レイが好き!
第21話
一緒
「レイ、まだ、心配してるの?」
「だって・・・・シンジは、心配じゃないの?」
いつものように登校する高校生でいっぱいの電車の中、不安そうな瞳で僕をみ
つめているレイは、僕がそう話かけると、つぶやくように答えた。
「でも、そんなの考えたってしょうがないじゃないか」
「シンジは、わたしと離れ離れになっても平気なの?」
「レイは、深刻すぎるんだよ、そんなの。一生の別れみたいにいうことじゃな
いよ」
「でも・・・・」
レイは、やはり不安そうに僕を見つめる。昨日からずっとこの調子だ。僕も離
れ離れになるのは、ホントは、嫌だ。それは、そう思うけど、でも、しかたが
ないじゃないか。それがルールなのだから。社会のルール・・・・僕達は社会
の一員なのだから、自分勝手な欲望だけで、暮らしていくわけにはいかないん
だから。それに・・・
「大丈夫だよ、レイ。きっと、また、一緒になれるよ。なんだか、そんな気が
するんだ」
「そうね・・・そうだといいわ」
僕が微笑みながらそういうと、レイも少し不安げな表情を和らげながら答えた
あと、まるで、僕から離れるのを恐れるように、僕の腕を強く握った。
確かに、分かるんだ。レイは僕と離れ離れになるのが怖いんだ。そして、僕以
外の人と触れ合うのが怖いんだ。僕も実はそうだから・・・・もちろん、レイ
だって、僕以外にも、洞木さんとか、トウジとか、打ち解けて話のできる人は
いるけど、でも、やっぱり、それはごく一部の人だけで、それも、向うからレ
イにはなしかける場合が圧倒的に多く、レイから、特に男子に話かける場面は
見たことがない。
だから、これは、ホントはいい機会なのかも知れない。レイにとっては・・・・
あたらしい人と話すというのは、絶対にプラスになることだろう・・・・もち
ろん、僕は、そんな場面を嫉妬心をもちながら見ることになるだろうけど・・・・
「それに、ホント、大げさすぎるよ、レイは。僕達はいつも一緒にいるのに」
「そうだけど・・・・」
「だから、せっかく、一緒にいるのに、そんなことばっかり考えてたら、もっ
たいないと思わない?」
「・・・・そう・・・・かもしれない」
レイはやはり不安そうな顔で答える。僕はそんなレイを優しい笑顔で見つめる。
レイの不安を取り払ってやりたいから・・・言葉だけではだめかもしれないか
ら、だから・・・
電車がいつもの駅につくと、僕達は人の波に押し流されるように、改札を抜け、
いつもの道を並んで歩く。
「そうね!」
「な、なに?突然」
「だって、考えてもしょうがないものね!」
レイは、明るく元気に自分にいい聞かせるように言った。僕は、優しく微笑み
ながら答える。
「う、うん。そうだよ。良かった、元気になってくれて」
「うふふっ・・・でも、わかってるわ。シンジも不安なんでしょ?ホントは」
「そ、そんなことないよ」
「うふふっ・・・う・そ・つ・き」
「そ、そんな・・・うそじゃないよ」
「うふふっ、じゃ、いいわよ。そういうことにしてあげても」
ホントは、嘘だ。でも、レイと一緒になって不安がっていてはいけない。そう
思うから・・・だから、僕はレイのために強くならなくちゃいけないと思うか
ら・・・
「それに、僕はレイを守らなくちゃいけないから・・・だから」
「ありがと、シンジ」
レイは、そういって、もう一度、僕の腕にしがみつきなおす。ホントはレイは
分かってて不安がっていたのかもしれない。僕に不安がるすきを与えないよう
に・・・ホントはレイは強いから・・・だから、僕より先に・・・それも、大
げさに不安がって・・・それで・・・レイは、僕の腕にしがみついたまま、さ
さやく。
「でも、不安ね」
「うん」
「一緒ね。わたしたち」
「うん」
僕たちは、いつもの道を学校へと向かう。
今日は、席替えの日・・・・昨日、ミサト先生がそう発表した。
◇ ◇ ◇
「シンジ、今日も腕組んで登校か、仲ええこっちゃなぁ」
「ああ、おはよ。トウジ」
僕とレイが腕を組んで、教室に入ると早速、トウジが自分と洞木さんのことを
棚にあげて、冷やかしてくる。毎度のことなので、もう、いい加減、気になら
なくなってきていたし、今日は、他に心配ごとがあったので、いつもの様に真
っ赤になって照れることもなく、僕はトウジに答えた。
「なんや、元気ないなあ、シンジ。どないしたんや」
「別に、なんでもないよ」
「俺は分かってるぜ。どうせ、席替えが心配なんだろ?シンジ。綾波と別れ別
れになるのが、辛いんだよなー」
「な、なにいってんだよ。ケンスケは・・・た、たかが席替えじゃないか。そ
んな、一生の別れじゃあるまいし」
ケンスケもよって来て、そんなことをいうので、僕は慌てて否定した。でも、
僕の表情はぜんぜん否定していなかったようだ。
「いいよなー、シンジは。贅沢な悩みだよ。まったく」
