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06 招待

 ピピッピピッピピッピピッピピッピピッピピッピピッピピッピピッ

 見慣れぬ天井を見ながらおきる朝。

「ふぁーっ、もう朝か。起きて支度しなきゃ・・・・・
ああ、今日は食事の支度はしなくていいんだ。
昨日買ってきたお弁当を温めるだけだもんな。」

 昨日買い物をするのを忘れ、ミサトと外食をした帰り、
 朝の分のお弁当を買ってきたのだった。

 それでも飲み物くらいは作れるだろうと、
 キッチンへ向かうシンジだった。

 リビングにはエビチュの空き缶が散乱していた。
 シンジが寝た後、ミサトが飲んだのであろう。

「また、こんなに飲んでる。
いったいミサトさんて一日何本飲むんだろう?
これじゃいつか体を壊すな、きっと。」

 シンジ自身お酒が飲める年齢でないし(おとといミサトに飲まされたが)
 父親も飲酒はしなかった。
 母親のユイは結構好きみたいだが、料理に使ったワインを飲んでいるのを
 見たくらいで、ミサトのように豪快に飲む大人は知らない。

「これじゃあ、食費よりビール代の方がかかるだろうな。」

 溜息が出るシンジだった。

 気を取り直してお味噌汁を作りミサトの部屋をノックした。

「ミサトさん、朝ですよ。起きてください。」

 返事がない。
 仕方がないので恐る恐るドアを開ける。
 そこでシンジが見たのは、豪快な姿のミサトだった。

 本来、体の上にあるべきタオルケットをベッドの外に落とし、
 頭の下に在る筈の枕に足を起き、大の字になって寝ていた。
 ハッキリ言って女性の寝姿ではない。

 シンジが言葉もなく呆然と立っていると、
 ミサトの足元で目覚まし時計が自己主張するように鳴った。
 ミサトはそれを足で止める。
 本来は枕もとの時計なのだが、体が180度回転しているので、
 必然的に足のほうが手よりも近い。
 起きあがって手で止めればいいのに、
 それさえも面倒なのだろう。

 やっと目がさめたミサトは、部屋の入り口に』立っているシンジに気づいた。

「おっはよー、シンちゃん。なーにー、アタシの寝込みを襲いに来たのー?」

 その一言でやっと我に返る。

「な、な、な、何言ってんですか。
そんな訳ないでしょ!!!」

「あら、残念。アタシは何時でもいいのに・・・・・」

 顔を真っ赤にしているシンジにとどめをさす。
 まったく危ない会話である。

「と、とにかく早く起きてくださいね。じゃないと遅刻しますよ。」

「わかってるわよ。」

 そう言ってニッコリ笑う。

「じゃあ、用意して待ってますから。」

 部屋を出て行くシンジの後姿を見ながらミサトは、

(この子がいると毎日が楽しいわね。)

 と思った。

 テーブルには夕べ買ってきたお弁当と、味噌汁が用意してあった。
 味噌汁は昨晩ビールを飲んで乾いた喉に気持ちよかった。

「おいしい。ほんとシンちゃん手料理が上手ね。
ずーっと頼んじゃおうかしら。」

「ずるいですよ、ミサトさん。当番制にするって約束ですよ。」

「わかってるって。やーねー。」

 後にシンジ自らこの約束を破る事になるのを
 今は知る由もない。

「ところで、昨日の話だけど、今度の土曜日でいいのよね。」

「はい、でもホントにいいんですか?」

「もっちろん。」

「ありがとうございます。」

「何言ってんのよ、せっかく出来た友達が、
シンちゃんの歓迎をしてくれるのに、アタシが邪魔する筈ないでしょ。
で、誰が来るんだっけ?」

「トウジとケンスケの二人です。」

「だから、綾波さんも呼びなさいって。まったく知らない訳じゃないんだから。」

「でもー・・・・・」

「<でも・・・・・>じゃなくて、席も隣なんだし、友達になるチャンスでしょ!
大勢の方が楽しいに決まってるんだから。アタシもリツコ達を誘うから、
シンちゃんもぜーったい誘いなさい。わかった。」

