「ん？・・んんん・・・・うわっ！」
「うふふっ、おはよっ、シンジ」

僕が、なにか息苦しさを感じて、目を開けると、目の前に・・・・その・・・僕に覆
い被さるように・・・

「レ、レイ？」
「もう！いつまでも寝ぼけてないで、起きるの！」

レイは、顔を、ぽっと、ピンクに染めながら、頬をちょっとだけ膨らまして、僕から
布団を引き離しにかかる。僕は、上半身を起こして、レイの手首を掴む。そして、レ
イを引き寄せて、じっとレイの顔を見詰める。

「・・・・・・」
「・・・どうしたの？シンジ」

レイは、僕の予想外のリアクションに、不思議そうな顔をして訊く。レイの顔は更に
真っ赤になって、レイは僕から視線を逸らすように、俯いた。

「・・・そんなに見つめたら、恥ずかしいわ」
「レイ？」

僕は、確かめるように、レイの頬に手を伸ばす。暖かいレイの肌・・・レイは、僕に
撫でられて、そっと、顔を上げる。

「シンジ・・・」

レイが僕の名前を呟く。その声は、間違いなく、僕の耳に届いて、僕は、レイの声を
聞いてる。

「夢・・・みてるみたいだ・・・」

レイの可愛らしい真っ赤な瞳に僕が映ってる。僕は、レイを見つめて、呟く。レイは、
不思議そうに、僕を見つめながら、やっぱり、恥ずかしそうに俯く。

「・・・・夢？・・・どっちが？」

僕は、自分の頭に突然沸いてきた、その疑問・・・不安・・・を呟く。レイは、顔を
あげて、僕を心配そうに訊ねる。

「シンジ・・・どうしたの？夢？見てたの？」
「う、うん」

「それに、わたしが出来てきたのね？」
「そうだけど・・・」

だんだん、僕の頭もはっきりしてきて、思考がまとまりだしてきた。そうだね。夢だ
ったんだ。でも・・・あんな夢・・・どうして？あれは・・・僕の不安？・・・きっ
と、いや、間違いなく・・・

「・・・ごめん」

僕が謝ったのを見て、レイは、やっぱり、要領を得ないように不思議そうな顔をして、
僕を見詰める。

「う、うん・・・その、あんな夢みちゃって・・・」
「うふふっ、いいわ。だって、わたしの夢だもの。寝てる間も、
シンジの頭の中は、わたしで一杯だったんでしょ？」

レイは、にっこりと笑う。

「そうだね・・・レイで一杯だったよ・・・ずっと・・・考えてた・・・」

確かに・・・その通りだ。夢の中で、僕は、ずっと、レイのことを考えてた。あと・・・
自分のことを・・・何も出来ない自分を・・・

「もう！なんで、わたしのこと考える夢なのに、そんな顔になるの？」
「うん」

でも、あれは、僕の不安そのもの・・・現実に起こりえないとは・・・

「ほら！起きるのっ！朝ご飯、つくんなきゃ！」

いつまでも起き上がらない僕をレイは、不思議そうにしながらも、明るくそういうと、
台所の方へと、立ち上がりかける。

「レイ！」
「きゃっ」

僕は、掴んだままのレイの手を引っぱって、レイを抱き寄せる。

「おはよう。レイ」
「もう！シンジったら、なにをするのよ？・・・うふふっ」

「だって、おはよう、言ってなかったと思ってさ」
「うふふっ、それじゃあ、おはよう、シンジ」

「おはよう、レイ」

僕は、もう一度、レイに、おはようを言う。今度は、とびっきりの笑顔で。

「うん。それじゃあ、わたし、朝ご飯、つくるから」

レイは、そういうと思い出したように、頬をピンクに染めて、立ち上がる。

「うん、僕も顔あらって、すぐ行くからね」

レイのなんだか、少し慌てたような後ろ姿に、僕はそう答えると、レイは、ちらっと、
僕の方を向いて、にこっと微笑んで、台所へ向かった。


    ◇  ◇  ◇


「はい、今朝は、暖かいコーヒーを入れてみたの」

僕が顔を洗ってから、ダイニングにいって、テーブルにつくと、レイの朝からスッキ
リとした笑顔とともに、カップが僕の前に差し出された。

「うん、ありがとう。レイ」

僕は、コーヒーに口をつけながら、朝食をつくるレイの後ろ姿を眺める。・・・レイ
がいる。小さなほっそりとした身体で、台所に向かって、朝食を作るレイが・・・そ
こに・・・

