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15 嵐(騒動)の予感
放課後、ここ何日か繰り返されている事。
アスカとカヲルが転校してきてから、1週間ほどが過ぎていた。
2人は既にクラスに溶け込んでいた。アスカにしろカヲルにしろ恐ろしいまでのマイペースで、他人の事なんか歯牙にもかけないからどちらかと言うと、元からいた生徒の方が振り回されたくらいである。最近、漸くそれも落ち着き、平穏な日々になって行きつつあった。
アスカとカヲルは何時の間にかシンジやレイ達と一緒に帰るようになっていた。今日もシンジ達に混じって下校するアスカとカヲル。そして、今日も繰り返されているシンジの問いかけ。
「アスカぁ、何で転校してきたの?そろそろ教えてくれても良いじゃないか。」
「どうして?どうしてアタシの転校理由をシンジに教えないといけないの?毎日毎日同じ事聞いて!アンタもいい加減しつこいわね!」
「そんな事言ったって………気になるじゃないか。第一ウチは公立中学だよ。何も理由が無いなら国立から転校するなんて可笑しいよ。アスカだったら向こうでだって友達は一杯いたろうし………」
「そりゃあいたわよ。たっくさんね。でもあの学校てゆとりが無いのよ。生徒も先生も。勉強勉強で息が詰まるわ。アタシが学校に通うのは前にも言ったけど義務教育だから。つまりどこの学校でも同じな訳。だったら楽しくエンジョイ出来る学校の方が楽しいでしょ?」
「そう言われれば、そうかもしれないけど………」
「そんな事よりどうなってんの?アンタ達は?」
「え?………誰の事?」
「アンタバカァ?シンジとレイの事に決まってんでしょ!もう交際ってんの?」
「イヤ、そ、その〜〜………」
「相変わらずハッキリしない性格ね!シンジはレイの事どう思ってんの?好きなの?嫌いなの?」
「うっ………好きか、嫌いかって聞かれれば、そりゃあ好きだけど………」
ボショボショと消え入りそうな声で答えるシンジ。アスカのイライラが募って行く。
「聞こえないわよ!ったく、レイもこんな情けない男の何処が良いのかしら?」
「そんな言い方しなくても良いじゃないか………」
シンジは反論しようとするが、アスカに睨まれて声も尻すぼみになってしまう。そんな2人をカヲルは楽しそうに眺めていた。
何時もならここでレイがシンジに助け舟を出す所なのだが、今日はそのレイが学校を休んでいるため、シンジを助ける者はいない。
カヲルがアスカにやり込められているシンジに声をかけようとした時にその後方から呼び声がした。
「アスカ〜〜、碇く〜〜ん、ちょっと待って〜〜。」
シンジを睨んでいたアスカもその声のする方向に目を向ける。そこにはヒカリが手を振りながら走ってくるのが見えた。そして、そのすぐ後ろにトウジとケンスケもいた。ヒカリ達が追いつくのを待つため立止るアスカ。
シンジもアスカの追求を逃れる事が出来、ヒカリに感謝しつつ、溜息を漏らす。その溜め息に気づかないアスカではなかった。
「ナニ、ホッとしてんの?まだ、終った訳じゃないのよ!シンジには後でちゃんと聞くからね!」
蛇に睨まれた蛙状態のシンジ。トラウマがあるせいか、トコトンアスカには頭が上がらない。シンジは情けない顔をしながら頷いた。
漸く、ヒカリやトウジ達もシンジ達に追いついた。ヒカリがアスカに聞く。
「アスカや碇君達もレイのお見舞いに行くんでしょ?それなら私も一緒に行っていい?」
「いいけど………後にいるバカ2人も一緒なわけ?」
アスカに『バカ』呼ばわりされたトウジがムッとした顔をする。転校してきてシンジが仲の良い友達と言う事で最初のうちはそれなりに相手をしてきたが、3日も立つとどんな人間がわかってきたらしく彼等の事を『3バカトリオ』と命名した。
シンジはそれなりに女の子に人気も有り持てるのだが、本人は気づいていない。そんなシンジをアスカは『女心のわからない鈍感バカ』と言う。
ケンスケの事は、カメラオタク、または、軍事オタクの『専門バカ』と言い、トウジに至ってはセンスの欠片もなく、興味が食べる事しかないホントの『バカ』と評されている。
シンジはアスカに頭が上がらないから、ナニを言われても殆ど黙っているがトウジは何時もそれでアスカともめていた。
この時もアスカに何か文句を言おうとしたが何故かケンスケに止められた。
そんな2人をヒヤヒヤしながらヒカリがアスカに言う。
「ほら、こう言うのは大勢いた方が何かといいでしょ。例えばお見舞い品を買うにしても………」
既にヒカリの気持ちを知っているアスカは、顔に笑みを浮かべながらヒカリが喋っているのを聞いていた。それに気づいたヒカリが顔を赤くして俯く。
「ふ〜〜〜ん、まあ、アタシは構わないけど。でも、平気かな?レイのパジャマ姿、こいつ等に見せて。」
ケンスケがトウジを止めた理由がここにあった。アスカを怒らせて一緒にお見舞いに行けなくなると、写真が撮れなくなってしまうからで、ここで、傑作写真を撮って売上倍増を狙って我慢したのであった。トウジもケンスケの盗撮写真の販売を手伝い、お零れを貰っているためケンスケの言う事を聞いていたのである。
少し焦っている2人を見ながら自分の考えが間違ってなかった事を確信すると、アスカはトウジとケンスケを睨みながら言った。
「まぁ、もしそんな事したら生かしておかないけどね!」
