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03 新しい友

「あれ、どこいっちゃたのかしら?」

 1時間目の準備を終えたヒカリはレイがいないことに気が付いた。
 
「先生がもうすぐ来ちゃうじゃない。」

 そう思いつつあたりを見回していたら窓から顔を出していた生徒たちが騒ぎ始めた。
 
「綾波が朝っぱらから、男と抱き合ってるぞ 。」

(え、レイが男と抱き合ってる?)

 レイの名前が出たので自分も顔を出してみる。
  見ると本当に男の子の下敷きになっている。
 抱き合っている、とまではいかないが、それらしく見えない事もない。

(あの子ったら、いったい何してるのかしら?)
 
 相手の男の子を見てみるが、ヒカリの記憶にはなかった。

(転校生かしら?)

 そう思いながら、転校生なら先生がいるはずだと思い視線をはずすと、
  教室の入り口付近でニヤニヤしているミサトが見えた。

(まったく、先生まで何してんのかしら?)

 ついつい溜息が出てしまう。

 思い切って声を掛けようとした時、ミサトが動いた。

「ハイ、二人とも立ちなさい。昨日の続きをここでしちゃダ・メ・よ。」

(え、昨日の続き?・・・・・それってもしかして・・・・・じゃああの子が昨日レイの言ってた男の子?)

 そう考えていたら、赤い顔をしたレイが戻ってきた。

(後でレイに聞いてみよう。)

 ヒカリはそう思いつつ昨日レイが言ってた事を思い出していた。

 教室に先生より一足早く入ってきたレイは、
  みんなに注目されていることに気が付くと、俯いてしまった。
 それに追い打ちをかけるように、一人の少年が言う。

「綾波、いい写真が撮れたぞ。記念に1枚、お前にもやるからな。
楽しみに待ってろよ。」

 レイはますます、動けなくなってしまった。
 ヒカリが助け船を出そうとした時、
  いきおいよくドアをあけてミサトが教室にはいってくる。

「起立!礼!着席!」

 ヒカリの号令が2年A組に響きわたる。

  ヒカリの声にあわてて自分の席に戻ろうと右往左往する生徒達。
 だがミサトは笑顔のまま、みんなが席に着くのを待っていた。

 教室中をしんとした沈黙がおおった。

「今日は、転校生を紹介します。」  
 
 教壇からのぞき込むようにミサトが全員に話しかける。

「よろこべ女子!ちょっと掘り出し物よ。」

 ミサトが廊下に向かって声をかけた。

「いいわよ。はいってきて!」

 ドアが開いて少年が入ってきた。
 どことなく頼りなさそうでいて、
  何となく守ってやらなら無くてはいけない気がしてくる。
 それでいて、貧弱な雰囲気ではない。中性的な感じの少年だった。

 ミサトはシンジが横に立つのを確認する。

「まずは転校生に自己紹介してもらうわよ。
さ、シンちゃん。みんなに自己紹介して!」

「はい。」

 ミサトの打ち解けた口調に疑問を感じたが、注意は既に転校生に注がれている。 
 なんと言っても、あの綾波レイと、アクシデントとはいえ、
  ラッキーな接近遭遇をしたのである。
 ほとんどの男子は新たなるライバルになりうる転校生に、視線を向ける。

 一方、そんなことを知らないシンジは、突然の出来事に驚き、そのため、余計な注目を  浴びてしまい混乱していた。

(落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ。)

 シンジは今まで合気道を通じて得た、経験を生かし二三度大きく深呼吸すると、
 黒板に自分の名前を大きく書いて、ゆっくりと話し始めた。

「はじめまして。碇シンジです、よろしくお願いいたします。」 

 そう言って、シンジはごく自然に柔らかな微笑みを浮かべた。

 きれいなその微笑みに教室のあちこちから小さなため息が聞こえる。
 同年代の男子にはあまり見ることの出来ない透明感。
 それはきっとあの瞳のせいだろう。
 身体の線の細さとは対象に逞しささえを感じさせる立ち姿。
 なにより中性的なやさしい顔立ちとほれぼれするようなその笑顔。 

