レイが好き!
第26話
形見


「シンジ、起きて」
「うん、もう少し・・・」

「ダメよ。折角の日曜日なんだから、早く起きるの」
「う、うん・・・」

日曜の朝、僕は、レイに起こされて、でも、折角の日曜だし、眠りに未練を残
しながら、ゆっくりと、わずかに、目を開ける。

「うわっ、びっくりした。レイ?」
「うふふっ。おはよう。ねぼすけさんっ!」

僕が目を開けると、目の前にレイの目があった。そして、レイは、僕に朝の挨
拶をすると、いきなり、僕の口を口で塞いだ。

レイが僕から離れると、僕は、上半身を起こして、レイを見た。いつもは、頬
に軽いキスぐらいで、起こしてくれるのに、どうしたんだろう?一体

「お、おはよう・・・・でも・・その、どうしたの?今日は?」
「うふふっ、別にぃ・・・」

「別に、ってどうしたのさ。だって、いつもは、こんなことしないじゃない」
「いいの。今朝は、シンジの寝顔みてたら、つい・・・ね」

レイは、今ごろ、顔を真っ赤にして、そんなことをいってくれた。レイでも、
そういうことがあるんだ。僕は、いっつも、レイを見ると、そんな感じになっ
てしまうけど・・・そうか、レイでもそういうことがあるんだ。

「うん。ありがと。レイ。綺麗だね、レイは、今朝も」
「ばか」

「ば、ばかって、ことはないだろ!」
「うふふっ、だって、シンジだって、いっつも、そうやって、誤魔化すもの」

「ぼ、僕は、馬鹿だなんていわないよ」
「だって、わたしは、ばかじゃないもの」

「それじゃあ、僕は、ホントに馬鹿だから、ばかっていえるみたいじゃない」
「うふふっ、でも、わたしは、ばかが好きだから」

「・・・・ありがと」
「じゃあ、朝ご飯の用意してるからね。ちゃんと、起きてね。シンジ」

やや、複雑な思いがまじったけど、でも、やはり、僕は、顔を真っ赤にして、
レイに礼をいった。レイは、もう一度、今度は、頬にキスをして、そして、台
所の方に、駆けていった。いつもと同じような日曜日のはじまりだけど、でも、
なにかが・・・きっと、いいことが起こるような、そんな気のする日曜日だと
思った。


    ◇  ◇  ◇


「碇さーん、宅急便でーす」
「はぁーい。今いきまーす」

朝食後、僕達がボーっと、テレビを見ていると、ひとつの荷物が届けられた。
レイが、ハンコを持って、玄関へ向かう。僕も、もちろん、レイのあとについ
ていった。

「なんだった?レイ」
「わからないわ。でも、壊れモノって、書いてあるわ」

「誰からだろう?」
「ここね。碇・・・ゲン・・ド・・・碇所長からだわ!」

父さんが・・・僕もレイと一緒に差し出し人の欄を確認して、一瞬、息を飲ん
だ。一体、父さんがなにを送ってきたのだろう?うちに、荷物なんか送ったこ
となんて、いままで、一度もなかったのに・・・そういえば、もうすぐ、帰っ
てくるとアスカが、言っていた。まさか、おみやげ?・・・あの父さんが?

「とにかく、リビングまで、運びましょ、シンジ」
「そ、そうだね。ああ、いいよ。僕が持つよ」

「うふふっ、ありがと、シンジ」
「あ、あたりまえだよ。そんなの。レイが重いもの運んでるのに、僕が、黙っ
て、見てられるわけないじゃないか」

僕は、ちょっと照れながら、そういって、荷物をレイから取り上げて、リビン
グへ運ぶ。レイは、なにかおかしそうに笑いながら、僕のあとについてくる。
リビングで、ボケっと待っていたアスカが興味深そうに、こっちを見て、そし
て、声をかける。

