レイが好き!
第12話
雪
あっという間に、もうクリスマスイブが来てしまった。今日は終業式だったの
で、学校は午前中で終わりだ。明日からは冬休み。そして、その前に、今日は
クリスマスイブのパーティーがある。学校から帰ると、僕達は早速、パーティ
ーの準備にとりかかった。
クリスマスといえば、ケーキに七面鳥だ。さすがに、七面鳥なんて、見たこと
もないので、かわりに、僕は、フライドチキンを山程つくった。ついでに、フ
ライドポテトとサラダも。乾杯用に、シャンペンを一本奮発して、買ってある。
レイは、クリスマスケーキを作った。だいぶ前から、僕に隠れてこそこそ何か
していたが、どうも、洞木さんにいろいろ教えてもらっていたようだ。きっと、
何回か練習で作ったりしていたのだろう。そういえば、食欲がないといって、
夕食を食べなかったり、その割には、元気だったり、おかしいなとは思ってい
たのだ。
「すごいね、レイ。とっても上手だよ。いつの間にそんなの作れるようになっ
たの?」
それでも、綺麗にデコレーションが出来上がると、僕は感激して、そうレイに
聞いた。
「うふふっ・・・・たくさん、失敗してるのよ。ホントは」
「そ、そうなんだ。でも、ホントに上手だよ。とっても綺麗だ」
「ありがと、シンジ。でも・・・わたしとどっちが綺麗?」
「あの・・・レイ?」
そんな風にふるの?・・・そんな風に・・・そんな目で、見つめられたら・・・
とても、僕には・・・答えられない質問じゃないか!
「うふふ、冗談よ。でも、たくさん、失敗したのはホントよ。捨てるものもっ
たいないから・・・・わたし、ブタになっちゃうんじゃないかと思ったんだか
ら」
「そ、そうなんだ」
「シンジは、わたしが、まんまるになったら嫌いになる?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないか!レイはレイだもの・・・きっと、
それでも、かわいいよ・・・」
「なーんだ。そうだったの。それなら、鈴原君になんて、あげないで、全部、
食べちゃえばよかった」
「ト、トウジにあげたの?」
「そうよ、だって、ヒカリん家でつくったんだもの。いつも鈴原君がくっつい
てたわ・・・・もちろん、ヒカリによ」
「そ、そうなんだ。でも、僕も食べたかったな」
「やきもち?」
「そ、そんなことないよ。ヤキモチだなんて・・・・そんな」
「シンジには、上手にできたのを食べてもらいたかったの。ホント、最初はひ
どかったんだから。スポンジがちっともふんわりしなくて、落としたらバウン
ドしたもの」
「バ、バウンドしたの?・・・・」
バウンドするケーキ。そんなのを想像したら、僕は急におかしくなって、笑い
だしてしまった。レイは、恥ずかしそうに、頬をピンクに染めて、僕の腕をつ
ねった。
「痛いよ、レイ・・・・ククク、で、でも・・・・ごめん、もう笑わない・・・
ククク・・・・ハハハハ・・・ごめん、ダメだ・・・・ハハハハ」
「もう・・・そんなに笑うなら、このケーキは、シンジはあげないわ。プレゼ
ントもよ・・・・もっと、笑われそうだもの・・・・」
レイのそんな言葉で、僕がなんとか笑いをこらえて・・・・ちょっと、時間が
かかったけど・・・・レイを見て、謝った。
「ごめん、レイ。僕のために一生懸命だったのに笑ったりして・・・・でも、
今日のケーキは、本当に上手にできてるよ。驚いたよ。だから・・・ネ?」
「うん、じゃあ、許してあげる。シンジが食べてくれなきゃ、なんのために作
ったのかわからないもの」
「うん、ありがとう。ゆっくりと味わって食べるよ・・・ところで、プレゼン
トって、なんなの?・・・笑われそうって?」
「・・・・それは、ヒ・ミ・ツ」
レイはかわいらしく、不器用にウインクをして、僕に答えた。いったい、どこ
で、こんなことをおぼえてくるのだろうか?