 女子ならともかく男子までも爽快感すら覚えるのであった。

「家庭の事情で、第二東京市から昨日引っ越して来ました。
こちらには、来たばかりなので右も左も判りませんので、どうか宜しく御願いします。」



「昨日といい、今日といい、よくよくアイツとは縁があるみたい。
しかも同じクラスだなんて、なんて偶然かしら。」

 そう呟きながら、レイは昨日のこと、そしてさっきの事を思い出していた。
 そして、倒れた拍子とはいえ、キスしてしまったことを思い出すのであった。

(うーーーー、大事なファーストキスがーーーーー、何でよりにもよって、
あんなムードのかけらもないモノになっちゃうのよ。)

 情けないやら、悔しいやら、何とも言えない気分である。
 好きな人がいないとはいえ、イヤ、いないからこそ
 素敵なキスシーンに憧れるし、夢を見るのである。
 なのに・・・・・。

(そうよ、あれは事故なのよ。そうだわ。うん、あれは事故よ。
私の大事なファーストキスとは絶対に違う。断じて違うわ。)

 レイはそんなことを考えて、自分を無理矢理納得させていた。
 いつの間にかシンジの挨拶は終わって、ミサトが教壇に立っていた。

「それじゃあ、シンジ君はちょうど綾波さんの横に空きがあるから、そこに座って。
綾波さん、シンジ君の面倒を見てやってね。昨日みたいに喧嘩しちゃあダ・メ・よ。」

「「な、何言ってるんですか。」」

 思わずユニゾンする二人。
 騒然とする、クラスメート達。興味津々と言う顔を見せる。
 これで、今日一日の二人の運命は決まった。

 生徒達のそんな反応をニコニコしながら、ミサトは見ていた。
 先生と言う立場にいながら、楽しいことが大好きで、生徒と一緒に騒いでしまう。
 そんなところが生徒に人気があるのだろう。
 決して人気取りしているのでなくて、
  自然にそうなってしまうのが葛城ミサトという人間の、
 一部の人には困った、そして多勢の人には好かれる一面である。

 この教師らしくないミサトのもっともミサトらしい悪い癖。
 騒ぎを大きくしようとするのである。(最も、心温まるような事だけだが)
 俗に言う<火に油>である。
 その<油>になりうる一言を言って、教室を出ていった。

「1時間目の授業はHRにします。先生はちょっち職員室に行って来るから。
それまでシンジ君をいじめちゃだめよ。なんたってアタシの大事な、大事な
ど・う・きょ・に・んなんだから!」

「!!!!!えーーーーーーーーー!!!!!!」

 一拍の間をおいて、クラス中で大合唱。
 自分の想像通りの反応に一人ご満悦のミサトであった。

 シンジは一瞬、自分に何が起こっているのか判断出来ないでいた。
 気が付いたら、周りを囲まれている。
 やっとの事で、自分を取り戻すと、右手で目を覆い天井に顔をむける。

(ミサトさん、勘弁してよー、まったくー。)

 まさかミサトが同居の事を喋ると思ってもいなかったので、自分から喋らなければ
 大丈夫だと思っていた。だから敢えてミサトにもこの件に対しふれなかった。

(こんな事なら、ちゃんと頼んどけばよかった。)

