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05 笑顔
「よかったね、レイ。」
学校の帰り道、いきなりヒカリが言った。
私は何のことか分からず怪訝な顔をしてヒカリを見ると、
ニコニコ私を見ていた。
「え、何?」
「だ・か・らー、よかったねって言ったの。」
何を言ってるのかわからずヒカリの顔を見る。
目がきらきらとしていて、まるで新しいいたずらを見つけた子供のようだった。
なぜかその瞬間、神事の顔を思い出す。
「な、な、何、言ってんのよ。」
「何焦ってんのよ、ただ私は碇君が・・・」
シンジの顔を思い出した時にその名前が出たので焦り、
慌ててヒカリの言葉を遮るように、
「べ、別に・・・・・ただ迷惑な奴だって思っただけよ。ホントそれだけだから・・・・・」
「あら、私は本の事を言ったのに。」
「・・・・・うっ・・・・・」
レイは思わず詰まってしまい、ヒカリを睨む。
ヒカリのほうは相変わらず、楽しそうだ。
いつトウジの事でレイにからかわれているから、仕返しのつもりらしい。
「レイは碇君が気になるのよねー。」
確かに授業中につシンジの顔を見てしまっていた。
朝、本を渡された時に自分に向けられた笑顔。
やさしくて柔らかくて暖かいシンジの微笑み。
おもわず目が吸い寄せられてしまい言葉を無くしてしまいそうになった。
自分の意志に逆らい胸が高鳴りそうになる。
激しい鼓動に自分の頬が染まりそうになるのを必死に押さえた。
(な・・・なんて目をして人をみるのよ・・・恥ずかしいやつね・・・)
そう思いながら、
「こちらこそ、宜しくね。」
と答えるのが精一杯だった。
シンジが購買センターに向かう為席を立たなければ、
視線を外す事が出来なかったかも知れない。
そうなればまたクラスの中でいやでも冷やかされる事になる。
(あっぶなーい・・・・・)
心の中でそう思っていた。
だから授業中もあの微笑が頭から離れず、
気がつくとシンジの横顔を見つめていた。
それをヒカリに見られたのだとレイは思った。
だから反論ができない。
黙っていたらヒカリが笑いながら言った。
「レイ、碇君に惚れちゃった?」
「だから、そんなんじゃないったら。」
「ホントにー。」
ヒカリは探るような目で私を見ていた。
「・・・・・よくわかんないのよ、自分でも・・・・・気にならないって言えば嘘になるし・・・・・
でもこれが好きっていう気持ちなのか・・・・・うーん、ヒカリどう思う?」
「レイ自身が分からないのに、私にわかるわけないでしょ。」
「そうよねー。」
そこで私は逆襲に出た。
「ヒッカリー。」
「なーに?」
「鈴原君の事を考えるとどんな気持ちになる?」
「な、な、何よ、突然。」
「いやー、だ・か・らー、鈴原君の事を考えるとどんな気持ちになるのかなーって。」
「ど、どんな気持ちって言われても・・・・・」
「どきどきする?」
「・・・・・・・・・・うん・・・・・」
「胸が苦しい?」
「・・・・・・・・・・うん・・・・・」
「顔が熱くなる?」
「・・・・・・・・・・うん・・・・・」
「ずーと顔を見ていたい?」
「・・・・・・・・・・うん・・・・・」
「顔見ないと寂しい?」
「・・・・・・・・・・うん・・・・・」
「ふーん、ヒカリはやっぱり鈴原君が好きなんだ。」
「・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・・えっ、ち、違う。こらー!!!」
「アハハハハ、ゴメンゴメン。」
「レイ、待ちなさい。待ちなさいって言ってるでしょ。」
「待てって言われて、素直に待つ人なんていないよー。」
「いいから待ちなさい!!」
逃げる私を、笑いながら追いかけるヒカリの顔は、真っ赤だったけど、
なんとなく幸せそうだった。そんなヒカリを見ていると私まで気持ちよくなってくる。
(まだ、自分の気持ちがハッキリしないけど、この気持ちを大事にしよう。
慌てないで、ゆっくり育ててみよう。)
そう思った。
「でも碇くんの笑顔って、一種の凶器よね。
あの笑顔はハッキリ言って武器だわ。」
小さく呟き私は一人で納得した。
「ただいまー・・・・・って、あれ?誰もいないのかな?」
家の中に入り玄関の扉を閉めて耳を澄ますと、
リビングの方で声がした。
(誰か来てるのかしら?)
