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07 歓迎会・前編

「リツコ〜。いる〜?」

「何、ミサト。朝から元気ね〜。」

「アタシの取り柄だもん。
元気なかったらアタシじゃないでしょ〜。」

「相変わらずね・・・・・で、何の用?
また、眠気覚ましにコーヒーでも飲みに来たの?」

「違うわよ!なによそれじゃあまるで・・・・・」

「まるで?何かしら?」

「はいはい、仰る通り、いつもお世話になってます。」

「そ、人間素直な気持ちを忘れちゃダメよ。」

「何よ自分だって人の事なんか言えないでしょうが・・・・・」

「何か言ったかしら?」

「ううん、何も。」

「で?何の用なの?」

「あ、そうそう。リツコ今度の土曜日、暇?」

「土曜日?ええ、別にこれといって用事ないけど。何故?」

「うん、実はね・・・・・」

 そこまで喋った時に扉が開いて、マヤが入って来た。

「おはようございます、先輩。」

「おはよう、マヤ。」

「ミサト先生もおはようございます。」

「おっはよう、マヤちゃん。」

「朝からお二人で何してるんですか?」

「ちょうどいいわ。マヤちゃんもここにいて。」

「はぁ。」

「で?ミサト、土曜日が何だって?」

「アタシ今度、同居人が出来たでしょ。」

「ああ、碇さんとこの息子さんね?」

「うん、リツコあんた知ってんの?」

「ええ、面識はないけど。」

「面識がない?どうゆう事?」

「母さんの上司なの、その子の父親が。」

「あ、そうゆう事。」

「それで、同居人がどうしたって?」

「シンジ君の歓迎会を、やるんだって。
友達が出来て、その子達がやってくれる事になったんだけど、
その場所にアタシの家が決まったの。」

「それが私やマヤと関係あるの?」

 今まで黙って聞いていたマヤも、頷いている。

「その子達が、アタシの友達も呼んでくれって、
シンジ君に言ったらしいのよ。」

「・・・・・で、誰なの、その友達って?」

「鈴原君と相田君。」

「ああ、あの子達ね。」

 そう言いながら、リツコもマヤも、
 納得したように、頷いた。

「私達が行ってもいいの?」

「そうですよ、教師が大勢いたら、堅苦しい雰囲気になりませんか?」

 リツコとマヤは、少し心配そうに言った。
 そんな二人にミサトは明るく行った。

「いいのいいの、大勢の方が楽しいし、ね。」

「そお?それなら私はOKよ。」

「わたしも行って良いんですか?」

「うん、ぜひ来てよ。」

「はい、ありがとうございます。必ず行きます。」

「私も、あの碇さんの息子は見てみたいし。」

「何?それどうゆう事?」

「だって彼の父親って、色々と有名よ。」

「そうなの?」

「ミサトだって知ってるんでしょ。じゃなかったら、
直接頼まれたりしないだろうし、引き受けないでしょ。」

「まあね。懐の広い人だと思うし、なかなかの人物だとは思うわよ。
・・・・・ちょっと掴み所ないけど・・・・・」

「何か、含みのある発言ね。じゃあ何で保護者役を引き受けたの?

「それは、多少掴み所がなくても、たいした人物だと思ってたし、
何より奥さんが素晴らしい人だもの。言ったら悪いけど、
何故あの旦那さんに、こんな人が?って思うくらいの人なの。
同じ女性として、憧れちゃうわね。」

 ミサトがユイの事を話しているのを聞いて、
 マヤがミサトに質問した。

「そんなに素晴らしい人なんですか?その碇君のお母さんて」

「そうよ〜。アタシなんて一辺でファンになっちゃた。
マヤちゃんもきっとそうなっちゃうわよ。」

「一度、お会いしたいですね。」

「半年後には会えるわよ。」

「半年後・・・・・ですか?」

「そ!今はご夫婦で海外出張中だから。
その間だけシンジ君を預かったの。」

「へ〜、そうゆう訳なんですか〜。」

 今までミサトとマヤの話を聞いていたリツコが口を開いた。

「確かに、あのご主人に何故あの奥さんがって言うのは、
皆、不思議に思う見たいね。私もその話聞いた事があるわ。
何でも、お二人の付き合いは学生時代からで、その時も、
周りは首を傾げてたらしいわよ。」