とにかく、僕達はたのしく二人で、今夜のパーティーの用意をした。アスカは、
今日はなんとか、早く研究所を抜け出せたようで、さっきから、リビングで待
っている。しかし、手伝う気は全くないようだ。あるいは、気をきかせてくれ
ているつもりなのかも知れないが・・・
◇ ◇ ◇
「シンジー、来たぞー」
「ああ、ケンスケ、上がってくれよ。待ってたんだ」
「それがな・・・・」
「ハーイ、メリークリスマス!シンちゃん」
ケンスケの後ろから、突然、見慣れた顔が飛び出した。
「ミ、ミサトさん。一体どうしたんですか?・・・旦那さんは?」
「いいのよ、あんな奴・・・『あ、悪い、俺、出張』だってさ。ふざけるんじ
ゃないわよ。ちゃんと、クリスマスの用意してたのに・・・」
それは、ミサトさんも気の毒だ。ミサトさんがそんな・・・クリスマスの用意
だなんて・・・まともなことするなんて、想像もつかないが、それにしても、
すっぽかすなんて・・・・
「ミサトさん?」
「ごめん・・・・だからー!陽気に、ぷぅあわー!っとやりたくて、アンタた
ちがパーティーするっていってたから、山程、ビールもって来たわよ」
「そ、そうですか・・・・と、とにかく、上がって下さい」
ミサトさんは例によって、大きなクーラーボックスをかかえて、リビングには
いっていった。僕は、ケンスケをみた。
「すまんな。そこで、つかまっちゃってさ」
「いいよ。気にすんな。それに、ほっとけないよ。ミサトさんも」
「そ、そうだろ!俺もそう思ったから、実は、一緒にって誘っちゃったんだ」
「なんだ、そうだったのか。まあ、ケンスケも上がれよ。さっきから、アスカ
がまちくたびれてるんだ」
「お、俺を?」
「料理をだよ」
しかし、生徒にこれほどまで心配させる教師というのも・・・・ミサトさんて
いったい?ホント、変な・・・・先生。
◇ ◇ ◇
「なによー、ミサトも来たのー?旦那いたんじゃなかったけー?」
「うっさいわね。いいのよあんな仕事の虫は・・・・そういうアスカだって、
ひとりじゃない」
「ア、アタシは、男なんて興味ないもの」
「そんなこといっちゃってー。まー、その性格じゃ、無理もないけど・・・」
「な、なによ。言っとくけど、ミサトと違って、アタシはその気になれば、
男なんて、いくらでもいるのよ!」
「はいはい、アスカは若いもんね。可能性はあるわよね。可能性だけは」
「なによ、自分が旦那にかまってもらえないからって、そういう言い方はない
でしょ!」
「かまってもらえないんじゃないわよ。今日はたまたま出張が入ったってだけ
よ」
「つまり、かまってもらえてないってことじゃない」
「じゃあ、アスカはどうだっていうのよ」
アスカがミサトさんと顔をあわせると、こんなことになるんじゃないかとは思
っていたが、予想通り、こんなことになった。
「まあ、まあ、落ち着いて、二人とも。今日は楽しいクリスマスイブなんだか
ら」
「そうね、ごめん、ミサト。言いすぎたわ」
「ううん、私こそ。アスカなら・・・アスカさえ、その気になれば、いくらで
もいい男できるわ。まだ、若いんですもの」
「ちょっとー、それじゃあ、単に若いだけみたいじゃない!」
「なによ!せっかく、私が優しくいってあげたのに、やる気!」
「ほら、ふたりとも、ちょっと!」
「アスカ!いまのは、アスカが悪いわ。謝りなさい」
僕がいくら止めても収まりそうにない。それを見兼ねてか、レイが突然、口を
出した。
「わかったわよー。ごめんなさい」
「それで、いいわ・・・・いいわね?ミサトさん」
「う、うん。わたしも少し、大人げなかったし・・・・」
