レイが好き!
第10話
休日


「レイ、おはよう。ご飯できたよ」

僕は、朝ご飯を作り終わると、僕が朝ご飯の当番の時は、いつもそうしている
ように、レイの頬にやさしく口づけをして、レイを起こした。

「・・・うー、うん・・・・おはよう・・・・シンジ」

レイは、まぶしそうに、目をゆっくり開くと、僕におはようの挨拶をする。

「おはよう、レイ。起きた?」

僕は、微笑みながら、レイに答える。レイも、すっきりした笑顔で、僕を見つ
める。

「うん、起きた」
「そう、じゃあ、顔洗ってきて。もう、ご飯できてるからね」

僕は、そういうと、台所へ戻った。レイも、一緒に部屋をでて、洗面所へむか
った。僕は、料理を器によそい、テーブルに並べた。そこへ、レイが顔を洗っ
て、パジャマのままやってきた。

「アスカは?今日も、寝坊なの?」
「う、うん。さっき、起こしにいったら、昼まで寝てるって怒鳴られちゃった」

「ふーん」

そういうと、レイは、席につき、いただきますをして、僕達は、休日のあまり
はやくはない朝食にとりかかった。

「最近、たるんでるよね、アスカ。まえは、休みの日でも、ちゃんと起きてた
のに」
「気、きかせてくれてるんじゃない?」

「そうかなあ?なんか、レイがいるから、安心して寝てるような気もするけど」
「どういう意味?」

「いままでは、僕がひとりで寂しくないように気をつかってくれてたような気
がするから」
「ふーん、そうなの」

「うん、そんな気がするんだ」
「そうかもね、アスカもやさしいから」

「うん」
「でも、アスカこそ、たったひとりで、日本なんて外国にきて寂しくないのか
しら?」

「でも、アスカは、友達作るのうまいし、僕と違って大人だから」
「でも、きっと、孤独よ。大人にまじって、ひとりで闘ってるんだわ」

「うん、そうかもね。アスカはちっとも、そんなこと感じさせないけどね」
「うん、強いわよね、アスカ。だから、わたしもアスカみたいになりたいの」

「えー、アスカみたいになるの?」
「ちがうわよ、アスカみたいに強くなりたいってこと」

「そうだね、僕も、実はそうだからね」
「だから、アスカもきっと、寂しいはずよ!強がってるだけなのよ!だから、
わたしたちがアスカを守ってあげなくちゃ!わたし、起こして来るわ」

僕達は、そんなふうにわりと静かに話ながら、朝食をとっていたのだが、レイ
は、そういうと、箸をおき、立ち上がって、アスカの部屋に向かっていった。
アスカの寝起きはよく知っているので、心配で、僕もついていった。

「アスカ!起きなさい!」

レイは勢いよくアスカの部屋に入り、アスカから布団をひっぺがした。

「うーん?レイ・・・・どうしたの?」

アスカは、突然、起こされて、不機嫌なようすで、レイを見上げた。

「もう、朝よ!アスカ、いつまで寝てる気?」
「いいじゃない、お休みの日くらい・・・・布団返してよ」

「ダメよ!さっ、起きて!休日ぐらい、みんなで、一緒に過ごさなきゃ」
「・・・・いったい、どうしたのよ、レイ!なんのつもり?」

「いいから、起きて!わたしは、アスカのお母さんになるわ。そう決めたの」
「はあー?なに、それ?」

「いいのよ。そりゃあ、普段は、アスカは、わたしのお姉さんだけど、アスカ
がだらしない時や、寂しい時は、わたしがアスカのお母さんになって、しかっ
てあげたり、元気づけてあげたりすることにしたの」

「・・・・わかったわよ。起きりゃーいいんでしょ!起きりゃあー!・・・・
ね、お母さん」

アスカは、しばらく、レイの顔をみて、すこし顔を赤くしたあと、さも、しぶ
しぶのように起き上がって、レイをからかうようにそう付け加えた。ホントに
もう、素直じゃない。こんな、子どもは持ちたくないな、僕は。そう思った。

「ということは、シンジがお父さんなわけ?」

アスカはレイの肩越しに僕の方をみて、そういうと、ゲラゲラ笑いだした。

「どーせ、僕は、常に弟ですよ」

「そーね、アンタは、その方がいいわ」
「うふふ、そうね」

ふたりして、僕をみて、笑う。どーせ、そうですよ、だ。しかし、レイの発想
もすごい、どこから、アスカのお母さんになるという考えが沸くんだろう?

