レイが好き! 第39話 発端

「はいっ、おまたせ」 元気な声とともにレイの手からスープの椀がはずむように、シンジとアスカの二つの 顔が待ちわびる食卓へと移る。 ツンと芳菜の香るその具沢山のスープは、先程からテーブルについて、なにやらお喋 りをしている彼らの臭覚をくすぐっていた。異様な・・・こういっては作者に申し訳 ないところだが・・・よく言えば、レモンの香り・・・あるいは、それにセロリの匂 いが加わり、ほんのりと磯の香りが・・・といえば、聞こえはいいが、つまりは魚臭 さが混ざったような・・・やはり、異様な匂いは、もちろん先程からの彼らのお喋り の話題のひとつであった。 「・・・おいしそう・・・」 レイの手から自分の前のテーブルに移されたその器の中身をしばらくじっと見つめて いたシンジの口から消え入りそうな感想が漏れる。さらに、アスカに同意を求めるよ うに付け足す。 「・・・だね」 アスカはそんな台詞を聞いて、なにやらクスリと笑みを漏らすと、自分の分のスープ と磯香のただよう野菜炒めの皿を運ぶ本日の料理人に言葉をむける。 「この野菜炒めはともかく、トムヤンクンまでこんなにナンプラー効かせるもんだっ け?」 「う、うん。ちょっと・・ね。入れすぎたかもしれない・・わね。でも、塩味見なが ら入れたら・・・塩入れるのが正解だった?」 食べたこともなければ、見たこともないこのスープ料理、それがアスカのリクエスト だった。アスカの思いやりの込められたこの難題を解かねばならないので、余計なこ とを考える暇もなかったのだ。 「一応、料理の本に出てたし、大元は瓶詰めのトムヤムペースト使ったから、そんな に外れてはないと思うんだけど・・・」 「製法はよくわかんないわよ。作ったことは無いもん。まあ、でも、うん、そうね。 なんとなく本物っぽいわよ。合格合格」 アスカ自身の記憶もおそらくそれほどしっかりしたものではないようで、誤魔化すよ うに、わざとらしく御満悦の様子を見せて、向かいに座って黙り込んでいる人物に矛 先を変更する。 「ところで、シンジくん?」 「なに?」 「ずいぶん静かじゃない?折角、可愛いレイちゃんがおいしそうな料理を作ってくれ たってのに」 「・・・・」 「ア、アスカ・・・」 「なによ?」 「えーと、そのさ・・・やっぱり、止めない?せめて、家の中ぐらい・・・」 「なにいってんのよ!アタシはアンタたちのためを思って、付き合ってあげてんのよ? ちゃんと普段から練習しとかなきゃ、いざという時困るのはアンタたちでしょ?」 「いざという時って?」 「うっ・・・と、とにかく、外では、アンタはレイで通さなきゃいけないじゃない。 で、アンタはシンジなわけよ!そうでしょ?レイ」 「そうね・・・じゃなくて・・・そうだね、アスカ」 「ほら、レイは素直じゃない。アンタも現実を受け止めなさい。現実を」 「・・・現実っていったって・・・」 ◇ ◇ ◇ 現実・・・なぜか、こんなことが現実になる・・・お話の世界でしか起こり得ないこ とのはずだったことが現実になる。まさに小説より奇なりを地でいってしまってる。 と、お話の世界の中でこんなことをいっても、将にそのまんまなわけだけど、とにか く、今回はそういう設定・・・だめだ、僕、何を口走ってるんだろう?つまり、その 位異常事態で気が動転してるということなのかな? いろいろと言うけど、アスカも出来るだけ深刻にしないように気を遣ってくれてるよ うで、難しい料理をリクエストしてくれたり、僕たちが考えすぎないようにばか話を 振ってくれてくれるのが救いになっているみたいだ。 レイは、レイも確かに最初はパニックに陥りかけたんだけど・・・・ え?