「なに?ずいぶん、時間かかってたじゃない?なにが届いたの?」
「あ、ああ、なんか、父さんから荷物が」

「所長から?珍しいじゃない。なんなの?一体」
「そんなの分かんないよ」

「ま、そうよね。じゃ、開けてみましょ」
「いいのかな?勝手に開けたりして・・・」

「アンタばかぁ?あったりまえじゃない。なに、遠慮してんのよ。親子でしょ?
それに、その宛先、アンタになってるじゃない」
「それはそうだけど・・・」

「ああ、もう!なにウジウジしてんのよ!開けるわよ。いいわね?」

アスカは、じれったそうにいい放つと、荷物を開けはじめた。中からは、一通
の手紙と・・・・

「お雛さまぁ?・・・なに考えてんのよ。あのくそ親父!」
「でも、手紙が入ってるよ」

僕は、同封された手紙をとって、目を落とした。いったい、どういうことなん
だろう?手紙には、『母さんの雛人形を送る。レイに渡してくれ』としか、書
かれていない。

「母さんの形見・・・・でも、どうして・・・」
「なに?なにが書いてあったの?シンジ。ちょっと、よこしなさいよ」

僕が呆然と手紙をもって、つったっていると、アスカが僕の手から、手紙をひ
ったくっていった。

「シンジ・・・大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ、レイ。ありがとう」

「そう?なんて書いてあったの?碇所長の手紙」
「う、うん。この雛人形、母さんの形見らしいんだ。それで、レイに渡して欲
しいって・・・」

「わたしに?」
「う、うん。僕もよくわからないけど・・・」

「でも、形見なんて、そんな大切なモノ・・・いいのかしら?」
「で、でも、そうだよ。雛人形は、女の子のものだし、普通は、代々、娘が受
け継いでいくものだから、僕には、女の姉妹はいないから・・・・」

僕は、ここまでいって、ようやく気づいた。娘・・・・父さんは、レイのこと
を・・・・一体、昔、なにがあったのだろう?父さんと・・あるいは、母さん
とレイの間に・・・

「しっかし、訳分かんないわね。所長も。ますます、謎が深まるわ。もしかし
て、アンタたち、ホントに兄妹だったりして?」

僕からひったくった手紙をよんで、アスカがそんなことを言い出した。

「な、なにいってんだよ。アスカ、そんなわけないじゃないか」
「まぁ、そうよね。そんなはずはないんだけどさ。でも、変よね。いったい、
どんな秘密があるのかしらね?アンタ知らないの?」

「知らないわ。そういうことは、教えられてないもの」
「そう。ごめんなさい、レイ。あんまり触れられたくない過去だったわね」

レイが、少し、うつむき加減で、小さな声で、そう答えると、アスカは神妙な
顔つきで、レイに謝る。レイは、顔をあげて、笑顔で、それに応える。

「ううん、いいの。わたし、最近、ホントに平気になったわ」
「あら?そうなの?ふっ切れたわけ?アンタ」

「うん。だって、わたしがなんであろうが、こういうわたしが好きなんだって、
いってくれる人がいるから・・・」

それって・・・やっぱり・・・僕は、顔を真っ赤にして・・・でも、僕は、い
つまでも、そうだからね。レイの全てを含めてレイが好きなんだから。レイは、
視線を僕の方にむける。僕も、レイを見つめる。

「はぁ〜、そうだったわね。でもさ、もしもよ。そういってくれる、その人が、
ホントは、実の兄弟だった。なんて、言われたら、どうする?」
「あら?そんなの大丈夫よ。なにがあったって、そんなの関係ないものねぇ?
シンジ」

「う、うん。でも、レイ。兄妹は、その・・・け、結婚できないんだよ。知っ
てる?」
「知ってるわよ。でも、籍をいれられないってだけだわ。そうよね?アスカ」

「はいはい、大した覚悟だわ。頑張ってちょうだい。許されざる愛って奴をね」
「うふふっ。なんだか、変な感じ」

「あ、あたりまえだろ。だって、そもそも、僕とレイが、兄妹なわけないんだ
から」
「そうだったわ。じゃ、結婚できるのよね?シンジ」

「・・・・・・」
「できない?」

「い、いや・・・その、可能不可能でいえば・・・で、でも・・・その・・・
アスカもいるし・・・」
「あら?アタシのせいにするわけぇ?じゃ、いなくなってあげるわよ。バカシ
ンジ!」

「え、いや、その、そういうわけじゃなくて・・・ぼ、僕たちは、その、まだ、
高校生だから・・・その・・・」
「うふふっ、じゃ、そういうことで、お願いね。シンジ」

「う、うん・・・」

だから、一体、なにが『そういうこと』で、なにが、『うん』なのか、頭がま
るで、まわっていないんだけど。でも、僕は、とにかく、『うん』と答えた。
レイは、嬉しそうに、幸せそうに、僕を笑顔で見つめる。うん、いつか、そう
なれたら、いいと思うんだけど・・・僕だって・・・でも・・・

「ごめん、レイ。今は、まだ、僕は、自分に自信が持てないよ。だから・・・」
「うん。ありがと、シンジ。でも、わたし、待ってるんだから。だから、お願
いね。シンジ」

「うん、そうだね。頑張るよ」
「でも、頑張らなくてもいいのよ。シンジは、わたしがずーっと、護ってあげ
るんだから!」

「ははは、今日は、レイの方が先に、崩れたね」
「うふふっ。だーって、アスカがずーっと、見てるんですもの」

そういわれると、確かに、出ていくといったはずのアスカは、ニヤニヤと笑い
ながら、僕達を見ている。レイもさすがに、少し、照れた様子を見せて、でも、
明るく元気に、そういうと、雛人形のほうに向き直った。

