「ガラスの仮面」二次創作
君は美人だ!


彼は、目的のためには手段を選ばない。どんな汚いことでもする男だ。
それは、社長として、社員とその家族を守る責任ある立場につく者として、当然のことだ。

彼は、幼いころから、義父に、そして、回りの者に、大人らしい振る舞いを叩き込まれた。
大人らしい振る舞い・・・薄汚れた本心を隠した大人の駆け引きを・・・
そして、それが、これまでの彼の日常。日常のあらゆる場面が彼の仕事の場だったのだ。

 ◇ ◇ ◇

「マヤ、君は、自分が美人じゃないと言うが、本当に、本当に、こころの底から、そう思っているのか?」

真澄は、真剣な顔で、マヤに問いかけた。

「そ、そんなに念をおしていわなくても、いいじゃないですか。どうせ、わたしは美人じゃないですよ!」
「クククッ、本当に君は自分をしらないんだな。」

「それ、どういう意味ですか?」
「だから、可愛くてならないという意味だ」

「も、もう!意味分かんないです」
「それじゃあ、教えてやる。君は、美人なんだぞ」

「え?わたしが美人?どうして?」
「じゃあ、君はどういう人が美人だと思うんだ?」

「うーん、そうですねぇ。例えば、亜弓さんみたいに、目がパッチリしてて、整った顔立ちの人・・かな?」
「亜弓君か、そうだな、彼女は美人だ。しかし、君だって目はパッチリとして大きいし、顔立ちは整っている。
 つまり、目や鼻、口などのパーツの配置バランスは良い。輪郭も良い」

「そ、そうなんですか?で、でも、その・・・会社とか局とかですれ違うモデルさんとか、他の女優さんたちとか・・・
 あ、あの・・・前の婚約者さんとかと比べても・・・」
「そうか?俺は、君の外見も遜色ないと思うぞ。君だって、りっぱな美人女優だ。・・ただ、そうだな、違うところは・・・」

真澄はそこまでいってから、マヤの顎を手でもちあげ、少しの間、言葉を探す。
マヤは、照れたように顔を赤くしながら、真澄の言葉の続きをまつ。
真澄はマヤの大きな瞳を覗き込みながら、問いかける。

「君は、普段は化粧はしないのか?」
「え?・・・し、失礼ですね。これでも、ちゃんと!」

「しているのか?」
「そ、その・・・眉毛描いたり・・・その・・・薄めのファンデぐらいだけど・・・
 ふ、普段は、そんなにキッチリする必要はないし・・・その・・・ま、まだ若いから・・・似合わないし・・・」

「少なくとも舞台やテレビの中の君と、普段の君は別人だな。
 君は演技だけでも別人になれるが、いつも、外見もあきれる程に別人になっている」
「そりゃあ、本番の時のメイクはメイクさんがやってくれるから・・・自分でやるのとは違います」

「君が美人だと思う他の女優やモデルたちは、普段も、家にいる時は知らんが、少なくとも、会社やテレビ局に来る時には、
 キッチリとメイクをしてくるぞ。それが彼女達の標準装備だからな」

「ふ、普段も本番のときみたいにキチンとメイクしろってことですか?」
「そんなことは言ってない。他の女優達との違いを言ってる。君にはそんな装備は必要ない
 ・・・・俺は、今の普段の君が好きだ。」

真澄は、最後に、少し照れながら、そう付け加えたあと、ひとつ咳払いをして、つづける。

「とにかく、君は、しっかりと化粧した彼女達と、ほぼスッピンに近い自分を比べているんだ。
 それは、公平な比較ではない。わかるか?」
「そうなの・・・かな?」

「たとえば、君だって、自分の映ったポスターを見て、『自分じゃないみたい』とよく言っているな。
 普段の自分じゃないぐらい美人だと思うのだろ?」
「確かに・・・そう・・・かな?」

真澄は、ひとつ大きく息を吐き、さらに続ける。

「君のポスターは、貼ったそばから盗まれていくらしい。困ったものだな。
 先ほども、その対応策を話し合って来たところだ。」
「そ、そうなんですか?」

真澄がニヤリと微笑み、マヤをみて返答する。

「ああ、本来なら、ポスターの盗難対策など、うちがやる仕事ではないのだが、今回のことは、
 魅力のありすぎる美人女優を手配した芸能社の社長として、責任をもって対応せねばならんからな」
「そ、そんな・・・・す、すいません」

「ククッ。君が謝ることじゃない。それより、どうだ?自分が美人だということは、認識できたか?」
「え?あの・・・その・・・わたし・・・」

マヤは、照れたように顔を真っ赤にして、シドロモドロにうつむく。

「なんだ、まだ、納得がいかないのか?」
「だって・・・」

「君は俺が何者だか知っているか?俺は、日本最大の芸能社の社長だぞ。所属女優に対する評価を誤ると思うのか?」
「そ、そんな・・・」

「どうなんだ?俺の評価を信じられないのか?」
「いいえ、速水社長の評価は信じています。いつでも、本当のことしか言わないから」

「そうか、ならば、俺を信じろ。君は美人だ」
「は、はい。その・・・ありがとうございます」

「よし、では、『わたしは美人』と言ってみろ」
「え?その・・・あの・・・わたしは、び・・・じん」

「もう一度」
「えと・・・わたしは、美人」

「もう1度だ」
「わたしは美人」

「よし、では、あと10回唱えろ」
「わたしは美人、わたしは美人、わたしは美人、わたしは美人、わたしは美人、
 わたしは美人、わたしは美人、わたしは美人、わたしは美人、わたしは美人」

