レイが好き!
第20話
大雪


「シンジ、なに考えてるの?」
「う、うん。ちょっと・・・・」

その日、遅い夕食をとって、リビングのソファーに座って、テレビをつけた後、
僕は、ちょっと、考えごとをしていた。レイは、心配そうに、僕をのぞき込ん
で、聞く。それに、僕があいまいに答えると、その代わりにアスカがレイに答
えた。

「シンジの考えることっていったら、アンタのことに決まってんでしょ?レイ」

アスカのいう通り、僕は、レイのことを考えていた。レイは、僕を選んで、戻
って来てくれた。それは、確かに嬉しい。しかし、いったい、レイに何が起こ
っていたのか、レイは話してくれない。いや、それは別にいいんだ。レイは、
一人の人間なんだから、話したくないことだって、あっていい。では、僕は、
なぜ、こんなに考え込んでいるのだろう?

「シンジ、本当?・・・わたしのこと考えてるの?」
「う、うん。まあ・・・」

レイは、やっぱり心配そうに僕をのぞき込んで、その真紅の瞳を輝かせながら
尋ねる。僕は、やはり、あいまいに答える。アスカは、そんな僕達を、優しい
笑顔で見ている。

「ごめんね、シンジ。わたし、心配かけたから・・・」
「ううん、そうじゃないんだ。ただ・・・」

「ただ?」
「わからないんだ、自分でも。レイは、一人の人間だから、いいたくないこと
だって、あっていいはずなのに・・・僕って、酷いオトコなのかな?時々、レ
イを独占したくてしょうがなくなる」

「ありがとう。シンジ」
「え?でも・・・」

「ううん、だから、いいたくなかったんじゃないの。いえなかったの。だって、
わたしが他の人に惹かれてるなんて知ったら、シンジ、悲しむでしょ?・・・
だから」
「う、うん。でも、いって欲しかった」

「今も?」
「ううん、今は、どっちでもいい。レイが話したいなら話せばいいし、話した
くないなら、それでいい」

そうなんだ。レイは僕を愛してくれている。今は、それを本当に確信できるか
ら、そんなことはどうでもよくなってしまった。そうなんだ。レイは、レイで
いてくれるだけで、僕は、幸せなんだから・・・

僕が、優しく、レイに微笑むと、レイは、ニコっと微笑んで、悪戯そうに、そ
れに答える。

「じゃあ、ちょっとだけ、教えてあげる。あの人のこと」
「え?」

「うふふっ、やっぱり、やめた」
「な、なんだよ。そんな風にじらすなんて、ひどいよ」

「だって、シンジ、ヤキモチ焼くわ。だって、とっても素敵な人だったんだも
の・・・うふふっ」
「もう!いいよ。そんなに素敵な人だったなら、いまからでも、追いかければ
いいじゃないか」

「だーって、その素敵な人に、シンジの側にいてあげてって、たのまれたんだ
ものっ!」
「・・・・」

レイは、軽い口調でそんなことをいって、ニッコリと笑って、僕を見る。冗談
をいってるのか、本気でそういってのか、僕には判断がつかない。僕は、唖然
と、レイの顔を見つめるだけだった。

「うふふっ・・・結局ね。シンジを悲しませたくなかったの。わたしがいなく
なったら、シンジ、絶対に泣くもの」
「う、うん」

「そう思ったら、あの人の前でも、いつの間にか、ずっと、シンジのことを考
えてたわ。あの人も、きっと、それに気づいたのね・・・・ネッ、素敵な人で
しょ?」
「もう!レイは、どうしても、僕にヤキモチを焼かせたいんだね?」

レイは、一生懸命、明るく振る舞って、深刻にならないように、軽い口調でい
おうとしているのがわかる。だから、僕も、一生懸命明るく答える。

きっと、その人は、レイの心の傷を理解できる人だったんだ。心の傷・・・僕
には癒してやることのできないレイの悲しみ・・・それを取り除くことのでき
る人だったんだ。きっと、レイと同じような心の傷を持った人だったから・・・
なんとなく、そう思う。そんな人が本当にいるのかどうか分からないけど・・・
だから、レイは、僕にはいえなかったんだ。僕には、できないから・・・僕を
苦しめるだけだから・・・そうか、僕は、悔しかったんだ。レイのためになに
も出来ない自分に、もどかしかったんだ。僕には、レイを信じて、そして、見
守ってやることしか出来ないから・・・

「ひどい女だよ。レイは・・・ホントに・・・」

僕は、明るくいおうとしたんだが、溢れだす涙を抑えることができなかった。
レイは、そんな僕を優しく微笑んで、見つめてくれる。

「愛してるわ、シンジ」

こんな頼りない僕のどこをそんなに愛してくれるんだ、レイは。何も出来ない
のに・・・ホントにレイは、それで、幸せなの?ホントに、僕なんかでいいの?