そろそろタネ明かししなさい? ・・・・はい、では、一週間前です・・ ◇ ◇ ◇ 「シーンジ、はやくぅ〜」 「うん、もう終りだよ。レイ」 キッチンの入り口から急かすレイに、僕は最後の洗い物を終えて手を拭きながら、答 える。 「はい、シンジの鞄」 「ありがと、レイ」 エプロンを椅子の背もたれてにかけてから、鞄を受け取り、玄関へ向かう。レイは、 いつものように、僕の腕に手を架けて、僕とともに玄関へ向かう。今朝もレイは綺麗 だ。僕が歩きながらチラとレイの方を見やると、僕の腕をもう一度掴み直して、ニコ と微笑みむ。 「うふふ、どういたしましてっ」 「え?なにが?」 「さっきの返事よ。ありがとっていったでしょ?」 「あ、ああ、そうか。でも、いまごろ?」 僕も笑ってそれに応える。 「だーって、シンジ、全然わたしの方見てくれないんだもの」 「あはは、そうだっけ?」 「うん。そう。見てくれなかった」 「そ、そんな、勘弁してよ。はやくって急かしたのはレイじゃない」 僕が言い訳すると、レイはぷうっと膨れて呟く。 「別に、はやく学校に行こうって言った訳じゃないもの」 「え?」 聞きなれたレイの小さな呟きの意味が一瞬わからず、思わず出た問い返しの声に、レ イの膨らんだ頬がピンクに染まる。 「もう!知らない。シンジなんか!」 レイは、そのまま口を尖らせてそういうと、僕の腕を放して、しゃがみ込んで靴をは く。 「あの・・・レイ?」 「なによ?」 おどおどと僕がレイを呼ぶと、レイは仏頂面のまま僕を見上げる。僕はニヤリとよく ない笑みを浮かべながら、わざと答える。 「レイちゃんは、なにをはやくしたかったのかな?」 「・・・・」 「ね?ね?レイちゃん?」 「うるさい、うるさいっ!もう!シンジもはやく靴はくの!」 「あはは、ありがと、レイ」 「ほら、次、左足!」 レイは、僕の靴紐を結ぶ。必然的に俯く姿勢になるので、真っ赤になってる顔を見る ことは、出来ないけど、淡い髪の間に覗く可愛い耳が真っ赤になってる。 「レイ。耳、真っ赤だよ」 「もう!」 「あはは、ありがと、レイ」 「もう!どういたしまして。はい、おわり」 レイは、そう一声掛けるとスクッと立ち上がって、僕の腕を掴む。うまいな、こうし て密着してれば、真っ赤になってる顔は、僕が覗き込まない限り見ることは出来ない。 「もう、そんなに覗き込まないでっ!シンジ」 「あはは、さっきは見てくれないって怒った癖に」 「・・・意地悪」 「それにさ・・・さっきだって、ちゃんと見たでしょ?」 「え?」 「だから、どういたしまして言ってくれたんででしょ?」 僕は、ニコリと笑いながら、僕を見上げるレイの瞳を見つめる。 「見てるよ。いつだって」 「・・・・・・シンジ」 「なに?」 「ダーイスキ!」 ◇ ◇ ◇ と、ここまでは、ごくごく日常的な僕たちの朝の風景だった。この先、あんな運命が 僕たちを待ち受けているとは、恐らく誰にも分からなかっただろう。 なぜ、あんなことになったのか?特に、普段と変わったところはなかったような気が する。ただ、偶然の積み重なり。それにしたって異常な運命だ。そう!絶対に異常だ! そんなこと、科学的にありえるはずがないじゃないか! たまたまマンションのエレベータが故障中だったから、学校へ行くには、階段を降り なければいけなかったからといって。たまたま、レイが僕に飛び掛かったのがその階 段に差し掛かった瞬間だったからといって。そして、そのはずみで、僕たちふたりが 絡み合うように・・・あ、いっとくけど、僕はレイを庇おうと必死だったんだからね! ・・・階段から落ちたからといって・・・・ ◇ ◇ ◇ 「シンジ」 「なに?」 