−IF−
02 再会・First Kiss?

 ピピッピピッピピッピピッピピッピピッピピッピピッピピッピピッ
 
「いつもの音、いつもの時間、いつもと変わらぬ朝、いつもと同じ天井・・・・・?
あれ・・・・・・?この天井見たこと無いな・・・・・?・・・・・!!!
あっそうだ、僕昨日引っ越したんだっけ・・・・・そうだ、今朝は食事の当番だった。
用意しなきゃ。」

 まだ半分眠った状態で、目を擦りながら部屋を出る。
 周りを見回し、見慣れた空間でないことを確認し、
 改めて引っ越しの事実を再認識する。顔を洗ってリビングへ行く。
 窓から朝の光が差し込んでいる。
 窓をあけてベランダへ出てみる。雲ひとつない。

(いい天気だ・・・本当に)

 遠くに山の稜線が霞んでみえる。穏やかな気持ちで心が満たされる。

(転校初日にこんないい天気なんて・・・・・なんかいいね。
良い事ありそうで・・・・・)

「ふぁー。おはやう、シンちゃん。」

 後ろから声がした。声の主を捜して振り返って見ると、
 まだ半分寝ているような目つきの、女の人が立って居た。
 Tシャツ、カットオフの半ジーンズ、髪の毛にはちょっと寝癖が付いていた。

 葛城ミサトさん。親がこちらに来るまでの僕の同居人 兼 保護者。
 突然、昨日からそうなった。その理由を考えようとした時、
 父さんの、あの、笑い顔が浮かんだ。
 それを追いやるべく、二・三度頭を振ってると、また声を掛けられた。

「どうしたの?」

「いえ・・・・・何でも無いです。」

「そう、なら良いけど。」

 そう言って、ミサトさんはニッコリと笑った。

(やっぱりいい人だな・・・・・・一人よりは良いかもしれない。)

 そう思いながら、朝食の準備をすることにした。
 冷蔵庫を見つけ、扉を開けて、絶句する。
 中にあったのは、大量のビールと昨日食べたモノと大量のレトルト食品。
 そして隅の方にほんの僅かばかりの、野菜と肉。

(この人、どんな生活してるんだろう・・・・・)

 考えると、怖くなりそうなので、思考を停止し、他の所を探す。
 やっとの思いでスパゲティを見つけ、ほっとし声を掛ける。

「ミサトさん、スパゲティで良いですか?」

「うん、良いけど・・・・・そんなのあったっけ?」

「ええ、ここに・・・・・知らなかったんですか?」

「うん。あまり料理しないから・・・・・」

 この冷蔵庫を見る限り、あまりではなくて殆どじゃないのかな・・・・・
 などと考えながら早速準備にかかる。

 冷蔵庫から目ぼしい野菜を取り出して、水洗いする。
 シンジの手際はよかった。お湯を沸かしる麺を茹でる傍ら、
 最初に取り出した野菜・肉を一口大に刻んでいく。
 フライパンでバターを溶かし、刻んだ野菜・肉をさっと炒める。
 ちょっと固めに茹であがった麺をフライパンに移し、
 塩・胡椒で味を整えていく。
 あっと言う間に部屋全体にいい香りが漂い始めた。
 ミサトはちょっと香りに心奪われながら考える。

(これからは人並みな食生活が送れそう・・・・・にしても手際が良いわね。
うーん、これは思ったよりラッキーかも・・・・・)

 ミサト自身も同居に対し、少し不安はあったのだ。
 本当に少しだが。

「おいしい!シンちゃんやるじゃない。」

 シンジの心の中に温かい安堵感が広がっていく。
 今まで、自分以外の人に料理を食べてもっらた事がなかったので、不安だったのだ。

(よかった。)

 ミサトの言葉に安堵して、自分も食べ始めた。

「シンちゃん、食べ終わったら出るわよ。
 ちょっち早いけど、色々手続きとかあるから。」

「分かりました。」

 答えてから昨日の事を思い出し、恐る恐る聞く。

「一緒に行くんですか?」

「そーよー。」

「・・・・・車で?」

「うん。その方が早く着くし。シンちゃんも歩くより楽でしょ。」

「・・・・・・・・・・」

 一遍に食欲が無くなった。昨日の恐怖が蘇る。

「なーに青い顔してんのよ。大丈夫、安全運転で行くから。」

「・・・・・はい」


 20分後、ミサトさんの運転する車の助手席で、気絶寸前の僕がいた。









「レイ、起きなさい。遅刻するわよ。」

 意識が徐々に覚醒する。
 見慣れた天井が、ついで部屋の中が視界にはいる。

「ようやくお目覚めね、顔を洗ってご飯食べなさい!」

 眠そうな目を開けて、ぐるりとあたりを見回し、母を見つけた。
 普段はとても中学生の娘が居るようには見えないが、
 娘を起こす時は眉間にしわを寄せ、腰に手をあてて立っている。

「なーに・・・・・もう朝?ふわーーーー」

おなじみの顔を見たレイはそうつぶやきながら、大あくびをした。

「年頃の女の子が・・・・・・しょうがないわね。」

 まだぼーっとしている娘を見て苦笑する。

(いったいこの子のこの性格は誰に似たのかしら。)

 そんなことを考えていた。

「あと、5分・・・・・」

 呟くような声で我に返る。
 見るともぞもぞと布団の中に潜り込む娘の姿があった。

(まったく、この子はー!)