『レイがアスカのお母さん』

なんだか、それは、それで、似合っていそうで、なんとなく、面白い。それも、
いいかもしれない。それにしても、変な家族だな、僕達は。誰ひとりとして、
血はつながっていないのに・・・・

「なに、アンタまで、ニヤニヤしてんのよ。バカシンジ」
「なんでもないよ。それより、ご飯できてますよ・・・・姉さん」

「ばかねえ、何いってんのよ」

そういうと、アスカは照れたように、少し赤くなって、ダイニングへ歩きだし
た。僕とレイは、顔を見合わせ、微笑みをかわしてから、アスカをおった。結
局、家族っていうのは、お互いを思いやる心なのかも知れない。


    ◇  ◇  ◇


「これから、掃除をするわよ。せっかくの休みなんだから、アスカの部屋も綺
麗にしなくちゃ」

朝食が終わって、着替えてから、みんながリビングにあつあまると、まだ、な
んだか、お母さんのような気分のぬけないレイがこんなことを言い出した。ま
あ、こんな時でもなければ、アスカの方の部屋は掃除の機会がないに違いない。
アスカは当然、不満の声をもらす。

「えー、せっかくのお休みだっていうのにー」
「こっちの部屋は毎日すこしづつ、掃除してるけど、アスカのところは、ちゃ
んと掃除してないだろう?僕達もてつだってあげるから掃除しようよ」

「ちゃんと、やってるわよ。アタシだって」
「そんなはずはないわ。ちゃんと知ってるんだから。どうせ、前はシンジが全
部やってあげてたんでしょう?」

「そうだね。アスカも一応、独立したんだから、ちゃんと生活していく癖をつ
けないとダメだよ」
「わかったわよ。ふたりかがりでこられちゃかなわないわよ。掃除すればいい
んでしょ!」

「そう、ふてくされないでさ、今日は僕達も手伝うっていってるんだから」
「あったりまえじゃない。アタシ、ひとりでできるわけないんだから」

「そんなことないわ。掃除ぐらい、誰だってできるもの。アスカ!いつまでも
シンジに甘えてちゃダメよ!・・・・それに・・・・シンジは、わたしが甘え
るんだから」

レイは、最後にそんなことを小声でつけくわえて、赤くなった。もう、お母さ
ん役だったんじゃないのか?僕も、そんなことをいわれて、当然、赤くなって、
レイを見つめる。

「甘えていい?・・・・シンジ」
「あ、あたりまえじゃないか・・・・」

まずい、これで、立場が逆転だ。アスカがこれにつけこまないわけはない。

「そうやって、二人の世界に入っちゃうなら、アタシは掃除なんかしないわよ。
二人でやればいいじゃない」
「そ、そんな、アスカの部屋じゃないか!」

『ピンポーン』

「あ、お客さんよ!」

そういうと、アスカは逃げるように、玄関に駆け出した。

「あら!ヒカリー」
「おはよー、アスカ。遊びにきてあげたわよ」

洞木さんがきたようだ。そういえば、前に休みの日に遊びにくるって言ってた
っけ。僕達も、玄関へむかった。

「レイ、碇君、おはよう」
「いいのよ、ふたりは。今日は、ふたりっきりで掃除したいっていうから、ア
タシは出かけるところだったの。ちょうどいいわ。一緒に遊びに行きましょ」

「ア、アスカ、ずるいよ。逃げるなんて!」

当然、アスカは聞こえない振りをする。

「ささっ、行きましょ!ヒカリ」
「あ、え、う、うん。じゃあ、碇君、レイまたね」

アスカは、洞木さんをひきずって、行ってしまった。洞木さんは、僕達にすま
なそうな顔をして、こっちを見たが、そのまま、ふたりで、エレベータのなか
にはいった。

「やられたね。レイ」
「ごめんなさい。わたしがあんなこといいだしたから」

「まあ、いいよ。どーせ、アスカはなんだかんだいって逃げるに決まってるん
だから」
「でも、それじゃあ、アスカのためにならないわ。来週は逃さないわよ」

僕達は、顔をみあわせ、それから、アスカの部屋の掃除にかかった。

それにしても、なんでこんなに散らかるんだ?さすがに、寝室は、それなに片
付いているのだが、リビングにあたる部屋は、とんでもなかった。いつも、う
ちで過ごしているはずなのにいつの間に、と思える程であった。おかしの袋や
ら、コンビニの弁当のからやら、ジュースの空き缶やら、ビールの空き缶やら、
とにかく、山のようにゴミが散らかっていて、アスカの部屋の掃除は、結局、
午前中いっぱいかかってしまった。


