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11 世の中って・・・・・
「久しぶり、シンジ!」
「アスカ?」
「・・・・・碇君・・・・・この人誰?」
レイは先程のシンジを見て、自分がシンジを好きな事に気づいた。
そのシンジを名前で呼ぶ少女が、目の前にいるのだ。
それも、同姓の自分が見ても、とても魅力的である。
レイの心の中で今、小さからぬ波紋が起きていた。
『レイ、ぼやぼやしてると、ホントに碇君、誰かに取られちゃうよ!』
ヒカリに言われた一言が、頭の中でリフレインする。
10分前だったら、笑っていられたろう。でも今はそんな事我慢できない。
(確認しないと・・・・・ちゃんと確かめないと・・・・・)
そう思って、もう一度声を出そうとした、その時。
自分の後ろから声がした。
「レイ!」
「カヲル?」
カヲルと呼ばれた少年は、レイに向かって驚いたような顔をしていた。
「どうしてカヲルがここにいるの?」
どうしてここに、自分の従兄妹が居るのか。
今、何が起きているのか・・・・・レイは混乱の中に居た。
シンジもレイと同様混乱していた。
が、レイのそれとは、まるで違っていた。
自分が助けた少女が、あのアスカである。
幼い頃、自分を苛めた女の子。
確かに他の子に苛められたときは、助けてもらった。
アスカが居なかったら、自分は外で遊ぶ事など出来なかっただろう。
或る意味で救世主でもあるが、シンジの深層心理はそう言ってない。
<アスカ=苛められる=逆らえない>
トラウマであった。
一方、アスカは目の前の二人を見ていた。
自分を見て固まっているシンジ。
そのシンジに、抱き着いている少女。
その少女のことを『レイ』と呼んだ少年に声をかける。
「カヲル、アンタあの子の事知ってるの?」
「え、うん。僕の従兄妹。名前はレイ。同い年だよ。」
「ふ〜ん。」
そう言ってレイを見つめた。
ぬけるような空と同じ青い髪、真紅の燃えるような紅い瞳。
そして真っ白に近い肌。それがほんのりと桜色に染まっている。
それによって究極の造形美に、命の通っている事がわかる。
(綺麗な子ね・・・・・)
アスカはレイが気に入った。
(シンジには勿体無い子ね。)
先程の男達を、簡単にあしらったシンジは、確かに昔と違うだろう。
だがアスカにとって、シンジはシンジで、
それ以上でもまた、以下でもない。
「くおぉらぁ〜〜!バカシンジ!!
何時までくっついてんの!!!」
シンジはその一言にビクッっと震えた。
その震えは、レイにも伝わった。
レイはシンジの顔を見た。
「ア、アスカ・・・・・何で・・・・・ここ・・・・・に?」
「何でって、アタシは今この街に住んでるの!
アンタこそ、何でここに居るのよ。」
「僕も先週から、こっちに引っ越して来たから・・・・・」
「じゃあ、叔父さまや叔母さまも一緒なの?」
「父さんと母さんは、今ニューヨークにいるよ。
NERFの本部移転の為の手続きに行ってる。
だから、今ここにはいないよ。」
「じゃあ、アンタ、何処に住んでんのよ?それに一人暮らし?」
「父さん達の知り合いで、僕の学校の先生の家でお世話になってる。」
「何処の学校?って言っても、この辺りだと第一中学?」
「うん。アスカは?まさか一緒?」
「違うわ。第2東京大学付属の中等部よ。」
「そうなんだ。凄い所にいるんだ。でも・・・・・」
「でも、何?」
「何時、日本に帰ってきたの?確かドイツにいた筈じゃ?」
「去年の暮れに帰国したの!」
「じゃあ、途中転入?・・・・・でもあの学校って選りすぐりの子供ばっかりで、
滅多に転入出来る所じゃ・・・・・あ、昔から頭良かったからね、アスカは。」
「あったりまえでしょ!アタシはドイツの大学をもう卒業してんの!