「じゃあ、握手よ」
そういうと、レイは、二人の手をとって、握手させた。僕がいくらいってもケ
ンカを止めなかったのに、レイのいうことは、なぜか、二人とも素直にきいて、
握手をした。そんな風景を黙って見ていたケンスケは、僕をつっついて、こっ
そり、僕につぶやいた。
「すごいな。綾波って・・・・なんか、迫力あるな」
「う、うん」
「いっつも、こうなのか?家では」
「うん、時々、アスカに対しては・・・・なんか、お母さん役をかってでてる
みたいで・・・」
「へー、なんだか、意外だよ。いつも、おとなしそうなのに・・・・」
「まさか、レイが好きになった、なんていうんじゃないだろうね?」
「わかってるって、そんなの。でも、意外だったよ。お前のせいかな?」
「僕のせい?」
「ああ、なんか、そんな気がするよ。お前の真似してるって感じ」
「ぼ、僕にはあんな、迫力はないよ」
「そうじゃないよ。人の気持ちを優しく理解してやるって態度がだよ」
「な、なんだよ。それ・・・・照れるじゃないか」
「うん、俺も、言ってて恥ずかしかった。でも、そんな気がするよ」
第三者の目から見るとそんな風に見えるのだろうか?レイが僕の影響で優しい
人になってる?それって・・・・とても、嬉しい。ありがとう、ケンスケ。そ
ういってくれて。
「で、いつまで、俺達、このまま、ぼけっとしてるんだ?」
「あ、そ、そうだね。じゃあ、料理を運ぶから、みんな手伝って」
そうだ、今日は、洞木さんもいないし、僕が仕切らなきゃいけない。しかし、
この面子で、しかも、あの大量のビールで・・・・とほほ、どうなることやら・・・・
◇ ◇ ◇
結局、手伝ってくれたのは、レイとケンスケだけだった。のこりの二人・・・
アスカとミサトさん・・・は、いきなり、ビールをあけて、乾杯している。ホ
ントに仲いいんだか、悪いんだか?
とりあえず、料理を全部・・・ケーキを中心にして、リビングにならべて、各
自にグラスを配って、シャンペンをあけ、僕はまず、アスカとミサトさんにつ
いだ。
「なんか、もう始まっちゃってるみたいだけど、これは、乾杯までまってよ」
そう念をおして、僕は、自分の席にもどって、となりにすわってるケンスケに
もついでやる。アスカたちはいちおう、シャンペンはおいておいて、ビールを
がんがん飲んでいる。
レイはグラスをもって、僕の横にちょこんとすわっている。 今日は、別にレイ
の歓迎会というわけじゃないから、別に、アスカたちのところにいかなくても
いい。今日は僕の横からきっと離れないつもりかもしれない。
「レイ、ついであげる」
「うん、ありがとう・・・・じゃあ、今度はわたしが・・・」
僕がレイのグラスにシャンペンをつぎおわると、レイは僕からシャンペンをと
りあげ僕についでくれる。
「ありがとう、レイ」
「ううん、わたしこそ、ありがとう、シンジ」
レイは僕の目を見つめる。僕もレイの真っ赤な瞳を見つめた。
「コラー!なにやってんのよ!・・・・待ってんのよ!アタシたち」
「そーよ。私たちのまえで、生意気よ!」
アスカが怒鳴った。ミサトさんも怒ってる。あの、いや、その。みんながいる
んでした。すいません。ケンスケも呆れたように、見ている。
「ご、ごめん、じゃあ・・・・メリークリスマス!乾杯!」
「「「かんぱーい」」」
一斉に、カチカチとグラスをあわせ、乾杯の合唱がおこる。しかし、レイの声
がなかったような気がして、僕はレイを見た。レイは、まだ僕の方をみていた。
「レイ、メリークリスマス。乾杯」
「うん、シンジ」
チリンと小さな音をたてて、僕達は杯を重ねて、すこし、見つめあってから、