    ◇  ◇  ◇


「フー、疲れたね。レイ」
「うん、シンジも、ご苦労さま」

掃除がようやくおわって、あわただしく、あるものでお昼ご飯をつくって、テ
ーブルにつくと、レイは僕のとなりにすわって、そんなことをいいあった。

「でも、レイ。レイのお母さん役もなかなか、さまになっててよかったよ」
「そう?・・・・わたし、お母さんっていないから・・・・本当はどういうも
のなのか、わからないんだけど」

「で、でも。なんか、素敵だったよ」
「本当?ありがとう、シンジにそういってもらえてうれしいわ」

「うん、僕も、母さんは小さい頃に死んでしまったから、ホントは、よく分か
らないんだけど、なんか、生きていたら、あんな感じなのかなって、思って・・・・」
「でも、シンジのお母さん役はやらないわ」

「どうして?」
「だって、シンジのお母さんじゃ、シンジに甘えられないじゃない」

そういうと、レイは、僕の腕にしがみついた。そして、僕の目をじっと見つめ
た。

「甘えてもいい?」
「も、もちろん。レイが僕に、甘えてくれるなんて、とっても、うれしいよ」

僕は、照れながらもそう答えた。レイの方が僕なんかよりも、ずっと強くて、
頭もいいんだけど、レイがそういってくれるのがとても嬉しかった。僕は、本
当に、レイに甘えられるのに十分たよりがいのある男にならなくてはいけない
んだ。

「じゃあ、シンジ、わたしにご飯食べさせてくれる?」

そういうと、レイは、あーんと口をひらいた。

「そ、そんなことしなくたって、食べられるだろ?」
「ダメ、わたし、甘えんぼだから、シンジが食べさせてくれないと、たべられ
ないの」

そういうと、僕の目をじーっとみて、再び、あーんする。

「もう、しょーがないなあ」

僕は、クスッとわらって、箸で、ご飯をすくうと、レイの口にもっていった。
レイは、うれしそうにそれを口にいれ、もぐもぐしてからいった。

「ありがと、シンジ。次は卵やき」
「もう、僕がちっとも食べられないじゃないか」

そういいながらも、僕は卵焼きをレイの口に運ぶ。レイは、うれしそうに、僕
の箸から卵焼きを食べる。

「おいしい。次は、プチトマトね」
「はいはい、では、お嬢様、どうぞ」

もう、召使のような気分で、今度は、手でプチトマトをつまんで、レイの口へ
運ぶ。でも、レイがホントにうれしそうに、それを口にいれて、食べているの
をみて、僕もたのしかった。

本当に、レイって、なんて可愛いんだ。ホント、めまぐるしく、態度と表情が
かわり、強さを感じさせたり、弱さを感じさせたり・・・・なんて可愛いんだ。

「じゃあ、次はわたしの番ね。はい、シンジ、あーん」
「え、ぼ、僕はいいよ。ひとりでたべられるから」

「ううん、わたしの我儘につきあって!・・・・ダメ?」
「そ、そんなこと・・・・」

こんな瞳で、こういわれて・・・・ダメだ。やっぱり、僕はレイのこの瞳に弱
い。レイは、今は、とことん甘えモードに入っているようだ。

「はい、シンジ、あーん」
「う、うん・・・・あーん」

「シンジ、おいしい?」
「うん、とっても、おいしいよ」

「うれしい!じゃあ、次はこれ、はい、あーん」
「あーん」

レイの小さな手でささえられた箸、その箸からおとさないように、左手をそえ
て、僕の顔をのぞき込むようにして、レイは、僕の口に卵焼きを入れる。ホン
トに照れ臭いけど、レイのかわいらしい瞳にのぞき込まれながら、僕は、口を
モグモグさせる。

「おいしい?」
「うん」

「うれしい!じゃあ、次」

延々とこんな感じで、お昼ご飯がつづく、いったい、いつになったら、おわる
のやら。でも、僕は、こんな時が永遠に終わらないのもいいなと思っていた。
もちろん、料理には限りがあり、全てを食べ尽くしてしまったところで、それ
は、終わってしまったのだが・・・・


    ◇  ◇  ◇


やたらと時間のかかった昼ご飯を終え、レイに皿を洗ってもらって、僕は、リ
ビングで、ようやく、ひと息つく。レイも、程なく、食器を洗い終わり、リビ
ングにやってきた。ねがわくは、そろそろ、甘えんぼモードから切り替わって
いて欲しいものだが。

