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12 料理とお弁当
「おっはよう!ヒカリ。」
いつもの通学路を歩いていると、前の方にヒカリを見つけ、
追いつくように走り声をかけた。
「おはよう。今日は随分余裕があるわね。珍しく早起きできたの?」
ヒカリはレイが朝弱いのを知っている。
殆ど、本を読んでいて、夜更かしするため起きられないのだが。
「今朝は、少し早き起きて、朝食の用意を手伝ったの。
これからは料理を覚えなくちゃでしょ。」
「へー。なかなか殊勝な考え方じゃない?
誰の為かは知らないけど・・・・・私は良い事だと思うわよ。」
ヒカリは意味ありげにレイを見ながら言った。
「へっへー。そうでしょ。頑張って碇君に美味しいって言って貰うんだ。♪」
冷やかすつもりで言ったのに、レイ自身がシンジの名前を言ったので、
ヒカリは呆気に取られてしまった。
「ど、どうしたの?」
「え、なにが?」
「だって今・・・・・碇君の名前が出た・・・・・碇君に美味しいって言って貰うって。」
「うん、そう言ったよ。・・・・・ヒカリ・・・・・」
「何?」
「私、碇君が好き。昨日ハッキリわかった。」
レイが言いきった。自分は碇シンジが好きなんだと。
「一体何があったの?昨日何かあったんでしょう?」
ヒカリは昨日レイとシンジが買い物に言った事を知っている。
ヒカリ自身がそう仕向けたから。
だから、レイの突然のこの告白も、昨日何かがあったからこそだと思った。
ヒカリに問われて、レイは昨日の事を掻い摘んで説明した。
自分が昔小さい頃、苛められていた事。
それを庇ってくれた従兄妹のこと。
その従兄妹がいなくなってからの事。
それを話したらシンジが従兄妹に代わって自分を守るって言ってくれた事。
そのシンジの一言が本当に嬉しかった事。
そして懐かしい人と再会した事。
当然、その前にシンジの勇姿を熱く語った。
その格好良いシンジを見て思った自分の正直な気持ち。
シンジの事を名前で呼ぶ少女を見て、不安になった事。
ヒカリが言ってた一言が頭にあり、そんな事はイヤだと確信したこと。
全てをヒカリに話した。
ヒカリはレイの話を聞いて嬉しくなった。
レイ自身の口からも出たが、レイの髪と瞳、そして肌の事。
レイが言ったように、あからさまな苛めは無いものの、
今でも好奇な目で見られる事はあるのだ。
その事自体レイも当然知っている。
それでも、持ち前の明るいキャラクターと神秘的な美しさとで、
それを吹き飛ばしている。
が、それでも本当は傷ついているのだ。人にそれと見せないだけで。
レイは言わないが、レイが人を好きにならないのは、
その為なのではないかと、ヒカリは考えていた。
そんな、レイの気持ちを理解してるヒカリにとって、
シンジの優しさが嬉しかった。自分でもこんなに嬉しいのだ。
レイにとってどれほど嬉しい事か容易に想像できる。
自分の容姿について、只綺麗と言ってくれた。
そして、守ると言ってくれた。
あの優しい微笑で、少し照れたように。
そううれしそうに話すレイを見て、ヒカリも嬉しくなった。
それは親友として当然の事だった。
「あれ、嬉しそうな顔してどうしたの?」
レイに聞かれて、ヒカリは言った。
「良かったね。碇君みたいな人に会えて。」
「・・・・・うん・・・・・アリガト、ヒカリ。」
ちょっと、湿っぽくなりかけた雰囲気を払うように言う。
「これで、レイにからかわれないですむし、これからは私がレイをからかえるもんね♪」
「あ、それズルイ!」
「ズルくないわよ!今まで散々人の事からかったの、誰?」
そう言って、笑いながら睨む。
「私だって、黙ってからかわれたりしないもん。」
照れながら、少し拗ねたように言う。
「でも、結構ライバル多いかもよ。碇君人気あるみたいだし。」
「うん、わかる。だからまずお料理覚えるの。ヒカリ、協力してネ。」
「わかってるって。料理の事なら、このヒカリ様に任せなさい!」
ヒカリは胸を張って言った。
「頼りにしてます、先生!」
お互いの顔を見合わせ、笑いながら登校した。
その頃トウジとケンスケはある相談をしていた。
それは奇しくもヒカリの発言を裏付けるものだった。
「なあ、トウジ。」
「何や?」
「シンジの写真、売れると思うか?」
「何や、いきなり。何でそないな事聞くんや?」
「いや、昨日ちょうど街中で先輩に会って言われたんだ。
『相田君のクラスに可愛い転校生が来たんだってね。』って。