「先輩は何故、そんなに詳しいんですか?会った事があるとか。」

「一度だけね。」

「それにしちゃあ、詳しすぎない?」

 リツコの発言に対しミサトが突っ込む。
 マヤもミサトの言っている事は、尤もだと頷いている。

「私の母親が、碇氏と同じ職場なの。と言うより部下なの。
だから、母から聞いたのよ。

「「ああ、そうなんだ<ですか>。」」

「そうゆう事。その他にも色々聞いてるから、興味があるの。
どんな息子なのか。で、どっちに似てるの?その子。」

「シンジ君はお母さん似ね、幸い。」

「それはひどいですよ、ミサト先生。」

「だってマヤちゃんは、見てないからそう思うのよ。
一度あの夫婦を見て、同じ事を言えるとしたら、
マヤちゃんは一度検査したほうが良いわね。」

 本人がいないと思って、ミサトはとんでもない事を言い出した。
 聞いていたリツコも笑いながら言った。

「マヤ、私の感想も限りなくミサトに近いわよ。」

「先輩までそんな事を言って・・・・・でも、私もますます会ってみたくなりました。」

 ミサトは歓迎会の時に、シンジに写真を出してもらって、
 マヤ達に見てもらおうと考えた。

「シンジ君て、お母さん似なら可愛くって女の子にもてるんじゃない?」

「うん、結構可愛いわよ。
多分、もうシンジ君に目を付けてる女の子は、何人かいると思うわよ。
アタシはあの子の目がとっても良いと思うの。」

「目?」

「何て言うか・・・・・そう、真っ直ぐなの、それに綺麗だし。
アタシ、あの目を見て、あの子の事が一遍に気に入ったの。」

 リツコもマヤもそんなミサトを見て言った。

「貴方がそう思うのなら、余程いい目をしてるのね。」

「私も今日は授業があるから、楽しみだわ。」

「絶対、そう思うって。マヤちゃんも気に入るわよ。
・・・・・それで、二人とも大丈夫なんでしょ?」

 ミサトは二人に確認した。

「ええ。」

「はい。」

「よっし、決まり、ね。」

「何か持っていった方がいいの?」

 リツコが尋ねると、その横でマヤも頷く。

「う〜ん、別に何もいらないと思うけど・・・・・」

「あなたにあげるんじゃなくて、そのシンジ君によ。」

「そう思うんだったら、何かあげれば。」

「そうね〜。考えてみた方がいいかもね。」

「そうですね・・・・・でも、まだ日もあるし。」

「じゃあ、三人で一つの物でいいんじゃない。
あまり高いものじゃなくて、すぐにでも役立つようなもの。」

「そうね。でもあれくらいの年齢の男の子って、
何がいいのかしら?」

「「「う〜ん。」」」

 三人して考え込んでしまった。

「ゆっくり考えましょ。マヤちゃんの言ったとうり、時間もあるし。」

「そうね。そうしましょうか。」

「そうですね。じゃあ、皆で考えると言うことで。
そろそろいい時間だし。」

「そうしましょ。」

 こうして三人はそれぞれ自分の行くべき場所に向かった。






 昼休みの屋上。
 レイとヒカリはお弁当を食べていた。

「ヒッカリ〜、良かったね。休みの日に鈴原君と会えるようになって。」

 レイはニヤニヤ笑いながらヒカリに言った。

「な、な、な、何言ってんのよ。別に・・・・・私は・・・・・そんな・・・・・」

 いつもの通りの反応だった。

(相変わらず素直じゃないなぁ〜〜)

 そう心の中で思いつつ、

「まあ、いいからいいから。ヒカリの気持ちは昨日ハッキリ聞いたから。
ちゃんとわかってるって。」

「・・・・・・・・・・」

 昨日帰り道で、レイにカマをかけられた事を思いだし、
 ヒカリは更に顔を赤くして俯いた。
 そんな日からを見てるのが、レイはとても楽しい。

「今日、碇君が誘いに来たとき言ってたけど、
当日、葛城先生の料理が出るって言ったら
鈴原君達うれしそうだったね。」

 レイはヒカリに話すときはケンスケも居るのに、
 必ずトウジの名前を最初に出す。
 その方がヒカリが過剰に反応するからだ。
 ヒカリ自身、レイの考えている事はわかっている。
 わかっていてもどうしようもない。