 そう後悔した。だが後の祭りであった。

「ねえねえ、昨日喧嘩したって何?」

「二人は昔からの知り合い?」

「付き合ってたの?」

「どんな関係?」

「先生と同居ってどういうこと?」

「君は先生とも関係あんの?」

 等々である。言葉のニュアンスは違うが、聞かれた事は殆ど同じだった。
 只、あまりに矢継ぎ早なので答える暇がないのである。

 レイにしてみればまるっきりのトバッチリである。
 最初は何とか答えようとしたが、続けざまに質問を浴びせられついに切れた。

「うっるさーーーーーーーい!!!!!!」

 肩で息をして、周りを睨む。
 その顔で一瞬引いた子もいた。

「うるさい、うるさい、うるさい。う・る・さーーーい。
一遍に聞かれたって答えられないでしょ!!!!!」

 レイの方がかなりうるさい。でも誰もその事を言えない。
 今のレイの顔には他を圧倒する何かがあった。
 ちょっとの静寂の後、ヒカリが口を開いた。

「1時間目はHRにするって言ってたから、先生が来るまで待ってましょ。
鈴原、悪いけど準備室から予備の机とイスを持ってきて。」

「なんでワシが?」

「一番力があるでしょ。相田君も手伝って。」

「何で俺まで。」

「相田君はさっき、碇君のお陰でレイの写真が撮れたんでしょ?
それぐらいしなさい。」

「まったく、イインチョにはかなわんのー。」

「ホントに。」

「すいません。お手数かけます。」

 シンジは頭を下げた。

「いいっていいって、じゃ、トウジとってこよう。」

「せやな。」

 シンジにとってはまたとないチャンスだった。

「僕も一緒に行くよ。ついでに場所も覚えたいし。」

「そっか。ほな一緒にいこか。」

「うん。」

 そう言って、三人で教室から出ていった。
 残されたみんなは仕方がないので席に戻っていったがそれでも何人かは、
 レイの所に残った。

「さっき先生の言ってた昨日の喧嘩って、あれ?」

 ヒカリがレイに聞く。

「うん。」

「じゃあ、あの碇君がぶつかったって言う男の子?」

「うん。」

「何々、どうゆうこと?」

 それまで黙ってそばで聞いていた女の子が、もう我慢できないとばかりに口を挟む。

「別にたいした事じゃないんだけど、
昨日ヒカリと映画見ようって待ち合わせしてたのよ。
それで向かう途中で本を買って、読みながら歩いてたら、
駅前の角であの子とぶつかったの。
それが原因で口喧嘩になっちゃって、それを先生に見られたの。」

