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08 歓迎会・中編

「ミサトさん、起きてくださいよ。もう10時ですよ。ミサトさん!」

 ドアをいくら叩いても、返事はない。
 シンジはドアを開ける事にした。
 案の定、号買うな寝相でミサトは寝ていた。

「こんな姿、トウジやケンスケが見たら何て言うかな?
・・・・・あまり人に見せられる物じゃない・・・・・よな・・・・・」

 シンジから見ても、ミサトは大人で綺麗だし、女性としても
 かなりレベルは高いと思う。だから皆に人気があるのは理解できる。
 が、それもこれもこんな実態を皆が知らないからだと思う。

「この人も普段はカッコイイのにな・・・・・
なんて考えてる場合じゃない・・・・・時間がなくなっちゃう。」

 大体の準備は終わっているものの、今日はミサトさんの料理がメインである。
 早くしないと間に合わなくなってしまう。
 それにシンジはミサトが料理をした所を、見た事がない。
 だからどのくらい時間がかかるのかわからない。
 下準備だけは終わってはいるが、時間が計れない。

「ミサトさん・・・・ミサトさん・・・・・起きてください。
ミサトさんてば。時間がなくなっちゃいますよ。」

「・・・・・う・・・・・う〜ん・・・・・あ・・・・シンちゃん・・・・・
おはよう。・・・・・どうしたの?」

「どうしたの?じゃないですよ。料理を始めないと、
皆来て、間に合わなくなりますよ。」

「・・・・・ああ、そうだっけ。」

「一応、下準備は終わってますから。シチューを作るんでしたよね。」

「あ、うん・・・・・その予定だけど。用意してくれたんだ。ありがとう。」

「じゃあ、僕はトウジ達を迎え行きますから。」

「え?シンちゃん出かけちゃうの?」

「はい、トウジ達はここの場所知ってますけど、
綾波や洞木さん達は知らないし・・・・・
迎えに行くついでに、買い物もしてこようと思って。」

「買い物って?」

「飲み物が無いじゃないですか。ミサトさんの以外。」

「そ、そう言われれば。」

「まさか、ビールを飲めば良い・・・・・なんて言わないですよね?」

「や、や〜ね。そんな事思う訳無いでしょ。」

 ミサトの反応を見て、少なからず思っていたことを確信した。
 飲み物を買ってこようと、考えたことは正しかったと思った。

「・・・・・とにかく、行ってきますから・・・・・後、お願いします。」

「は〜い、いってらっしゃ〜い。」

 心配になりつつも、シンジは出かける事にした。
 シンジを見送った後、ミサトはキッチンに立った。

「あら、シンちゃんたら、ここまで用意してくれたのね。助かっちゃうわ〜。
じゃあ、始めますか。腕によりをかけて、お〜いしい物を作っちゃおっと。」

 ミサトは楽しそうに、料理を始めた。





「お〜い、シンジ〜。ここや、ここ。」

 シンジはトウジ達を見つけると、走っていった。

「ゴメンゴメン。待った?」

「イヤ、俺もトウジも今来たとこさ。」

「綾波や洞木さんは?」

「なんや1時間遅れるらしいで。今朝電話があったわ。」

「そうなんだ。どうしたんだろ?」

「なんでも、差し入れを二人して、作っとるらしいで。
せやから、先に用事をすまして欲しい、言うとった。」

「そっか。じゃあ買い物をすませちゃおう。
トウジ達は何が飲みたい?」

「わしは何でもエエで。ケンスケは?」

「俺も何でもいいよ。」

「そう・・・・・綾波や洞木さん達は何がいいかな?」

「せやな〜、ジュース類でエエのとちゃうか?」

「ジュースか・・・・・それが無難かな。」

「買い物って言っても、飲み物買うだけだろ。
だったらその前に少しゲーセンで、時間潰そうぜ。」

「そうだね、そうしよう。」

 三人は、ゲームセンターで時間を潰すことにした。




「ちょっと、遅くなっちゃたね。」

「うん、でもしょうがないよ。」

「ゴメンね。私、料理苦手だから。」

「そんな事無いって。レイが手伝ってくれなかったら、まだ終わらなかったモン。」

「そお?ヒカリってやさしいし、料理も上手だし、ホント尊敬しちゃう。
将来、私のお嫁さんにならない?」

「何言ってんのよ。」

「あ、そうか。ヒカリは鈴原君と結婚するんだっけ?」

「な、な、な、な、な、何言ってんの?」

「真っ赤になって〜、もうヒカリってば、か〜わい〜!」

 レイは相変わらず、ヒカリをからかって遊んでいた。
 ヒカリの手には二人で作った、サンドイッチや鳥のから揚げ等の入った、
 バスケットを持っていた。ほとんどヒカリが作って、レイがそれを手伝った。
 ヒカリにしてみれば、自分の料理を初めてトウジに食べてもらうので、
 必要以上に力が入っていた。それが判っているからレイもからかいがいがある。

「バ、バカな事言ってないで、急ごう。」

 耳まで真っ赤にしてヒカリが言った。

「そうね。」

 そう言って、二人は待ち合わせ場所に、向かった。

 そこには買い物を済ませた三人が、待っていた。

「お待たせ〜、遅くなってごめんね〜。」

「ううん、大丈夫。適当に時間も潰してたし。それより何持ってんの?」

 シンジはヒカリの持っているバスケットを見て聞いた。

「差し入れ。レイと二人で作ったの。
サンドイッチやから揚げとか、簡単な物だけど。
葛城先生一人で皆の分も作るの大変だと思って。」

「そうなんだ。わざわざありがとう。実を言うと僕もそう思って、
ミサトさんに<手伝いましょうか?>って聞いたら、
<シンちゃんの歓迎会だからアタシが一人で作る。>って言われちゃったんだ。
只、一人で作るとなると量的に、心配だったから。」