アスカに凄まれちょっと引き気味のトウジ達を、ヒカリは複雑な心境で見ていた。
「それじゃ、何か買って早めに行こうか。」
アスカがそう言って皆を促し、歩き出した。
「37度………9分………まだ、少し熱っぽいわね。」
レナは、そう言いながら体温計を振り、手をレイの額に当てた。その母親の手が冷たくてレイは気持ちいいと思っていた。
「ゴホンッ! ゴホゴホ………」
咳き込むレイを見ながらレナがちょっと心配そうに言う。
「久しく病気になってなかったから安心してたけど、元から丈夫じゃないんだから………気をつけなくちゃダメよ。」
「うん、ちょっと油断しちゃった。」
「しょうがないわね。雨の中傘もささずに帰ってきたりすれば、風邪もひくわよ。」
溜息混じりに娘を窘める。レイはちょっと拗ねたように口を尖らせる。
「だって………」
「傘を持って行くのを忘れるなんて。何時も天気予報ぐらい見なさいって、言ってるでしょ。」
「だって………」
「しょうがないわね。今日は1日ゆっくり寝てなさい。」
レナはそう言って部屋を出ていく。
「私は買い物に行くけど、何か食べたいものある? 帰りに買ってきて上げるから。」
「ホント?じゃあね〜〜、アイスクリーム!」
「はいはい、いつものヤツね。それまでおとなしく寝ているのよ。」
「あれ?でも、お母さんお仕事は?」
「えっ?ああ、今日はお休み貰ったから。」
「私のせい?」
「う〜〜ん、それだけじゃあないから。心配しなくって良いわよ。」
「???」
レイが首を傾げると、それを楽しそうに見ながら言う。
「今日は古い友達が来るの。後でレイにも紹介してあげるわ。」
そう言ってレナは意味深な言葉と笑いを残して部屋を出ていった。
「何だろう?お母さん、ヤケに楽しそうだったな?」
レイは母親の顔を思い浮かべながら、風邪薬が効いたのか眠りの中に入っていった。
シンジ達はレイのお見舞いにナニを買って行こうか考えていた。
「果物が良いんじゃない?」
「お見舞いって言ったら花が定番じゃないの?」
「でも、レイの事だから食べ物の方が喜ぶと思うけど………」
コレはアスカとヒカリの会話である。本人がいないからって言いたい事を言ってる。結構、失礼なヤツラであった。一緒に行く男達に聞かないでドンドン話を進めている。
ちょっと前に一応は聞いたのである。シンジは持ち前(?)の性格を存分に発揮して、自分の意見を言わない。本人の弁は………
「わからないからアスカ達で決めてよ。」
トウジは………
「ヤッパリ、食い物しかないやろ!」
だし………ケンスケはナニやら怪しい物も名前を挙げていた。ケンスケと同程度の興味があれば、それも良いかも知れないが、相手は普通の女の子である。アスカとヒカリによって完璧に無視された。ケンスケは自分の言った事が無視され、心の中で涙を流していた。
カヲルはアスカに聞かれ、
「入院するほどの病気じゃないんだから、気持ち程度で良いんじゃない?」
そう、言ってニッコリと笑っていた。それで、今の状況が出来あがっていたのだった。
アスカ達が楽しそうに話してるのを見ながらシンジがカヲルに聞く。
「カヲル君は綾波を昔から知ってるんでしょ?よく病気になってたの?」
「そうだね。レイは昔からあまり丈夫じゃなかったから。ちょっとした事で寝込んだこともあったね。」
「そうなんだ………じゃあ、こんな時ナニが欲しいかわかるんじゃないの?」
シンジに聞かれ少し考え込んだ後、ポツリと言った。
「風邪をひいた時はアイスを食べたがってたな。」
「アイス?じゃあ、それを買って行こうよ。」
「そうだね。アスカ達に言ってみようか?」
2人はアスカとヒカリに声をかけ近づいて行った。
「アスカ、今、カヲル君に聞いたんだけど、綾波って風邪ひいた時、よくアイスを食べたがってたんだって。だからアイスを買って行こうよ。」
「アイスね〜〜。いいんじゃない。だったらどんなアイスを買うか、シンジが選びなさいよ!」
「え?どうしてさ?」
「あのね〜〜、レイのお見舞いなのよ!それくらいシンジが決めるの!わかった?」
「わ、わかったよ。」
左手を腰に当て、右手でビシっと指差すアスカのお決まりのポーズにシンジは逆らう事が出来ずに頷く。心の中で呟きながら………
(アイスなんてどれでも同じじゃないか………)
鈍いシンジにはアスカの意図する所がわからないらしかった。(汗)
レイは喉の渇きで眠りから醒めた。汗をかいたために身体が水分を欲していたらしい。湿った下着を着替えると水を飲むために部屋を出る。
すると、リビングで話し声が聞こえてきた。母親の言っていた古い友達が来たのだろうか?リビングの前を通らないと水が飲めないので、少し考えたが渇きには逆らえずいく事にする。
リビングを通り過ぎようとした時レナに声をかけられる。
「レイ、起きたの?こっちに来て挨拶しなさい。」
「は〜〜い。」
自分の格好に変なところがないか簡単にチェックしてから顔を出す。そこにはレナに何処となく似ている女性がいた。爽やかな笑顔の人だった。少し見惚れた後、レイは挨拶する。
「こんにちわ。」
「こんにちわ、レイちゃん。」
レイが挨拶すると、その人は満面の笑みを浮かべて挨拶を返す。再び、その人の笑顔に見惚れてしまった。その笑顔を見ながらレイは考えていた。
(ホントに綺麗な人………でも、何処かで見たような………何処だっけ?………………あっ、碇君に似てるんだ!)