シャンペンを口にした。
「やってられないよなー、惣流、こいつら、いっつもこんな調子なのか?」
「そーなのよ。やんなっちゃうでしょ?」
「うん、これは、辛いよ。学校でも相当だけど・・・・」
「そーでしょ。アンタも、こっち来なさい。今日は飲みましょ!」
ケンスケは、ビールを受け取ると、そっち側に移動していった。なんか、あっ
ち側では、ヤケ酒大会が始まってしまったみたいだ。
レイは、少し、頬をピンクに染めて、僕の腕にしがみついている。まあ、今日
はクリスマスイブだ。いいよね・・・すこしぐらい。
◇ ◇ ◇
「そろそろ、プレゼント交換しない?」
突然、アスカがそう提案した。僕達は・・・僕とレイは・・・こっちの世界だ
ったので、それは、本当に唐突だった。レイは、ドキドキして、・・・本当に、
鼓動が早くなるのを僕は腕で感じたのだ・・・頬が赤くなっていった。
「そ、そうだね。でも、ミサトさんは、突然だったし、それにケンスケにも用
意してないよ」
「ミサトはいいのよ。いくらなんでも、プレゼントぐらいくれるわよ。ホント
は、やさしーい旦那なんだってさ!」
「な、なに、ゆーのよ。アスカ」
「照れなくてもいいわよ。さんざん、のろけたくせに」
そんな、話をしてたのか・・・あっちでは・・・・
「お、俺は、別にいいよ。そんなの全然期待してないし、パーティーに参加さ
せてもらっただけで、ありがたかったから」
「そうか、わるいな。ケンスケ」
「さっ、丸く収まったところで、プレゼント交換よ。はい、これシンジに。そ
れで、これが、レイの」
「あ、ありがとう、アスカ。なにかな?」
「・・・・ありがとう、アスカ」
僕達はお礼をいった。同じ包みだ。あけると、お揃いのセーターがでてきた。
それも、胸に、大きなハートマークのついた。
「アスカ、こ、これ?」
「このア・タ・シ・があげたんだから、絶対に着るのよ」
これを・・・レイとペアで・・・着ろというのか?・・・・
「あの、そ、外で?」
「アンタばかあ?あったりまえじゃない。なに、いまさら照れてるのよ。いっ
つも、べたべたしてるくせに!」
やられた。ここぞとばかりに、仕返しされてしまった。そんなに僕達はべたべ
たしてるんだろうか?レイも真っ赤になって、黙り込んでいる。
「じゃ、じゃあ。次は僕だね。はい、これ、アスカとレイに」
「あら、おんなじ包みね」
「ありがとう、シンジ。うれしいわ」
二人は、包みをあけた。僕が贈ったのは、おそろいのペンダントだ。綺麗な石
の・・・そんなに高いもんじゃないけど・・・デザインが素敵だと僕は思って
いる。買うときは実は結構、照れたのだが。
「ど、どうかな?」
「結構、いいじゃない・・・・でも、レイと同じものアタシがもらってもいい
の?」
「そ、そんないいんだよ。わざわざ差をつけるのも変じゃないか」
「そう、ありがと、シンジ」
実は、全く同じではないのだ。レイのペンダントの裏には、文字が彫ってある。
『シンジのもの』
レイは、そんな小さな文字を見つけて、こっそり、僕に微笑んだ。
「うふふ・・・・ありがと、シンジ」
「う、うん。喜んでくれて、うれしいよ」
次は、レイの番だ。いったい、何をくれんだろう?かなり前から、さんざん思
わせぶりにじらされているのだ。僕のなかでは、かなり、期待がふくらんでい
る。ホントに、こんなに期待していて、大丈夫なのだろうか。僕もドキドキし
ている。レイはそれ以上のようだ。
「・・・それじゃあ、次はわたしね」
「うん、なんだろう?」
「これ、まず、アスカに」
「ありがと、レイ。レイはちゃんと差つけたみたいね」
