レイが好き!
第弐話
夕食


僕は、嬉しかった。久しぶりに、人と一緒に夕食がとれることが、そして、そ
の相手が、綾波であることが。

「あ、綾波は何か、嫌いなものとかある?」
「・・・・わからないわ・・・・」

「じゃあ、適当に作るから、好きなものだけ食べてね」

綾波をテーブルにつかせると、僕は料理に取り掛かった。いつも、自分用につ
くっているだけなので、人に食べさせる自信はあまりないが、それでも、自分
がこれから作る料理が人に食べてもらえるということに少し、喜びを感じた。
こんなことははじめてだった。料理が楽しいなんて。

そんな、喜びを噛みしめながら、僕は、料理にとりかかった。ふと、なにか視
線を感じて、振り向くと、綾波はそんな僕の後ろ姿をじっと見ていた。

「・・・・」

僕に、視線に気づいても綾波はしばらくそのままこっちを見ていたが、しばら
くすると、立ち上がり、僕のとなりへ来た。

「・・・・手伝うことはない?」
「い、いや別にないけど、ごめん。一人で退屈だった?」

「・・・・そうじゃないわ、ただ、碇君の背中見てたら・・・・料理って・・・・
なんていったらいいのかわからないけど・・・・」
「楽しそうにみえた?」

「・・・・きっと、そうだと思う・・・・私もやってみたくなったの」

何事にも無関心なようすだった綾波がそんなことをいうなんてとても、意外だ
った。でも、そんな綾波をみるのが嬉しくて、僕は、手伝ってもらうことにし
た。

「じゃあ、法蓮草、ゆがいてもらおうかな、まず、お湯をわかして・・・」

綾波は料理のことについては、何も知らなかったので、一つ一つ、教えてやら
なければならなかったが、驚く程、もの覚えがよく、丁寧に説明して、ちょっ
と僕が見本を見せると、みるみるうちに、おいしそうな料理が出来上がってい
った。

「綾波、たのしい?」
「・・・・そうね、料理ってたのしい」

「よかった」

そういう綾波の顔には何の変化もなかったが、瞳の奥は明らかに楽しそうだっ
た。綾波が嬉しそうなのを見て、僕は本当に嬉しくなり、満面の笑みを綾波に
向けた。

「・・・・」

そんな僕の笑みを綾波は、しばらくじっと見つめていた。

料理も終盤に向かうと、後は、綾波にまかせて、僕は、出来上がった料理を皿
に盛り、テーブルへ運んでいった。

「痛っ」

台所で、冷奴用のネギを刻んでいた綾波の小さな声が聞こえた。

「大丈夫、手、切ったの?」

僕は、慌てて、綾波に駆け寄り、綾波の手をとった。その真っ白な細い、左手
の人差指からは、意外な程、真っ赤な血がながれている。

綾波の手は、なんとも、華奢で、かわいらしく、その繊細な指から、ながれる
血に一瞬、見惚れてしまった。

「碇君・・・・」

綾波の声に、ハッと我にかえり、あわてて、傷口を調べた。大丈夫、そんなに
深くない。水道の蛇口をひねり、水を出すと、その水流に綾波の左手をいれた。
その瞬間、綾波の体がビクッと動いた。

「痛っ」
「ちょっと我慢して、きれいに傷口を洗っていて、いま、消毒薬とバンソウコ
ウをもってくるから」

僕は、そういうと、リビングの棚から救急箱をとってきて、消毒薬を取り出し、
綾波の傷口にぬって、バンソウコウを張った。

「・・・・あ・・・ありがと・・・・」

「そんなに、深い傷じゃないから、すぐなおるよ」

綾波の表情からは、なにも読みとれなかったが、とにかく、僕は、綾波を落ち
着かせようと笑顔で、そういった。綾波は、自分の指にまかれたバンソウコウ
をじっと見つめていた。