別に知らない靴はない。
(お客って訳じゃなさそうね。)
自分の部屋に入って、着替える事にした。
Tシャツとキュロットという身軽な服に着替えると机に向かい鞄を開けた。
明日の準備をするためである。これはレイの習慣だった。
レイは本が好きで色々な分野の本を読むため、知識は豊富だった。
勉強も割と好きなほうだったし、成績も学年でトップクラスだった。
かといって、ガリ勉というわけでもない。
物事の要点を掴む能力、本質を見極める能力が高いのである。
だから机に座る時間も少ない。その分本を読んでいた。
鞄の中身を出すと、今朝シンジから受け取った本が出てきた。
昨日、駅前でシンジとぶつかり落とした本である。
(結構いい奴よね。わざわざ拾って、持ってきてくれるなんて。)
そう思いながらシンジの顔を、あの笑顔を思い出すと、
自然にレイの顔も綻んできた。
(あ、今朝、お母さんにお金貰ったんだっけ・・・・・どうしよう。
・・・・・うーん、まあ返せとは言わないだろうから、貰っちゃおっと。
今月はお財布もちょっと軽いし。)
早速、昨日の続きを読もうと本を広げた。
コンコンコン
「レイ、ご飯よ。」
「はーい。」
きずいたら七時を過ぎていた。
本に夢中になると、回りが見えなくなるのがレイの悪い癖である。
キッチンに行くとすでにレナは座って待っていた。
「「いただきます。」」
こうして二人だけの食事が始まる。
レイの父親は、海外にいる。世間で言う単身赴任だった。
その為、年に三、四回しか顔を合わせる機会がない。
寂しくない訳ではないが、母親が頑張っているのを見ると、
あまり我侭は言えないし、このような生活も三年経つので慣れた。
母親のレナは39歳。職場結婚らしい。
レイを生む為に、退職したが、能力を買われてか、
週4日程、仕事をしている。
「今日は何時ごろ帰ってきたの?」
「お母さんが、電話してる時。」
「ああ、あの時ね。で何してたの?」
「本読んでた。でも珍しいね。お母さんが電話に夢中になるって。
誰と話してたの?」
「学生時代の親友よ。」
「ふーん、そうなんだ。」
「そ。」
「随分、楽しそうね。」
「ええ、とっても・・・・・ね!」
「教えて、教えて。」
「そのうち、レイもわかるわよ。」
レナは言葉を濁してそれ以上答えずニッコリと笑う。
そんな母親を見ながら思った。
(まいっか、笑ってるって事は、悪い事じゃないだろうから・・・・・)
レイはレナ同様、あまり物事を深刻に考えないタイプだった。
「ご飯食べ終わったら、少し休んでお風呂に入りなさい。」
「はーい。」
レイは本の続きが気になっていた。
そんなレイの様子に気づいたのか、
「あまり夜更かししないようにね。また明日起きられないから。」
といった。小さく舌を出しレイは答える。
「わかってますって。」
そんなレイを見て、また明日も大変だろうと
ため息が出るレナだった。
コメント
やっとレイの話が書けました。
オリジナルと違って明るいレイ像を作りたい。と、
思ってましたから、どうしても似てきちゃいますね(^^;;)
頑張って、私自身のレイを表現したいと思います。
次回からは、また、シンジ中心に進みます。
では、また。
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