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09 歓迎会・後編


 ミサトのマンションに着いたシンジ達は、
 部屋の前でリツコとマヤにあった。

「あれ、シンジ君、何処に行ってたの?」

「みんなを迎えにですけど。」

「と、言う事はミサト、今、一人?」

「そうですけど・・・・・どうしました?」

「いえ、ミサト一人だと、もう飲んでるんじゃないかな、と思って・・・・・」

「まさか〜・・・・・」

 リツコの指摘に、否定的なことを言ったが、
 満更、的外れでない事はこの1週間でしっかり学習した。

「とりあえず、入りましょう。」

 そう言って、扉を開けた。

「ただいま〜。ミサトさん、みんな来ましたよ。」

「「「「おじゃましま〜す。」」」」

 レイ達はそう挨拶をし、リツコ達はその後に続いた。
 心配をしたミサトは、幸いにもまだビールを飲んではいなかった。

「おっかえり〜。それといらっしゃ〜い。
あれ?リツコ達も一緒だったの?」

 ミサトはキッチンで料理の仕上げをしていたらしい。
 そんなミサトを見てリツコが言った。

「ミ、ミサト、あなた一体何してるの?」

「何って見てわからない?料理に決まってるでしょうが。

「何で、貴方がそんな事してるのよ。」

「だ〜って、そうゆうリクエストなんだもん。ネ〜〜〜〜シンちゃん。」

「・・・・・シンジ君、貴方、ミサトの料理食べた事ないの?」

「はい・・・・・今週は僕の当番だったから。どうしたんですか?」

「・・・・・ふっ、何も知らないという事は、幸せな事ね。
マヤ、私達は帰らせてもらいましょう。」

「え、先輩、どうしてですか?」

「そうか・・・・・マヤもまだミサトの料理の被害にあってないのか・・・・・」

 なんとなく、危ない事を言っているリツコにシンジは質問した。

「あの〜、リツコ先生?一体何の事なんですか?」

「シンジ君、今、ミサトが言ってたリクエストって、どう言う事なの?」

「はい、トウジやケンスケが一度で良いから、ミサトさんの料理を食べたいって。
それに僕もまだ食べたことないし。
ミサトさんにそ言ったら、『じゃあ、今日の分はアタシが作る』って。」

「・・・・・そう・・・・・。ミサト、一つ聞いて良い?」

「何よ。」

「私を誘った時は、もう決まってたの?」

「あったり〜」

 そう言ってミサトはニヤリと笑う。

「・・・・・・・・・・」

 リツコはミサトの返事に、答えることが出来ずこめかみを押さえた。
 そんなリツコにシンジは聞いた。

「あの〜、リツコ先生?どうしたんですか?」

「シンジ君、それに、相田君、鈴原君。
貴方達、悪い事言わな・・・・・・・・・・・・・・・」

 リツコがそこまで言った時、ミサトによって遮られた。

「ちょ〜〜〜〜〜〜〜〜っち、まった〜〜〜〜〜〜!!
リツコ、余計な事は言わないの。それもこんなとこで。
さっ、皆入って入って。リツコも入んのよ!!」

 シンジ達は何か取り返しのつかない事をしてしまったような、
 そんな気分を味わいつつ、部屋の中に入っていった。

 マヤはリツコの様子を見て、不安になりつつ、
 それでもリツコ自身が部屋に入った事に安堵し、
 その後に続いた。

「マヤ。」

「はい、何ですか?先輩?」

「今日、ここに来た事を不運と思って諦めなさい。」

「は、はあ・・・・・」

 それだけ言うと、リツコは何かに観念した様に
 目を瞑って、何も喋らなくなった。

 リビングに入ってみると、テーブルの上には既に飲み物とコップ、
 料理を食べるのに使う食器等が用意されていた。
 飲み物といっても、子供達の分は、シンジが買ってきたから、
 今、並んでいるのは大人用のアルコールだが。

「さ、みんな座って座って。今、ミサトさん特性のシチューを持ってくるから。」

 席に座ろうとしていた、レイとヒカリはミサトに言った。

「私も手伝います。」

「私も。それに葛城先生一人だと大変だと思って、
私達も少しですけど、食べるもの作ってきましたから。」

「そお?じゃあ、お願いしちゃおうかな〜。
この鍋敷きと、サラダとこの特製ドレッシングを運んでちょ。」

 二人はそれらを運ぶと、自分達の用意したものも並べた。
 サンドイッチ、鳥のから揚げ、ミートボール、一口サイズのコロッケ、
 卵焼き等である。お弁当に適したものばかりであった。

