レイが好き! 第38話 宿題

「あ、ちょっと、シンちゃん」 授業が終わったあと、僕は廊下へでようとするところをミサトさんに呼び止められた。 やっぱり・・・僕は、ギクリとしながら、振りかえって答える。 「は、はい。なんでしょう?」 ミサトさんは、ニヤリと質の悪い微笑みを僕に向けた。 「シンちゃん、せめて、写すぐらいは自分でやらなきゃダメよ」 ミサトさんの言葉に、僕は、苦笑いを浮かべながら、頭を掻く。 「わかってるみたいね?」 「す、すいません」 「いくらなんだって、レイの字ぐらいわかるわよ。しょうがないわね」 そういって、ミサトさんは、出席簿で僕の頭を軽くたたくと、ウインクひとつ残して、 教室を出ていった。 まあ、ミサトさんだから、この程度で済んだんだろうけど・・・やっぱりなぁ・・・ 「なんや、シンジ、お前、綾波に宿題やらせとるんか?」 「う、うん・・・その、昨日はちょっと・・・」 「ホンマ、酷いやっちゃなぁ」 「そういうトウジは、どうなのさ?トウジだって、洞木さんに写させてもらってたじゃ ないか、今朝」 「あ、あほぉ。人聞きの悪いことぬかすな!わしがいつ・・・わしはわし自身の力でや な・・・」 トントン 「と・ぉ・じ・くん」 「ヒ、ヒカリぃ!」 「わし自身の力で・・・何かしら?」 「いや、そやから、写すのは、わし本人がやったがな。それをいいたかったんや、つま り・・・こら!シンジ!オノレ、後ろにヒカリおるのしっとってゆうたやろ!」 「いや?僕が気がついてなかったけど」 「アナタ、最近、私への感謝の念を忘れてるんじゃない?」 「あほ、そんなこと・・ち、ちょっと、痛いがな・・あのな・・・そやから・・・」 ・・・・ 「あーあ、ありゃ、一生、あれだな」 「うん、変わらないよね。あのふたり」 「まっ、羨ましいことには変わりはないけどな」 「ははは、あれ、羨ましいのかな?」 「まーな。ところで、シンジ」 「なに?」 「おまえ、宿題、綾波にやらせてるんだってな」 「え?う、うん。昨日は、ちょっと・・・」 「まずいんじゃないか?それ。まあ、成績のことはひとのこといえないけどさ。俺も。 しかし、そんなんだから、俺達、いつまでたっても2年生のまま...ぼそっなんだよな・・・」 「ケ、ケンスケ、それは・・・・禁句だよ...ぼそっ」 「そうだよな。俺達、いつまでも変わらずってことで、暮らしてけばいいんだよな」 「そ、そーだよ。ケンスケ。あんまりそんなこと言っちゃだめだよ。気にしてる人だって いるんだから」 「ああ、わかったよ。もう言わない」 「うん、それがいいと思う」 「・・・・」 「・・・・」 (「・・・・」) 「しかしな、シンジ」 「うん」 ケンスケは、気を取り直したようにそういうと、僕の目をじっと見た。 わ、わかってるさ。別に、レイをこき使って、宿題やらせたわけじゃないよ。僕がそんな ことするわけないじゃないか・・・だいたい、こういうのはレイが自分から僕のためにっ て、やりそうじゃないか。ぼ、ぼくだって、それに甘えっぱなしってのはマズイと思って るし・・・きょ、今日は、たまたま・・・いつもってわけじゃないし・・・ね? 「ふふ、ケンスケ、悪いけど、僕にはその気はないからね」 「まっ、いいさ。いいなぁ、シンジも。じゃ、俺、帰るから。またな」 「う、うん。さよなら、ケンスケ」 ケンスケは、ふっ、と笑顔で肯くと、すこし寂しそうな顔で、僕にさよならをして、教室 をあとにした。・・・僕の・・・ジョークは?・・・少し悲しい。 ◇ ◇ ◇ いつものように、レイと腕を組んでの下校。駅へ向かう道すがら、レイは、静かに僕に、 謝る。・・・なんで、僕に謝るのさ? 「ごめんね、シンジ」 「え?なにが?」 「わたしが勝手に宿題やっちゃったから・・・」 「そんなこと・・・それに別にレイが悪いわけじゃないじゃない」 「でも、そのせいで、シンジが怒られたから・・・」 「だって、僕が悪いんだから、しょうがないじゃないか」 「でも、わたしが・・・」 「うん、まあ、そうかもね」 僕は、ニヤリと笑いながら、レイの方を見る。それまで、不安そうに謝り続けていたレイは、 僕の言葉に、ぷっと頬を膨らませて答える。 「もう!シンジが寝ちゃうから悪いんじゃない!」 「あはは、やっぱりそう思ってるんじゃない?ね、レイのせいじゃないでしょ?」 