義務教育だから、学校行ってるだけなの!」
「そ、そうなんだ・・・・・」
「それよりアンタ達、何時までくっついてんのよ!」
「僕もそろそろ、離れた方が言いと思うよ。」
それまで黙っていたカヲルも言った。
二人に指摘され、シンジとレイは自分達の格好に気づき、
慌てて離れた。今までレイはシンジに抱きついたままだった。
それこそ<ボッ>っと、音が聞こえそうなくらい、一瞬で真っ赤になる二人。
レイはシンジを見たが、まだ話しを聞ける状態でない様に見えた。
その為、視線をアスカとカヲルに向けた。
「カヲル、どうしてここに居るの?」
「どうしてって、今この街に住んでるから。」
「何時から?それに、こっちに来てるならどうして連絡くれないの?」
「親戚関係は誰にも連絡してないよ。だって僕、無理を言って帰ってきたから。」
「無理を言って?・・・・・どう言う事?」
「親の反対を押し切って帰国したのさ。」
「???」
そう言って、ニコリと笑う。レイは何が何だか、訳がわからない。
「簡単に言うと、アスカと離れたくなかったから。」
普通だったら、照れて言えないような事をサラリと言った。
「バ、バカ。何言ってんのヨ。」
隣にいたアスカの方が照れている。
そんな二人を見て思った。
この二人、交際っているならいいな、と。
そうすれば、アスカにシンジを取られる心配が無くなる。
シンジとアスカの関係は、只の知りあいには思えないから・・・・・
レイは自分が一番聞きたい事、さっきシンジに聞こうと思った事を聞いた。
「じゃあ、カヲルはこの人とお交際してるの?」
その問いにはアスカが答えた。
「ジョーダン!只の友達よ。と・も・だ・ち!!」
「・・・・・だってさ。」
アスカは腰に手を当て胸を張って答える。
それを見てカヲルは、やれやれ、といったポーズを取った。
「カヲル。いい加減アタシの事を紹介しなさい!!」
「あ、そうか。レイ、この子が今言ったアスカ。僕が大事に思ってる人。
で、アスカ。この子がレイ。さっきも言ったけど僕の従兄妹。」
カヲルは臆面もなくまた照れるような事を言う。
完璧にマイペースを貫く。
「まったく、恥ずかしいから止めなさいっての。」
アスカはそう言いながらカヲルを睨む。
そしてレイに向かって手を出す。
「アタシはアスカ。惣流・アスカ・ラングレー。
ドイツ人と日本人のハーフなの。よろしくね。」
「私、綾波レイです。こちらこそよろしく。アスカさん。」
「アタシの事はアスカって呼んで。」
「じゃあ、私の事はレイって呼んでください。」
「肩苦しいから、敬語はやめよう。ね。」
そう言ってお互い握手をしながら微笑む。
レイの笑顔を見ながら、アスカは思った。
(この子、レイってホント綺麗な子ね。
カヲルと同じ紅い瞳をしてるけど、カヲルの包み込むような瞳じゃなくて、
凄くやさしい瞳をしてる。ホントシンジには勿体無いわね。)
「ねえ、レイ。」
「え、何?」
「シンジと交際ってんの?」
アスカは探るようにレイの顔を覗き込む。
レイは顔を赤くして俯いてしまう。
アスカはシンジに改めて聞いた。
「シンジ、アンタ達交際ってんの?」
アスカは、嘘をついたら只じゃおかない、と目でシンジに言う。
レイはシンジがどう答えてくれるか、不安げな顔を向ける。
「つ、交際ってるって・・・・・そんなんじゃ・・・・・まだ・・・・・」
レイの顔が落胆の色を見せるが、シンジにそれを確認する余裕などない。
「まだ、何よ。ハッキリしなさい。バカシンジ!!」
シンジがハッキリしないのでアスカが切れる。
アスカの『バカシンジ』にレイが反論する。
「碇君はバカじゃない!」
声自体は小さかったが、ハッキリ、意思を込めて言った。
一瞬、呆気に取られたアスカだったが、それでアスカは二人の関係を察した。
(なるほど・・・・・そう言う事か・・・・・つくづくシンジには勿体無い子ね。
でもシンジも相変わらずみたい・・・・・レイも苦労するかも・・・・・)
何となくレイが不憫になり、ついシンジを睨む。
何故睨まれたのかわからないが、シンジは思わず固まった。
「そろそろ・・・・・いいかな?・・・・・僕も紹介してよ。」
黙っていたカヲルが、静かに言った。
その一言で、アスカがシンジに向かって喋る。
「シンジ、これがレイの従兄妹のカヲル。」
「これ、は酷いな。よろしく。僕は渚カヲル。カヲルって呼んでくれれば良いよ。」
そう言って手を出す。
「あ、僕は碇シンジ。アスカとは幼馴染で、綾波とはクラスメートなんだ。渚君と・・・・・」
「カ・ヲ・ル!」
「あ、ゴメン。カヲル君とアスカってどうゆう関係?」
それにはアスカが答えた。
「だから、友達って言ったでしょ!アンタ、人の言ってる事聞いてないの?!」
そう言われても、今までパニックに陥っていたシンジに、
アスカ達の会話は届いていなかった。
「友達って、只の友達?」
「只の友達じゃあないわよ。カヲルはアタシの『下僕2号』よ。」
轟然と言う。2号?
