レイが好き!
第30話
いつまでも


「そうだ、シンジ」

朝、アスカは、いつものように慌ただしく朝食をとったあと、玄関で、靴を履きな
がら、台所で、朝食の後始末をしている僕の方に、声をかける。

「なに?どうしたの?アスカ」
「今日、所長、帰ってくるらしいわよ」

「え?父さんが?」
「まあ、また、ドタキャンとか、あるかもしんないけど、まあ、今日は、早く帰っ
てきといた方がいいかもね」

「え?・・うん、そうだね。ありがと、アスカ」

父さんが、帰ってくる?・・今日?・・・僕は、突然のアスカの台詞に、考え込み
ながら、アスカに、教えてくれた礼をいう。

「じゃあ、行ってくるからね。今日は、アタシも、早く帰るわ」
「あ・・・」

「いってらっしゃい、アスカ。気をつけてね」
「ありがと、レイ。じゃ、いってきまーす。ほら、シンジ、なに、ボッとしてんの
よ」

「う、うん。いってらっしゃい。アスカ」

僕は、やっぱり、父さんのことを考えながら、アスカにいってらっしゃいをする。
レイは、アスカにいってらっしゃいをした後、心配そうに僕を見ている。

「シンジ・・・大丈夫?」
「う、うん。大丈夫。少し、驚いただけ」

「やっぱり、恐い?お父さんが」
「え?・・・う、うん・・・そんなことないよ。ただ・・・」

「ただ?」
「ただ・・・」

レイは、心配そうに、でも、ニッコリと笑顔を作りながら、僕を覗き込んで、僕の
言葉を、繰り返す。僕は・・・ただ・・・

「・・・やっぱり、恐いのかな?」
「なにが?」

レイのことをいうのが・・・覚悟は・・・していたつもり・・・だけど・・・

「・・・」
「大丈夫よ。シンジ。わたしが、ついてるもの」

レイは、相変わらず、笑顔で、僕を励ますように、そういうと、僕を抱き寄せる。
そうなんだ。レイのために・・・僕は・・・でも・・・ごめん

「レイ・・・」
「・・・・ありがとう、シンジ」

なぜ?・・・ありがとうなの?レイ・・・でも、そうだね。僕は強くならなくちゃ
いけないんだね、レイ。だから・・・

「ごめん、レイ」
「ううん」

「ありがとう、レイ」
「うん」

レイは、僕の頭にまわしていた腕を、そっと、ゆるめる。僕は、顔を上げて、レイ
を見つめる。

「レイ」

今度は、僕が、レイを抱き寄せる。

僕の腕の中のレイは、やっぱり、小さくて、さっきまで、僕を包み込んでいたのが、
嘘のように・・・守りたいんだ、レイを、ずっと。

「いつまでも、こうしていたい」

「シンジ・・・」
「レイ・・・」

「でも、それはダメよ。シンジ。うふふっ!」

レイは、いつもの悪戯っ子のような声で、笑う。その声が、いつも、僕の心を安定
させているのかな?レイの明るい声を聞くと安心できる。僕は、そっとレイを放し
て、笑顔でレイに応える。

「そうだね。じゃ、ガッコいこっか」
「うん、早くしないと、また、遅刻しちゃうものね」

そういいながらも、僕は、じっと、レイの真っ赤に染まった瞳を見つめつづける。
レイも、僕を・・・でも、やっぱり・・・

「ああ!もう、こんな時間だ。レイ、急がないと」
「うふふっ、わたしも、もう、とーっくに、用意できてるものっ!先にいっちゃお
っかなぁ」

「そんな、卑怯だよ。待ってよ、レイ。すぐ、用意するから」
「どーしよーかなぁ?」

そんな風に、意地悪な答えをしながら、レイは、ちゃんと、玄関で待っててくれる。
僕は、一応、慌てた振りをしながら・・・というか、ちゃんと急いで・・・時間割
を確認しがら、教科書をかばんに詰めて、玄関へ向かう。