僕は、コーヒーを飲み終えると、そっと立ち上がって、レイの隣へ向かう。

「どうしたの？シンジ」
「うん、今日は、ちょっと、手伝いたいなと思って」

「もう！ダメよ。朝から、二人で作ってたら、時間がかかってしょうがないもの。シ
ンジがそう言ったんじゃない」
「うん、そうだけど・・・」

「ダーメ！それに、もう、できちゃうもの。シンジは、アスカを起こしてきて」
「う、うん。そうだね。ごめんね、レイ」

「うふふっ、そうよ。わたしだって、我慢するの、大変なんだから！」
「え？」

「もう！シンジ、意地悪！」
「なにがさ？」

「いいから、アスカを起こしてくるのっ！」
「はーい」

僕はそう答えると、アスカを起こしに向かう。・・・いまのは、ちょっと、いじめす
ぎちゃったかな？でも、なんだか、こういうのも、久しぶりって感じで・・・


    ◇  ◇  ◇


「「いってきます、アスカ」」
「はいはい、いってらっしゃい。気をつけてね」

なんだか、呆れたような顔のアスカに見送られて、僕たちは、学校へと向かう。

でも、あれが夢で本当に、よかった。本当に・・・僕は、僕に寄り添って、にこやか
に微笑みながら、僕の隣を歩くレイを確認して、なんだか、ようやく、ほっとしたよ
うな気になった。

「・・・だからね。ねぇ、シンジ、聞いてた？」
「え？う、うん」

「聞いてなかったでしょう？」
「ごめん、聞いてなかった。ごめん」

「もう！」
「ごめん、なんだか、まだ、夢から覚めてないみたいで・・・で、なに？」

「もういいっ！」
「そんな、気になるじゃない。お願い、もう一回いってよ」

「もういいの。うふふふ」
「ちぇ、けちだな。レイは」

「だーって、けちで意地悪なんだもの。わたし」

そういって、悪戯げに笑うレイ。やっぱり、いいなぁ。もしも、これがまた夢だった
りしてなんて・・・でも、とにかく、今、レイは、僕の横にこうしているんだからね。
馬鹿なこと、うじうじ思ってるのが、なんだか、馬鹿みたいだよ。

「ふふふ、ところでさ、レイ」
「なに？」

「今朝、僕を起こす時、なんかした？」
「え？・・べつに、何もしないわ・・・なにをいうの？」

レイは、突然、真っ赤になって、俯く。僕にも、少し余裕が生まれてきたみたいで、
意地悪に続ける。

「でも、なんだか、すっごく、息苦しくてさ。窒息寸前で、目が覚めたような気がす
るんだけど？」
「わたし、分からないわ。シンジ、夢見てたっていってたじゃない」

「へえ、そうなんだ・・・」
「きっと、それも、夢だったのよ」

「ふーん。じゃあ、話は、変わるけど・・・」
「うん！なに？」

「今朝、レイ、なんだか、真っ赤になって照れてたみたいだけど、なんかあったの？」
「も、もう！話、変わってないじゃない」

「あれ？変わってないかな？」
「もう！シンジの意地悪！」

「い、痛いよ。レイ。あははは。でも、人の寝込みを襲うなんて、レイって、とんで
もない女だね」
「シンジが、全然起きないんだもの」

「ありがと、レイ」
「うん・・・・バカ」

「じゃ、お返し」
「え？」

僕は、軽く身体を屈めて、レイにキスをする。レイは、驚いたように立ち止まり、僕
をぼうっと見つめる。

「さあ、ガッコいこ、レイ。遅刻しちゃうよ」
「そ、そうね」

僕は、レイの手を引っ張りながら、歩き出す。レイは、なんだか、ぼうっとしたまま、
僕についてくる。僕も、道の真ん中で、こんなことしちゃうなんて、ちょっと、自分
でも驚いている。でも、僕にしてみたら、なんだか、長い間レイに会ってなかったよ
うな気がしてるし・・・