「なにゃ、えらいうまそうやな〜。わし、腹へってんねん。
まだ食うたらあかんか?イインチョ?」

 万年欠食児童のトウジは情けない声を出した。

「ダメに決まってるでしょ。みんな揃ってから。」

 ヒカリに窘められたトウジは、情けない顔をした。
 そこにミサトが、自慢(?)のシチューの鍋を持ってきた。

「おっまたせ〜。あら〜、凄いわね〜。
どれもみんな、おいしそう。アタシも負けてられないわ。」

「勝負以前だと思うけど・・・・・」

「リツコ、何か言った?」

「あら、聞こえなかったかしら。
耳が遠くなるなんて、老化現象の始まりかしら。」

「あ、あんたね・・・・・」

 雲行きが怪しくなり始めたのを、敏感に察知したシンジは

「ミ、ミサトさん、早く始めましょう。僕もお腹が空きましたから。」

 と言った。

「そりゃそうね。じゃあ飲み物を用意しよっか?
シンちゃん達の分は、買ってきたんでしょ?」

「はい。」

 シンジは先程買ってきた、ジュース類を出してみんなに渡した。
 ミサトはリツコとマヤにビールを渡した。

「みんな、行き渡ったかな?
じゃあ、シンちゃん、一言挨拶。よろしくね。」

 シンジはミサトにそう言われたが、ある程度良そうもしてたし、
 自分も空腹だったので早く食べたかったので、簡単に挨拶した。

「今日は僕の歓迎会をしてくれて、本当にありがとうございます。
本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いします。」

 シンジが座ると、代わりにミサトが立ちあがり喋った。

「じゃあ、みんな。乾杯しよう、乾杯。用意はいい?
それでは、かんぱ〜〜い。」

「「「「「「「かんぱ〜〜い」」」」」」」

ゴキュゴキュゴキュ・・・・・・・・

「プッファ〜〜〜。ん〜〜〜やっぱビールはエビチュよね〜〜〜。
ん?どったの、みんな?」

 ミサトの豪快な飲みっぷりに、シンジは叉かと思い、
 リツコは呆れ、その他の人は呆気に取られていた。

「ほらほら、ボ〜っとしてないで、ぷわ〜〜っとやろう、ぷわ〜〜と。」

 ミサトの一言でいち早く固まった状態から脱したのはトウジだった。

「そ、そうやな。そうしますか。わし、さっきから腹へって腹へって。
ほな、いただきま〜す。」

 トウジが呪縛から解けたのを期に、皆動き出した。

「これ、この唐あげ、むっちゃうまいで。」

「そ、そお。たくさん作ってきたから、どんどん食べて。」

 ヒカリはトウジに誉められたのが、余程嬉しかったのだろう。
 真っ赤になって照れながら答えた。

「このサンドイッチも絶品だね。」

 カメラ片手に写真を撮りながら、ケンスケが言う。

「どれもみんな美味しいわ。これ、洞木さんと綾波さんが作ったの?」

 マヤが感心したように二人に聞いた。
 レイは先程、シンジに本当の事を言ってしまったので、
 それには答えず、かわりにヒカリが言った。

「はい。レイと二人で昨日から準備して。」

「そう。よかったね、シンジ君。」

「はい、どれもみんな美味しいです。洞木さん、綾波、本当にありがとう。」

 シンジは二人に心からの感謝を込め、お礼を言った。
 ヒカリはうれしそうに、頷いた。
 レイは、多少割り切れなさそうな顔をしていたが
 シンジの笑顔を見て、まあいいか、と思った。