そうだ。もうひとつのものとは包みが違う。アスカのは、真っ赤なマフラーだ
った。いったい、僕のはなんなんだろう?レイは、アスカの冷やかしなど、耳
に入らないように、僕をみつめた。
「・・・・シンジ、笑わない?」
「あ、あったりまだろ。なんで、僕が笑うんだよ」
「さっき、あんなに笑ったじゃない」
「あ、あれは・・・ごめん、もう、笑わない。誓うよ。ホント、約束する。も
し、笑ったら、レイのいうことを一つ、どんなことでも、聞くよ」
「ホントね?・・・・じゃあ、これ、シンジに」
そういうと、レイは僕に、かわいらしくりぼんで結わえられた袋をさしだした。
「なんだろう?たのしみだな」
「ここであけるの?」
「うん、だって、早く知りたいもの。レイがなにくれたか」
「そう・・・・ホントに笑わないでよ」
「わかってるって、約束したじゃないか」
ホントに、今日のレイはしつこい。なにを一体そんなに恥ずかしがっているの
か?僕は、りぼんをほどき、中身をとり出した。
「レイ・・・・これ?なに?」
「マ、マフラーよ」
レイは、真っ赤になってそう答えた。だって・・・・これって・・・・
「ククク・・・・こ、これ、マフラーなの?・・・そういえば、そう見えなく
も・・・ないけど・・・・」
「もう!笑わないっていったのに、嘘つき!返して。やっぱり捨てる!」
レイは、真っ赤になりながら、マフラーを僕から取り返そうと、立ち上がって、
手を伸ばした。僕は、レイの手から逃れていった。
「ダメだよ、そんなの。レイが僕のために編んでくれたんだろ?捨てるなんて・・・
ごめん、笑ったのは確かに悪かった。ほんと、可愛いマフラーだよ・・・クク
ク」
ホントにかわいらしいマフラーだ。まるで、タオルぐらいの長さしかない。そ
れに、あっちこっち、毛糸が飛び出してる。どっちから編みはじめたかが、ひ
とめでわかる。片方は編目がばらばらで、だんだん上手になってきて、でも、
最後の方は、編目がきつくなりすぎて、なんだか、すごく硬い。だから、こう
持つと、なんだか、頭のないテルテル坊主みたいで・・・・
「じ、時間がなかったのよ。それに、ホントはもっと練習してから作りたかっ
たのに・・・」
「いいんだよ、レイ。本当にありがとう。僕のためを想いながら、編んでくれ
たんだよね。嬉しいよ。僕の一生の宝ものだよ」
僕は、なんとか笑うのをこらえて、レイを見つめてそういった。
「うん、ありがとう。シンジ。そういってくれて・・・・ごめんなさい、変な
プレゼントで」
「そんなことはないよ。レイの手作りだもん。どんなものより嬉しいよ。ホン
トだよ。だから、ありがとう、レイ」
「うん・・・・でも、シンジ、約束したわよね!笑ったら、なんでもいうこと
聞くって」
「う、うん。そうだったね」
しまった。なんで、そんな約束をしてしまったのだろう。まさか、こんなのだ
とは、思ってもみなかった。しょうがない、約束は約束だ。でも・・・まさか、
いま、ここで、キスしろ、なんて言わないよな・・・と思って、レイを見ると、
やはり、レイは、悪戯な瞳で僕をじっとみている・・・
「あ、あの。出来れば、ふたりっきりの時にってことにしたいんだけど・・・」
「そうね・・・いいわ。じゃあ、しかたがないからそうしてあげる」
レイが口を開きかけた瞬間、そう僕がいうと、レイは、素直にいうことをきい
てくれた。それは、それで、なんだか不気味だったが、とりあえず、僕はほっ
とした。
「あ、ありがとう。助かるよ」
「ううん、シンジが困ることはしたくないもの」
「うん、ありがとう。ホント、ごめんね、笑ったりして」