 シンジの発言にレイが質問した。

「碇君て料理するの?」

「うん。可笑しい?」

「ううん、そうじゃなくて・・・・・只、男の子が料理するのって珍しくない?」

「そうかもね。僕も、こっちに来るまでは殆どした事がなかった。
たまに、母さんが居ないとき、何か食べたいなって思う時に作ったくらいで。
母さんが居るときは、自分でする必要なかったしね。」

「じゃあ、どうして覚えたの?」

「実を言うと、ホントはこっちで一人暮らしをする筈だったんだ。
だから母さんが覚えなさいって。最初は面倒でイヤだったけど。」

「けど?」

「今は割と楽しいかな、ミサトさんも美味しいって言ってくれるし。
人に誉められるとやっぱり嬉しいから。」

「そっか、碇君料理が得意なんだ。」

「別に、好きになっただけで、得意って訳じゃないよ。」

「じゃあさ、何時も食事は碇君が作ってるの?」

「今週はね。ミサトさんと交代でする事になってるから。」

「じゃあ、どうしてお弁当を作ってこないの?
いつもお昼パンでしょ。なんで?」

「う〜ん、一人分作るってのも面倒だし・・・・・
そう言う綾波は?自分で作ってるんだろ?
一人分て面倒くさくないの?」

「え、あ、あは、あははははは・・・・・」

「???」

 後ろで見ていたトウジ達は何とはなしに二人を見ていた。

「なんや、あの二人、最近雰囲気エエのとちゃうか?」

「この前一緒に帰ってから、良く話すようになったよな。」

 先日から、度々お昼や下校をともにしていた。

「なあ、イインチョ。そう思わん?」

「う、うん・・・・・まあね。」

「なんや?はっきりせんな〜。」

(・・・・・トウジって鈍いのか鋭いのか・・・・・)

 ヒカリは複雑な心境で、トウジを見ていた。
 自分が想いを寄せている事にはまるで気づかないのに、
 他人の事はわかるのだろうか?

(まったく男の子って・・・・・・・・・・)

 などと一人考えていた。

 そんなヒカリ達をよそに、シンジとレイは尚も話し続けていた。

「どうしたの?」

「いや、実は・・・・・ね・・・・・私、料理が苦手なのよ。
だから・・・・・お弁当もお母さんが作ってくれるの。
・・・・・恥ずかしいんだけど・・・・・ね。」

「あ、そうなんだ・・・・・ごめん・・・・・」

「う、ううん・・・・・だからね、今日のも殆どヒカリが作ったの。
私は、ちょっと手伝っただけ・・・・・。私も料理覚えようかな〜?」

「やってみると、結構面白いと思うよ・・・・・多分。」

「多分て?」

「いや、人それぞれ、感じ方違うから・・・・・」

「そっか〜・・・・・・・・・・碇君の場合、どんな時楽しいって感じる?」

「う〜ん・・・・・やっぱり、美味しいって言われた時かな。」

「だけど、私の場合、お母さんだけだし・・・・・お母さんに作るってのもな〜」

「そうだね〜・・・・・考えてみると僕も母さんに作るって、想像できないや。」

「だったら、碇君に食べてもらったら?」

「「えっ!!!」」

 突然、後ろからヒカリに声をかけられ二人とも驚いてしまった。

「だ〜か〜ら〜、碇君に食べてもらえば良いじゃない?」

 最初は、何を言われたのかレイは理解できなかったが、
 ヒカリの発言の内容がわかると、焦って言った。

「ヒカリってば、何言ってんのよ?」

「だから、何度も言わせないでよ!
料理を作って、それを碇君に食べてもらえばって言ったの。
そうすれば、作る楽しみがわかるわよ。」

「あ、そうか。碇君食べてくれる?」

「え、べ、別にいいけど。だけど・・・・・」

「だけど?何?」

「いや、僕でいいのかなって思って。」

「うん、食べて欲しいな・・・・・あ、でもその前に料理覚えなくちゃ。
ヒカリ、教えてくれないかな?」

「ええ、いいわよ。じゃあ後で相談しましょ。」

「うん、お願いね。碇君、楽しみにしててね。」

「うん・・・・・でも、いいのかな?」

 事の成り行きに戸惑いつつシンジは、そう言った。

「何が?」

「いや、僕だけが作ってもらって・・・・・さ。」

「だったら、碇君もレイに作ってやれば。
そうすれば、おあいこだし、自分の分も作れば二人分でしょ?」

「それもそうだね。綾波、食べてもらえる?」

「うん、食べてみたい!」

「じゃあ、決まりってことで。」

 完全に取り残された、トウジとケンスケはアッケに取られていた。

「何や知らんが、ホンマ、エエ雰囲気や。」

「ああ、俺達完全にカヤの外だね・・・・・別にいいけど。」

「せやな。今日の所は、ミサトセンセの料理で充分や。」

「そう言う事!」

 そう言って二人はシンジ達に近づいた。

「早く行こうぜ、そろそろ時間になるし。

「そうだね。少し急ごうか?」

「せやせや。センセ達を待たせたらあかん。」

 今度は女の子二人が後からついて行く形になる。

「ヒカリ。」

「何?」

「ありがとう。」

「いいのよ、別に。」

「後で、料理も教えてネ。」

「はいはい。私に任せなさい。」

「頼りにしてます。」

「私達も急ごう。」

 そういって二人は前を行くシンジ達を追いかけた。


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