「シンジ、おそいっ!」
「ごめんごめん」

「ごめんは、一回で、いいの」
「あはは、それをいうなら、ハイは、一回で、だよ。レイ」

「もう!やっぱり、先に行っちゃえばよかった」
「ふふふ、出来るなら、今度、やってみてもいいよ」

「そう?」
「出来るならね」

「出来ないと思ってるでしょ?シンジ」
「別にぃ、そんなこと。だって、レイだもの」

「自信過剰」
「ふふふ、だって・・・。さっ、早く行かないと、遅刻だよ」

ぷぅっと、頬を膨らまして、拗ねた振りをしながら、レイは、無言で、僕の腕をと
って、歩き出す。

「ふふふふ」
「なによ?」

「可愛いね。レイ」
「ふんっ!」


    ◇  ◇  ◇


「それじゃあ、シンジ。わたし、ちょっと、行ってくるから」
「うん、ご飯作って、待ってるから、早く帰って来てね」

「分かってるわ。じゃあね」

放課後、そういうと、レイは、研究所に向かった。

昼間、学校に連絡があって、レイは、研究所に呼ばれた。父さんは、確かに、帰っ
て来ているらしい。そして、レイに話があるらしい。なんの話なのだろう?僕は、
不安な気持ちを抱きながら、レイを見送った。

あの父さんだし・・・レイひとりに、話なんて・・・やっぱり、僕もついていくべ
きだったのだろうか?

「今からでも!」

でも、父さんは、レイに話があると・・・レイに・・・つまり、レイの・・・なに
か、秘密にかかわることなら・・・

それに、やっぱり、父さんだから・・・

『レイを頼む』

そう言ってくれた父さん。

『別に、心配することはないわよ。シンジのお父さんだもの』

そう言うレイ。

「・・・・」

「せめて、アスカが帰って来てくれれば・・・」

「・・・アスカ?」

ダメだよ。・・・なんで、こんなに、弱いんだろう?僕は。ほんのちょっと、レイが
いないだけで・・・こんな不安。アスカなら、なんて、いってくれるかな?・・・な
んて、考える自分。

レイは・・・


    ◇  ◇  ◇


「それで?」

仕事から帰ってきたアスカは、楽な服に着替えて、家にくると、冷蔵庫からとりだし
たビールに一口、くちをつけながら、僕の話を遮るように、いった。

「それで、って・・・だから、やっぱり、待ってるしかないのかと思って・・・」
「アンタばかぁ?で、レイは、帰ってきたの?」

「・・・・」

まだ、帰って来ない。なにがあったのだろう?やっぱり、不安はどんどん大きくなっ
ていく。僕は、首を横にふって、アスカに応える。

「で?」
「・・・・」

「レイのこと、好きなんでしょ?」

アスカは、椅子を僕の方によせて、僕の顔を正面から覗き込むようにして、静かに僕
に声をかける。僕は、黙って、それに、うなずく。

「で?」

そんなこと、いったって・・・迎えにいくのか?研究所に・・・父さんのいる。そし
て、レイの生まれたところ・・・

「覚悟・・・って、意味わかる?」
「覚悟・・・」

・・・したつもり・・・だった・・・でも・・・

「アスカ・・・」
「なによ?!」

「・・・」
「あーあ、案外、レイもアンタみたいな情けない男、愛想つかして、所長に傾いちゃ
ったのかもね」

「・・・」
「・・・・あの子、このまま、帰って来れないかもしれないわよ」

「え?」

アスカが、つぶやくようにいった台詞に、僕は、顔を上げて、問い返した。

「アンタばかぁ?状況、考えらんないの?」
「状況・・・って」

アスカは、僕の顔をしばらく、眺めたあと、ふっと息を吐く。

「ふぅ・・・レイしか、目にはいってないわね。アンタ。いい機会じゃない。しばら
く、レイなしで、生活してみれば?」
「レイなしで・・・って、どういうことさ?なにを知ってるの?アスカ!」

「アタシは、なんにも、知らないわよ!ただ、想像できるだけ!アンタは、レイしか
目に入ってないから、わかんないだけで、誰だって、想像できるわよ」
「・・・・」

「だから、ちょっと、冷静になって考えてみれば?最近の自分の生活がどんなだった
か」
「最近の生活・・・」

朝起きるとレイがいて、朝ご飯を作って、食べて、一緒に学校にいって、一緒に帰っ
て来て、買い物なんか、いったりして、夕ご飯つくって、食べて、二人で食後をリビ
ングで過ごして・・・いつも二人で・・・僕は、ずっと、レイを見てて・・・レイは・・・

