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10 紅と蒼と・・・・・
歓迎会の翌日、シンジはレイと待ち合わせをしていた。
女の子と二人で会う、まして一緒に買い物などした事などない
シンジにとって、このシチュエーションは、戸惑うばかりであった。
(僕は何故ここに居るんだろう?)
今、シンジは昨日の事を振り返る。
『あ、そうか。碇君食べてくれる?』
『え、べ、別にいいけど。だけど・・・・・』
『だけど?何?』
『いや、僕でいいのかなって思って。」
『うん、食べて欲しいな・・・・・
あ、でもその前に料理覚えなくちゃ。
ヒカリ、教えてくれないかな?』
『ええ、いいわよ。じゃあ後で相談しましょ。』
『うん、お願いね。碇君、楽しみにしててね。』
『うん・・・・・でも、いいのかな?』
『何が?』
『いや、僕だけが作ってもらって・・・・・さ。』
『だったら、碇君もレイに作ってやれば。
そうすれば、おあいこだし、自分の分も作れば二人分でしょ?』
『それもそうだね。綾波、食べてもらえる?』
『うん、食べてみたい!』
『じゃあ、決まりってことで。』
そう言う事で、お互いにお弁当を作ることになった。
そして歓迎会が終わった後、ヒカリに言われた。
『レイはお弁当箱持ってるの?』
『持ってないけど。』
『碇君は?』
『僕も持ってない。』
『二人とも持ってないんだったら、買って来なきゃ。
明日、一緒に買いに行って来れば。』
『そうか。碇君、明日、暇?』
『え、べ、別に用事無いけど・・・・・』
『じゃあ、駅前の広場で待ち合わせしよ。ね!』
『ね、ねって・・・・・そんな事言って・・・・・』
『え〜、ダメなの〜?』
上目遣いに僕の顔を覗き込んだ。
『(可愛い・・・・・)わ、わかった。行く、行きます。』
『じゃあ、明日駅前で10時。決まりね。』
「何となく決まっちゃたけど・・・・・まあ、いっか・・・・・
それに、昨日の綾波、可愛かったなぁ。」
シンジは昨日の自分の顔を覗き込んだ時の、
レイの顔を思い出していた。
あの神秘的な紅い瞳が、少し潤んでいた様に見えたのは、
気のせいだったろうか?
「だけど、あの時の顔って反則だよな。
あんな顔をされたら、誰も断れないよ。」
シンジは一人にやけていた。
近くを歩く人達は、シンジを見て笑っていた。
今のシンジには、周りが見えてなかった。
シンジが一人、ニヤニヤしている時、レイは走っていた。
「ヤッバーイ、遅れちゃう・・・・・何で私って朝起きれないんだろう?
ちゃんと、目覚ましかけてるのにな・・・・・なんて考えてる場合じゃない。
急がないと、碇君に悪いよ〜」
レイが初めてシンジと会った、電話ボックスのある角を曲がった。
広場にシンジがいるのが見えた。
(あ、碇君、やっぱり来てる。
そういえば、ここで碇君に初めて会ったんだっけ・・・・・)
「碇ク〜ン。」
レイの呼ぶ声に、シンジが反応した。
声の下方を見ると、レイが走ってくるのが確認できた。
レイに向かって小さく手を振る、顔を赤くして。
息を切らせてレイが来た。
「はぁはぁはぁ・・・・・お・・・・・遅くなって・・・・・ごめんね。」
「そんなに走って来る事ないのに。今、時間ピッタリだよ。」
「でも・・・・・待っていてくれた事には、変わりないでしょ。」
息を整えて、レイが言った。
そんなレイに、シンジが話しかける。
「まあ、とにかく時間どおりだったんだから・・・・・
それより、そろそろ行こうか。」
「・・・・・そう・・・・・ね・・・・・」
「どうしたの?」
「うん、ちょっと思い出したの。ついこの前なのよね。
あの角で碇君とぶつかったの。」
「そうだね。あの時の綾波、怖かった。」
「あ、失礼ね・・・・・でもしょうがないでしょ。
気づいたら目の前で、鼻血出した男の子が目の前にいるんだもん。
で、私の格好が格好だったでしょ。」
「でもあの時は、綾波にぶつかって鼻血が出たんで、
別に下着を見てって訳じゃないし・・・・・」
「わかってるって・・・・・お互い様でしょ。ね。」
「そうだね・・・・・じゃあ今度こそ行こうか?」
「うん。」
「取敢えず、日曜雑貨だよね?お弁当箱って。」
「・・・・・多分・・・・・」
「多分て?」
「だ〜って・・・・・私知らないもの・・・・・」
レイは赤い顔をして俯いた。
「取敢えず、行くだけ行ってみよう。」