<ブチッ>何かが切れたような音がした・・・・・・気がした。

「いいかげんにしなさい!」

 布団を一気にめくる。

「ハイッ。」

 毎朝見られる、代わり映えのしない綾波家の光景であった。





「レイ、そろそろ出ないと、本当に遅刻するわよ。

「判ってるって。もうちょっと、ゆっくり飲ませてよー。」

「ゆっくり味わいたなら、もう少し早く起きなさい。
今日だってお母さんが起こしに行ってから、
ベッドを出るまでに30分もかかったたのよ。」

「はいはい、お母さんには毎朝感謝してます。」

「まったく。調子だけはいいんだから・・・・・」

「あ、そうだ。お母さん、頼みがあるんだけど・・・・・
・・・・・ちょっと臨時のお小遣い欲しいんだ。
どうしても欲しい本があるんだけど・・・・・ダメー?」

「あら、昨日自分で買うって行ってなかったっけ?」

「うん、昨日買うことは買ったんだけど・・・・そのー・・・・・落としちゃって・・・・・その本。」

「落としたの?どうして?」

「ちょっとしたアクシデント。それでもう1冊買うと、お小遣い無くなっちゃうのよ。
お願い、助けてください。お母様。」

 そう言って、手を合わせて、頭を下げる。
 母親のレナはそんな娘を見て溜息をつき笑う。

「こんな時だけ、調子がいいんだから・・・・・はい、これで足りるでしょ。」

「感謝します。このご恩は・・・・・」

「ご恩は?何?」

「・・・・・当分忘れません。」

 そう言いながら、ちょっと舌を出して笑う。
 何かいたずらをして見つかった子が照れたような仕草だった。
 親の目から見ても、非常に可愛く写る。

「バカなこと言ってないで。本当に遅刻するわよ。」

「あ、ホントだ。やばーっ、いってきまーす。」

「いってらっしゃーい。車に気をつけてね。」

「はーい。」

 学校に向かって駈けていく娘の後ろ姿を見つめながらレナは思う。

(台風一過ね・・・・でも丈夫になってよかった。)

 昔のちょっとした事で、すぐ病気になってしまった娘の面影はもうない。

「さて、私も支度しなくちゃ。ゆっくりしてると私が遅刻しちゃう。」

 そう言って家の中に入っていった。



「今日も気持ちのいい天気だ。」

 そう呟くと小さいながら緑の溢れる公園を横切った。
 公園を抜けると前方に見慣れた後ろ姿を見つける。
 その人の近くまで走っていき、後ろから声を掛ける。

「ヒカリ、おっはよー。」

「あ、レイおはよう。」

「今日もいい天気ね。気持ちいいわ。」

「ほんとねー。」

「あ、昨日はゴメンね、本探し手伝ってもらっちゃって。」

「いいのよ、別に。あの後ちゃんとショッピングも出来たし。
でも、残念だったわね、本。まだ少ししか読んでなかったんでしょ。」

「うん。でもしょうがないよ。それにまた買うから。お母さんにお金ももらってきたし。今日帰りに本屋さん、付き合わない?」

「うん、いいわよ。」

「ありがと。そう言ってくれると思ってたわ。」

「もう、調子がいいんだから。」

 そんな事を話していたら、前方の横道から顔を出した少年が声を掛けてきた。」

「おーい、イインチョー、綾波ー、早くしないと遅効になっちゃうぞー。」

「おはよー、鈴原くーん、。」

 そう返事して、隣を見る。ヒカリは顔を少し赤くして、俯いてた。

「ヒ・カ・リちゃーん。」

「な、なによー。」

「赤くなって、かーわゆーい。

 そう言ってレイはヒカリをからかった。

「しらない。」

 ヒカリは顔を赤くしたまま、ちょっと膨れてソッポをむいてしまった。
 そんなヒカリを見てレイは思う。

(私も誰か好きな人が出来ればこうゆう顔するのかな?)

 まだ本当に人を好きになった事のないレイにとって、自分のそんな姿が想像出来ない。
 憧れた人はいた。でもその人の事を考えても、今のヒカリのような顔は出来ないと思う。

(ま、考えるだけ無駄か。こればっかりは、私一人じゃどうしようも無いモンね。
焦ってもどうしようもないし。でも、私の王子様、どこかにいるのかな?)