「シンジじゃなきゃ、だめだから」

レイは、僕のこころに答えるように、さっきまで、悪戯そうに動いていた瞳に、
いっぱい涙をためて、つぶやいた。

「優しく見守ってくれるシンジだから」

本当に、それだけでいいの?それだけで、レイは、幸せになれるの?僕なんか
いないほうが、その人と一緒になった方がレイにとっては・・・僕は、涙をボ
ロボロと流しながら、顔をあげて、レイを見つめる。レイも涙をながしながら、
僕をみつめる。

「ばかね、シンジ」
「うん」

「わたしも・・・ね」
「うん」

「シンジ・・・」「レイ・・・」

僕達は、お互いの瞳を見つめあった。

「ハイハイ、ふたりともバカだって、結論が出て、めでたいけど、アタシが見
てるっての、わかってる?」

「ア、アスカ・・・・ごめん」
「ごめんなさい、アスカ」

いままで、黙ってみていたアスカが、呆れたように口を開いた。だめだ、こん
な大事件があっても、僕達はちっとも変われないや。ホント、僕達って、バカ
なんだな。

「いいわよ。めでたい日だから今日は。邪魔ものはこれで、消えてあげるわ。
でも、いい?アンタ達は、どっちもバカなんだからね!自覚したんなら、分か
ってるわね?」
「なにが?」

「はー・・・いい?アタシは、今から、自分の部屋に戻って寝るけど、アンタ
達も、それぞれ、自分の部屋に戻って寝るのよ!」
「あたりまえじゃないか、そんなこと。アスカ、何・・・」

アスカは呆れながら、念を押した。僕が、アスカが、何をいってるのかわから
なくて、アスカに、そう答えている途中で、ようやく気づいて、真っ赤になっ
た。

「と、とにかく、あたりまえだよ。そんなこと」

「ふーん、いいわ。じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい、アスカ」

アスカが、そんなことをいって、自分の部屋に戻っていったので、僕は、真っ
赤になったまま、黙りこんでしまった。いつまでも、そうしているわけには、
いかないので、そのまま、小声で、レイに話かけた。

「じゃあ、僕達も、寝ようか?そろそろ」
「わたし、バカでもいいもの・・・ばかなことする?シンジ」

レイは、かわいらしい、甘えた声で、僕を見ながら、そういった。えぇ?だっ
て・・・その・・・バカなことするって、この場合・・・僕は、真っ赤になっ
て、しどろもどろに答える。

「ダ、ダメだよ。レイ・・・その、まだ、早いよ・・・そ、そんなの・・・そ
の、嫌って訳じゃないけど・・・と、とにかく・・・僕達は・・・」
「うふふっ」

「あー、もう!ひどいよ。レイまで、僕をからかってるんだ!」
「うふふっ、おやすみ、シンジ」

ホント、レイは凄いよ。僕は、部屋へ戻っていくレイの後ろ姿をそう思いなが
ら、見つめた。


    ◇  ◇  ◇


「シンジ、起きて起きて!」
「な、なに?レイ」

翌日、僕は、レイにからだをゆすられて、目を覚ました。まだ、半分眠ったま
ま、僕は、目をあけて、レイの姿を確認する。レイは、うれしそうに、真っ赤
な瞳をキラキラさせながら、窓の外を見ている。

「すごい雪だね。積もってるの?」

僕は、起き上がって、窓の方へ向かう。レイも、僕の横について来て、うれし
そうに、はしゃぎながら、答えた。

「うん、たくさん。こんなのはじめて。雪って、綺麗ね」
「う、うん。こんなに降ったのは、何年かぶりだよ。でも、学校大丈夫かな?」

この地方で、これだけ、雪が積もるのは、本当に数年ぶりだろう。前のときは、
電車がみんな止まって、学校が休みになったくらいだったんだ。怪我人もいっ
ぱいでたし・・・僕は、レイに、そう説明しながら、興味深そうに雪をみてい
るレイを見ていた。レイは、僕の説明など、うわの空で、雪に見入っている。

