「ガラスの仮面」二次創作
顔映い
「わ、わたしなんて・・・んっ!」
マヤの台詞の途中で、俺はマヤの口を自分の口で塞ぐ。マヤの身体が硬直するのがわかる。
俺は、そっとマヤの身体を話して、ゆっくりと話しかける。
これは、きっと、俺が生涯かかって担う、俺の役割なのだろうと、あきらめている。
「そのつづきは散々聞いた。『わたしなんて、子供で、チビで、美人でもなくて、
街中でも誰も女優だって気がつかないぐらいに平凡で、料理もできず、家事一切が苦手で、学校の成績は悪く、
全教科が苦手、何したって失敗ばかりで、なんの取り柄もない女の子』だろ?」
俺の台詞のあとのマヤの反応には2通りある。
最近では、泣き笑いしながら『・・・それ、言い過ぎです』と顔をあげて言い返すことの方が多いのだが・・・
俺の腕の中で、コクンと小さくうなづくマヤを感じて、俺はかるくひとつ息を吐いて、つづける。
「俺が好きなのは、そんな女の子・・・だというのも知っているな?」
「・・・うん。たぶん」
ふたたび、マヤが小さくうなづいて、答える。心もとない返答だ。さらにマヤはつづける。
「でも、だって・・・」
「『でも、だって』なんだ?さっき、俺が言った項目に漏れがあったか?」
ああ、ひとつあった。言い漏らしたわけではないが、それは、俺も気にしていること。
「は、速水さんには、釣り合わないって」
「釣り合わない・・・か」
「だって、速水さんはお金持ちで、社長さんで、なんでもできて、モデルさんみたいに背が高くって、カッコよくって・・・」
「君に、そんなにお褒めにあずかるととても光栄なんだが、その先は、きっと『朴念仁の冷血仕事虫のゲジゲジ』と続くんじゃないか?」
俺はからかうようにそういったあと、そっとマヤを抱きしめて、つづける。
「俺の方こそ、いつだって、俺は君には不釣り合いな人間なんじゃないかと気にしてるんだぞ」
マヤは、緩く抱いた俺の腕の中で、顔を上げて、不思議そうに俺を見る。
「なんだ?そんなに不思議か?」
「だって、速水さんが・・・まさか、そんなこと、気にしてるなんて。わたしの方こそ、子供で・・・」
「面白いな君は、そんな風に、一瞬一瞬で表情を変えて、その時々の心をさらけだす。俺はそんな君が好きだ。」
「そ、それって、やっぱり、わたしが、子供っぽいってことですか?」
「うむ、そういう言い方もできるな。君は、いつもそういう風に表現する。それは、君の悪い癖だ。
俺に表現させれば、その状況は、『かわいい』だな」
「・・・かわいい?」
「そうだ。おもに小さいものに対する情愛や愛着などを表現する言葉だな。
もともとは、顔が目映いという意味の『かほはゆし』から来ているが、
現在は、おそらく中国語の影響もうけて、可能の可に愛情の愛と書いて、『可愛い』だ。
つまり、『愛すべき』『愛らしい』という意味だな。」
マヤは関心したように、俺をみつめる。俺は、すこしからかうように続ける。
「なんたって、君は、チビちゃんだからな。君は、小さくて、本当に、可愛いと思うぞ。
君も小さいものがかわいいと思うだろ?『かわいい』という言葉はよく使うだろ?」
「は、はい。わたしも、よく『かわいい』って使います。意味は分かります。
でも・・・なんだか、言いくるめられて、騙されてるような気がします。」
マヤは少し膨れて俺を見返す。俺は、ふっと笑みをつくって、答える。
「俺は、いつも、君を愛らしいと感じている。それに、俺は、君には、大人になって欲しくないと思っている」
「そんな・・・」
「大人になるということは、欲望、嫉妬、裏切り、差別、欺瞞、嘘、そんなものを身につけながら、
表面上はそれを隠して振る舞い、そんな汚い大人と騙しあい、渡り合うということだ。
大人になるということは、多かれ少なかれ、そんな薄汚い部分を身につけるということだ。
この業界は、特に俺の回りは、汚い大人ばかりだ。俺は、君にはそんな薄汚い大人になってほしくない。
だから・・・」
「・・・だから?子供のままの方がいいってこと?」
俺も、薄汚い大人のひとりだ。その中でも最も汚らしい人間なのかもしれない。
だから、俺は、君のそばにいてはいけないと考えたこともある。
・・・しかし・・・それでも、俺は・・・
「だから、俺は、君をまもる。俺が、君を、大人の汚い部分から守ってみせる・・・もう、君を離さない!」
俺は、マヤを強く抱きしめる。おそらく、今、俺は涙を流している。抱きしめる腕に力が入る。
「は、速水さん・・・い、痛い」
「スマン」
マヤを抱きしめる腕を緩めると、マヤは、俺の腕から、そっと腕を引き抜き、俺の頭を引き寄せる。
「ごめんなさい・・・ごめんね、マーくん」
俺は、マヤの肩に額をあてて、泣く。
「わたしは、あなたに守られたいです。」
マヤの小さな手が、俺の髪をなでる。
「そして、わたしもあなたを守ります・・・あなたのこころを」
俺は、顔を上げて、マヤをみつめる。マヤの微笑みで、俺のこころは守られている。
汚い大人の世の中で闘い続ける俺にとっての唯一の安らぎ。俺は、マヤを抱きしめる。
「だ、だから、痛いです、ってば!」
「我慢しろ」
ぶっきらぼうに、そういった俺にあきらめたように、
マヤは、俺の腕の中で、俺に身体を預け、小さく呟く。
「ふふふ・・・大きくっても、可愛いものだって、あるんですよ。マーくん」
つづく
あとがき
どうも、第三弾! 筆者です。
あと、一個だけ、つづきます。(ていうか、連続性はあんまりないんだけど)
それでは
もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、
また、次回、お会いしましょう。
2015年6月 某所にて
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