「シンジ！」

僕も、すこし、ぼうっと考え事をして歩いていると、レイが僕を呼んで、立ち止まっ
た。手を引っ張っているレイが止まったので、僕も必然的に歩くのをやめて、レイの
ほうに振り返った。

「なに？」

見ると、レイは、にっこりと微笑んで、でも、瞳の奥は、なんだか、いろいろと、複
雑な動きを見せている。

「ありがと、シンジ」
「う、うん。その・・・さっきは・・」

「それじゃ、お返しね」
「え？」

そういうと、突然、レイは、僕に飛びついて、僕にキスをした。

「ちょ、ちょっと、レイ」
「うふふっ、だから、お・か・え・し・！・だもの！」

「う、うん。でも・・・駅前でなんて・・・」
「うふふふふ」

「もう！やっぱり、レイは、恐い女だな・・・うかつに変なことすると、すぐに、仕
返しされる」
「そうでしょ？だから、優しくしてくれなきゃだめなのよ」

「はい、わかりましたっ。では、お嬢様、そろそろ、電車が参りますが」
「うふふっ、じゃ、いこっ！」

僕がちょっと、呆れながらそういうと、レイはにこっと笑って、僕の腕をとると、改
札の方に歩き出す。僕も引っ張られるように改札へ向かう。

「レイ？」
「な、なに？」

「実は、レイ、いま、真っ赤になってるんじゃない？」
「な、なにをいうのよ？」

「それじゃあ、顔をあげて、僕に可愛いレイの顔を見せてくれないかな？」
「ば、ばか。意地悪！」

「いたっ！ひどいよ！足、踏むなんて」
「うふふっ」

すし詰めの満員電車、レイは、僕の胸の中にうずくまるように、僕とドアの間に立っ
ている。僕は、レイに足を踏まれながら、電車に揺られる。なんだか、涙がでてきそ
うで・・・


    ◇  ◇  ◇


「わたし、いなくなったりしないからね、シンジ」

夕食後、リンビングのソファーの上で、ふたりでくつろいでいると、突然、レイはそ
う呟いた。

「え？」
「わたしは、ここにいるわ。ずっと」

「う、うん。でも、どうしたの？突然」
「シンジ、今日、ずっと、変だったから」

「そっか・・・ごめん」
「そういう夢だったんでしょ？」

「うん。レイがいなくなる夢」
「・・・そう」

「でも、夢だよ。単に、それだけ」
「そうね」

「僕の不安・・・そのものだったと思うんだ」
「シンジの不安？」

「そう、僕の不安。僕の最大の不安はレイがいなくなることだからね」
「・・・・」

「うん、ごめん。そんなこと、あるわけないって、信じてるはずだったのに、でも、
やっぱり、レイにとって僕は・・・っていう不安。こんな生活、いつまでも続くわけ
ないんじゃないかっていう不安も・・・」

僕は、水割りの入ったグラスを見つめながら、そういって、レイを見る。レイは、涙
を一杯に溜めて、じっと僕を見つめている。

「わたしにとって、シンジは・・・」
「ごめん」

僕は、レイを抱き寄せる。レイは、僕の胸の中で、涙を流しながら、消えるような声
で呟く。

「・・・本当に・・・」
「うん」

「違うの・・」
「違わないよ」

「ううん。だって・・・」

違わないと思うよ。本当のところは、わかんないもんだと思うよ。僕にとって、レイ
は・・・絶対に離れたくない女性・・・だけど・・・今回の夢で、それは、はっきり
分かるけど・・・