「なんや、シンジ。そんなことで、悩んでるんかいな?ほんま、しゃーないや
っちゃなあ」
「鈴原君は・・・不安じゃないの?」
「え?わ、わいか?」
突然、レイがトウジに話しかけた。トウジも、レイから話しかけられたことに、
驚いたようだった。確かに、レイが自分から人に・・・僕以外の男の人に話か
けるのは珍しいことだ。
「そう・・・ヒカリと離れたくないと思わないの?」
「そ、そうやな。でも、しゃーないやないか」
「そう」
「それに、別に、授業中だけの話やないか。それ以外の時には一緒なんやから・・・」
「そう・・・ヒカリもそう思ってるのかしら?」
「あ、当たり前やないか。ヒカリはそんな女々しい女やない・・・す、すまん。
綾波がそうやゆうてる訳ではないんや・・・その・・・」
「トウジ!なに、レイをいじめてるの!」
「ヒ、ヒカリ、違うんや。その、綾波が・・・」
「ううん、ヒカリ、違うのよ。ヒカリは強いって話してたんだから。わたしも
ヒカリのように強くならなきゃっていってくれたの」
「優しいわね、レイは・・・・トウジ!ちょっと、いらっしゃい!」
「い、痛いがな。そないにひっぱらんでも・・・」
「あーあ、完全におしどり夫婦だね、ありゃ」
トウジは、洞木さんに引きずられるようにローカに連れて行かれると、ずっと、
黙って見ていたケンスケは、呆れたように、つぶやいた。
「フフフ・・・ホント、いいよね。トウジ達って。ホント、羨ましいと思うよ」
「なにいってんだよ。お前らだって、十分、羨ましいよ、俺は。ほら、綾波に
なんかいってやれよ、シンジ」
「う、うん」
僕は、まだ、不安そうに考え込んでいるレイの方に向きなおり、話しかける。
「レイ?」
「ううん、わたしは平気よ。ホントに平気なんだから」
「レイ・・・」
「ばかねぇ、シンジ。平気だっていってるのよ、わたしは。強いんだからっ」
「フフフ・・・そうだったね」
「そうよ!」
僕はレイの瞳を見つめる。強くなるんだという決意・・・強い意志をもった瞳・・・
素敵だよ、レイは。僕も、レイのように強くならなくちゃいけないんだよね。
レイは、微笑みながら、僕の目を見つめる。
「あーあ、やっぱり、羨ましいよな・・・俺もそんな悩み持ちたいよ」
◇ ◇ ◇
「さあ、今朝は、予告通り、席替えをやるわよ」
ミサト先生は教室に入って来て、教壇に立つと、開口一番そういった。クラス
中がざわざわとする。みんな、それぞれ思惑はちがうが、席替えというのは、
やはり、クラスのみんなにとって、それなりに重大事なのだ。レイは、僕の手
を握って、前を向いている。
「さあさあ、静かにして!」
手をうちならしながらミサト先生はクラスを鎮めると、大きなもぞう紙を黒板
に張り出した・・・・あみだくじ?・・・線の下端に1-1から8-6まで、おそら
く、席を表す数字が書かれていて、アミダの真中の肝心な部分にはもう一枚紙
が張られていて、どことどこが繋がるかは分からないようになっている。
「どう?徹夜で作ったのよ。これなら、公平だと思うでしょ?さあ、遠慮なく、
褒めてくれていいわよ」
またもや、クラス中から、ざわめきがおこる。もちろん、褒めている者はいな
い。この時のざわめきは、よく分かる。ホント、ミサトさんって、なんて・・・
しかも、わざわざ、徹夜で・・・・よくやるよ、まったく。
「なーんか、ちょーっち、雰囲気悪いわね。とにかく、これから、このくじで、
席をきめるわよ!端から、一人づつ、出て来て、上の線のところに名前書いて
いってちょうだい」
なんだか、みんな、呆れながら、それでも、一応、先生の言葉だから、それに
従って、名前を記入していく。
「さーて、いよいよ。ご開帳よ。たのしみねぇ!」
なんだか、ミサトさんひとりで、楽しんでいるようだ。みんな、半ば呆れなが
ら、その様子を見ている。
ただ、レイだけは、僕の手を握り直して、目を閉じて、うつむいている。やっ
ぱり、不安なんだね。そうだよね。人はそんなに急には変われないからね。強
くなりたい、そう思う気持ちは大切だけど、今は、やっぱり、僕が支えてあげ
なくちゃいけないんだ。
「レイ・・・」
僕は、レイの方をむいて、つぶやく、レイは、おびえるように僕の手を握り、
目を閉じたまま、黙っている。そうかもしれない。レイには辛い現実なのかも
しれない。だけど、仕方がないことだから・・・
それに、席が違うことになっても、レイを支えることが出来なくなる訳じゃな
いんだから。僕は、いつまでも、レイを見守るんだから・・・・
僕は、覚悟を決めて、前をむいた。あみだくじを覆っていた紙が剥される・・・・
な、なんて、複雑・・・あちこち、ワープだの、ループだの・・・それに、こ
の線の多さ・・・・こりゃあ、一晩かかるよ、やっぱり・・・・ミサトさんっ
て・・・いったい?