「ごめん」
「・・・・なぜ、碇君が謝るの?」

「綾波は、料理はじめてだったのに、一人でやらせちゃって・・・怪我まで、
させちゃって・・・」
「それは、碇君のせいではないわ・・・・料理は、楽しかったもの」

「で、でも、怪我までさせちゃって」
「・・・・」

綾波は、また、自分の指のバンソウコウを見つめる。

「・・・・碇君が、これを巻いてくれた時に・・・・なんていうのか分からな
いけど・・・・料理をしてる時よりももっとなにか・・・・楽しい・・・・暖
かい感じがしたわ」

そういうと、綾波は僕の方を見て、少し、ほんのわずかに、目を細めた。

『綾波が笑ってる』

綾波の表情は、ただいつもより少し目を細めただけで、一般的に見れば、とて
も笑ってる顔には見えなかったが、僕には、綾波が笑ってるのが、はっきりと
分かった。僕は、嬉しくなって、そんな綾波の目をじっと見つめた。

「・・・・今は、なぜみつめているの?」
「綾波がはじめて笑ってくれたから・・・」

「わたし、笑ってる?・・・・人は、嬉しい時、笑う・・・・わたし・・・・
碇君に、手当してもらって、・・・・嬉しかったんだと思う・・・・わたし、
人かしら?」
「な、なにいってんだよ。あたりまえだよ。綾波はれっきとした人間じゃない
か」

僕は、綾波がなぜ、こんなことをいいだすのか良く分からなかった。でも、今
は、そんなことより、綾波の笑顔がみれたうれしさで、一杯だった。

「じゃ、じゃあ、後は、僕がするから、綾波はテーブルで待ってて」

料理は、ほとんど、テーブルに並べ終ったし、あとは、のこりのネギをきざん
で、小皿にいれて、もっていけば、おわりだった。ネギの小皿をもって、僕も
テーブルについた。

テーブルの上には、僕と綾波がつくったご飯に味噌汁、法蓮草のおひたしにサ
トイモのにっころがし、鶏の竜田あげ、そして、冷奴がならぶ。別にとうどう
ということのない料理ばかりだが、こうして、綾波と一緒に食べられるという
よろこびからか、どんな豪華な料理よりもおいしそうに感じられた。

「じゃあ、冷めないうちに食べよう」
「・・・・」

「いただきます」
「・・・・いただきます」

僕が手をあわせ、いただきますをして、料理を食べはじめると、綾波は、僕の
やるとおり、手をあわせ、小さな声で、いただきますをすると、一瞬、箸を両
手でもって、どうしたらいいのかわからなそうに僕をみた。僕が、左手に、ご
飯茶碗をもって、右手で、箸を持って、ご飯を食べはじめると、綾波もその通
りに真似をして食べた。はじめのうちは、箸の持ち方もぎこちなかったが、し
だいに、なれてきたのか、とても、優雅な、かわいらしい、手つきにかわって
いった。

無言のうちに、食事は進んだ。時々、綾波の方に視線をやると、綾波も、ちら
ちらと僕の方をみているようで、何回か、視線が合った。お互いに、微笑みを
かわしあって、食事へ戻る。なにも、喋らなかったが、こんな風に、一緒に食
事をしているのが、とても、楽しかった。

食事がおわると、僕は、食器を流しまで、もっていき。お茶をいれて、テーブ
ルへ戻る。

「はい、お茶、ちょっと熱いから、気をつけて」
「・・・・」

綾波は、また、どうしたらいいのか分からないように僕をみるので、僕は、お
茶の表面を、フーフーと吹いた後、ズズッとお茶を飲むと綾波も、同じように、
フーフーと吹いた後、ズズッと一口飲んだ。しばらく、そんな、綾波を眺めて
いたが、『みてるだけじゃ、先にはすすまないだろ』というケンスケの言葉を
思いだし、思い切って話かけてみる。