「どうしたの?ボーっとして?」
 
「え、いや、ヒカリを見てたら、なんかいいなーって。
私も誰か好きになってみよーかなーって、そう思ったの。」

「そんな事言って。ホントはもう居るんじゃないの?」

 探るような目で見つめる。

「いればいいんだけどねー。残念ながら、居ないのよ。」

「レイはもてるんだから、そのうちいい人に巡り会えるわよ。
それに私だって・・・・・まだ・・・・・付き合ってる・・・・・
訳じゃ・・・・・ないし・・・・・」

 最後の方は聞き取りにくいほど小さな声になってしまう。

「鈴原君、こうゆう事に鈍感だモンね。ヒカリも苦労するよね。」

「それは言わないの。」

 そんなやりとりをしていたら10分前の朝の予鈴が鳴った。

「急ごう。ホントに遅刻しちゃう。」

「うん。」

 教室に駆け込んだのはSHRの5分前だった。
  レイは、ちょっと考えトイレに行くことにした。
 朝のドタバタで行きそびれてしまったから。
  ヒカリを誘うかなと考えたがクラス委員としてなにやら
 忙しいようなのであきらめた。手を洗っていたらチャイムが鳴った。

「ヤバー、遅れちゃう。葛城先生怖いからなー。急がなくちゃ。」

 そう考えるといけない事と判っていても、つい走ってしまう。
 その出来事はそれで起きた。

 そして廊下の突き当たりを曲がりかけたとき、ミサトが見えた。
  が、いきおいが着いているため、急には止まれない。
  それでも何とか止まろうとして、両足を揃えて突っ張った。
 不運が重なっていたのだろう。今日に限って廊下の滑りがよく、
 そのままちょうど野球のスライディングのようになってしまった。
 そのままミサトにぶつかってしまう。と、思った瞬間、
  ミサトの後ろから1人の少年が現れた。
 
「きゃー!危ないからどいてー!!」

 レイは叫びながら前方にいるシンジの足元にスライディング。

「えっ?・・・うわー!!」

 シンジはレイの突然の体当たりを受けレイの上に被さるように倒れる。
 その拍子にお約束のような出来事。
 そう一瞬であったがお互いの唇が触れた事を、二人は感じた。
 幸い、ミサトにも騒ぎに気づいて窓から顔を出したクラスメートにも
  見られる事はなかったが。


「おい、あれ誰だ?綾波が朝っぱらから、男と抱き合ってるぞ。」

「えっ誰?相手誰?」

 レイはその声で、我に返る。

「ちょっ、ちょっと。早くどいてよ!」

「あ、ご、ゴメン。」

 何となく似たような事があったなと、お互いに思いつつ、二人は顔を上げた。
 そしてその二人はレイのあるものに目がいってしまった・・・・・

 レイはちょうどスライディングの体制でぶつかったため、
 衝撃でスカートがめくれあがってしまっていたのだ・・・
 慌てて、スカートを直し、改めてお互いを確認すると、

「「あ、あなた<君は>昨日の・・・・・」」

 レイはあたまのが混乱する中で文句を言おうとしたが、
  うまく喋れず口をパクパクしていた。
 シンジにしても、昨日のあの印象の強い女の子との、
  思いも寄らないハプニングに何を喋っていいのか判らずにいた。 

 沈黙はミサトに依って破られた。

「ハイ、二人とも立ちなさい。昨日の続きをここでしちゃダ・メ・よ。」

 その一言で二人とも真っ赤になり、俯いてしまう。
 そう。ミサトには昨日の駅前での喧嘩を見られていたから。

「綾波さん。いつも廊下は走っちゃダメっていってるしょ。」

「・・・・・スミマセン・・・・・」

「気おつけなさい。そのうちケガしちゃうわよ。」

「ハイ。」

「よし。じゃあ、教室に入りなさい。」

 そう言って、ニッコリと笑う。ミサトは余程の事がないと怒らない。
 だが、怒った時は本当に怖い。生徒はみんなそれを知っている。
 自分たちの事を真剣に考えてくれる。
  だからこそこの型破りな先生は生徒に人気がある。

 ボーっとしているシンジに声を掛ける。

「よかったね。早速会えて。」

 主語をあえて抜かして、ニコニコしながら言った。

「・・・・・・・・・・」

 シンジは何も言えない。そんなシンジを優しい目でミサトは見ていた。

「さ、シンちゃん、出番よ。」

 シンジはミサトの後に付いて、教室の中に入って行った。
 みんなの注目を浴びて・・・・・・・・・


INDEXへ戻る第三話を読む
ご意見・ご感想はこちら