「ところで、アスカ。このお人形は、どういう意味があるの?なにか、特別な
お人形なの?」
「さぁ?日本の伝統なんじゃない?アタシだって、なんでも知ってるってわけ
じゃないわよ。でもまあ、3月3日は、お雛さま飾って、女の子が集まって、
飲み会をするってのが、常識みたいよ」

「ア、アスカ。飲み会って・・・」
「あら?飲むんでしょ?違うっての?」

「それはそうだけど・・・でも、ニュアンスが・・・違うような・・・その・・・
たしかに・・・そうかも・・・」

アスカの怖い目に、睨みつけられて、僕の声は段々と、小さくなっていった。
我ながら、少し、情けないけど・・・でも、アスカのいうことも、完全には、
間違っては、いない・・・かも・・しれない。

「そうなの・・・じゃ、わたしたちもやらなきゃだめよね?」
「そうよ!やるのよ。折角、お雛さまを所長が送ってくれたんだもの。じゃ、
人集めしましょ」

「わかったわ。じゃ、ヒカリに電話するから・・・」
「あとは、そうね。女の子って歳でもないけど、ミサトでも誘ってあげたら、
喜ぶわね。単純だからね。アイツも」

「うふふっ、そうね」
「さあ、そうと決まったら。シンジ!」

「は、はい。なに?アスカ」
「明日、女の子だけのパーティーやることに決まったからね!」

「う、うん。聞いてたけど・・・なに?僕は邪魔だから、出てけっていうの?
ま、まあ、それならそれでも、僕は・・・」
「アンタばかぁ?なにいってんのよ。それじゃあ、レイとヒカリが、準備から
何から、全部やんなくちゃなんなくなるじゃない。アンタは、明日は、アタシ
たち女の子の下僕となって、全ての世話をするのよ。わかった?」

「なんで、僕が・・・」
「心配しなくてもいいわ、シンジ。わたしも手伝うから」

「う、うん。ありがとう」
「だめよ。レイ!明日は、逃さないからね。とことん、飲むのよ」

「うふふっ、大丈夫。わたしは、強いから。ね?シンジ」
「う、うん。その・・・期待してるから・・・」

僕は、レイとアスカを交互に見比べて・・・確かに、どっちも、強いんだけど・・・
でも・・・とにかく、明日なわけで・・・はぁ〜、いったい、どうなるんだろ
う?

つづく

あとがき ども、筆者です。 うーむ。なかなか、雛祭りになってくれない。 困った。もう、3月3日になってしまったというのに・・・・ どうしよう? でも、明日、ちゃんと、女の子酒のみパーティーを書きます。 ・・・でも、きっと、アップするのは、4日になるんだろうなぁ・・・ あぁ、しかし、こんな突然、ユイさんの形見なんて出しちゃって、 よかったんだろうか?大丈夫だろうか?今後の展開・・・・ まっ、なんとか、なりますよ。きっと・・・たぶん・・・だと、いいなぁ 一応、それなりに、考えてはいるんですが、最終的に、どうするかってのは、 決めないで、書いてるんです。 で、今回、こんなことになっちゃいましたから、ある程度は、 覚悟を決めなくちゃいけない・・・・ホント、大丈夫なんだろうか?(あぁ、こまった) えと、とにかく、形見については、そういうことなんです(・・って、分からんけど) それから、冒頭の部分は、書きたかったから、無理矢理です(・・おいおい) 最近、そういうのを読んだので、書いてみたくなったんです。 まぁ、そういうもんだと、思って下さい(・・・・って、いったい?) で、あれから、飲み会に持っていくのも、かなり、無理矢理ですね。 こう、読み返してみても、うわぁー無理矢理!って感じしますもん。 おもしろいと言えば、おもしろいんですけどね。 最近、シリアスなのりの話が多かったので、こういうのもたまには いいんじゃないかなとは、思ってます。 だいたい、そもそも、そういうのりのお話だったような気もするし・・・ そういうことで、次回は、なんとか、雛祭り本番をお送りできると思います。 しかし、相変わらず、登場人物が多くなると、つらいですから、 かなり、怖いです。しかも、どんな話をさせようかってのは、 明日の昼ぐらいに、仕事しながら、考えることになるし・・・・(って、いいのか?) もしかしたら、明日中にはできないかもしれませんが、 とにかく、次回は、雛祭りです。(たぶん) それでは、 もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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