「たのしい、食事だったね」
「いいのよ、無理しなくても。ありがと、わたしの我儘につきあってくれて。
もう、しないわ」

「そんなことないよ。僕は、幸せだったんだ。レイのうれしそうな顔が見られ
て。だから・・・・その・・・・たまには、また、こんな・・・・食事も・・・・
いいかな・・・・って・・・・」

「うふふ。ありがと。わたしも幸せだったわ。じゃあ、また、こんど、ふたり
っきりになったら、また、しまっしょ」
「う、うん」

いってしまって、少し、後悔した。あるいは、今晩だってまた、ふたりっきり
かもしれないんだ。明日だって、明後日だって、夜はふたりっきりだし、昼は、
屋上でふたりっきりだろうし、アスカが起きてこなければ、朝だって・・・・

「でも、時間がかかりすぎるから、時間に余裕のあるときにね」
「うん、わかってるわ。毎日は、しないわ」

よかった。レイもわかってくれてる。

「そうね、二日に一度ぐらいね?」

ホントにわかってるんだろうか?

「そういえば、こういう約束、この間もしたわ。シンジ、覚えてる?」
「え、なんだったかな?」

いや、確かに、覚えている。一日に一度、愛してるというのを約束させられた。
でも、ここのところ、約束を果たしていない。そんなの、なにもきっかけがな
くて、言い出せるわけがない。

「とぼけちゃって。顔に書いてあるわよ。覚えてますって」
「う、うん。ごめん。でも、そんなの、きっかけもなしに言えるわけないじゃ
ないか!」

「覚えててくれたんだ!うれしい。わたしは忘れちゃったんじゃないかと思っ
て・・・・」
「そ、そんなわけないじゃないか!忘れるなんて!」

「どうして、そういえるの?」

うっ、今、言えということだろうか?僕は言葉につまる。レイは、悪戯そうに
僕の顔を見て、もう一度きく。

「ねっ、どうして、わたしとの約束を忘れるはずがないの?」

わかりました。いいます。だから、そんな瞳で見つめないで。

「そ、それは、レイを・・・・愛してる・・・・からに決まってるだろ!」
「聞こえないわ。もっと、大きな声で言って」

ここのところ、約束を果たしていなかった仕返しなのだろうか?確かに、僕の
声は小さかったが、聞こえていないはずがない。

「レイが好きだから!愛しているから!だから忘れないの!」
「本当!ありがとう、シンジ。わたしを愛してくれてるのね」

僕が叫ぶようにいうと、レイは、明らかに芝居がかって、大げさに喜ぶ。僕は、
レイに聞こえないように、小さな声でつぶやいた。

「むりやり、いわせたくせに・・・・」
「あら!いやいや言ったの?本当は愛してないのね」

なんで、この台詞がきこえるくせに、さっきの台詞は聞こえなかったのだ?レ
イは、拗ねたように、僕に後ろをみせてそういった。さっきの甘えんぼモード
は、まだ解除になっていないようだ。僕は、後ろからレイを抱き抱えて、やさ
しく話かけた。

「レイ、ごめんよ。ホントに愛してるよ。レイが悪いんだからね。あんな風に、
無理矢理、言わせようとするから・・・・でも、僕は、本当に、レイを愛して
いるよ。だから、拗ねないでこっちを向いて。そして、その可愛い笑顔をみせ
てくれない?」

レイは、機嫌をなおして、振り返り、僕をみて、微笑んだ。

「ありがとう、シンジ。よかったわ。今日は四回、愛してるっていってもらえ
た」
「そ、そんなの数えてたの?」

「そうよ。だって、この一週間、言ってくれなかったじゃない。だから、今日
は、あと三回は、いってもらわなくちゃ」
「で、でもさ、ほら・・・・」

「なあに?」
「その、そういうことは、別に口に出して言わなくったって、分かってること
じゃないか。その、いちいち口に出さなくても、分かりあえる関係って、いい
と思わない?」

「そうね、そういうのもいいかもしれないわね」
「そ、そうだろ!だから、僕がだまってレイを見つめるってことが、愛してる
っていってるのと同じことなんだと思って欲しいんだけど・・・・ダメ?」