「あ、綾波、ちょっと、話してもいいかな?」
「・・・・ええ、いいわ」

「綾波は、ここに来る前、どこにいたの?」
「・・・・」

綾波は、例の、奥に悲しみをもったような瞳で、黙ってしまった。

「べ、べつに、答えたくないなら、いわなくてもいいよ」
「・・・・研究所」

「研究所?・・・国立総合研究所のこと?」
「・・・・」

よく考えると、それしかないかも知れない。そもそもこのマンションは、国立
総合研究所のものだし、その関係者しか住んでいない。僕も父さんがそこへ勤
めているから、ここへ住んでいるんだ。でも、研究所にいたってどういうこと
だろう?綾波にはどんな過去があるんだろう?そんなことを思ったが、綾波の
悲しそうな瞳をみると、聞けなくなってしまった。

「ご、ごめん。ここに来る前なんてどうでもいいよね。重要なのは、現在と、
そして、未来のことだもんね」
「・・・・」

「あ、綾波は、引っ越して来たばかり何だろ、いろいろ、生活用品とか、買わ
ないといけないよね。」
「・・・・そうね」

「明日、土曜日だし、午後から、一緒に買いものに行こうよ。荷物持ちでもな
んでもするから」
「・・・・じゃあ、そうするわ」

「・・・・」

何を聞いても綾波からはそっけない返事しか却って来ず、会話が途切れる。そ
のたびに、僕は、話題を探したが、そのどれもが、綾波を傷つけてしまいそう
に思われて、口に出せなかった。

「あ、綾波は、僕になにか聞きたいことはない?」
「・・・・あるわ」

「な、なに?」
「・・・・碇君は、なぜ、こんなに、わたしに構うの?」

「な、なぜって・・・め、迷惑だった?」
「・・・・そうではないわ・・・・たのしかったもの・・・・ただ、なぜ?・・・・
分からないから」

「それは、綾波のことがなぜだか気になるから。今朝、綾波のことを電車の中
でみてから、なぜだか知らないけど、綾波のことが気になって、頭から離れな
いんだ。そして、綾波のためなら、なんでもしてあげたいっていう気持ちにな
るんだ。僕も、こんな気持ちになるのは、初めてで、自分自身でどうなってる
んだかよくわからないけど・・・・綾波のことを好きになったみたいなんだ」

「・・・・好き?・・・・」

「そう、僕は、綾波が好きだ。だから、綾波にも僕を好きになってほしい。だ
から、構うんだとおもう」

「・・・・わたし・・・・よくわからない・・・・」
「・・・・」

僕は、思わず、好きだといってしまった自分に気づいて、顔を真っ赤にし、下
を向いて、だまってしまった。綾波は、そんな僕の様子を黙って見ていた。

そんな状態のまま、時間だけが流れた。

「・・・・帰るわ」

突然、綾波がつぶやいた。慌てて、僕は顔を上げ、時計を見た。時計は、8時
を少し、回ったところだった。

「そうだね、もうこんな時間だ。綾波は、転校初日で、疲れてるのに、なんだ
か、つまんない話で引き留めちゃって・・・」
「・・・・そんなことないわ・・・・たのしかったもの」

僕は、綾波を玄関まで送って行った。玄関で、綾波は、回れ右をして、なにか
いいたそうに僕を見つめた。

「あ、綾波のおかげで、今日の夕食はたのしかったよ。また、明日ね。お休み」
「・・・・お休みなさい・・・・」

そういうと、綾波は、回れ右をして、扉をあけ、出て行った。僕は、綾波の後
ろ姿を、じっと見ていた。扉がしまっても、なんだか、その場を離れがたく、
しばらく、玄関をじっと見ていた。