「理由のない感情なんてものは、きっと、誰にも理解できないんだと思うよ」
「・・・・そうね」

「うん、そう思うんだ。本人だって、本当にそうなのかって・・・だから、いっつも、
不安で・・・でも、きっと、それが・・・」
「・・・それが・・・ヒト？」

「うん」
「・・・・ありがと」

レイは、僕の胸に顔を埋めて、僕にしがみつく。

「好きよ。シンジ」
「うん」

僕は、しっかりとレイを抱きしめる。

「放したくないよ。レイ」
「うん、離れないから・・・」


    ◇  ◇  ◇


「で、アタシ、帰ってきたんですけど・・・」

ふと、上から声が聞こえてきて、顔をあげると、アスカがいた。

「ア、アスカ」
「まったく、なにやってんのよ。アンタたち」

「なにって・・・」

僕は、自分たちの体勢を思い出して、慌ててレイを放すと、真っ赤になってしまった。

「あぁ！アンタたち、また、お酒飲んでたわね！」

アスカは、リビングテーブルに置いてある水割りのグラスを２つ確認して、そういっ
た。

「うふふっ、いいじゃない。アスカも飲みましょ？」
「アタシは、明日も、仕事あんのよ？」

「あら、わたしたちだって、明日、学校あるわ」
「まーったく・・・しょうがないわね」

そういうと、アスカは、僕を押しのけて、ソファーにどかっと座った。

「さあ、シンジ、アタシの分、早く用意してちょうだい」
「う、うん。わかった。すぐ、もってくるから・・」

僕は、そういうと、台所にグラスと・・・それから、今夜は、沢山飲むんだろうなぁ・・・
ウイスキーをビンごともって、水と氷を・・・ふぅ、明日は二日酔い決定か・・


    ◇  ◇  ◇


「ちょーっと、それマジぃ？」
「うん、それで、なんだか、今日は一日ずっと、変だったわ。ずーっと、わたしを見
てたもの」

「・・・それって・・・いつもと違うの？」
「うふふっ、なんとなく、違うのよ」

「ふーん、まあ、確かに朝は呆れるほどレイにまとわりついてたしね。で、今日は、
一日楽しかったと」
「うふふっ」

僕が一通り揃えて、リビングに戻ると、レイとアスカが楽しそうに・・・いや、アス
カは、やっぱり少し呆れたように、お喋りをしていた。

「アンタ、レイがいなくなる夢、みたんだってね」
「え？・・うん、そうだけど。夢だよ」

「わかってるわよ。で、どんな夢だったの？」
「どんなって・・だから・・・レイが父さんに連れてかれちゃって・・それで・・・
僕は落ち込んで、それで、レイをあちこち探して・・・・そういえば、アスカは、妙
に僕に冷たかったけど？」

「アンタばかぁ？そんなのあったりまえじゃない。なんで、そんな状態のアンタに、
優しくなんかしてあげなきゃなんないのよ！」
「まあ・・・そうだけど」

「うふふっ、だから、シンジは、アスカに頼りたくなかったんじゃない？残念ね、ア
スカ」
「レイ、アンタ、そーゆーこというわけね？」

「なになに？どういうこと？ね、レイ。わかんないよ」
「いーのよ！アンタは、わかんなくても」

「うふふっ」
「アンタは、許さないわよ。レイ。今日は、潰れてもらうからね」

そういうと、アスカは、レイのグラスに、ウイスキーを注ぎ足した。うわぁ・・そん
なに茶色くしちゃって・・・

「アスカ！そんなに濃くしちゃぁ・・」
「うっさいわね。アンタもよ！」

「え？そんな！」
「アンタ、アタシに逆らう気？」

「い、いえ」
「よろしい。んじゃ・・・カンパーイ・・・ほら！」

「う、うん・・・じゃあ・・・」
「うふふっ、せーのっ」

「「「カンパーイ」」」

つづく


あとがき

がはは、筆者です。

いやぁ・・ウイスキーはいいねぇ・・・特にスコッチはね・・・
・・・心を潤してくれる。
スコットランドの生んだ文化の極致だね。（にこり）

と、いうわけで、めでたしめでたし！！！
おめでとう！ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。

カンパーイ



・・・・ごめんなさい。

いやぁ、こういうの楽しい！（爆）
というわけで、今回のお話は、前回、前々回の言い訳に終始しました。

うーん・・・・
・・・あんまり、言い訳がましいことは、いわないようにします。

これで、次回から、最近、よく思いつく、ばか話が書けるかな・・
しかし、思いつく先から、忘れていくんだな・・・なぜか・・・

と、いうわけで、次回は・・・
・・・さて、どうしましょ？（笑）

しかしまあ、これで、安心して、１周年が迎えられる。
まあ、そんなところで・・・

・・・うーん、しかし、今回のあとがきって・・・・

それでは、

もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、

また、次回、お会いしましょう。