その時に『その子の写真ないの?』って言われた。
俺は今まで女の子の写真で小遣いを稼いだけど、
シンジみたいの良い被写体があれば、
新しい販路が開けるんじゃないかって、そう思ったんだ。」
「うーん・・・・・確かにそうかもしれんが・・・・・けど・・・・・」
「けど?」
「新しい販路言うたかて、おいそれとでけへんのとちゃうか?」
「すぐには無理さ。でも少しずつ、少しずつ広げていくさ。
それに、これからだって転校生は増えるだろう?もしかしたらまたシンジみたいな
女の子受けの良いのが来るかもしれないだろう。その時の役にも立つさ。」
「そりゃそうやな。よっしゃ!その協力せいちゅうんじゃろ?」
「そう言う事。」
「その代わり・・・・・わしが女の子の写真買うときは友達価格やで。」
「わかってるって。」
トウジとケンスケの新たな計画は、ここに始まった。
女の子の写真だけでなく、友達まで自分達の犠牲にする。
相田ケンスケ・・・・・鬼畜の証明だった。
無論トウジも同罪。
だが今は、この二人に制裁を、加えろ事の出来る人物はまだ居なかった。
シンジはSHRの少し前に教室に飛び込んできた。
今朝から始めることになったお弁当作りに、必要以上の時間がかかった為だった。
朝、ちゃんと目覚ましが鳴る前に起きて、朝食の準備をしてミサトを起こした。
そこから計算が狂った。
お弁当を作っているシンジに、ミサトが必要以上に突っ込んできた。
シンジがレイの分だと白状すると、そこから拍車がかかり最後には、
「ふーん、シンちゃんてアタシには作ってくれないんだ〜〜〜。
ぶぇっつにいいけど〜〜〜お姉さん、悲しいわ〜〜〜。」
等と言って、拗ねて見せる。
シンジにしても、そう言われると返す言葉がない。
オロオロしていると、楽しそうに笑って、
「ジョーダンよ!ジョ・ウ・ダ・ン。
アタシも応援するから頑張ってね♪」
そう言ってニッコリ笑う。
いい玩具にされている状態だった。
そんな事があった為に、時間ぎりぎりになったのだった。
「何や、珍しく遅かったなー。寝坊でもしたんか?」
教室に駆け込んできたシンジに真っ先に声をかけてきたのはトウジだった。
「寝坊した訳じゃないよ。」
シンジは言いながら自分の席についた。
レイはシンジに挨拶をした。
「おはよ。碇君。」
今日、ヒカリに言った事を思い出したのか、少し顔が赤い。
シンジも昨日の事がある為照れている。
「おはよう。ちゃんと作ってきたよ。」
「ホント?アリガトウ・・・・・でもそれで遅くなったの?」
心配そうにシンジの顔を覗き込む。
「違うよ。ミサトさんにからかわれたんだ。綾波の分まで作ったから。」
「え、ゴメンね・・・・・迷惑かけちゃった?」
「そ、そんな事ないよ。気にしないで。僕も楽しいし。」
そう言われれば嬉しいのを隠せないのか、俯いてしまう。
そんなレイを見てシンジは可愛いと思ってしまう。
レイとシンジが黙ってしまったときにミサトがタイミング良く入って来た。
朝のSHRはたいした連絡事項もないのかすぐに終わり、
ミサトは教室から出て行った。
が、意味ありげなウインクをシンジに送るのを忘れなかった。
「言わなくったって、あれじゃあ何かあるって言ってるようなもんだよ・・・・・」
肩を竦めて溜息を吐いた。
「シンジ、今のミサトセンセのあれ何や?」
「わかんないよ。」
「ホントか?」
シンジの思った通り、トウジとケンスケが突っ込みを入れる。
「せやかて・・・・・」
そう言ってサラに突っ込もうとした時、ヒカリが遮った。
ヒカリにしてみれば、ミサトのウインクが何を意味するか、
おおよその検討がつくから。
「トウジ、碇君がわからないって言ってるんだから。」
それでも何か言いたそうなのを睨んで黙らせる。
トウジも納得はしていないものの諦めたように黙った。
それを見て、ヒカリはレイに向かって微笑んだ。
そしてヒカリはシンジに向かって言った。
「碇君、今日一緒にお昼食べよう。」
「え?・・・・・そうだね。じゃあトウジやケンスケと一緒に皆で食べよう。」
「え、そ、そうね。」
シンジのその一言に、ヒカリは少し顔が赤くなった。
そんなヒカリを不思議そうにシンジは見ていた。
昼休み
「シンジ〜。パン買いに行こうぜ。」
いつもの事なのでケンスケが声をかける。
「悪い。今日は良いよ。持ってきたから。」
「そっか?じゃあ買ってくるから待ってろよ。」
シンジが鞄の中から包みを2つ出した。
それを目聡くトウジが見つけた。
「何やシンジ、2つも食うんか?」