レイがそう思った時、レナがその人を紹介した。
「レイ、こちら、私の親友の『碇ユイ』さん。シンジ君のお母さんよ。」
「あっ、ヤッパリ!似てるなって思ってたの………………って、ええ〜〜っ!!碇君のお母さん?」
突然の事にパニックに陥ってるレイを2人は楽しそうに見ていた。
シンジ達がレイの家のインターホンを押そうとした時、その声が聞こえてきた。
「ええ〜〜っ!!碇君のお母さん?」
「ナニ?今の声?レイの声よね?」
アスカがシンジに聞く。シンジは驚いたように頷いている。
「シンジのお母さんて何の事?」
「わかんないよ、大体、母さんは日本にいない筈だよ。」
シンジの両親は現在、海外にいる筈である。だからこそ、シンジはミサトの所でお世話になっているのであった。
とにかく、ここにいても仕方がないのでインターホンを押すことにした。
ピンポ〜ン
「は〜〜い。」
「スイマセン。碇ですが、綾波さんのお見舞いに来たんですけど。」
シンジが、そう言って扉を開けると、そこには風邪をひいて寝ているはずのレイが立っていた。
「あ、綾波。寝てなくていいの?」
「あ、あのネ、今ね、お母さんが来てるの。ウチにいるのよ!碇君の………」
ハッキリ言って、レイが喋ってる意味がわからない。慌てまくってるレイがナニを言ってるのか理解出きる者は、この場にはいなかった。
「綾波、落ち着いてよ。じゃないとナニ言ってるかわかんないよ。」
シンジに言われレイは深呼吸しようとする。2・3度、深呼吸して喋ろうとした時、声がかかった。
「シンジ、元気だった?まあ、アスカちゃん?綺麗になったわね〜〜♪」
「か、かあさん?」
「お、おばさま?」
そこには、紛れもないシンジの母親、『碇ユイ』が、満面の笑顔で立っていた。
コメント
お待たせしました………………待っててくれたよね?
待ってたって言ってよ〜〜〜〜!(ToT)
それとも忘れちゃったの?悲しすぎる〜〜〜〜〜!(号泣)
今回、ご出演の『碇ユイ』さん。説明は要りませんよね?ご存知の通り、シンジ君の母親です。
しかし、どうしてこんな時期にユイさんが日本にいるんでしょう?おかしいですね〜〜?それは
次回でハッキリします。
「そうそう、そこをハッキリさせてよ!」
おや?シンジ君じゃないか。何時からそこにいたの?
「最初からいたよ………って、そうじゃなくて、どうして母さんが綾波の家にいたのさ?」
だから、それは次回で、ハッキリさせるから………
「ちゃんと、理由があるでしょうね?」
おや、どういう意味かな?それは。理由があるに決まってるでしょ!
「ホントにホント?」
ナニ?その疑わしそうな瞳は?
「だって、僕の所にこんな物が届いたから………」
え?手紙?………何て書いてあるの?
「え〜〜と………『ユイさんが出てきたのは、作者の表現力を親子ネタでカバーしたいか
ら………』って、書いてあるよ。」
ギックゥ〜〜
「………ナニ?今のは………もしかして………(ジト目)」
あ、あっ!そうだ!急用があったんだ!じゃあ、私はいくから!(ダダダダダダッ)
「あっ、逃げた!………小がないなぁ〜〜。皆さん、あんな良い加減な作者ですけど、見捨てな
いでやってください。(ペコリ)続きが何時になるかわからないけど、応援してやってね。
じゃあ、僕も帰ります。さよなら。」
そして誰もいなくなった。
では、また。v(^^)/~~
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