シンジはイヤな予感がしてアスカに聞いた。
「2号って・・・・・じゃあ、1号は?・・・・・って・・・・・まさか。」
そう言って自分を指差す。アスカは大きく頷いた。
「そ、当然アンタよ!何決まってる事聞いてんのよ。
昔からそうだったでしょうが!」
シンジは目の前が真っ暗になった。
カヲルは呆れたようにアスカを見た。
レイは呆気に取られている。
そんな三人を見ながらアスカがカヲルに言った。
「カヲル、そろそろ時間じゃないの?」
「あ、そうだね。そろそろ行かないと。」
「カヲル、何か書くものない?」
「あるよ。・・・・・・・・・・はい。」
「ありがと。」
カヲルからペンとメモを受け取ると、
アスカは自分とカヲルの連絡先を書いた。
それをシンジとレイに渡す。
それとペンとメモも渡し、連絡先を書いてもらう。
レイとシンジからメモを受け取ったアスカは言った。
「シンジ、後で電話するから。レイも電話して良いでしょ?」
「ええ、私も電話する。」
そう言った後カヲルを見る。
「カヲルも良い?電話して・・・・・ちゃんと聞きたいから・・・・・」
親戚には話してないと言った、カヲルの言葉が気になったから。
「いいよ。僕も久しぶりにレイと話したい。」
「お母さんには、カヲルに会ったこと、言って良いの?」
「ああ、叔母さんならいいさ。それに黙ってるのレイも辛いだろうし・・・・・」
そう言って笑った。それがレイには嬉しかった。
何時も自分に優しかったカヲルだったから。
「じゃあ、またね!」
そう言ってアスカとカヲルは離れていった。
シンジはまだ完全には立ち直っていなかった。
「碇君・・・・・碇君・・・・・」
「え、あ、何?」
「私達も、行こうか?買い物まだ終わってないから。」
そう言われて、シンジは自分達が何故ここにいるのか思い出した。
「そうだね、買い物に来たんだったね。」
ようやく自分を取り戻したのか、照れたように笑って、
シンジはそう言った。
「じゃあ、お弁当箱はこれに決めて、その後ご飯でも食べようか?」
シンジはレイにそう言った。
「うん。私もお腹すいてたんだ。」
そう言うと、レイはシンジの手を引いてレジに向かった。
急に手を繋がれてシンジは少し焦っていた。
顔が自然と赤くなる。
レイは、自分がこんなに積極的になれた事に、自分自身驚いていたが、
(さっきは抱きついちゃったし、こうしてると安心するから・・・・・)
そう思い、握った手に力を入れ、シンジを引っ張って行った。
買い物を終え、お昼を食べた後シンジとレイは公園で休んでいた。
「今日は色々あったね。」
「うん。まさかあんな所でカヲルに会うとは思っても見なかったし・・・・・」
「カヲル君て綾波の従兄妹だよね。
今日言ってた、苛められたとき助けたのが彼なの?」
「そう。碇くんの幼馴染のアスカってどんな女の子だったの?」
「今日見たまま。ぜんぜん変わってないよ、アスカは。
自信家で、強くって・・・・・昔は僕も、綾波と一緒で苛められたんだ。
それをアスカに助けてもらってた。
アスカが居なければ、外でなんか、きっと遊べなかったよ。
・・・・・・・・・・でもアスカにも苛められたけどね。」
「でも、今日の碇君、強かったし格好良かったよ。
昔、苛められてたなんて、信じられない。」
「前にミサトさんにも言ったんだけど、
アスカが引っ越した後、外に出なくなっちゃたんだ。
でもそれじゃダメだからって、父さんに合気道の道場に入れられたんだ。
最初は毎日ぼろぼろになってて、毎日イヤだった。
でも少しずつ強くなって来るのが自分にも分かるようになると、
それが自信になって、少しずつ外で遊べるようになったんだ。」
「あれって、合気道だったんだ。
私そう言うのわかんないけど、今日の碇君て、ホントに格好良かったよ。
カヲルの変わりに、私を守ってくれるって言ってくれた時、
ホントに嬉しかった。私、今日の事は忘れないよ。」
レイはシンジの顔を見てそう言った。
その顔は頬が赤くなっていた。
シンジはレイの顔を見て、さらに赤くなっていた。
自分がレイに言った言葉を思い出していた。
『僕が綾波を助けるよ。守るよ』
今更ながらに自分の言った事に照れてしまう。
「ホントに守ってくれるよね?碇君。」
レイがシンジの顔を覗き込むように言った。
「僕の出来る限りの事はするよ。約束する。」
「・・・・・ありがとう。」
「小さい頃、女の子に助けられてた僕に、
綾波が守れるかどうか、わからないけどね。」
「そんなことないよ。」
「そうかな?・・・・・アリガト。
ところで、今日はこれからどうしようか?疲れたから帰る?」
「碇君は?」
「夕ご飯の支度もしないといけないし・・・・・
ミサトさんには料理させられないから。」