笑う僕を、レイはキッと睨み返して、そして、意地悪そうに宣言する。 「そう!わたしのせいじゃないわ。宿題は自分でやるものだもの。今日は寝かさないから ね!シンジ」 「は、はい・・・うん」 しまった。話のもって行き方間違えたかなぁ・・・?でも、まあ、確かに、本筋としては、 そうあるべきだし・・・しかたないのかなぁ・・・それに・・・ふふっ、よかった。 「うふふっ、一緒に宿題やろっ。教えてあげるから、ねっ、シンジっ」 きゅっと僕の腕にしがみつきながら、可愛い声でそうレイは言ってくれるからね。 ありがと、レイ。 ◇ ◇ ◇ 「ほら、だから、違うったら、シンジ。さっき教えたばかりじゃない」 「そうだっけ?だから、この構文が・・・えーとぉ・・」 「ほら、だからね・・・」 レイは身を乗り出して、僕のノートを覗き込む。僕の目の前にレイのさらさらの蒼い髪が・・・ ・・・いい匂い 「ね?わかった?シンジ」 「え?・・う、うん。そうか、なるほど」 「もう!なにがなるほど、よ。シンジ、聞いてなかったでしょ!」 「あ・・・その、ごめん」 「だからね。ほら、ここからここまでが、この動詞にかかって・・・」 「うん」 一生懸命、教えてくれるレイ。 「もう、聞いてないでしょ?シンジ」 「だって」 「だって、なによ?」 レイの頬が、ぷぅっと膨らむ。僕は、じっとレイの瞳を見つめる。 「・・・バカ」 膨らんだままのレイの頬が、うっすらとピンクに染まる。 うん、ホント、僕って、馬鹿だと思う。馬鹿で、ダメな奴で・・・ 僕は、レイを抱き寄せて、つぶやく。 「好きだよ。レイ」 「バカ」 レイは、僕の胸の中で、俯いたまま、そう小さくこたえる。 僕は、抱き寄せたレイの身体をそっと引き離して、俯いたままのレイをじっと見つめる。 「バカ」 レイは、上目遣いに僕を見ると、もう一度そう答えながら、そっと顔を上げる。 「うん」 ◇ ◇ ◇ 「駄目ね・・・シンジ」 「うん」 「ううん、わたしも・・・駄目ね」 「なんで?」 レイは、僕の問いには答えず、ただ、僕の胸に顔を埋めて、黙り込む。 「レイ?泣いてるの?」 「ううん、泣いてない」 「・・・ごめん」 「シンジが謝ることじゃないわ」 そうかな?・・・うん、そうなのかもしれない。でも、レイは僕のことを思って、一生懸命に 教えてくれるのに、僕は、それに応えることができない。それに、こんなに近くに寄ってこら れて、ただ、それだけで、僕は・・・もう・・・やっぱり、駄目なのは、僕なんだと思う。 それに・・・僕は、しばらく考えたあと、静かにレイに話し掛ける。 「あのさ、レイ」 僕の声にレイは、そっと顔を上げて、僕を見つめる。 ・・・ごめん、そんな瞳させてたんだね・・・でも・・・ 「レイは、好きなもの、ある?・・・ううん、僕じゃなくて、他に興味もてること」 レイは、赤い瞳に悲しみを湛えたまま、静かに首を振る。僕は、もう一度、レイを抱きしめ る手に力を込める。 「痛い、シンジ」 「うん、ごめん」 それでも、僕は、レイを抱きしめる腕をゆるめずに、つづけた。 「僕は、あるんだ。好きなもの」 レイは、僕の腕の中で、じっと考え込んだあと、呟く。 「・・・なに?シンジの好きなもの」 「料理」 初めてのレイとの夕食。レイに教えながら、初めて、料理って、楽しいと思った。その後も、 レイのためにする料理が楽しいと思った。レイに少しでも喜んでもらおうと思って、いろい ろ調べて、そして、いろんなことを知らなかったことが分かって・・・それがひとつひとつ 分かっていって・・・ 「僕は、いつまでも、レイの先生でいたいから」 なんでもすぐに覚えて、砂に水を撒くように、すぐに僕の知識を吸収してしまうレイに教え てあげなければいけないから、それでも僕はレイに教えつづけたかったから。 「きちんと勉強したいんだ・・・将来」 不純な動機なのかもしれない。でも、僕がレイに勝てる唯一のことかもしれないから。 レイの喜ぶ顔を想像しながら、レイのために作る料理だけは、誰にも負けるわけにはいかな いことだから。 「レイ」 僕は、君と店を持ちたい。マスターの店みたいに、楽しくて落ち着ける店を・・・いつにな るかわからないけど・・・ それまでに、レイはレイがしたいことを見つけて、なんでもやって欲しい。そして、最後に 僕の待つその店に戻って来てくれれば、僕は、君のためにおいしい料理を作って待ってるから・・・ 「なに?