そういって、僕は、レイを見つめる。レイも僕を見つめ返す。

「ありがと、シンジ、わたしもよ」
「えっ?レイも・・・なんなの?」

「もう、意地悪!やっぱり、あと3回いってもらわなくっちゃ」
「あ、嘘、嘘、冗談だってば、今日は、レイにやられてばっかりだったから・・・・
ちょっと、一矢むくいたかっただけなんだから。お願い。勘弁して」

僕は、レイの前に手をついて謝った。

「わかってるって、わたしも冗談よ。だから、もう一回」

レイは、僕を起こすと、もう一度、僕を見つめた。僕もレイを見つめ返す。

レイは幸せそうに、微笑んで、そして、ゆっくりと目を閉じる。

僕がレイの肩のうしろに手をやる、レイは僕の頭に手をまわす。僕の顔がレイ
の顔にゆっくりとちかづく、そして、レイの小さな唇に僕の唇が重なる。

僕は、レイの背中に手をまわし、レイを抱きしめる。レイは、僕の頭を抱きし
める。僕は、レイのちいさなからだを全身で感じた。

「レイ・・・・」

「シンジ・・・・」

僕らはもう一度、お互いを見つめあう。


    ◇  ◇  ◇


「あ、あの、今日はこれから、なにしようか?どっか行く?」

どのくらい時間が流れただろうか?僕は、ついに耐えきれず、言葉を発した。

「このまま、シンジをみていたい」

レイは、まだ、僕を見つめ続けてそう言った。

「で、でも、それじゃあ、せっかくの休日だって言うのに・・・・」
「でも、もう、でかけるにはおそいわ」

僕は時計をみると、もう、夕方近くであった。

「そうだね。もう、こんな時間だ」
「ね、だから、もう少し・・・・夕ご飯まで・・・・」

「うん、わかったよ」
「ありがとう、シンジ」

僕達は、ソファーに座って、よりそいあって、お互いを見つめた。お互いの顔
は、すぐそこ、何センチもない。僕は、レイの唇に口づけをし、そして、また、
見つめあった。


    ◇  ◇  ◇


「ちょっと、アンタたち!夕ご飯の用意はどうしたのよ!ほら!ちょっと、ア
タシが帰ってきたのよ。こっち向きなさいよ!」

気がつくと、アスカがリビングの入口にたって、怒鳴っていた。

「あ、アスカ」
「アスカじゃないわよ。なんなのよ。それは一体!」

僕は、レイとだきあって、ほとんどキスをしているような体勢で見つめあって
いたのだ。僕は慌てて、アスカのほうを見た。

「あ、いや、その・・・・今、何時?」
「もう、7時をまわったとこよ。いつから、見つめあってたの?」

「・・・・3時ぐらいかな?」
「アンタばかあ〜?・・・・あきれて、何も言えないわ」

アスカは、ため息をつきながら、自分の部屋に戻っていった。確かに、あきれ
られても何もいえない状況だ。

「レイ、あきれられちゃった。どうしよう」
「ごめんなさい。わたし、そろそろ、夕ご飯の準備の時間だって、気づいてた
んだけど・・・・でも、しょうがないわね」

顔を見あわせて、レイはクスッと笑った。

「そうだね、じゃ、夕ご飯つくろっか」
「そうね、今晩はふたりでつくりましょ」

「うん。でも・・・・アスカ、機嫌直してくれるかな?」
「だーいじょうぶよ。しかってあげなきゃ!掃除から逃げ出したりして!」

「そうだね、そうだった。じゃあ、それはまかせるからね・・・お母さんっ」
「うふふ。まかせて!」

つづく

あとがき どうも、著者です。 いやー、一時はどうなることかと思いました。 見つめあって、固まってしまったら、話が続かんじゃないか! まさか、見つめあって、午後が終わるなんて、誰が考えたでしょう? そんなに、心理描写だけで、文章なんか書けんぞ! と、いうところで、アスカ様のご帰宅です。 本当によかった。 今回は、アスカ抜きのふたりの休日っていうのを書こうと思ったんですけど、 なぜか、レイが母性愛にめざめてしまって、アスカを起こすなんて いいだしたのが、そもそも、予想外でした。 その辺は、洞木さんを登場させて、うまくやったつもりですが、 御都合主義そのものですね。(っていうか、この話、全部そうだけど) さすがに、かなり、照れますね。こういうのって、 でも、楽しいですよ。このふたりがどんな会話するのかって考えるの。 で、しばらく、この路線で攻めようかと思ってます。 でも、当分、ふたりっきりはこりごりです。 誰かにちゃちゃをいれさせねば・・・・ それでは、 もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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