「わかりました。誘ってみます。」

「よろしい。
ところで今日はどうする?」

「何がですか?」

「一緒に車で行く?」

「い、いえ、歩いていきます。」

「そお、別に遠慮しなくてもいいわよ?」

「いえ、大丈夫です。」

 学校まで歩くのは確かに面倒くさい。
 だが、過去2回の恐怖を考えると、やはり歩いていこうと思った。

(疲れるのと、すっごく怖い思いをするのを比べると、
やっぱり歩いて行った方が、無難だよな。やっぱ。)





「おはよう、ケンスケ。」

「ああ、シンジ、おはよう。」

「トウジはまだ来てないの?」

「もうそろそろ来るんじゃないのかな。」

 教室についたシンジは、ケンスケと朝の挨拶をしていた。
 自分の机に鞄を置くと、ちょうどトウジが教室に入ってきた。

「トウジ、おはよう。」

「おはようさん。シンジ、今日もミサト先生と一緒か?」

「いいや、今日は歩いてきた。」

「そうか、で、ミサトセンセは?」

「僕が出るときは、支度が済んでなかったから、まだ来てないと思うよ。」

「ほーか。でもメッチャうらやましい奴ちゃで、シンジは。」

「そーかなあ?」

 そんな話をしているとケンスケが声をあげた。

「ミサト先生が来たぞ。」

「ほんまか?」

 窓から顔を出すと、ちょうど校門から真っ青のルノーが入って来た。
 ミサトの大事な愛車である。
 電気自動車が主流になった現在、ガソリン車は珍しい。
 電気自動車に比べ、維持するために費用が何十倍もかかるのだ。
 何故なら、自然への悪影響を考え、ガソリン自体が少なく高価になった為である。
 それでも、

「ガソリンエンジン独特の排気音がしないと、車に乗ってる気がしない。」

 などとミサトは言っているのだった。

 車から降りたミサトは、膝が見える短めの真っ赤なスーツに身を包み、
 サングラスをかけていた。数歩歩きながらサングラスをはずし、
 教室の窓からカメラを構えていたケンスケに向かって、
 ニッコリ笑い、ピースサインをだす。

「やっぱりいいなあ。ミサト先生は。」

「ホンマ、かっこエエでー。」

 そう言っている二人を見ながらシンジは思った。

(ミサトさんの家の中の格好を見せてやりたいよ。)