    ◇  ◇  ◇


綾波は、そのまま、部屋の戻ると、ベッドの前に、立ちつくし、左手を顔の前
に上げ、人差指を見つめた。しばらく、人差指にまかれたバンソウコウを見つ
た。

『フウ』とひとつ小さなため息のようなものを漏らすとそのまま崩れ落ちるよ
うに、ベッドの上にうつ伏せに倒れ込んだ。

『・・・・ありがとう・・・・感謝の言葉・・・・はじめての言葉・・・・』

『・・・・たのしい・・・・これも、はじめて・・・・』

『・・・・碇君・・・・』

『・・・・手当してくれた人・・・』

『・・・・わたしを・・・・好きだとういう人・・・・好きって何?』

そのまま、思考は、徐々に薄れていき、静寂の中に聞こえるのは、綾波の小さ
な、寝息だけとなった。


    ◇  ◇  ◇


「ただいま〜、って、シ、シンジっ、こんなところでなにやってんの?」
「えっ、ア、アスカ・・・お、おかえり」

あれから、どれくらいたったのだろうか。僕は、アスカが帰って来るまで、玄
関の扉を見つめていたようだ。

「そ、そうだ、風呂、まだ、沸かしてない。ごめん、すぐ沸かすから」

そういうと、僕は、逃げるように風呂場に走って行った。アスカはそんな僕を
不審に思いながらも、自分の部屋にむかった。

「まったく、お風呂を沸かして、アタシの帰りを待つってのがアンタの役目で
しょっ。しっかりしなさいよ。バカシンジ」

そんな、アスカの声が聞こえる。僕は、浴槽を素早く洗い、シャワーで洗剤を
流して、栓をして、温水の設定を42度に設定して、風呂のボタンを押す。我な
がらなれたものだ。いつも、アスカに怒鳴られながら、こんな作業をしていた
ので、いつのまにか、無意識のうちに体が動くようになった。そのまま、食器
を洗いに台所へいく。風呂をいれているので、温水が使えない。仕方がないの
で、冷水で食器を洗い、水キリヘ食器を立てかける。食器を洗い終って、時計
をみると、9時をすこし回ったところだ。一時間も扉を見続けていたのだろう
か。我ながら呆れる。

「で、何があったの?シンジ」

振り返ると、部屋に荷物をおいて、戻って来たアスカがテーブルについて、こ
っちを見ていた。

「べ、別に」
「アンタばかあ〜?そんな顔して、別に、なんていったって、何かありました
っていってるようなもんよ」

「そ、そうかな?」
「そうよ!『天才アスカ様、僕の相談にのって下さい』ぐらいのこといえない?」
「・・・・」

「ま、いいわ。ほら、ボケボケっとしてないで、アタシは一日の労働を終えて
疲れて、帰って来てるんだから、お茶でもいれなさいよ」
「ああ、そうだね、ごめん」

僕は、洗ったばかりの急須を水キリから取り出して、お茶っぱをいれ、ポット
のお湯をいれようとしたのだが、ゴゴゴゴッという音がして、ポットのお湯が
なくなっていることに気づいた。慌てて、やかんに水を入れ、火にかける。

『ピピピピピピピピピ』

「ア、アスカ、風呂沸いたみたいだよ」
「そうね、じゃ、入るわ」

「お茶、どうするの?」
「もういいわよ。バカシンジ」

「ご、ごめん」

『はーっ』っと一つため息をつくと、アスカは風呂場に向かった。

アスカは、惣流・アスカ・ラングレーは、僕の同居人だ。父さんは、滅多にう
ちには帰って来ないので、僕の唯一の家族と感じられる人で、本人は、どう思
ってるのか知らないが、僕のことをいつも心配してくれて、いろいろ叱ってく
れる。同い年なのに、お姉さんという感じだ。僕は、幼いころに、母親を亡く
しているので、母親がわりとかそんな感じもする。ただし、いつも、忙しそう
だし、本人の性格もあって、家事なんか一切しないし、そういう意味では、母
親という感じは全くしない。

そうではあっても、とにかく、アスカは、13才で外国の大学を卒業した天才だ。
僕にはとてもそうは見えないが、超一流の科学者らしい。14才の時に父さんが
うちにつれて来て、一年間、日本語を習得するため、同じ中学に通った。中学
卒業と同時に、研究所に正式に就職した。研究所といっても、総合研究所とい
うぐらいで、なんでもやってるところなので、実際にアスカがなんの研究をし
ているのかは、僕は知らない。一度、聞いてみたことがあるのだが、『アンタ
ばかあ〜?アンタに話したって、わかるわけないじゃない』という一言で、か
たずけられてしまった。