レイとSCに入っていった。
シンジにとって、レイと一緒の買い物は、
女の子と一緒に買い物自体初めてなので緊張していた。
レイの方はこの状況を楽しんでいた。
出会いから1週間程度であったが、最近何となくシンジが気になる。
シンジの横顔を見ながら、レイは考えていた。
最近のクラスの女の子達の会話を。
そして自分の行動を。
クラスメートの会話の中で、シンジの笑顔の事が話題になる事がある。
シンジを気にする女の子も、既に居るようだ。
でもシンジ自身、女の子と話すのが苦手らしく、今の所進展はない。
レイ自身、シンジの笑顔に惹かれている。
『レイ、ぼやぼやしてると、ホントに碇君、誰かに取られちゃうよ!』
ヒカリに指摘されたが、レイも授業中シンジを見ていることがあった。
レイの心の中で、シンジの占める割合が増えていた。
だから、ヒカリのお陰で生じた、お弁当を作る事、
そして一緒に買い物ができるようになったことを感謝していた。
何よりシンジの手作りのお弁当が食べられるのだ。
(私は、碇君の事、好きになりかけてるのかも知れない。
だって今、こうして二人で居られるのが、嬉しいもの。)
レイはシンジを見ながら思った。
「ねえ、これなんか可愛くない?綾波に合いそうな気がするけど。」
レイはシンジの選んだお弁当箱を見て、それに決めた。
白地に可愛いペンギンのワンポイントが入っていた。
「うん、ペンペンみたいで可愛い。碇君は?どれにするの?」
「何か、女の子っぽいのばかりで・・・・・」
「そうね・・・・・あ、これは?」
レイの選んだのは水色の物で、隅に錨が書いてある。
「錨と碇?何か、語路合せみたいだね。」
「・・・・・気に入らない?」
レイが心配そうに、覗き込む。
「そんな事ないよ。面白いし、
この色も綾波の髪の色みたいで、綺麗だし。」
「えっ?」
シンジは自分の言った事に気づき慌てた。
レイを見てみると、俯いている。
怒らせた、と思って慌ててフォローする。
「あ、その・・・・・変な事言って・・・・・ゴメン・・・・・」
「ううん、いいの。」
シンジはレイが怒っていないとわかって安心した。
「ねえ、碇君。私の髪の毛、綺麗?変じゃない?」
呟くような小さい声で、レイが聞いた。
シンジは最初レイが何を言っているのか、わからなかった。
「変て、どうして?」
「だって私、髪の毛が水色で、瞳が紅いのよ。普通と違うでしょ。
小さい頃、他の人と違うから悩んだ事もあったし、
そのせいで苛められた事もあったから。幸い今はないけど・・・・・」
そう言ってレイは顔を背ける。
「・・・・・何て言ったら良いかわかんないけど・・・・・
でも、僕は・・・・・最初に綾波を見たときから髪も、瞳も綺麗だって。
それしか感じなかった。」
「・・・・・ありがと。」
そう言って微笑んだレイの顔が、シンジを真っ赤にさせた。
「他の人と違う事って、その人にしかわからない事だけど、
・・・・・辛い事があったかもしれないけど・・・・・
綾波は綾波なんだし・・・・・・・・・・あれ・・・・・自分で何言ってんのか・・・・・
わかんなくなっちゃった・・・・・うまく言えないや。」
「うん、いいの。碇君の言いたい事、わかるから・・・・・
そう言ってくれて、私、嬉しいもん。
それに、私みたいなの私一人じゃないし。」
「お父さんか、お母さん?」
「ううん。従兄妹。」
「男の子?女の子?」
「男の子。小さいとき苛められたって言ったでしょ。
その時は、その子が庇ってくれたんだ。」
「そうだったの。」
小さい時の辛い思い出を話すとき、一瞬、寂しそうな顔をした。
綾波には笑っていて欲しい。悲しい顔は似合わない。
シンジはそう思った。だから。
「じゃあ、これからそんな時は、僕が綾波を助けるよ。守るよ」
思わず言ってしまった自分の言葉に、シンジ自身驚いた。
レイも驚いたように顔を上げ、シンジを見つめた。
そして、本当にうれしそうな顔をして、
「うん、ありがとう!」
と言った。
シンジは自分の言葉と、レイの笑顔に照れて真っ赤になる。
レイもそんなシンジを見て真っ赤になった。
その時、近くの階段の踊り場で少女の声がした。
「ホント、しつこいわね!!少しは言葉って物を理解出来ないの?
アンタ、バカァ?」
「なにぃ!馬鹿だぁ!そりゃあ俺達の事か?」
「アンタ、バカァ?他に誰がいるっての!!
大体、このアタシが、何でアンタ達みたいなのと、お茶飲まなきゃなんないの?