「うん、もういいの。シンジ、喜んでくれたから・・・・」
レイは僕の目をみつめた。僕もレイの瞳を見つめる。ほんとにありがとう。レ
イは、なんにでも挑戦して、ひとつひとつ、それを会得していって、そうして、
成長していくんだ・・・・その目的が僕のため、なんだ。きっと、レイは、す
ぐに上手に編みものも出来るようになるだろう。きっと、来年のクリスマスに
は、完璧なものをくれるだろう。でも、僕は・・・僕にとっては、今日のこの・・・
可愛いマフラーが、いつまでも、一番の宝物だろう。レイの・・・未完成なレ
イの・・・はじめてのマフラーなのだから。
「さっ、もういいんじゃない?」
「ちょっと!バカシンジ!いつまでやってるのよ!」
「いいかげんにしろよ。確かに気持ちはわかるけど、異常だぞ、お前ら」
ミサトさんの言葉を口火に一斉に言葉がとんで来た。また、やってしまった。
「ご、ごめん」
「ごめんなさい」
僕達は、みんなに謝って、それから、僕達は顔を見合わせた。
「また、やっちゃったね」
「うふふ、そうね」
みんなはあきらめの表情になって、ため息をついた。もちろん、僕にはそんな
表情は見えないが、ため息は聞こえた。
「まあ、いいわよ、勝手にやってなさい。で、相田もなんかもってきたんでし
ょ?」
「そうだよ、惣流には、もってこないと機嫌わるくするっていうから」
「もう、機嫌なんてよくなりようがないわよ。で、何もって来たの?」
「じゃじゃーん。俺のとった写真」
「なによー、それ」
「いいじゃん。この間の、綾波の歓迎会ん時の奴だよ。惣流もいっぱい写って
るから」
「まあ、見てやるわよ。どれどれ?」
「ほら」
「へー、いいじゃない。まあ、アタシだからね!ほら、ミサトも写ってるわよ!
年相応にだけど」
「どーゆー意味よ・・・ふーん、いいオンナじゃない!」
「もう、老眼なの?」
「ガキにはわかんないのよ。このオンナの魅力は。相田君はどう思う?」
「い、いや。その・・・いずれの方々も・・・それぞれに・・・その・・・美
しく、甲乙つけがたいと・・・・」
「なによー!このアタシとミサトが一緒だって言うの?」
「あら、私こそ心外だわ。こんなガキどもと一緒ってどういうこと?」
「あの、いや・・・・シンジー、助けてくれよー」
ケンスケは、僕に助けを求める。そんなの知るもんか。ケンスケの写真じゃな
いか。それに・・・・ねっ、レイ。
「うふふっ・・・そうね。わたしの部屋にいきましょうか?」
「そうだね」
僕達は、リビングをあとにした。
◇ ◇ ◇
レイの部屋は、派手な装飾はないが、すっきりとかたずいて、白っぽいモノト
ーンの世界・・・それに、ところどころ、薄い赤や黄色、空色が点在する。そ
んな、いかにもレイの部屋という感じで、ここは、レイの世界・・・そんな印
象をもたせる部屋だった。
僕達が部屋にはいると、レイは、僕を見つめた。レイの瞳の奥で、なにか悪戯
な色が動きだしている。不意に、レイは視線を外して、それから、もう一度、
僕を見た。
「さーて、どんなことお願いしようかなー」
「もう、いいじゃないか。そんなこといわなくても。いつでも、僕はレイのお
願いをきいてるじゃない」
「そうね。じゃあ、今はいいわ。いざという時のためにとっとく」
「そんなー」
「うふふ・・・これで、シンジはわたしから逃げられないわよ。切札はわたし
がもってるもの」
「へー?じゃあ、これは切札にはならないかな?」
そういって、僕は、もらったばかりのマフラーを取り出した。
「い、いじわる!もう、しまってよ。恥ずかしいんだから」