「やっぱ、ちょーっち、時間かかりそうね。でも、まあ・・・いいのよ!一時
間目は、私の授業なんだから。さあ、端からいくわよ」
さすが、ミサトさんだ。自分で、勝手に立ち直って、楽しそうに、あみだくじ
を解きだした。この人、普段、楽しみって・・・・
まあ、とにかく、授業がつぶれるのは、それなりに、嬉しい。一部では、それ
を歓迎しない意見も出たが、それについては、僕は素直に嬉しかった。
レイは、決意したように顔をあげると、食い入るようにアミダをみつめた。
『レイ・・・』
ミサトさんのアミダ解きがすすむ。レイは、必死になって、自分と僕の線を追
っているようだった。僕は、レイの手をしっかり握り、レイを見ていた。
「シンジ・・・・」
突然、レイが握っている手に力をこめて、つぶやくように僕を呼んだ。レイの
瞳がうるむ・・・・涙?
「レイ・・・・」
ダメだったの?・・・・それとも・・・レイの瞳から涙がこぼれる。
「レイ・・・・」
「シンジ・・・」
レイは、僕の胸に顔をうずめてすすり泣く。僕は、レイの頭に手をやって、レ
イを安心させようと抱きしめる・・・・ダメだったんだね・・・でも・・・
◇ ◇ ◇
数人の人が手伝いながら、一時間目も、もうあと10分というところで、ようや
く、全てのアミダが解かれた。レイの様子で、既にレイととなり同士ではない
ことは想像できたが、僕は、結果を確認する。
『1-6と8-2・・・やっぱり・・・それも、両端か・・・』
僕は、レイを抱いている手に力をこめる。でも、事実は受け止めなくちゃいけ
ないんだ。嫌なことから逃げていちゃ、いつまでたっても強くなれないから・・・
でも・・・
『レイ・・・・』
ミサトさんは、僕達の様子にも気づいているようだが、ニヤリと笑ったあと、
みんなにむかって、明るく話しだした。
「さあっ、これで、安心したり、がっかりするのは、まだ早いわよ!」
『え?』
僕は、レイを抱いている手を緩める。レイも顔を起こして、前を向く。ミサト
さんは、例によって、ニヤニヤとあまり、よいとはいえない笑顔でつづける。
「このミサトさんが、どんでんがえしを用意しないわけないと、思わない?」
クラスのざわつきは更に大きくなっていく。
「この、下の数字が席順だなんて、一言も言ってないわよね、私は」
き、希望がまだある?さすが、ミサトさん。こういう、わけ分かんないことさ
せたら日本一かもしれない・・・・でも・・・・まだ・・・・
「さーて、これが、この数字と席順の対応表よ」
そういうと、一枚の紙を黒板に張り出す。みんな、一斉に立ち上がり、黒板に
群がる。僕とレイは、それに出遅れてしまって、後ろから、背伸びをしながら、
のぞき込むのだが、まったく見えない。
「よかったわね。また、隣どおしよ、あなたたち」
ミサトさんがいつのまにか、僕とレイの側に寄って来て、耳もとで、小声でそ
う告げて、ニコっと笑いながら、ウィンクをして去っていった。授業終了のチ
ャイムが鳴る。
「シンジ!」
レイが僕に抱きつく。
「レ、レイ!」
僕はレイを抱きとめる。ホントによかった・・・・ホントに。レイは、やはり、
涙をながしながら、僕の胸の中で、泣く。弱いんだねレイは・・・ホントは・・・
やっぱり。僕は、レイを守るからね。ホントに・・・だから・・・・
「よかったな!シンジ・・・でもな、ここが教室だって知ってるか?」
ケンスケが寄って来て、僕の背中をおもいっきり叩いて、そんなことをいった。
ホントに痛かったけど・・・でも、よかった・・・よかったよ、ホントに。た
だ、この後、僕は、まわりの状況を見渡して・・・・・
「あの・・・・レイ・・・みんな、見てる」
「いいっ、しあわせだから!」
◇ ◇ ◇
「シンジ・・・絆って、わかる?」
「え?」
「絆・・・・わたしたちをつなぎとめる糸・・・なんだと思う?絆って」
「う、うん。なんだろうね」
「ううん、なにがわたしたちをつなぎとめているのかしら?」
「うん」
「なにかしら・・・・」
「・・・きっとね。お互いを想うこころだよ」