「シンジー、風呂あいたわよー」

そういいながら、長い真っ赤な髪を拭きながら、ダボッとしたパジャマ姿でア
スカが風呂から出て来た。

「うん、わかった」

そう答えると、アスカといれ違いに僕も、風呂に入る。本当は、風呂は、余り、
好きじゃない。風呂にはいると、なにもすることがなくて、余計なことまで、
思い出してしまうから。しかし、この日は違った。風呂の中で、何を思い出す
かはっきり分かっていたからだ。

綾波の姿、綾波の髪、綾波の瞳、綾波のしぐさ、そして、綾波の笑顔。そんな
ものを思い出しながら、湯舟につかっていたら、普段、そんな長湯をする習慣
はないので、すぐにのぼせて来てしまった。

「ずいぶん、ながかったわね」

風呂からあがって、パジャマをきて、リビングに出て行くと、アスカはあお向
けに寝転がって、座蒲団を二つ折にして、首の下へやって、さかさまに、テレ
ビを見ていた。それは、アスカのいつもの見慣れたスタイルだ。しんどくない
のだろうか?といつも思うのだが。

「で、話す気になった?」
「うん・・・・」

「そうこなっくちゃ、じゃあ、『天才アスカ様、僕の相談にのって下さい』っ
て、いいなさい!」
「・・・・天才アスカ様、僕の相談にのって下さい」

アスカはすぐに威張る。でも、そんなのには慣れっこだし、今は、本当に相談
にのってほしいから、素直にアスカ言葉に従う。それに、気をよくしたのか。
起き上がり、僕の前にアグラをかいて座り直した。

「のってあげようじゃないの、さっ、話して」
「うん、実は・・・・」

僕は、今朝、電車であったこと、学校であったことを話した。

「アンタばかあ〜?それじゃあ、ずーっと、見てただけなの?」
「・・・・うん」

「で?まだ、あるんでしょ?なんで、玄関でぼーっとしてたの?」

僕は、プリントを渡しに綾波の部屋にいったこと、夕食にさそって、夕食を一
緒にたべたことを話した。

「じゃあ、ここへつれてきたのね?やるじゃない、あんたも見かけによらず積
極的ね」
「えっ?」

「だって、ふたりっきりだったんでしょ?なんか・・・した?」

アスカ、ニヤっと笑って、僕をみた。僕は、あわてて否定する。

「そ、そんな、ふたりっきりって言ったって、ただ、一緒に料理して、食事を
しただけだよ」

「そうねえー、シンジにいきなり、そこまで、求めるのは無理ね。でも、話ぐ
らいはしたんでしょ?」
「うん・・・・好きだって、言った」

「ア、アンタ、告白したの?」
「告白っていうか・・・なんで、構うのか?って聞かれたから」

「ふーん、アンタにしては上出来ね。でも、シンジが恋ねぇ〜」
「うん、そうみたいなんだ」

「で、アタシに何を相談するの?」
「どうしたらいいか教えてほしんだ。こんなこと初めてで、綾波がいつも頭の
なかから消えなくて・・・・僕は、どうしたらいいだろう?」

「アンタばかあ〜?アタシだって、アンタと同い年じゃない。そんなに、恋愛
経験はないわよ。それにアンタ、男じゃない」
「そ、そうだけど、アスカはいつも僕を助けてくれるじゃないか」

「そうね、とにかく、もう、好きだっていったんでしょ?なら、後は、押しの
一手よ。明日、朝、一緒に学校行こうって誘ってみたら?おててつないでなか
よく登校ってのはどう?」
「そんなあ・・・」

「でも、もう、手、握ったんでしょ?」
「あ、あれは、綾波が指を切ったから、手当をしようと思って・・・」

「とにかく、逃げないで、シンジの誠意がわかってもらえるまで、突撃あるの
みよ。わかった?」
「・・・・わかった・・・・ありがとう」

「ところで、シンジが恋したこって、どんな子なの?写真あるんでしょ。みせ
なさいよ」
「うん」

そういうと、僕は、部屋に戻って、鞄からケンスケにもらった綾波の写真を取
り出し、リビングへもっていき、アスカにみせた。

「なによこのこ!?アンタこんなのがいいの?なによこの病的な白さは!それ
に、貧弱そうな体ね」
「じ、実物はもっと、透けるような白さで、全然、病的な感じはしないんだ。
まるで、妖精のように透き通った白さなんだ。体は確かに華奢だけど」