「え・・・・・違うよ・・・・・ちょっと、その・・・・・。」
「何や?ハッキリせン奴やな〜」
「だから・・・・・ちょっと・・・・・頼まれて・・・・・。」
「誰にや?」
「・・・・・えっと・・・・・綾波に・・・・・。」
「な、なんやと〜、綾波の分やと〜
オ、オノレハは綾波の弁当も作ってきたっちゅうんか?」
必要以上に大きなトウジの声で皆の注目を浴びた。
その中には、シンジが教室で食べるなら一緒に食べようと、
トウジ達が離れるのを待っていた女の子も含まれる。
「「「「「エエ〜〜〜〜〜!!!!!」」」」」
「イヤ〜ンな感じ!!」
と、これはケンスケ。
「どうしてレイの分を碇君が作ってくるの?」
「あの二人ってもう交際ってるの?」
「ショック〜〜!」
「私も作って欲しい〜〜」
と、女の子達。
シンちゃん結構人気があったりして・・・・・
「碇の奴、もう綾波に手を出したのか?」
「ゆ、ゆるせん!!」
「弁当なんかで釣りやがって!」
これは男の呪詛。
レイはアルビノで、赤い瞳、蒼い髪と人とちょっと違うが、
それは美しさを損なうどころかより神秘的な雰囲気があり、
学校ではトップクラスの美少女である。
それを鼻にかけず、誰とでも仲良く話せる性格の良さで人気も高い。
学校の男子のみならず、近隣の学校にも美少女として名前が知られている。
下駄箱の中には毎朝ラブレターも入っているのだった。
それ故、一部で妬まれたりしているのだが。
クラス中の羨望や嫉妬、憎悪の視線に晒され、固まっているシンジに、
ヒカリが救助の手を差し伸べた。
「ほら、碇君。屋上へ行って一緒に食べよう。ネ!」
「う、うん。」
シンジは返事を返すので精一杯だった。
「ほら、レイも!」
「うん。じゃ行こっか、碇君。」
レイもヒカリに言われて、シンジを誘う。
シンジは自分の作ってきたお弁当を持って席を立った。
「鈴原も、相田君もパン買ってきたら屋上に来なさいよ。
碇君と待ってるから。良いわね。」
ヒカリはそう言ってレイとシンジの背中を押すように出ていった。
「わ、わかった。トウジ、パン買いに行こうか?」
「せ、せやな。」
トウジとケンスケが出て行くと教室には取り残されたクラスメート達が、
呆気に取られていた。
どうゆう事なのか聞き出そうとした所を、ヒカリに邪魔されたのだ。
消化不良な事、この上ない。が怒ってみた所で既に当事者はいない。
肩透かしを食ったようなものだった。
皆、半ば諦めたように食事を始め、いつもの昼休みの風景に戻って行った。
シンジは屋上につくと、持ってたお弁当の一つをレイに渡した。
「はい、綾波の分。味の保証はしないよ。」
「うん、ありがとう。」
レイはシンジの手からお弁当を受け取ると、嬉しそうに笑った。
レイの笑顔を見てシンジは思わず見とれてしまう。
(・・・・・やっぱり、綾波って、可愛い・・・・・)
「どうしたの?」
シンジが自分を見ていたのでレイは聞いた。
「え、い、いや・・・・・別に。」
「ふーん・・・・・変なの。」
そう言いながらレイは嬉しかった。
「そっかな?取敢えず食べてみてよ。」
「うん。じゃあ遠慮なく。」
レイは包みを開け、シンジと一緒に選んだお弁当箱を開けた。
お弁当の中身は、鳥のから揚げと、ウインナソーセージを軽く炒めた物と
野菜炒め、漬物が入っていた。
それとご飯の上には味付け海苔と卵ソボロが振りかけてある。
レイとヒカリは思わず唸った。男の子の作るお弁当には見えない。
そんな二人を見た心配そうに聞く。
「どうかした?やっぱり可笑しいかな?」
「「ううん、そんな事ない。」」
思わずユニゾンする二人。
「じゃあ、食べてみてよ。」
「うん、頂きます・・・・・・・・・・・・・・・美味しい。碇君、ホントに美味しい。」
「そう、良かった。」
心配そうに見ていたがレイに言われてホッとしたように、
そして嬉しそうに笑った。
その微笑みは、少し照れたような眩しいものだった。
レイはそのシンジの顔に魅入ってしまっていた。
この二人、行動が似ている・・・・・。
「レイ、私にも少し頂戴。碇君、ちょっと味見させてもらって良い?」
「うん。綾波が良ければかまわないよ。」
「じゃあ・・・・・レイちょっと貰うわよ。」
「うん。」
そう言ってヒカリは野菜炒めを少し貰って食べた。
「・・・・・美味しい。本当にこれ碇君が作ったの?料理上手なのね。」
「ありがとう。母さんに教えてもらったんだ。」
シンジはそう言いながら自分のを食べ始めた。