冗談じゃないわよ。鏡見て出直して来なさい!!」
見ると、男二人がナンパしてるらしい。
今は女の子の威勢に負けているが、男と女。
まして2対1である。
レイがシンジに言った。
「誰か・・・・・呼んできた方が良いみたい。」
「うん・・・・・でも間に合わないようだよ。」
男二人組が怒ったらしく少女の腕を掴んでいた。
それを見てシンジが歩き出した。
「碇君?」
レイが心配そうにシンジを呼んだ。
振り返って、ニッコリ笑う。
「さっき、綾波を助ける、守るって言ったろ。その僕が、今ここで逃げられないよ。」
「でも・・・・・」
レイが心配そうに呟く。
「多分、大丈夫。綾波はここに居て。」
シンジはそう言って歩き出した。
レイは周りを見るが誰も助け様とせず、
見て見ぬ振りをする野次馬に、怒りを覚えた。
が、今はシンジが心配で、すぐシンジを見つめた。
シンジは男達の近くに立つと声をかける。
「もう、やめたらどうですか?人も集まってますよ。」
その声に男達も、少女もシンジをみた。
「何だぁ?関係ねえ奴は引っ込んでろ!!」
「でも、みっともないですよ。」
「うるせ〜!あっち行ってろ!!」
シンジと男達を見ていた少女が首を傾げた。
(この男の子、見覚えがあるような・・・・・そんな気がする。)
レイはシンジが心配で、瞳が離せない。
シンジを見る限り、荒事には向きそうに見えないから。
男達もシンジを見てそう思ったのだろう。
「格好つけてんじゃねえ!」
一人がそう言って、シンジに殴りかかった。
「碇君!危ない!!」
レイが叫んだ。
その声を聞いた少女は、この少年が誰だかわかった。
(碇君?・・・・・て、もしかして、シンジ?)
シンジは殴りかかってきた男の拳を、右手で流し、掴みながら内に捻る。
背中で腕を固め、同時に足を払い男を倒す。
顔面から倒れる男が顔を床にぶつける直前に、自分の足で男の顔をカバーした。
もう一人の男は、シンジの顔に向かって蹴りを入れようとした。
シンジはその足を受け止め、残った軸足を払う。
バランスを崩し、仰向けに倒れる男の後頭部が床にぶつける直前、
男のベルトを掴み、引き上げる。
あまりに一瞬の出来事に呆然としている男達に、シンジは静かに言った。
「もう、やめましょう。こんな床でも当たり所悪ければ大変な事になるし、
僕も今みたいに、うまくカバーできるか自信ないし。」
シンジの言葉に、自分達がかなり手加減された事に気づいた男達は、
バツが悪そうに退散した。
(碇君て、カッコイイ・・・・・)
レイはシンジを見てそう思った。
そして、シンジに駈け寄り思わず抱きついた。
「・・・・・心配したんだから・・・・・」
「あ、綾波?!」
シンジはレイの突然の行動に慌てていた。
「アスカ〜お待たせ〜。」
「遅い!!何やってんのよ、アンタは。肝心な時に居ないんだから!
そんなことで、アタシと付き合いたいなんて、100年早いわよ!」
「!!アスカ?!」
シンジは助けた少女の名前を聞いて振りかえった。
レイに抱きつかれたままなので、レイもシンジが動いたのがわかる。
その少女はシンジを見て笑った。
「シンジ。久しぶり。」
「ア、ア、アスカァ?!」
レイはシンジと、シンジにアスカと呼ばれた少女を見た。
赤い髪の毛と蒼い瞳をした少女が立っていた。
「・・・・・碇君・・・・・誰?この人・・・・・」
レイは固まっているシンジに聞いた。
そんなレイに向かって、アスカと呼ばれた少女の横に居る少年が声をかける。
「レイ!」
「カ、カヲル?!」
そこには銀色の髪の毛と、レイのような赤い瞳をした少年がいた。
幼馴染と、従兄妹の久しぶりの再会だった。
コメント
この話しが私の中で一番書きたかったものです。
1話目を書き始めた時にはこの話の8割は出来てました。
10話に合わせた1〜9話なんです。
・・・・・なんていいかげんなんだろう。(A^^;;)
只、最初と少しずつ変わってしまったため、手直しに時間がかかりました。
当初レイと、カヲルは兄妹にする予定だったので・・・・・
両親の離婚、若しくは姉夫婦に養子等で・・・・・
でも暗くなりそうでやめました。
この話しのために、シンジに合気道をさせました。
レイがシンジに惹かれ始め、その思いを決定的な物にしたくって。
レイの心の奥深くにある傷を、癒す事の出来るシンジにしたくって。
只、その為の合気道でした。
今回は、ちょっとカッコ良すぎるシンジですが、
アスカの前では、いつも(?)のシンジに戻りそうです。
ではまた……苦情、罵倒、悪口、感想等なんでも受け付けしています。
PS
大人しい女の子が一人出る予定なのですが、
私の貧困なボキャブラリーの中では良い名前がありません。
可愛らしい名前があったら教えて下さい。m(_ _)m
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