ケンスケには悪いが、やはり写真だと、綾波の透けるような白はうまく再現で
きない。僕は、アスカそれを説明した。

「そんなに剥きにならなくてもいいわよ。恋は盲目って言うもんね。それに、
日常で、アタシみたいな美人を見慣れると、感覚が麻痺しちゃうのかもね。か
わいそうに」
「う、うるさいな。そうじゃないっていってるだろ!」

「おー、こわいこわい」
「もう、いいよ」

「でも、どっかで見たような子ね。こんな、異常な子忘れるはずないんだけど
な。どこでみたのかな?」
「・・・・研究所じゃない?研究所にいたっていってたし」

それまで、ニヤニヤしながら、写真をみて、僕を冷やかしていたアスカの顔が
突然、深刻になった。

「そうだわ・・・プロトタイプ・・・でも、そんな、なぜ?」
「なにか、知ってるの?綾波のこと!」

「し、知るわけないでしょ!!お子様はもう寝る時間よ。もう寝なさい!」
「なんだよー、突然、おこりだして、アスカだって、同い年じゃないか」

「うっさいわねー、アタシが寝なさいっていったら、寝るのよ!」

今度は、突然怒り出したアスカにわけが分からなかったが、アスカが怒るとと
ても恐いのは知っているので、綾波の写真をもって、自分の部屋へ戻った。

部屋へ戻り、綾波の写真を壁にピンで止めると、僕は、ベッドにあお向けにな
って、それを眺めた。しかし、それは長続きしなかった。今日は、一日中、綾
波を緊張して見ていたせいか、睡魔がどっと押し寄せ、僕は寝てしまった。


    ◇  ◇  ◇


アスカは、一人になると、なにか考えごとをした。

『まさか、プロトタイプが、でも、なぜ?でも、アイツなら、あのババアなら・・・』

しばらく、考えた後、携帯をとりだし、研究所へ電話した。

『ハイ、コチラハ、国立総合研究所デス』

電話からは、そんな機械的な音声がながれる。

「応用生命研究室の赤木博士をお願い、あ、それから、スクランブル回線で」
『カシコマリマシタ。デハ、デコーダースイッチヲオンニシテクダサイ』

アスカは、携帯のデコーダースイッチをオンにすると、つながるのを待った。

『はい、赤木です。どちら様でしょうか?』

「アタシ!アスカよ!」
『あら、天才アスカちゃん。こんな夜中に何のよう?』

「とぼけないで!なんで、あの子がうちの隣に引っ越してきて、シンジの学校
にくんのよ!」
『ああ、アレなら、私の手はもう離れたわ』

「それどういう意味よ!」
『だって、そもそもプロトタイプなんだもの』

「い、いくらなんだって、あんな、何にも知らない子を一人で、社会に放り出
して、いいと思ってんの?」
『それは、私の責任ではないわ。私は処分することを推奨したんだもの』

「しょ、処分って、」
『そうよ、だから、碇所長の責任よ』

「碇所長の責任?」
『そうよ、碇所長が引き取るっていいだしたんだもの。だから、私がこの糞忙
しい中、引っ越しの段取りして、転校の手続きまでして、わざわざ、息子さん
と同じクラスになれるように裏から手を回してあげたのよ』

「で、でも、あのクソおやじ。出張って、出てったきり帰って来ないじゃない
の?」
『そんなの、知らないわよ。忙しいんでしょ?』

「で、でも、なんで、所長があの子を引き取るのよ」
『なんかあったんでしょ?昔。私が来る前。なんたって、第一号だもの。思い
入れでもあるんじゃない?さっ、もういいかしら?私、忙しいの』