「でも、綺麗・・・」
「そうだね。とっても、綺麗だ」

僕はレイの顔をみながら、答える。レイは、僕の視線に気づいて、口をとがら
せて、反論する。まったく・・・・かわいいよ。やっぱり・・・レイだよ。

「もう!わたしじゃなくて、雪が!」
「う、うん。外、出てみる?」

「うん!もちろん。だから、呼びにきたのよ」
「じゃあ、僕も着替えるから、レイも、もうちょっと、厚着しておいでよ」

「うん、じゃあ、待ってるから、早く来てね。シンジ」

僕は、ちょっと、迷ったけど、今日は、そんなに外に人はいないだろうし、そ
れに、レイが更に厚着をするとすれば・・・僕は、手近にあった、まだ袋から
だしてないセーターを着込んで、マフラーをして、玄関へむかった。

「おまたせ、レイ」
「うふふっ、おそろいね」

「うん、それに、これもね」
「い、意地悪。外にはしていかないって、いったのに!」

「ハハハ、でも、誰もいないよ。こんな朝早く、それに、こんな大雪だもん」
「うふふっ、そうね。嬉しい・・・ホントは」

レイは、僕の腕に両腕でしがみついて、そういった。ホントに幸せそうに瞳を
キラキラさせながら・・・よかった、こんな僕でも、本当に、レイを幸せにで
きるのかもしれない。こんな些細なことでいいんなら、いつだって、僕は・・・

「シンジ、はやくー」

レイは、子供がおねだりするような甘えた声を、僕の耳もとで、発して、僕の
腕をひっぱる。僕は、レイに引っ張られながら、エレベータの方へ歩いていっ
た。


    ◇  ◇  ◇


「うわー、ほんとに・・・」

僕は、言葉を失ってしまった。外は、本当に一面の銀世界。まだ、早朝という
こともあって、誰も踏みあらしていない真っ白な新雪の世界。その中に、僕達
は、ふたり、ポツンと立っている。人間で、なんて、ちっぽけな存在なんだろ
う・・・僕は、なにを悩んでいたんだろう?・・・ホント、すべてがばかばか
しくなってしまう。

「凄い凄い!」

レイは、僕の腕を放して、雪の中に駆け出す。まるで、子供のように無邪気に・・・

「レイ、そんなに走ると、ころぶよ」
「あっ・・・・つめたーい」

いってるそばから・・・いや、わざとだな。レイは、雪の上に倒れこんで、そ
のまま、起き上がって来ない。ホント、昨日のレイとおなじレイとは、思えな
い程、レイって・・・

「ほーら・・・・大丈夫?レイ」
「うふふっ、えいっ」

僕が近付いて行くと、レイは、ねっころがったまま、雪を僕に投げつける。

「つ、冷たいよ、レイ・・・よーし、僕も」
「きゃっ・・・わたしに雪をぶつけるなんて!許さないから!」

「ハハハハっ、許してくれなくたって、いいよ。ホラホラっ」
「もう!・・えいっ、えいっ」

僕は、手当たり次第に、雪をつかんで、レイに投げかける。レイは、雪まみれ
になりながら、それに応戦する。雪がっ戦では、かなわないとみたのか、レイ
は、からだごと、僕に体当りをしてきた。

「うわっ・・・卑怯だよ、レイ」
「うふふっ、シンジのからだ、あったかい・・・」

僕は、レイを抱きとめたまま、後ろへつき倒された。レイのからだについた雪
が二人の体温で、とけてきて、僕の方へとながれてくる。

「僕は、冷たいよ、レイ・・・こうだ!」
「きゃっ」

僕は、レイを抱いたまま、からだを回転させ、レイを自分のしたに組み敷いて、
レイの手首を掴んだ。

「・・・シンジ・・・」

レイは、自分を組み敷いている僕を驚いたようにみつめる。僕は、レイの瞳を
みつめながら、はなしかけた。

「レイ、幸せ?」
「・・・・」

「キスしていい?」
「・・・・」

レイは、瞳で僕に答える。僕は、レイを組み敷いたまま、レイの唇に口をちか
づけ、そして、唇を重ねる。

「ちょーっと、アンタたち!なにやってんのよ。そんなとこで!」

上の方から、アスカの声がとんできた。僕は、慌てて、レイを放す。

「シンジ!アタシの朝食どーなんてんのよ。学校はしらないけど、研究所は休
めないのよ!」
「ご、ごめん、アスカ。すぐ作るよ」

「セーター似合ってるわよ!」

アスカは、呆れたような顔を見せた後、僕のほうにむかって、叫んだ。僕は、
それにこたえると、アスカは最後にそういって、窓をしめた。僕は、真っ赤に
顔を染めて、レイの方をみた。

