないから?知ったら、どう思うかしら?わたしが、
いらなくなった人形だと知ったら・・・
「べ、べつに、答えたくないなら、いわなくてもいいよ」
「・・・・研究所」
「研究所?・・・国立総合研究所のこと?」
「・・・・」
ごめんなさい。やっぱり言えない。なぜ?・・・・でも、碇君には知られたく
ない。
「ご、ごめん。ここに来る前なんてどうでもいいよね。重要なのは、現在と、
そして、未来のことだもんね」
「・・・・」
そうかもしれない。やっぱり、碇君はいい人・・・優しい人。わたしも過去を
気にしていたんじゃダメなのかもしれない・・・・でも・・・・
碇君は、わたしを理解してくれる。だから、もうきっと、そのことは聞かない。
でも、いつか、いわなきゃ・・・そう、思う・・・・でも、いまは、いえない。
碇君は、やっぱり、違う話しをきりだす。
「あ、綾波は、引っ越して来たばかり何だろ、いろいろ、生活用品とか、買わ
ないといけないよね。」
「・・・・そうね」
そんなこと考えもしなかったのに。
「明日、土曜日だし、午後から、一緒に買いものに行こうよ。荷物持ちでもな
んでもするから」
「・・・・じゃあ、そうするわ」
せっかく、碇君が違う話をしてくれても、わたしはさっきのことが頭からはな
れない・・・いわなきゃ・・・・でも、こわい。碇君は、どうおもうかしら?
碇君は、わたしをどう思っているのかしら?
そう思っていると、碇君は、わたしに聞いた。
「あ、綾波は、僕になにか聞きたいことはない?」
「・・・・あるわ」
「な、なに?」
「・・・・碇君は、なぜ、こんなに、わたしに構うの?」
「な、なぜって・・・め、迷惑だった?」
「・・・・そうではないわ・・・・たのしかったもの・・・・ただ、なぜ?・・・・
分からないから」
「それは、綾波のことがなぜだか気になるから。今朝、綾波のことを電車の中
でみてから、なぜだか知らないけど、綾波のことが気になって、頭から離れな
いんだ。そして、綾波のためなら、なんでもしてあげたいっていう気持ちにな
るんだ。僕も、こんな気持ちになるのは、初めてで、自分自身でどうなってる
んだかよくわからないけど・・・・綾波のことを好きになったみたいなんだ」
「・・・・好き?・・・・」
好き?・・・・好意をもつこと・・・・わたしに?
「そう、僕は、綾波が好きだ。だから、綾波にも僕を好きになってほしい。だ
から、構うんだとおもう」
なぜ?・・・・好意をもつ・・・・どういうこと?
「・・・・わたし・・・・よくわからない・・・・」
「・・・・」
碇君は顔を赤くして黙ってしまった。わたしは、碇君が好きかしら?・・・・
わからない・・・・ただ、碇君はわたしに優しくしてくれる・・・・わたしも
碇君に優しくしてあげたい・・・・なんでもしてあげたい。
まだ、碇君は黙っている。なぜ?もう、話すことがなくなったから?碇君は困
ってるの?
「・・・・帰るわ」
わたしは、思考を中断して、そういった。碇君はどう思うかしら?・・・・で
も・・・・これ以上、わたしはここにはいられない。碇君が困ってるなら、出
ていかなきゃ。
「そうだね、もうこんな時間だ。綾波は、転校初日で、疲れてるのに、なんだ
か、つまんない話で引き留めちゃって・・・」
「・・・・そんなことないわ・・・・たのしかったもの」
碇君は、わたしを玄関まで、おくってくれた。わたしは、玄関で、碇君に、話
しかけようとした。
『わたしは・・・・』
なんといいたかったの?自分でもわからない。わたしは、いらなくなった人形?
それとも、わたしは碇君が好き?それとも・・・・
わたしは、なにもいえなかった。そのかわり、碇君が話しかけてくれた。
「あ、綾波のおかげで、今日の夕食はたのしかったよ。また、明日ね。お休み」
「・・・・お休みなさい・・・・」
そういうと、わたしは、逃げるように、玄関をでて、自分の部屋にはいった。
◇ ◇ ◇
わたしは、『フウ』とひとつ小さなため息のようなものを漏らすとそのまま崩
れ落ちるように、ベッドの上にうつ伏せに倒れ込んだ。
『・・・・ありがとう・・・・感謝の言葉・・・・はじめての言葉・・・・』
『・・・・たのしい・・・・これも、はじめて・・・・』
『・・・・碇君・・・・』
『・・・・手当してくれた人・・・』
『・・・・わたしを・・・・好きだとういう人・・・・好きって何?』
つづく?
あとがき
どうも、筆者です。
このはなしは、『レイが好き!』の第壱話と第弐話を
レイの一人称で書くと、こうなるかな?という話です。
いやー、こんなの書くもんじゃありませんね。
セリフは変えられないし、
レイはなにを思ってこんなこといったんだ?
という矛盾が山程でてきてしまうじゃありませんか。
でも、まあ、なんとか誤魔化しながら、書くとこうなるわけです。
で、レイがなにものなのかという話も少し入ってます。
アニメの本編とは一応、違うわけです。
『レイが好き!』のほうでは(つまり、シンジが)、
レイがなにものなのか分かるのは、まだまだ先の予定なので、
読者の皆様には、もうちょっと早めに教えてあげようかなと思ったわけです。
(それに、いきあたりばったりでないことを示さねば!)
でも、まだ、謎はいろいろありますね。
なぜ、碇所長がレイを引き取るのか?
そもそもレイはなんのためのXXXXXXだったのか?
プロジェクトとは一体なんだったのか?
なぜ、それが、おわってしまったのか?
まあ、そのうち、なんとかします。
そんなわけで、
このつづきは『レイが好き!』のほうでお楽しみ下さい。
たぶん、『シンジが好き!』は続かないと思います。
それでは、
もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、他の作品も読んで下さるとして、
また、どこかで、お会いしましょう。
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