「やだよ。今日は寒いから、ずっと、巻いてよーっと」
「・・・・いじわる」
「意地悪じゃないよ。ちゃんと使うんだから・・・・あったかいよ、とっても」
「うん、ありがとう。ホントは・・・嬉しいの・・・・」
「うん・・・・レイ、雪だ」
部屋のあかりに照らされて、美しく、舞い落ちる雪が窓からみえた。雪。そう
いえば、あの時の・・・いまも着ている真っ白なワンピースをはじめて着た時の・・・
僕のレイに対する印象。それが、真っ白な雪だった。
「きれいね」
「うん、綺麗だ。まるで、レイのように」
「あら、わたしはあんなに冷たくないわ」
「でも、はじめてあった頃はあんなだったよ」
「そうかもしれないわね」
「うん、レイは成長したよ。ホント、とっても素敵になったよ」
「ありがとう、シンジのおかげよ」
「そんなことないよ・・・・」
「ううん、シンジのおかげ・・・シンジのためにわたしは素敵な女になるんだ
もの」
「うん、ありがとう、レイ。でも、もっと、編みものは練習しないとね」
「もう!」
「うそだよ」
僕は、レイにキスをする。レイの唇の暖かさを感じる。けっして、雪のように
冷たいなんてことはない。レイは僕に抱きつく。あったかい。本当に、ありが
とう、僕のために・・・・
つづく
あとがき
えと、著者です。
クリスマスパーティーの話です。
いやー困ったもんだ。なかなか終わりません。
しょうがないので、むりやり、これで、終わらせます。
ほんと、歓迎会とかもそうだったけど、大勢いると、難しいです。
シンジ対レイじゃなくても、とにかく、二人の会話なら
なんとなく、すらすら出てくるんですけどね。
その、どこで、誰が喋りだすのかってのがね・・・・
で、「雪」というタイトルにしてみました。あんまりカタカナのタイトルが
しっくりこないような気がしたもんで・・・・
それで、セカンドインパクトの起こってない世界なんで、
それも、多分、現代の話なんで、雪は降るんです・・・・
だって、そのほうがロマンチックじゃありませんか。
ところで、このまま書いてしまうとなんか、
アスカとケンスケがくっついてしまいそうで・・・・
ケンスケなんぞに、アスカ様をやるもんか!
話の方は、
まあ、プレゼントの件もなんとかなりましたし、
ミサトさんも参加したし、概ね、予定通りです。(って、どんな予定だったんだ?)
ただ、最後、収拾がつかなくなっただけです。(って・・・)
そう、とにかく、雪を見て・・・・・
を書きたかったんです。
でも、よく考えると、夜って、窓の外、見えないような気も・・・
(ハハハハハ!・・・・笑って、ごまかす筆者であった)
最後の『ありがとう、僕のために・・・』ってのが何にかかるのか?
なんか、いろんなものにかかりそうでいいな、と筆者だけが思ってるんです。
で、碇ゲンドウ氏は、やっぱり帰って来ませんでした。
ここに登場させちゃうと、話が変わっちゃうでしょ?
次回、電話でもさせてみようかな?
たぶん、次回はこの続きです。パーティーは終わってませんし、
少なくとも、散会後ぐらいから始まるんじゃないかな?
『リビングに戻ると、もうみんな帰っていて・・・・』かな?
ほんとは、もっと、日常を書きたいんだけど・・・・
というわけで、無理矢理そうなるかもしれません。
それでは、
もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、
また、次回、お会いしましょう。
つづきを読む/
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