「なーんだ。つまんない。もっと面白い話かと思ったのにー。」

「なんだじゃないでしょ、なんだじゃ。つまんなくって悪かったわね。
勝手に騒いでたの、みんなでしょうが。まったく。」

「そういえばそうね。ごめんね、レイ。」

「別にいいわよ、もう。
こうなったのもみんなアイツと先生のせいよ。」

 それを聞いたヒカリがすかさずツッコミを入れる。

「でも、昨日のことはお互い様だし、今日のことはどっちが悪いの?」

「うっ・・・・・ぶつかったのは私のせい・・・・・かな・・・・・」

「じゃあ、碇君に怒るどころか、謝らないと。」

「えー、私が謝るのー。」

「そうよ。昨日だって、謝っておけばよかったって言ってたじゃない。
今日のことも含めて謝りなさい。」

「うーん、何となく納得いかないなー。」

「またそんな事言って。ダメよ、ちゃんと謝らなくちゃ。」

「はーい。」

「<はーい>じゃなくて、はい、でしょ。」

「ハイ。」

 お互いに笑い出してしまうレイとヒカリだった。







「ワシは鈴原トウジ。ワシのことはトウジでええで。でこっちが相田ケンスケ。」

「俺のことはケンスケって呼んでいいよ。」

「ありがとう。僕の事はシンジって呼んで。」

「ところで、綾波とどんな関係なの?」

「せやせや、ワシも聞きたい。」

「どんな関係って言われても・・・・・只昨日駅前の角であの子とぶつかって
その時口喧嘩になっちゃって、それをミサトさんに見られただけ。」

「それだけか?」

「そう。それで今朝また、ぶつかったのを、ミサトさんが変な風に言うから・・・・」

「そうだ!」

「な、なに?」

「ミサト先生と一緒に暮らしてるのか?」

「う、うん。昨日からだけど」

「ホンマか?エエのう。」

「ホント、うらやしいよなぁー。そうだシンジ、今度遊びに行っていいか?」

「ワシも、ワシも。」

「う、うん。僕はいいけど。只ミサトさんに聞いてみないと・・・・・」

「せやな。シンジが住んでるちゅうたかてミサト先生の家やからな。」

「うーん。是非、説得して欲しいな。頼むだけ頼んで見てくれ。」

「うん、聞いてみるよ。」

「けど、うらやましい奴っちゃで、ホンマ。」

「同感。」

「そうなの・・・・・かな?」

「そりゃそうやで。何てったって、あのミサト先生やからな。
 なんて言っても数学のマヤ先生と人気を二分するんや。

「数学のマヤ先生?」

「せや、マヤ先生はミサト先生とは違う、愛嬌みたいなのがあるんや。
ごっつ、かわいらしいんやで。」

「ふーん、そうなんだ。」

「あとは校医の赤木リツコ先生かな。
この人は美人なんだけど謎があるというかなんというか。
ちょっとマニア受けする先生で、ミサト先生の親友らしい。」

「ついでに言うと、マヤ先生はその赤木先生の後輩らしいで。
だからその三人、中がええんや。つまりミサト先生とお近づきになれれば
マヤ先生や赤木先生ともお近づきになるチャンスちゅう事や。」

「その通り。シンジ君、イヤ、シンジ様、是非その機会を我らに。」

「わ、わかった。」

「ところで、ミサト先生の手料理、もう食うたんか?」

「ううん。今週は僕が当番だから・・・・・ミサトさんは来週。」

「なんや、シンジは料理出来るんかいな?」

「一応。最初は一人暮らしの筈だったから。」

「じゃ、ミサト先生の手料理も是非食べれるように、
シンジに頑張ってもらわないとな。」

「せやせや、幸せゆうんは、みんなで分かちあうもんや。何とか頼むで。」

「わかった。頼んでみるね。」

「よっしゃ、ほな、あまりゆっくりしとると、イインチョが怖いから行こか。」

 これでミサトの料理の被害者が二人増えたのだった。
 そんな事とは知らず、
 シンジは新しい友のために、今日帰ったら絶対にミサトを説得しようと決意し、
 トウジはミサトの手料理が食べられるかもしれないと喜び、
 ケンスケはうまくいけばミサトのエプロン姿の写真で新たな販路が拡張出来るかも、
  とすでに頭の中で計算していたのである。
 何も知らないと言うのは、本当はとても幸せな事かもしれない。





(あらら、あれだけ煽っておいたのに静かねー。ナンデー?)

 今頃お祭り騒ぎになっているだろうとワクワクしながらHRにきたミサトは、
 自分の予想だにしなかった教室の光景をみて、おもわず首を傾けた。
 教室に入って見ると、シンジはいないし、
  なんとなくレイが少し睨んでるようにも見える。

(な、なんか綾波さんの目が怖い。少しからかいすぎたかしら?
でもシンちゃんどこ行っちゃのかな?)

 もう一度教室の中を見回したがシンジの姿はない。

「誰か、シンジ君知らない?」

「碇君なら、鈴原君、相田君と三人で机とイスを取りに準備室に行きました。」

「あ、そっか。用意しとくの忘れちゃった。
じゃ、三人が帰って来るまで待ってましょ。」

 そう言うとミサトは、教壇横にあるイスに腰を下ろした。
 一人の少女が立ち上がって質問をする。
 クラス全員を代表するように。

「先生、碇君と同居してるんですか?」

「ええ、昨日からね。」

「どうしてですか?」

「うーん、別に隠しておく必要ないから三人が戻って来たら話すわ。
それまでちょっち待っててね」

 ちょうどタイミングよく三人が戻ってきた。

「あ、ちょうどよかった。三人とも席に着いて。今から話があるから。」

 シンジは机とイスをレイの隣に並べると座りながらチラッと、レイを見てみる。

(なんか機嫌悪そう。謝まろうと思ったけど後にしよう。でもやっぱり可愛いよなー。)
 などとお気楽な考えをしているとミサトに呼ばれた。

「シンジ君、悪いけどもう一度ここに来て。」

「はい。」

「さっきも言ったけど、先生とシンジ君は昨日から一緒に暮らしています。
理由は、この第三東京市にシンジ君のご家族・親類・縁者がいないこと。
シンジ君は一家でこの第三東京市に引っ越す予定だったけど、
ご両親は都合で半年間海外に仕事に行ったの。
それで前にいた第二東京市にも頼る人がいなかったし、
どうせ六ヶ月後にこちらに来るなら、少し早いか遅いかの違い、
って事でこっちに来たの。
最初は一人暮らしの予定だったけど、ご両親が心配だと言うことで
アタシがその間の保護者役を頼まれたって訳。わかった?」