「ま、待ってよ・・・・」
『ガチャッ』

「な、なんなのよ、あのクソババア!・・・・それに、あのクソおやじ!一体、
何、考えてんのよ!」

「でも、あの子・・・・」

アスカは、携帯のスイッチを切り、立ち上がった。


    ◇  ◇  ◇


「シンジ!ちょっと、起きなさい!」

アスカは、僕の部屋にすごい勢いで入って来ると、僕から布団をひっぺがした。

「な、なんだよ。寝ろっていったり、起きろっていったり」

寝入りバナを起こされて、僕は、すこし、ムッとして、目を開けると、アスカ
がなんだか、すごく恐い顔をしていたので、びっくりして、飛び起きた。

「な、なに?アスカ?どうしたの?」

「シンジ!いいこと、あの子はアンタが守るのよ!」
「あの子って、綾波のこと?」

「アンタばかあ?あったり前じゃない。他に誰がいるのよ!」
「ま、守れって、一体どうしたっていうんだよ。急に」

「いいこと!あの子は普通じゃないんだから、アンタが保護者になってあの子
の面倒見るのよ!」
「普通じゃないって、どういうことさ。それに保護者って、なんで僕が綾波の」

「そんなのは、いいのよ。所長はあんなんだし、アタシだって忙しいし、アン
タしかいないでしょ!」
「・・・・うん、そうかも、しれない」

「で、でも、あの子は普通じゃないって、アスカは、綾波を知ってるの?」

「あの子が普通じゃないってのは、いくらアンタでも気づいてるでしょ?いい、
あの子は、研究所育ちで、いままで多分研究所から一歩も出たことがないの。
だから、世間のことをなにも知らないのよ。だから、助けてあげなくちゃいけ
ないの。わかるでしょ?」
「う、うん、なんとなく。・・・でも、なんでそんな・・・」

「いいのよ、詳しいことはアンタは知らなくても、とにかく、守ってあげるの
よ!」
「うん、わかった」

なんで、突然、アスカがこんなことを言い出したのか僕にはよく分からなかっ
たが、僕は、既に、綾波のためならなんでもしてあげたいと思っていたし、綾
波の身になにかあるなら、守ってあげたいと思っていた。それに、アスカがこ
んなに真剣に綾波のことを思ってくれていることに、少し、感動した。その理
由も知りたかったが、アスカが教えてくれないのにはきっと、なにかわけがあ
るに違いないので、聞かないことにした。

「じゃあ、明日、あの子に、このうちに引っ越すようにいうのよ」
「えっ?うちに?」

「あったりまえじゃない。アンタは保護者じゃない。一緒に住まなくてどうす
るのよ!」
「で、でも、もう部屋がないよ」

「あの子は、アタシの部屋を使うのよ」
「じゃ、じゃあ、アスカはどうするのさ?」

「アタシは、そろそろ独立しようかなって思ってたし、ちょうどいいわ。出て
く」
「そ、そんな。アスカが出てくなんて、僕はどうなるのさ!それに、綾波と二
人っきりなんて、マズイよ!」

「あら?じゃあ、アタシとふたりっきりってのはいいわけ?シンジは、アタシ
のことオンナとして見てくれないの?」

アスカは、意地悪そうに、ちょっと寂しそうな顔をして、そんなことをいった。

「そ、そういう意味でいったんじゃないよ。それに、アスカがうちにきた時は、
二人とも中学生だったし・・・・それに、もう、家族だし・・・・」
「じょ、冗談よ、冗談!それに、出てくったって、すぐそこよ。いつでも、あ
えるわ」

「すぐそこって、どこさ?」
「お・と・な・り。つまりー、私とあの子が入れ替わるわけ。問題ないのよ。
どっちの部屋も所長の名義なんだし」

「で、でも」
「大丈夫よ。でも、まあ、シンジの話じゃ、すぐには住めそうにないわね。と
りあえず、人が住めるようにリフォームしなっくちゃ!それまでは、所長の部
屋を使うわ。そうせ、当分帰って来ないし。ああ、どんな壁紙はろっかな?早
速、明日、リフォームの本買ってこなくっちゃ!」