「あの時ヒカリってば、ちょっとムッとしたでしょ。どうして〜?」

 今更理由なんか聞かなくても良い筈なのに、敢えてレイは聞いた。
 昨日うっかり白状したため、諦めたのか、ヒカリは言った。

「自分が良いなって思ってる人が、自分以外の人の料理がうれしいなんて、
そんなの見るのやっぱりイヤだもの。」

 ヒカリは初めて自分の気持ちを他人に話した。
 レイも少し驚いた。がうれしそうな顔をして言った。

「だったらヒカリの料理、鈴原君に食べさせてやったら。」

「どうやって?」

「う〜ん・・・・・例えばお弁当作ってやるとか・・・・・
休み時間になんか、よくパン食べてるじゃない。
あれだけ食べると、結構お金もかかるし、大変でしょ。
きっと喜ぶよ。」

「・・・・・うん、それはそう思うけど・・・・・でも何て言って渡すの?」

「う〜ん・・・・・作り過ぎちゃったとか、姉妹の分作ったけど、
今日は休んで余ったとか、何とでも言えるでしょ。」

 ヒカリは少し考え、

「・・・・・そうね。そうしてみようかな。レイ、ありがとう。」

 と言った。レイはかえって照れてしまった。

「な、何言ってんのよ。
その代わり私に好きな人が出来たら、相談に乗ってよね。」

「うん、わかった。」

「じゃあ、早く食べちゃお。時間がなくなっちゃう。」

「そうね・・・・・ところでレイ。」

「な〜に?」

「碇君の歓迎会って何か持っていった方がいいのかな?」

「そうね〜。どうしようか?」

「私達、何にも知らないでしょ、碇君の事。
だから何をプレゼントしたら良いのかわからないし・・・・・」

「う〜ん・・・・・じゃあ、今日帰りにでも聞いてみようか。」

「聞くって、誰に?」

「もちろん、本人に。」

「そうね〜。」

「そうすれば、鈴原君とも一緒に帰れるでしょ。」

「また、そうゆう事を言って。」

「ははは。ね、そうしよ。」

「・・・・・そうね、うん、わかった。」

「じゃあ、食べよ。」

 そう言いながら二人は、食事を再開した。





 放課後、シンジ達が帰ろうと準備をしていたらレイとヒカリが来た。

「これから帰るの?」

「ああ、そうや。」

「じゃあさ、一緒に帰らない?」

「別にかまへんけど、急にどないしたんや?」

「ほら、土曜日に招待されたから、その事で話があるの。」

 最初はどうしてレイ達が一緒に帰ろうなんて言い出したのか
 三人ともわからなかったが、そう言われて納得した。

「そうゆう事ならかまわないよ。」

 ケンスケが言う。それに同意するようにトウジも言った。

「せやな。ほな一緒に帰ろうか。」

「碇君はイヤなの?」

 ずっと黙っているシンジにレイが聞いた。

「え、あ、そうじゃないよ。ただ・・・・・」

「ただ?」

「・・・・・女の子と帰るなんて、今までなかったから・・・・・」

「ふ〜ん。」

 何故か、ちょっと嬉しくなるレイだった。
 ヒカリはレイの後ろにいたため、その顔を見る事が出来なかった。
 もし見えていたら、昼休みの復讐をされる事になっていただろう。

「シンジ、折角綾波達がこう言ってんだから、一緒に帰ろうぜ。」

「せやで、センセ。」

「そうだね、じゃあ一緒に帰ろう。」

「うん。ところで鈴原君。」

「なんや?」

「どうして碇君が<先生>なの?」

「そりゃあ、これから色々教えてもらわにゃならんからや。」

「何を教えてもらうの。」

「決まってるがな!ミサトセンセの私生活や。」

 その一言を聞いた、ヒカリの眉がピくりと動いたのを
 誰も見る事はなかった。
 が、レイはヒカリの気持ちが手に取るようにわかった。

(鈴原君も余計なことを言って・・・・・)