真澄は、素直にそう唱えるマヤを満足げにみやると、腰をあげて、マヤに手を差し出しながらいった。

「どうだ?自信はついてきたか?」
「うーん、よくわかりません」

「まあ、いい。それじゃあ、そろそろ行こうか、マヤ」
「えと・・・」

「忘れたのか、このあと、パーティーがあるといっただろう。今夜こそは、俺の婚約者として、同伴してくれるんだろ?」
「えと・・。わたしなんっ・・ん・」

真澄は、身体を折りたたみ、マヤの続きの台詞を口で覆い隠したあと、クククッと笑う。

「『わたしなんかでよければ』というのは、今後は禁止だ。美人がそんなことをいうのは嫌味にしかならないぞ。
 俺は、美人の婚約者を皆にみせびらかしたいんだ。」
「で、でも、パーティーは、やっぱり苦手で・・・」

「俺だって、パーティーは好きじゃない。
 社交辞令ばかりの会話など、退屈極まりないし、好きでやっているわけではない。
 しかし、仕事上、そういう付き合いも必要なんだ。君も退屈で嫌なのはわかっているが、
 俺としては、君の協力がほしい。君が必要なんだ」
「そ、そんなこと・・・」

「実際には、君は何もしなくてもいい。『はじめまして』とか『ありがとうございます』くらいはいう必要があるだろうが、
 気の利いた言葉はいらない。話しかけられたら、君は微笑みを返すだけでいい。」
「笑ってるだけでいいの?喋らなくても?」

「そうだ。覚えておけ。美人は得なんだ。美人に微笑みかけられて嬉しくない男はいない。それだけで味方につけられる。
 君の微笑みは、君の大きな武器のひとつだ。俺は、それを最大限利用したい。会話は必ずしも必要ではない。」
「そ、そんな、武器だなんて・・・でも、でも、例えば、相手が女の人だったら?」

「君の微笑みなら、女性でも味方に惹き付けることはできる。
 舞台の上の君は全ての観客を惹き付けているんだぞ。忘れたか?」
「でも、それは、演技だから・・・」

「では、パーティー会場でも、演技をしていればいい。久しぶりにアルディス姫でも演ってみるか?」
「え?アルディス?」

「そうだ。全ての者に暖かい愛情を振りまく姫君だ。できるか?」
「はい。わたしは・・・アルディス」

そういって、マヤは立ち上がると、目を閉じる。
そして、ふたたび、目をあけたとき、ニッコリと慈愛に満ちた微笑みを浮かべる春の女神がそこにいた。
真澄は、その微笑みを愛おしく見つめたあと、しばらくたって、名残惜しそうに手をパンとたたく。

「クククッ、今じゃない。パーティー会場でよろしく頼む」
「は、はい。すいません」

「しかし・・・」
「なんですか?」

「君は、『わたしはアルディス』と一度唱えただけでアルディスになれるのにな」
「それって、つまり、『わたしは美人』と何回唱えても、美人にならないって言いたいんですか?」

「クククッ、君は美人だといっているだろ。なるならないの問題ではない。意識の問題だ。
 それに、君は『わたしは美人』と唱えながら、君は自分が美人になっていくのを感じただろう?」
「なんで、そう思うんですか?」

「背筋がのびて、姿勢が良くなっていった。君は、表情だけでなく、姿勢にもその時のこころが現れる。非常にわかりやすい」
「も、もう!意地悪」

「怒るな、ほめているんだ。しかし、それでも、アルディスの美しさには敵わなかった。やはり君は役者だな。」
「どーせ、役者バカですよ」

「だから、そう怒るな。ほめてるんだ」
「速水さんの褒め言葉って、いつだって、わかりにくいんです!」

「それはいつもすまないな。だから、褒めていると補足しているつもりなんだが」
「それに、わたしは怒ってなんかいませんから!」

「もちろん、それも分かっている。君はわかりやすいからな。これも褒め言葉だぞ。」
「もう!それのどこが褒め言葉なんですか?わかりにくすぎます」

「ククッ、俺は、わかりやすいのが好きだ」
「・・・なんですか?それ?」

少し不思議そうに顔を上げるマヤの瞳を見つめて、真澄は答える。

「マヤはわかりやすいんだ」
「もう!・・・わたしは、わかりにくいのが好きです」

一瞬、頬を膨らませてから、しばらく考えてから、マヤはうつむいて呟いた。
真澄は腰をおって、下をむいたマヤの顔を覗き込みながら、問いかける。

「そうなのか?」
「はい。速水さんはわかりにくいんです」

つづく

あとがき えと、筆者です。 ガラカメ第2弾!・・・あはは(←笑って誤摩化すな!) で、今回のお話は、北島マヤって、美人女優だよね?って話です(笑) ていうか、真澄様の口車が凄いっていうか・・(^^; うーん、プロローグの5行は要らんかったかなぁ?・・・まあ、意味深でよかろう。 にしても、あいかわらず・・・・ 「野菊のごとき君なりき」のアレンジ(パクリ)、このページで何回使ってるかなぁ? それでは もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、他の作品も読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。 2015年6月 某所にて

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