「でも、何故葛城先生が頼まれたんですか?」

 これはシンジにとっても聞きたいことだった。
 昨日、説明されたときは混乱していたのでよく聞いていなかった。

「それはシンジ君のご両親と、校長先生が昔からの知り合いで、
アタシは校長先生を介してシンジ君のご両親と知り合ったの。
校長先生はもちろん、シンジ君のご両親二人とも立派な方でアタシの尊敬する人です。
その人達に頼まれたら、イヤとは言えないでしょ。ネ!」

 そう言って笑った。

 その横でシンジは考えていた。

(立派?尊敬?母さんはとにかくあの父さんを?
そんな事言う人初めて見た。あの父さんを尊敬出来るなんて・・・・・
ミサト先生を尊敬しちゃうな)

 思いも寄らないミサトの言葉に、しばし呆然とするシンジだった。

「でも安心しなさい。一緒に住んでもシンジ君の事襲ったりしないから。
その前に先生がシンジ君に襲われちゃうかもしれないけど・・・・・」

「キャー、先生、エッチー!!!!!」

 女生徒達が奇声をあげる。
 ミサトはニコニコしながらシンジを見た。

「な、なに言ってるんですか。」

 本当にとんでもない教師である。

(この人なら父さんを尊敬してもおかしくないかも・・・・・)

 そんなことを考えてしまうシンジだった。

「はい、以上で説明はおしまい。シンジ君席に戻っていいわよ。
あ、そのまえにこれ。」

「何ですか?」

「ラ・ブ・レ・タ・ー」

「え、ええー。」

「うっそ。これから授業で必要なモノ。ないモノは購買センターで用意しといて。」

「はい、わかりました。」

 シンジは渡されたプリントをじっと見ていた。
 ミサトはそれに気づき話しかける。

「どしたの。何かわかんないとこ、ある。」

「いえ、そうじゃなくて、何故プリントなのかなーって。」

「へ?」

「あ、いや、ほら、連絡って端末にメールを出せば簡単でしょ。
なのに何故プリントに印刷するのかって、ちょっと不思議に思っただけです。」

「そう言われればそうね。うーん、先生にも解んないや。」

「あ、別にいいんです。ただちょっと、そう思っただけだから。」

「そう?」

「ハイ。」

「それなら、用意しなさい。」

「ハイ。でもその前にちょっといいですか?」

「なに?」

「昨日、綾波さんが落としてった本。今日持ってきてるんです。
それ、渡して昨日のこと謝っておこうと思って。」

「シンちゃーん、やっさしー!」

「そんなんじゃないです。」

「ま、いーからいーから。照れない照れない。」

「だから、違いますって。」

「わかったわかった。とにかく早くしなさい。」

「はい。そうします。」

 シンジは自分の席に戻ると、バッグから本を取りだし、レイに声を掛けた。

「あ、あの・・・・・綾波さん?」

 レイにしても、まさかシンジから話しかけられるとは思っても見なかったので、
 ハッとしてシンジの方を見る。

「ハ、ハイ?」

「あの、これ・・・・・」

「あっ、それ。」

「うん。昨日あのまま忘れて行ったみたいだったから。
ミサトさんに聞いたら同じクラスだって言ってたから、
今日また会えると思って持ってきた。その時に一緒に謝ろうと思って。
はい、これ。」

「あ、ありがとう。」

「どういたしまして。それから昨日はゴメン。」

「ううん、私の方こそごめんなさい。
・・・・・そしてさっきも・・・・ごめんなさい。」

「うん、じゃあ、お互い様とゆう事で、改めて宜しく。」

「こちらこそ、宜しくね。」

 そんな二人をミサトはニヤニヤしながら、
 少しだけ事情を知っているヒカリはニコニコしながら、
 そして、一部の生徒は面白くなさそうに見ていた。

 そんな周りの状況も知らず、シンジはレイの笑顔をじっと見ていた。


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