 と・・・・・。

 教室の中ではそんなシンジ達を、
 ヒカリとレイがあきれて見ていた。

「ヒカリ、心配?」

「べ、べつに心配なんかしてないわよ。」

「ふーん、ならいいけどー。」

「何が言いたいの?」

「べっつにー。」

 別に、といいつつレイはニヤニヤしている。
 ヒカリはすでに顔を赤くしている。

「でも、トウジ君て鈍いから、ハッキリ口で言わないと、気持ち伝わんないよ。」

「べ、別に、私は・・・・・・・・・・」

「だって、昨日好きだって言ったじゃない。」

「あ、あれは、レイが・・・・・・・・・」

「わ・た・し・が?なあにかな?」

「・・・・・・・・・・」

 ヒカリは真っ赤になっていて、何も言えない。
 そんなヒカリを楽しそうにレイは見ていた。
 ヒカリをからかうのが大好きなレイだった。





「そうだ。昨日の夜、例の事、ミサトさんに話したよ。」

「「!!それで!!!」」

「・・・・・うん・・・・・」

「ダメやったんか?」

「・・・・・・・・・・」

「しょうがないよ。シンジが悪い訳じゃないし・・・・・」

「そうや。ケンスケの言う通りや。残念だけど。」

「ミサトさん、いいって言ってたよ。」

「・・・・・そうか・・・・・・何?今、何てゆうた。」

「だから、歓迎するって。」

「ホンマか?」

「うん、リツコ先生とマヤ先生も誘ってみるって。」

「ホントか、シンジ?」

「うん。」

「この野郎、人をからかいおって。」

「ははは、ゴメン。」

「まあいいって。でもこれはチャンスだ。
ミサト先生だけでなく、マヤ先生とリツコ先生も来るなんて。
シンジと友達になれてよかったーーー。」

「ホンマ、その通りや。」

「そんな事ないって。只、僕の歓迎会って事になってるから。いいでしょ。」

「そんなん、かまへん。シンジの事、ホンマに歓迎しとんのやから。
な、ケンスケ、せやろ。」

「ああ、もちろん。」

「ありがとう。」

「何、水臭い事言ってんねん。」

「それで、ほかには誰か来るのか。」

「今のところ、それだけ。」

「何や、今のところっちゅうのは?」

「うん、ミサトさんが昨日とおとといの事があるから、
綾波さんも呼びなさいって。」

「そうだ。綾波も呼べ。呼んだほうがいいよ。
綾波がくれば、洞木も来るだろうし。」

「そうかなあ?」

「せや、大人数の方が楽しいやろ。」

「ミサトさんもそう言ってた。」

「じゃあ、決まりや。」

「うん・・・・・でも・・・・・」

「何や、嫌なんか?」

「いや、そうじゃなくて・・・・・女の子を誘った事ないから・・・・・」

「大丈夫だって。」

「そうかなあ?・・・・・うん・・・・・誘ってみる。」

「よっしゃ、そうと決まったら膳は急げや。」

 シンジ達はレイとヒカリの方へ、近づいていった。

 自分たちのほうに歩いてくる三人を見ていたヒカリは少し身構えた。
 そんなヒカリを見て、レイはまた可笑しくなった。

「ねえ。ちょっといいかな?」

「何?」

「綾波さん達って、今度の土曜日何か予定ある?」

「私は別にないけど・・・・・ヒカリは?」

「わ、私も別に無い。」

「じゃあさ、良かったらミサト先生の家に来ない?
トウジやケンスケが僕の歓迎会をしてくれるって言うから。」

「うーん、別にいいけど・・・・・なんで私達を誘うの?」

「僕は昨日転校してきたばかりで、友達もいないし、
ミサトさんが隣の席だし、まったく知らない訳じゃないから
絶対誘いなさいって言われて・・・・・」

「うーん、私はいいけど・・・・・ヒカリはどうする?」

「えっ、私も行っていいの?」

「もちろん。洞木さんにもこれからお世話になると思うし・・・・・」

「それで、他には?」

「後はミサトさんの友達の、マヤ先生とリツコ先生が来る予定。」

「ふーん・・・・・うん、わかった、行く。ヒカリも行くでしょ。」

「う、うん。いいわよ。」

「じゃあ、決まりだね。」

 そう言って、シンジはニッコリ笑った。
 レイはシンジのその顔を見て

(やっぱり、この顔は、すごい威力よね。)

 そう思いながら、目が離せなくなるレイだった。

「当日はミサトさんが手料理を作ってくれるって。
そう言ってたから。」

 それまで黙っていた二人は声を出して喜んだ。
 その時に後悔する事になるのだが、今はそれを知らない。

 それを見ていたヒカリはムッとし、
 そんなヒカリを見ているレイは、一人クスクス笑っていた。

「何、笑ってるの?」

 と、シンジが聞くと、

「べーつにー。」

 といって、惚けていた。

(これで、今日一日は、ヒカリで遊べる。)

 そう考えていた。









コメント
   なんかここまで書いてきて、
   シンジが少し、予定と違ってきました。
   構想時よりカッコイイ。
   ちゃんと自分からレイを誘えるし・・・・・
   (前回の予定ではケンスケに助けられるシーンを考えていたのに)
   私の中でシンジも成長したのかな?

   とりあえず、まだ続きます。
   (なかなか話がすすまない・・・・・^^;;;)

   では、また。


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