ちょうどそこにトウジ達がパンを持って屋上に来た。
シンジはトウジ達に向かって手を振る。
そんなシンジを見ながらヒカリがレイに小さい声で言った。
「本当に頑張らなくちゃ、美味しいって言ってもらえないよ。」
「うん、わかってる。私もここまで美味しいとは思わなかったもん。
女の子なんだもんね、私。ヒカリ、頼りにしてるよ。」
レイとヒカリは頷きあうのだった。
皆でお昼を食べながら、シンジがレイにお弁当を作ってきた訳を説明した。
ヒカリは自分からそう仕向けたので、シンジの説明に補足をしていた。
トウジは物事に執着するタイプでないので簡単に納得した。
ケンスケも一応納得したらしい。
只、本心からではなく、今までレイに稼がせてもらっているし、
これからシンジにも稼がせてもらう気でいるので、
二人を敵に回さないほうが良い、と言う打算からだったが。
「わしらはええけどクラスの連中はどないするんや?」
トウジの言う事もわかる。
説明の仕方によっては他の子の分まで作らなくてはならなくなる。
ヒカリも考え込んでしまったが、レイが口を開いた。
「そう言えば・・・・・碇君、私のお母さんと碇君のお母さん、
それとアスカのお母さんが親友だって知ってた?」
あまりに意外な事を言われてシンジは驚いた。
アスカとは幼馴染で、言えも隣だったから知り合いだとは思っていたけれど、
親友なんて聞いた事がない。ましてレイの母親とも知りあいだなんて。
「え、うそ・・・・・知らないよ、そんな事。」
「でも昨日帰ってからお母さんと話をしたら、碇君がこの街に来るの知ってたよ。
何でも、碇君のお母さんから電話があったって。
『息子のシンジがそちらに行くから。半年後には私達も行くから、
それまでシンジに何かあったらよろしくね。』って。」
「そんなの・・・・・知らないよ・・・・・母さん何も言わなかったから。」
「碇君、驚いた?驚くよね、やっぱり。私だって驚いたもん。
それでお母さんが、是非家に招待しなさい。って言ってたんだけど。
・・・・・迷惑かな?」
「そんな事ないよ。母さんの友達ってあまり知らないから・・・・・
それに、誰も知り合いが居ないって思ってた街に、
僕たち家族を知ってる人が居るのって嬉しいから。」
「じゃあ、今度の休みに来て。お母さんがそう言ってから。」
「うん、わかった。ありがとう。お邪魔させて貰うよ。」
それを聞いていたヒカリが会話に入って来た。
「そう言う事なら、話は簡単じゃない。
お弁当を作るのは、お互いのお母さんが知り合いで、碇君の事を頼まれた。
でも、お世話になってばかりでは碇君の気が済まないから、
御礼の意味で、お弁当を作ったって事にすれば良いわけでしょ。」
「そうだね。」
シンジは頷いた。
レイとしては自分の気持ちがハッキリしてるので、
シンジにもそうなって欲しいが、二人の関係はまだそこまで行ってない。
それどころか、シンジが自分をどう思っているのかも知らない。
色々してもらってはいるし、守ると言ってくれたのだから、
嫌われてはいないと思う。でも好かれているかどうかもわからないのだ。
だから焦らずに行こうと思った。
少しずつ、でも着実に。
ゆっくりと育んで行こうと。
「そう言う事。別に改めて言う事じゃないけど、聞かれたらそう答えれば良いのよ。
・・・・・レイ、聞いてるの?」
ヒカリに言われて、ハッとするレイ。
「え、あ、うん・・・・・何?」
「だ・か・ら〜。自分から言わなくても、聞かれたらそう答えなさいって言ったの!」
「うん、わかった。」
その後、五人は雑談しながら楽しいお昼を過ごした。
そして、昼休み終了のチャイムが鳴った。
余談ではあるが、クラスに戻ったシンジとレイは説明に苦労した
勿論、ヒカリの協力なしには、不可能だったろう。
コメント
漸く、ここまで来ました。
わずか10日弱の事がこんなにだらだらと
長くなってしまいました・・・・・A(^_^;;
これも表現能力のない悲しさですかね〜
取敢えず次回分で第一部は終わりです。
次もアスカは出ません。
『な〜に〜!アタシを出せ〜』と
何処からか聞こえてきそうな気がします。
アスカ人の皆さん、ごめんなさい。 m(_ _)m
予定としては第二部から本格的に出ます。
(あくまで予定です・・・・・)
ではまた……苦情、罵倒、悪口、感想等なんでも受け付けしています。
『-IF- 13 告白』でお会いしましょう。
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