「でも・・・」
「あら、アタシがいないの寂しい?だーいじょうぶよ、どーせ、毎晩、帰って
きたらお風呂入りにいくし。だから、アンタはお風呂沸かして、アタシの帰り
を今まで通り待ってんのよ!いい?それから、朝食も今まで通りよ!」
「そ、それはいいけど・・・」

「心配しなさんな!時々、見に行くわよ。それこそ二人っきりにしといて、ち
ょっと心配だしね。見に行ったら、子どもでも出来てたりして!」
「ア、アスカ!」

「アンタばかあ〜?冗談に決まってるじゃない。アンタにそんな度胸あるわけ
ないもんね。アンタがそうだったら、アタシなんか何人みごもってることか」
「アスカ!」

「冗談よ、冗談。ホント、アンタって、からかいがいがあるわねぇ」
「ア、アスカのは、冗談に聞こえないんだよ」

「それにね・・・・離れてても、家族は、家族でしょ」
「・・・・そうだね」

いままで、冗談いってたのに、突然、アスカは真顔になってそんなこというか
ら、それだから、アスカは良く分からない。でも、僕のことを心配して、そん
なことをいってくれるアスカに、僕は、感謝している。

「じゃ、明日、早いから、もう寝なさい」
「うん」

そういって、アスカは、僕の部屋から出ていこうとしたのだが、突然、振り向
いて、いった。

「そうだ、明日は、アタシも早番なのよ!シンジ、ちゃんと起こしてよ!」
「・・・・」

「あー、もうこんな時間!早く寝なきゃ!寝不足は、美容に悪いのよ!まあ、
アタシは、永遠に若いからそんな心配はないけど。寝不足だと、明日辛いのよ
ねー!」

アスカはそんな言葉を残して、足ばやに僕の部屋をさった。

「シンジー、あんまり、早く起こしたら、ただじゃおかないからね!」

そんな、アスカの声が聞こえる。一体、僕にどうしろというのだ。まったく。
まあ、アスカらしいといえば、らしいが。

つづく

あとがき どうも、筆者です。 こんな、でたらめな文章、見放しもせず、2つも読んで戴きまして ありがとうございます。(まさか、パート2だけ読んでる人はいませんよね) 今回のあとがきは、まず、お詫びです。 全国六千万のアスカ様ファンの皆様、どうもすいません。 筆者が書くとこんなアスカ様になってしまいました。 どうか、勘弁して下さい。 「これじゃあ、ミサトさんじゃないか!」 という、皆様の怒り、良く分かります。 実は、筆者もそう思います。 でも、シンジと綾波のらぶらぶにするためには、 そして、アスカを不幸にしないためには、お姉さんにするしかないんです。 でも、そんなに悪くはないでしょ?・・・と筆者はおもうのですが・・・ これからも、アスカをなんとか幸せにするようにがんばります。 ところで、やはり、物語を書くと言うのは、むずかしいですね。 最初、この物語は、シンジの一人称で書く、ということで、書きはじめたんですが、 それじゃ、シンジがみてないこと、知らないことは書けないじゃないか〜 というわけで、こんな、でたらめなスタイルになってしまいました。 しかし、パート1同様、登場人物は、筆者の思い通り動いてくれません。 シンジ〜、なぜ、そこで、指をなめてやらない!うーん、イライラする。 しかも、予想通り(予定通り?)アスカ様は、筆者の意向を無視して 話を進めてしまいます。 せっかく、シンジと綾波が買いものにいく話を考えていたのに、 一緒に住めって、そんな無茶な!どうしてくれんだ、今後の展開を! 綾波、断ってくれないかな?断れないだろうな〜、きっと。 なんて、登場人物を責めてはいけません。 すべて、筆者が悪いんです。筆者の文章力がないのが悪いんです。 そんなわけで(どんなわけだ?)、 そんな感じで(どんな感じだ?)、次回につづきます。(書けるかな〜?) それでは、 もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 そして、筆者がうまく、つづきを書けたとして、 また、次回、お会いしましょう。

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