レイは、僕の腕から自分の腕を解くと、僕の頭に抱き着くように僕に飛び掛かる。 「ダーイスキ!」 「うわっ!レイ、危ない!」 ★※♭♯♪☆◆★※♭♯♪☆◆★※♭♯♪☆◆★※♭♯♪☆◆ レイの勢いを支えきれず、僕とレイは、絡み合うように階段を落ちる。 「レイ!大丈夫?」 僕は身体中の痛みを堪えながら、腕の中のレイに声を掛ける。・・・え?今の僕の声? ・・・なにか、違和感を感じながらも、無我夢中でレイの方を・・・あれ?鏡? 「・・・シンジ?」 きょとんとした顔で僕の腕の中に抱かれている僕から発せられたのは、やっぱり僕の 声で・・・・ 「と、とにかく、大丈夫?怪我ない?」 「え、ええ、大丈夫みたい。その・・・そっちは?」 そう言われて、僕も身体を確認す・・・ 「うわわわぁ!!!!!」
つづく

あとがき えとぉ、筆者であります。ぺこり。 「なんちゅー、ちゅーとはんぱぁーー!!!」 であります。でも、5K超えたので勘弁してください。 集中力ないです。一晩で書けるのは、頑張ってもこんなもんでした。 本当は、書こうと思ったのは、「レイの目を通して見た世界」なのですが、 そこまでいってません。 書いてて、途中で、「ああ、これはとっても1話では無理だな」と気づいて、 んで、「とりあえず、前編的な出だしだけ書いてみるか」と思って、 んで、「しかし、入れ替え時の描写が・・・」と辛くなりまして、 で、「つづく」になってしまいました。 結局、きっと、その描写は次回もできないと思うので、飛ばします。 適宜、想像してください。 で、もちろん皆さんご存知でしょうけど、元ネタというか、原案はアレです。 筆者的には『おれがあいつであいつがおれで』っていう本なんですけど、 (題名は自信なし。たぶん、小学生のころ読んだ・・・ような気がする) まあ、映画の方が有名だろうね。確か映画は『転校生』だったかな? 結構、アレだよね。やっぱ、男と女が交換されちゃうわけで、その・・・ ・・・そのページのコンセプト的には、書きづらいコンテンツでね(^^; (なら、そんなの書かなきゃいいのに・・・) まあ、つまり、ネタにつまってるということですかね。(その通りだ) いわゆる、当初のストーリーは行き詰まってるし(ありゃま) そういうわけで、ゲンドウ君出す気には、まったくなんないし(あーあ) マナちゃんでなんかする予定も、まったく意味不明になってるし(知らん、もう) と、いうわけで、枝葉ストーリーに突入です。 今回が前編で、次回は中編かなぁ?んで、その次で終わるといいなぁ・・・ あとはぁ・・・ そうか、トムヤンクンだ。 あのですね。トムヤンクンにナンプラーが入るのかどうかは知りません。 でも、入れても美味いです。私は入れます。 ちなみに、日本ではエビは(私の財布的には)買いづらいので、入れません。 (それは、トムヤンクンとは言わないような気がする・・・) というわけで、とにかく野菜のゴッタ煮です、私が作ると。 それから・・・野菜炒めの方は、「パックムー炒め」をイメージしました。 が、日本では売ってないと思います。 そうすると何だろう?と思いますが、まあ、その辺の中国菜っていう感じかな? 一応、知ってることというか、こういうのって筆者のイメージの産物なわけで、 やったことないことは、書きづらいわけやね。 (うむ、だから、例の描写はしづらいのだ!(いいわけだ) ) さて、どのくらいになったかな?おっ、9K超えた(笑) ではでは それでは もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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