「あ・・・似合ってるって、セーター」
「うふふっ」

レイも、ちょっと恥ずかしそうに微笑むと、僕の腕をひっぱってあるきだした。

「さっ、いきましょ。アスカがまってるわ」
「う、うん。そうだね」

「でも、自分でプレゼントしたセーターを褒めるなんて、アスカって、なんか
おかしいね」
「うふふっ、そうかもね。照れたんじゃない?きっと」

「そうかなあ?でも、きっと、これから、からかわれるんだろうね。僕達」
「大丈夫よ。シンジは、わたしがまもるものっ!」

つづく

あとがき どうもどうも、筆者です。 ええと、言い訳もなにも出来ないんですけど、 19話について、 やっぱり、失敗だったかなと思ってます。 読み返すとそれなりに、読めることは読めるんですけど・・・ できれば、なかったことにしたいなと思ったり、 とにかく、気になって仕方がないんです。 そうなんです。 とにかく、ふたりは幸せなんだから、 あんなに悩んでたのがばかばかしくなるような話でも書けば、 ちゃらにならないかなと思って、今回、書いてみたんです。 どう思いますか? つまり、その、19話の路線で、どうやって、二人とも立ち直るんだろう? と心配していた訳です。その・・・筆者としては。 あっ、気になってる人もいるかも知れないので、ばらしちゃうと、 「あの人=渚カヲル」です。 で、カヲル君が出てきちゃうと、非常に深刻になるというのが、 19話かいてみて、よく分かっちゃいました。 当初は、単なる美形の、レイと同じ瞳をもった少年ということで、 書こうと思ったんですが、見ちゃいましたからねビデオ。 あんなの見た後で、普通の美少年でいられるわけないですよね。 で、19話があんなのになっちゃったわけ・・・ なんせ、筆者のばあい、大まかに、筋を考えて、書き出して 後は、登場人物が勝手に動いてくれるのに任せちゃうもんで、 なかなか、自由にならないんですよ。 だから、書き終わって読み返すと書き出しとラストがあわない。 で、むりやり、最後にいわせたかったセリフをはめ込む こんなパターンばっかりですからね。 それにしても、カヲル君効果は、修復不能になるぐらい大きいです。 名前もだしてないのに、こうなっちゃうんですからね。 あやうく、路線がまったく、変わっちゃうところでした。 ああ、「シンジが好き!」を書くのが怖い。 (しばらく待っても、まだ書いてなくて、 それで、もし、気になるんだったら、お叱りのメール下さいね) あっ、一応、「レイが好き!」には、もうださない予定です。(あくまでも、予定) だって、行ってしまったんだもん! という訳で、行ってしまった人は、置いておいて、 今回の話ですが、 前半が、前回のつづき、 つまり、前回で、レイになにが起こっていたのかをもうちょっと、 書きたかったんですけど、意外にレイが喋ってくれない・・ で、後半は、立ち直りということで、 雪の中で、戯れるふたり・・・組み敷いちゃったのには驚き! もちろん、ヒントは、この間の東京の大雪。 でも、筆者の辺では、降ってないから、 雪はとにかく美しいものということで書いてます。 雪はあんなんじゃない! なんてことは、分かってますが、 いいんです。 レイが無邪気に喜んでるんだから・・・ で、次回以降ですが、 しばらくは、らぶらぶで、もうちょっと、 他の人も絡めないとなとは、おもってます。 トウジやケンスケ、それにヒカリちゃんにも もっと、活躍してもらわないとね。(ううっ、人数が多くなるとつらい) で、そのうち、ゲンドウ氏にもでてもらわないと、 でも、そうすると、やっぱり、シリアスになっちゃうのかな? いやだなー(・・・って?) それでは、 もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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