 ミサトは三本めのビールを飲み干すとリツコに言った。

「リツコ。さっきから気になってるんだけど、その荷物、何?」

「ああ、これ?シンジ君にどうかなって連れてきたけど。」

「連れてきた〜?って、やっぱり生き物?
さっきからガサゴソ、何か落としてると思ったら。
それが、例の物?」

「そう、シンジ君。君、動物好き?」

「動物ですか?結構好きですけど。」

「じゃあ、よかったら飼ってみない?これ。」

「一体、何ですか?」

「開けて御覧なさい。」

「はあ・・・・・え、これって・・・・・」

「そ、私が改良した温泉ペンギン。ペンペンよ。」

「改良?温泉ペンギン?」

 呆気に取られている僕にミサトさんが笑いながら言った。

「リツコはね〜、校医なんかしてるけど、その道の科学者としては一流なのよ。
リツコの母親はシンちゃんのお父さんと同じ職場の赤城ナオコ博士。
聞いた事ない?」

「父さんも母さんも、仕事の事、家では話さないから。」

「そう。まあとにかく、シンちゃんも気をつけないと、
リツコに改造されちゃうわよ。」

「ちょっと、ミサト。人聞きの悪い事言わないで。
で、シンジ君どう、この子飼って見る。
知能も高いから利口だし、手も余りかからないわ。」

 シンジは考えながらペンペンを見た。
 既に、レイとヒカリがペンペンで遊んでいる。

「僕は良いですけど、この家はミサトさんの家だから・・・・・」

 シンジはミサトを見た。
 ミサトはOKをだした。

「アタシはいいわよ〜。
第一それってアタシとリツコとマヤちゃん、三人からの気持ちだから。
それに非常食にもなりそうだし。」

「「葛城先生、何言ってるんですか!!」」

 レイとヒカリの見事なユニゾンだった。

「や、や〜ね〜。冗談だってば。二人とも真剣に怒んないでよ〜。」

「それならいいですけど。」

 二人は納得したようだった。

「それから、アタシの事は『葛城先生』じゃなくて『ミサト先生』よ。いい?」

「わかりました。」

 三人のやり取りを見ていたシンジは、改めてミサトに聞いた。

「ホントに飼って良いんですか?それに三人からって何ですか?」

「シンちゃんに何かあげようって思ったんだけど、
アタシもマヤちゃんも良いものが思いつかなくて、
リツコに一任したの。だから飼うのはモチOKよ!」

「ありがとうございます。
ミサトさんの了解が貰えたので、リツコ先生ペンペンを下さい。」

「じゃあ、この子お願いね。」

「はい。」

「と、言う事で話しがまとまったところで、アタシの作ったシチューを食べよう。
じゃあ、みんなお皿貸して。」

「あ、私はもうお腹一杯だから・・・・・」

「な〜に言ってんの!ちゃんと食べてもらうわよ。リ・ツ・コ!」

 そう言ってリツコを一睨みすると、
 ミサトは楽しそうにみんなにシチューの皿をまわした。

「葛城、じゃなくてミサト先生、このサラダは?」

 ミサトを手伝っていたレイがミサトに聞いた。

「その小皿にわけてドレッシングをかけて、みんなにまわして。」

「わかりました。」

 ミサトに言われた通り、サラダを取分けみんなに渡す。
 みんなの前にミサト特製のシチューとサラダが並ぶ。
 
 見た感じは、別にこれといって変なところはなかった。
 が、シンジは入っている材料は全て知っている。
 それにこのシチュー、言って見ればインスタント。
 簡単に言えば、固形の物を肉・野菜などと煮込みながら溶かすだけ。
 だから、香り自体、そう変わり映えしないはずであった。
 しかし、このシチューから漂ってくる香りは、
 明らかにシンジの記憶の中にある物とは違う。

 周りを見てみると、料理の好きなヒカリも不思議そうに首を傾げている。
 リツコはリツコで、まるで恐ろしいものでも見るような顔で、
 シチューを睨んでいた。
 シンジは部屋に入る前の、リツコの発言を思いだし、
 段々落ち込みそうになる気持ちを振り払うかの用に首を大きく振った。

 そんな周りの反応など気にする素振りもなく、ミサトが言った。

「さ、食べましょう。おかわりもあるから、ジャンジャン食べて!
じゃ、いっただっきま〜〜す。」

 そう言ってミサトは自分の料理をおいしそうに食べた。
 そんなミサトを見て、シンジやレイ、ヒカリ達も、そしてマヤも、
 リツコの言ってた事が大げさに言っただけだと思いこんでしまった。