「・・・・」
「絆って」
「そうね」
「うん」
帰り道、僕達はいつものように、腕を組んで、ならんで歩く。絆・・・わから
ないけど・・・でも、きっと、見えない糸が僕達をつないでいる。そうでなけ
れば、説明がつかないからね。だから、それが、僕達の運命なんだね、きっと・・・
だから・・・
「クスクスッ、シンジ、キザね・・・」
「もう!せっかく、一生懸命考えて、こたえてるのに」
レイは、思い出したように、笑いだし、僕を見る。そして、僕の目を見つめて、
つぶやくように、僕の名を呼ぶ。
「シンジ」
「なに?」
「いつも、想ってるからね。シンジのこと」
「うん・・・ありがと」
「シンジは?」
「え?」
「シンジは、想ってる?わたしのこと」
「さ、さあ、どうかな?」
「もう!シンジの意地悪!せっかく、いい雰囲気なんだから。『想ってるよ』
って、いってくれれば、いいじゃない!」
「だ、だって・・・そんなの・・・」
やっぱり、照れ臭いよ・・・さっきのセリフだって、そうだったんだけど・・・
それに、いつだって、僕がレイのことを想っているのは、そんなのは、当たり
前のことだから・・・レイだって・・・僕は、レイのキラキラと輝く瞳を見つ
める。レイは口を尖らせて、拗ねた顔で僕を見つめる。
「ホントは、想ってないんでしょ?」
「フフフ、そうかもね」
「もう!シンジのバカっ」
「そうだね」
「バーカ」
「そうだよ、やっぱり」
「やっぱり、嘘つきだわ、シンジは」
「うん」
「うふふっ、好きよ、シンジ」
「馬鹿だから?」
「・・・嘘つきだから」
つづく
あとがき
どもども、筆者です。
えーと、まず、一言。
「ごめんなさいっ、ミサトさんっ」
さて、あとがきです。
しっかし、こんなに深刻ですかね?席替えって。
なんか、出だしをああすると、レイがいつまでたっても、
不安から立ち直らない・・・・レイって、そんな子だっけ?
まあ、確かに、席替えって、その当時は、重大事件だったかもしれない。
好きな人の隣になれるかってのは、ホントにあったかもしれない。
でも、もう、忘れた。
でも、レイが、あれだけ真剣に離れたくないって思うのだから、
きっと、レイにとっては、ホントに重大事件なのだろう。
って、なんか、筆者にあるまじきことに、つまり、「感想」な訳ですが、
・・・・うーん、つまり、責任転嫁なのかもしれない。
まあ、めでたく、またもや偶然隣同士になったことですし、いいとしましょう(って?)
今回は、ですね。
絆のはなしをしたかったのです。
でも、タイトルが「絆」では、あまりに単純なので、タイトルは考え中です。
最近、「絆」というSSを読んだばかりでもあるので、そういうことです。
で、なんで、こんな話になってしまったのかは、筆者にも不明。
ミサトさんの面白さが空回りしてる〜・・・
ミサトさん、筆者は好きなんですけどね。
あぁ、このクラスにアスカがいてくれたら、どんなにいいか・・・
せめて、ヒカリちゃんが、突っ込んでくれたらなー・・・
あぁ、なんか、落ち込んで来ちゃったなぁ。
でも、無理矢理 UP するんです。この話。
もちろん、明日、読み返して、微修正はしますけど。
いいのです。
納得いこうがいくまいが、数撃ってるうちに、そのうち、当たる・・・かなぁ?
大丈夫。
筆者の評価なんて、たかが、しれてるから・・・だから、
きっと、この話を気に入ってくれる人もいるに違いないっ!
あぁ・・・憂鬱
やっぱり、シンジとレイの会話だけの話が好きだな、筆者は。
それに、チョコっとアスカが参加するっていうのが・・・・
チョコといえば、もうすぐ・・・あっ、ネタバレはやめよう(・・って、もう遅いか)
さーて、次回はどうしようかな?
それでは、
もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、
また、次回、お会いしましょう。
つづきを読む/
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