「そうね・・・・・あれ、凄かったものね・・・・・」
レイはミサトの料理を思い出したのか、寒そうに肩を竦めた。
「ホントは料理を手伝いたいけど、お母さんに今日の事を話さないと。」
「じゃあ、また明日。」
「うん、今日は楽しかった。またね。」
そう言ってレイは帰ろうとしたが、シンジは思い出したように声をかけた。
「あ、綾波。お弁当箱、貸して。」
「あ、そうね。はい、これ。碇君のお弁当、楽しみにしてるから。」
「頑張ってみるよ・・・・・ミサトさんのより美味しいの作るから。」
手を振って二人は、それぞれの帰路についた。
「お母さん、今日カヲルに会ったよ。」
レイは家に着く早々、レナに言った。
レナもやはり知らなかったと見えて、驚いた顔をしていた。
「カヲルが?じゃあ、姉さん達も一緒に帰ってるの?」
「何か違うみたい。無理に帰って来たって言ってた。」
「無理にって?どう言う事?じゃあ姉さん達はまだドイツにいるの?」
レナは訳がわからないという顔をしている。
「私に聞かれてもわかんないよ。
電話番号聞いたから、後でかけて聞いてみようよ。」
「今じゃダメなの?」
「まだ出かけて帰ってないと思うよ。
日本に帰ってきた理由の女の子と出かけてるから。」
「日本に帰ってきた理由の女の子?」
レナはますます混乱したようだった。
レイにしたところで、全部わかっている訳ではない。
「うん、アスカ・・・・・惣流・アスカ・ラングレーって言う子で、
その子が帰国するって決まって、
離れたくないから帰って来たって言ってた。」
「惣流って言った?今。」
「うん。惣流・アスカ・ラングレーって言う子。」
「惣流!・・・・・キョウコの子供だわ。キョウコも帰国してたんだ。」
レナは驚いたような声を出した。
レイも自分の母親がアスカの母親と知り合いとわかると驚いた。
「お母さん、アスカのお母さんのこと知ってるの?」
「ええ、大学時代の親友よ。」
「親友?」
「そうよ。私と、キョウコと、後一人、碇ユイって子。
美人三人娘って有名だったのよ。」
「お母さん、今碇って言った?」
「ええ、言ったけど・・・・・何故?」
「私の友達に碇シンジ君て男の子が居るけど、関係あるのかな?」
「なんだ、レイはシンジ君を知ってるの?」
今度はレイが驚いた。
レナがシンジの事を知っていたのだ。
「ええ、前にユイから電話があったわ。
『息子のシンジがそちらに行くから。半年後には私達も行くから、
それまでシンジに何かあったらよろしくね。』って。
シンジ君がレイの学校に入る事は知ってたけど、
まさかシンジ君と、もう友達になってるとは思わなかったわ。
その上、キョウコの子供とも友達になってたなんて・・・・・
まして、カヲルが追いかけて来た子が、キョウコの子供だなんて・・・・・
世の中って狭いわね。」
レナはしみじみと言った。
そして思い出したようにレイに聞いた。
「キョウコの家の電話番号、知ってるの?」
「一応、アスカに貰ってあるけど・・・・・」
「教えて、かけてみるから。」
レイは電話番号を教えた。
レナは番号を控えると、楽しそうに電話をかけに行った。
レイは自分の部屋に戻ると今日の出来事を整理した。
「碇君の幼馴染のアスカのお母さんが、私のお母さんの親友で、
お母さんのお姉さんの子供のカヲルは、アスカを追いかけてきて、
そして碇君のお母さんも、私のお母さんの親友・・・・・・・・・・
お母さんじゃないけど、世の中って広いようで狭いわね。」
今日一日、驚く事ばかりだった。色々な事が多すぎた。
でもやはりレイにとって一番心に残るのはシンジの事だった。
(今日は疲れたけど、楽しかったな・・・・・シンジ君格好良かったし・・・・・
私の事、守ってくれるって・・・・・嬉しかった。
明日は私の分も、お弁当作ってきてくれるし・・・・・
それだけでも他の女の子より、一歩リードよね。
ヒカリのお陰だわ。感謝しなくちゃ。
そうそう、私もお料理覚えなくちゃ。家でもお母さんに教えて貰うようにしよっと。
碇君に嫌われないようにしないと、ヒカリの言う通りになっちゃうもんね。)
そう考えると早速母親の所へいくレイだった。
コメント
何か、説明ばっかりになってしまったような・・・・・(^^;;;
稚拙ですいません。
折角出てきたアスカとカヲルですが、当分お休みです。(予定?)
それとアスカの設定をハーフにしました。
母親を日本人にしたため・・・・・
(ドイツ人の父と日本人の母)
次回から、また学校がメインになります。
ではまた……苦情、罵倒、悪口、感想等なんでも受け付けしています。
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