 心の中でそう呟いた。

「じゃ、じゃあ、そろそろ帰ろうよ。ね。」

「うん、行こう。」

 こうして無事(?)に5人は帰路につくことが出来た。




 レイがトウジとケンスケに聞いた。

「鈴原君達は碇君に何かプレゼントするの?」

「何のプレゼントや?」

「だって歓迎会でしょ。」

 トウジ達は只、ミサトの家に行きたいだけで、それが今回たまたま
 歓迎会という事で大儀名文が出来た事を思い出した。
 それはシンジにとっても同様であった。

 シンジは余り人付き合いがうまくない為、友達も少なかった。
 転校に関しては、それが一番の悩みでもあった。
 そんなシンジに自分達から友達になってくれた二人に
 出来る事はしてやりたかった。その為にミサトに頼んだのだが、
 良い理由が見つからず、つい歓迎会と言ってしまっただけだった。

「いや、別に何もいらないよ。」

「だってそれじゃあ悪いわよ。只、呼ばれるなんて。
ねえ、ヒカリ。ヒカリもそう思うでしょ?」

「うん、レイの言う通りだと思う。」

 そんなレイやヒカリに、シンジは自分の思っている事を言った。

「ホントにそんなの気にしないでよ。
僕は転校してきたばっかりで、友達もまだトウジやケンスケしかいない。
それに二人の事もまだ良く知らないし、僕の事も知って貰ってない。
だからその機会を作っただけで、何か貰おうなんて思ってないよ。」

「だから気を使わないで。何か貰うより友達になってくれる方が、
僕にとっては嬉しいから。」

 そう言って、ニッコリと笑いかけた。

 その顔に、レイだけでなくヒカリも魅入ってしまった。

「う、うん、わかった。これからもよろしくね。」

「わ、わたしも、碇君、よろしくね。」

「綾波さんも、洞木さんもありがとう。」

「私の事は<さん>を付けなくてもいいわよ。
鈴原君も相田君も<綾波>だから・・・・・別に<レイ>でも良いけど。」

「う、うん、でも名前で呼ぶのはちょっと・・・・・だから<綾波>でいい?」

 そんなシンジの反応を楽しみながら、レイは言う。

「うん、じゃあ今度からは、そう呼んで。」

「うん、わかった。」

 そんなシンジ達を見ていたケンスケがトウジに言った。

「なんとなく、あの二人、雰囲気良くない?」

「せやなぁ、なんかエエなぁ。」

「そう思うだろ?」

 トウジも人の事はわかるらしいと話を聞いていたヒカリは思った。




 途中でシンジ達と分かれたレイとヒカリは先程の事を話していた。

「碇君は、あんな事言ってたけど、本当にどうしようか?」

「そうね〜、まさか手ぶらってのも何かね〜。」

「じゃあ、何か差し入れってのはどう?」

「そうね、葛城先生だけじゃ、そんなに沢山作れないだろうし・・・・・
それにしよ!そうと決まれば、何を作るか決めなくっちゃ。
でも私、余り料理、得意じゃないから・・・・・ヒカリお願いね!」

「そうね。だったら帰りにうちによってく?」

「うん。」

「話は変わるけど、レイ、碇君の笑顔に見惚れてたでしょ!」

「え、は、ははは・・・・」

「でもその気持ち、私もわかる。私も見惚れちゃったもの。」

「でしょう。私思ったんだけど、あれって武器だと思わない?」

「思う思う。あれは女性に対してすごい武器よ。
レイもボーっとしてると、誰かに取られちゃうわよ。」

「な、な、何言ってんの。そんなんじゃないって。」

「そう?さっきの二人、結構良い雰囲気だったわよ。
鈴原達も、そう言ってたし。」

「そ、そんな事・・・・・」

「碇君て、レイにはあってそうな気がするけど。」

「・・・・・私も碇君て、良い人だと思うわよ。笑顔も素敵だし・・・・・
出会いがちょっとひどかったけどね。
・・・・でも・・・・私の気持ちもハッキリしないし・・・・・」

「そうね。別に急いで人を好きになる必要もないし。」

「そうゆう事。」

「じゃあ、この話はこれくらいにして帰ろうか。」

 二人は差し入れを何にするか考えながら帰っていった。
 この日差し入れをする事に決めた事を、二人は良かったと思い、
 他の出席者は二人に、感謝することになるのだった。


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