シンジ」 「ありがとう、レイ」 「バカ・・・」 「・・・うん」 ◇ ◇ ◇ 「あら?シンジ君、何やってるの?」 「う、うん。ちょっと・・・」 「なんやぁ?シンジ、また、綾波に宿題うつさせてもろとるんか?」 「昨日は、ちょっと、宿題する暇なかったから」 「あら?でも、レイは、ちゃんとやったってことでしょ?」 「そ、それは、そうだけど・・・」 「まあ、そう無理ゆってやるなって、シンジと綾波の頭の差を考えろよ」 「ひどいよ。ケンスケ、そんな言い方、まるで僕が・・・」 「なんや、ケンスケ、えらいシンジの肩持つやんけ。まあ、シンジがアホなのは、そうやけど」 「トウジまで!」 「ふふふ、シンジ君、写さなくっていいの?もうすぐ先生きちゃうわよ」 「そ、そうか」 「アホ!霧島、お前、こないな不正をみすみす見逃すいうんか?」 「だって、トウジ君だって、ヒカリに写させてもらうことあるんでしょ?」 「あほぉ、そないなこと・・・だいたい、あいつ、そういうことには堅とうて・・」 「トウジ、うしろ」 「トウジ、あいつって、誰のことかしら?」 「ヒ、ヒカリ!」 「だ、だいたいなや!シンジが、毎朝毎朝、こないな・・・」 「しょうがなかったんだって、いってるじゃないか、昨日は・・・勘弁してよ。もう」 「駄目だぜ、シンジ。だいたい、自分の彼女に宿題写させてもらえるなんていう幸せを、俺 が黙って見過ごすとでも、思ってるのか?」 「ケンスケぇ・・・」 始業前の慌ただしいなか、みんなは、僕を取り囲んで、たのしげに僕を責め立てる。僕も、 最近は、こんな賑やかなやりとりは、楽しくて、好きだけど・・・ 僕は、ちらっと隣に座ったレイの方を見やる。レイは、ふぅっとひとつ溜め息をついたあと、 みんなに気づかれないように、僕の机の上から、自分のノートと一緒に僕のノートを、自分 の机の上に移動させると、鉛筆を取り出した。 「まったく、しょうがないなぁ、シンジちゃんは」
つづく

あとがき はい、ども、筆者です。 あああああ!!!一月もあいてしまった!!!! ・・・まったく、しょうがないなぁ、筆者ちゃんは♪(・・・汗) で、「宿題は自分の力でやりましょう」というお話です(そうかなぁ?) ま、まあ、やむ得ない事情がある場合は、この限りにあらずってことで・・ 可能な限り、最大限の努力はしましょうね(にこり)・・・意味不明や(^^; さてと、 まいったです。この話、一月近くかかってます。 最初の一行かいてから、最後の一行かくまで。 こんなにかかると、当初考えてた話は忘れちゃいますね。 書き始めた時には、たぶん、こんなんじゃなかったはずです。 もっと、こう・・・全体の筋には、関係しないような・・・短編を・・・ だったはずです。 で、書き終わって眺めると・・・ あああ!!なんで、シンジ、そんなこというんやぁあ!!!(おいおい>筆者) まあ、しかたがありません。それがシンジ君の希望ならば・・・ ふぅ、今後・・・まっ、正編では、そこまで話が進むのまだまだ先だし、いっか! ・・・ていうか、いつまでも・・・(ピー)・・・のままでは? まっ、そのうち、増刊号未来編にでもねっ んで、次回はというと・・・ 掲示板とかには、すでに書いてますけど、今年も長期海外出張行きます。 でも、たった1ヶ月だから・・・最近の更新ペース考えるとたいしたことはないな。 昨年とは、かなり立場も役割も違うから、もしかすると、結構、向こうで書き溜められる かもなぁ・・・と思ってますけどね。 ちなみに、掲示板に書いた日程は、 極東の某無名航空会社の度重なるフライトスケジュール変更のために、未だに未定です。 あーあ、もう数週間後だってのに・・・勘弁してくれよなぁ・・・ やっぱ、モスクワ回りにするのが妥当だったのかなぁ・・・ ってな感じです。 とりあえず、5月末ぐらいまでに更新できなければ、次の更新は7月末でしょう。 向こうでもインターネットへの接続も可能なのは分かったけどね。 さて、どうしましょっかねぇ・・ まあ、今回は、こんなところで それでは もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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