「レイしか目に入ってない生活・・・」
「そうよ。それって、アンタたちにとって、いいことだと思う?」

「別に・・・悪くないと・・・思うけど・・・」
「所長もそう思うかしらね?」

「父さんは・・・」
「ね、なんとなく、想像できるでしょ?」

「そんな!いままで、放っておいて、今更、なんで父さんが、僕たちのことを!」
「親、だから、じゃない?」

「親?だから?」
「さあね。アタシには、いないから、わかんないけどさ」

「ごめん」
「ばかぁ?いちいち、そういうので、謝んじゃないわよ。ただね」

「ただ?」
「アタシだってね、思ってたんだからね。アンタたち、このまんまで、いいのかな
ぁ?って」

「・・・・」
「まっ、あれよ。アタシだって、結局、はっきりしたことは何にもわかんないで、
いってんだから、案外、明日の朝、起きたら、帰って来てるかもしれないし。とり
あえず、アンタ、寝たら?」

そういうと、アスカは、大きくあくびをしながら、立ち上がる。

「アタシは、疲れてるから、もう寝るわね。おやすみ、シンジ」
「・・・おやすみ、アスカ」

寝る・・・なんて、できるだろうか?でも、いまさら、迎えにいくなんてできるわ
けないし・・・とにかく、待つしか・・・僕は・・・


    ◇  ◇  ◇


僕は、とりあえず、パジャマに着替えて、ベッドに仰向けに横たわる。

「いつもの、天井・・・」

そして、そっと、視線を壁へ・・・

「レイ・・・」

初めて会った日のレイが、そこにいる。真っ白で・・・なにもない表情。僕にあっ
て、レイは変わったけど・・・

たしかに、アスカのいうように、僕だって、このまんまで、いいとは、思ってたわ
けじゃない。レイのこと・・・

初めて出会った、ほんの少し、親切な人間。それ以外に・・・なにも・・・

「レイにとって、僕は・・・」

鳥の雛が、初めて見た動くものを親と認識して、なつくように、ただ、それだけの
理由で、愛してると思い込んでいる人間。

「誰でもよかったんじゃないか?」

それは、いつも、僕のココロに浮かんでは、打ち消してきたフレーズ。

「いつまでも、僕が縛ってちゃいけない・・・」

そうも思う・・・けど・・・

「僕は・・・」

感情は、押さえられないから、感情なんだ。

「・・・好きだから、レイが」

だから・・・・

「いいじゃないか!それで!」

・・・・それだけじゃ・・・やっぱり・・・


    ◇  ◇  ◇


僕は、いつのまにか、寝ていた・・・涙を流しながら・・・

顔を洗って、鏡にむかって、僕は、自分の顔を見つめる。
・・・いつも、レイが見つめていた顔。優しい笑顔?どんな顔だったのかな?

しばらく、僕は、鏡の前で、笑顔を作って眺めている。

「・・・わかんないよ。レイ」


・・・・レイは、帰ってこなかった・・・・



つづく

あとがき うーむ、筆者です。 なかなか、書けんです。 とりあえず、10K超えたんで、この辺で、ひと区切りということで・・ で、ですね。 新しい展開・・・ってのを考えてまして、 いちお、その、展開は、考え付いてるわけなんですけど、 新展開っちゅうのは、いいわけが大変なんだわ。 ・・だって、いままでと違うこと、させようっちゅう訳やからねぇ・・ うーむ、こんなんでいいんかな?って、感じで・・・ んで、書いてみても、やっぱり、いかにも、唐突!しかも、不自然! という感は、否めない。困った。 ・・・で、書けない。・・と、そういう感じだったんですよ(困ったねぇ) でね、いい訳させると、やっぱり、いい訳なんですよ、いかにもね。 だから、いい訳させないことにするんです。 ということは、筆者以外の人には、意味不明、ということになる訳(ヲイヲイ!) まっ、そゆことです。 最近、更新してないし、そろそろ、諦められてるだろうなということで、 独り善がりのお話作りってのに、戻ってやろうかと思ってね。 ・・・っていうか、今までがそうでなかったとは、よう言わんけどね(^^; で、何を書きたかったかといいますと・・・ とにかく、レイがいなくなるんです。 それで、シンジが考え込むんです。 その後は・・・とりあえず、今回は、そこまでしか書けなかったので、内緒。 (あっ、ちゃんと、続きは、できてるんだよ。展開だけはね) さてさて、ゲンドウ氏って、出てくるんでしょうか?この後・・ ・・・うーむ、いまんとこ、出てこないような気がする。 (うーむ、それで、続き、書くって、いったい?) ・・・・・・うーむ・・・しかし・・・・ さてさて、どーなるんでしょうねぇ?いったい。 それでは、 もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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