「どったの?早く食べないと冷めちゃうわよ。
結構、美味しく出来てるわよ。これ。」

 と、周りを見てミサトが言った。

「そうですね。冷めたら美味しくないですからね。」

「「「「「「頂きます。」」」」」」

 リツコを除く全員が、一斉にシチューを口に入れた。

「「「「「「・・・・・う・・・・・」」」」」」

 シンジは慌てて、ジュースで流し込み、
 レイはシンクに駈け寄り、
 ヒカリはトイレに、
 トウジは涙を零しながら何とか飲みこみ、
 ケンスケは真っ青になりながら飲みこんだ。
 そしてマヤはスプーンを咥えたままの状態で気絶していた。

 そんなみんなをリツコは当然と言った顔で見ていた。

「何よ、何よ?みんなどうしちゃったの?」

 ミサトは、失礼ねと言わんばかりの顔で、みんなを見る。

「当然の結果ね。ミサトの料理を食べたんだから。
死人が出ないだけ、マシってとこじゃない。」

「あんたね〜、食べもしないうちから、何でそんな事言ってんのよ!」
そんな事言うんだったら、一口食べてみなさいよ!!」

「遠慮しとくわ。みんなを見ればわかるし、それに・・・・・」

「それに?何よ?」

「私はまだ、命が惜しいもの。」

 そんな二人のやり取りの中、我に返ったシンジが声を出した。

「ミ、ミサトさん。一体何をしたんですか?
僕の用意した物を、どうすればこのシチューになるんですか?」

 肩で息をしながらシンジは聞いた。

「別に、何もしてないわよ。ふつ〜に作ったのよ、ふつ〜に。」

「シンジ君。」

「何ですか?リツコ先生。」

「これでわかったでしょう?ミサトに料理させたら危険だって。」

「はい、なんとなく・・・・・」

 シンジ達の話しを聞いていたミサトが吼える。

「ま〜ったく。二人とも失礼ね!!
何よ何よ。ちゃんと食べれるでしょ!!」

「あのね〜、ミサト。ちゃんとって言うのは、
美味しく、安全に誰でも食べれて言える事なのよ。
あなた一人がって事じゃないの。」

「ミサトさん。料理はこれから僕が作りますから。」

「そ、そう?悪いわね。」

「いえ、僕のためでもあるから・・・・・」

 これからの料理当番が、シンジに決まったところで、
 レイとヒカリが声をかけてきた。

「あの〜・・・・・赤木先生。」

「どうしたの?私もリツコ先生でいいわよ。」
多分、マヤもマヤ先生が良いって言うと思うわ。」

「それじゃあリツコ先生、そのマヤ先生なんですが・・・・・
まだ、あの状態なんですけど・・・・・大丈夫でしょうか?」

 見るとマヤはまだ気絶していた。

リツコはマヤに近づき体を揺すった。

「マヤ、マヤ、しっかりしなさい。マヤ、マヤ。」

 何度か体を揺すられマヤは徐々に目を開けた。

「・・・・・あ、先輩・・・・・私・・・・・どうしたんでしょう?」

「もう、大丈夫よ。マヤ。」

 マヤはリツコに体を支えてもらい、周りを見た。
 そして自分の手に持っているスプーンを見ると、
 それを落とし、叫んだ。

「イ、イ、イヤ〜〜〜!も、もうシチューなんかイヤ〜!!!」

「可愛そうに・・・・・当分立ち直れないかもね。」

 それを見てリツコは呟き、溜息を漏らす。

(マヤちゃん・・・・・ゴメンね・・・・・)

 ミサトはリツコの発言に納得いかなげな顔をしても、
 マヤには、心の中でそう謝った。

「ミサトセンセにも、苦手な事、あるんやな・・・・・」

「そうだね・・・・・でも、それも情報としての収穫さ。」

 トウジとケンスケはそう言っていた。

「マヤ先生、大丈夫かな?」

「リツコ先生がいるから大丈夫でしょ。でも凄かったね、これ。
ヒカリは料理得意だから聞くけど、何でこうなったと思う?」

「私に分かるわけないでしょ。それよりレイ。
こうならないように、ちゃんと教えてあげるから頑張んなさい。」

 聞き方によっては失礼なヒカリであったが、
 マヤの騒ぎの為か、二人の会話は誰の耳にも届かなかった。

「まあ、色々あって賑やかだったけど、楽しいな。」

 そう思うシンジだった。


  コメント     ようやく一段落つきました。     次回から、紅い髪の少女が出る予定です。     『唯我独尊』『天下無敵』     ・・・・彼女のための言葉(?)でしょう。     ではまた。

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