レイが好き!
第41話
ふたり
「うふふっ」
「どうしたの?レイ」
僕の膝に顔を埋めていたレイは、ゆっくりと頭を上げて、涙を流したまま笑う。こんな
状況で、笑みを浮かべられるレイって凄いなと、ちょっと驚きながら、僕はレイに訊ね
た。レイは、頬を伝う涙を拭いながら、答える。
「ううん、わたしの膝、ちっちゃいなって」
「そっか・・・うん、そうだね」
僕は、それに、静かに肯いて、そっと、レイの頭を撫でる。人の目を通してみる自分。
人の身体で感じる自分。僕も、さっきから、そんな不思議な感覚を味わっていたんだ。
なんだか変な感じ。変な感じだけど・・・そっか、僕って、こうだったんだ・・って。
・・・レイは、どんなこと、感じたのかな?
「でも、落ち着いたわ。ありがと、シンジ」
レイは、気を取り直すように、にっこりと笑いながら、僕に礼をいう。
「うん・・・ふふふ」
レイの笑みに僕も、なんとなく可笑しくなって、笑いを漏らす。
「どうしたの?シンジこそ」
「うん、ちょっとね・・・クスクス」
「もぉ〜、シンジ、ずるい!ひとりで、クスクス笑ってぇ!」
だって・・・
「うふふっ、まるでわたしみたいに喋るんだもの。シンジったら、気持ち悪いわ♪」
「あっ!・・・も、もう・・」
「あはははは、僕の顔で膨れたって、可愛くないよ、レイ」
「もう!シンジなんか、キライ!」
ぷいっと、ソッポを向く僕・・・じゃなくて、レイ。
「あはは、だって、違和感あるよ。僕の顔がレイの口調で喋ってるんだもの」
「ふんっだ!」
「でも、よかった」
「なにが?」
レイは、ソッポを向いたまま訊ねる。
「うん、いつものレイだから。外見は僕だけどさ、中身はレイなんだなってね。なんだ
か、実感できる」
「そうなの?」
僕が静かにそう答えると、レイは、横目でこちらを見ながら訊く。
「うん、すぐ拗ねる」
「もう!、キライっ!」
「あはは、冗談だってば、レイ。レイは、やっぱりレイだってことだよ」
僕は、後ろから抱きしめるように、レイの腰に手を回す。レイは、僕の手に自分の手を
重ねて、撫でるように僕の手をさする。
「シンジも・・・だからね」
「うん。ふたり・・・だから」
◇ ◇ ◇
結局、その日は、学校どころではなかったので、レイが、なんとか僕の口調を真似て・
・・声質はもちろん僕の声だから・・・学校へ電話をして、私的な用事でふたりとも学
校へ行けないと連絡し、部屋でアスカの帰りを待った。
電話に出たミサトさんも多少は不審に思ったかもしれないが、少し・・・というか、結
構・・・からかわれる程度であっさり欠席を了承したみたいだ。
ひとまず、お互いに事態を認識して、現状を認めはしたものの、だから、どうしたらい
いのか、結局のところ、打開策は見出せないで、ただ、じっと、リビングにふたり、座
り込んでいる。
こんなんじゃダメだな、と思う。どんなことがあったって、僕はレイを守れるように、
強くなるんだって決めたんだ。だから・・・
「大丈夫だよ。レイ」
「・・・うん」
僕は、レイの手をとって、声をかけた。レイは、静かにそれに応える。
「大丈夫。なるようにしかならないんだから、結局のところはね」
「・・・そうね」
「うん、そうなんだ。だから・・・」
「・・・だから?」
「ひとまず、この身体、慣れないとね。お互いに」
「慣れる?」
「うん、ちょっと恥ずかしいけど、こんな状態なんだし・・・その・・・なるべく、見
ないようにとか、気をつけるけど・・・その・・・」
「・・・シンジ?」
「・・・トイレとか」
「!!!」
「いや、だから、目!目つぶってるから。お風呂も目つぶって入るから!」
レイは、まだ気づいていなかったみたいで、僕の指摘に、しばらくの間、言葉を失って
いた。そして、そっと口を開く。
「・・・そうね・・・慣れないといけないわね」
「うん・・・ごめん、レイ」
「ううん・・・でも・・・」
「うん、レイだから・・・僕も・・・いいかな、って」
僕は、レイの瞳を見つめながら、多分、レイが考えていることと同じことを口にした。
うん、こんな状態になってしまったのは、不思議だし、いろいろ困った状態だけど、こ
んな風になってしまった相手が、レイでよかった。レイなら、僕は、構わないと思える。
でも、本当なら、こんな形じゃなくて・・・ううん、いいんだ。どんな形だって、自分
の全てを見てもらえる相手がレイだっていうことが、僕は、それが、嬉しいとさえ思え
る。
僕がそんな風に笑みを漏らすと、レイも、にこっと笑って、口を開く。
「でも、あんまり無茶させないでね、わたしの身体に。オンナのコなんだからぁ!」
「わ、わかってるさ。レイこそ、あんまり、変なとこジロジロ見ないでよ」
「うふふっ、変なところって?」
「え?・・えと・・・その・・・」
「うふふっ」
「・・・レイのイジワル」
「それじゃ、あとは、話し方ね」
「え?」
「アスカ!」
僕たちは、突然、背後から聞こえた言葉に、後ろを振り返った。
「まーったく、学校休んで、なに遊んでんのかと思って聞いてたら、ホント、アンタた
ちって、飽きないわね、次から次へと」
「・・・どうして、アスカが?仕事は?」
「ミサトから電話があってね、様子がおかしいって」
「そ、そうなんだ」
「で、まあ、仕事中だったんだけど、様子を見に来たってわけよ。まあ、だいたいのと
こは、分かったわ」
「・・・いつから・・・その・・・見てたの?」
「いいのよ、そんなことは。そんなことより、その喋り方なんとかしなさいよね。それ
じゃあ、まるっきりシンジじゃない!」
「そ、そんなこと言ったって・・・僕なんだし・・・」
「ゴチャゴチャうるさいわね。とにかく!アンタたちは、当面、入れ替わったまま暮ら
してく覚悟をしたんでしょ?」
「う、うん」
「なら、言葉づかいも変えなきゃ駄目じゃない」
「そうかな?」
「当ったり前じゃない。ね?シンジ」
「え?わ、わたし?」
「そうよ、当分は、アンタがシンジで、こっちがレイでしょ?」
レイは、少し考えたあと、同意する。
「そうね、アスカの言う通りだわ。シンジのイメージを崩さないように、わたし、頑張
らなきゃ・・じゃなくって、僕、頑張るよ!」
「レ、レイ・・・」
「ほら、"レイ"も、もっと"レイ"らしく話さなきゃ駄目じゃないか」
「観念しなさい、シンジ」
「うん・・・」
それからしばらく、僕たちの言葉づかいの特訓が始まった。もちろん、アスカが鬼教官
だ。
「ほら!違うでしょ?レイは、もっと、可愛らしく・・・」
「こ、こうかな・・・大丈夫っ、シンジはわたしが守るもの、うふふっ」
「ダメダメ、そんなんじゃ。レイ、ちょっと、見本を見せてあげて・・・」
つづく
あとがき
どうも、大変ながらくお待たせしております、筆者であります。
ちょっとずつでもいいから、次々に出すぞ!
と、公言したにもかかわらず、ひと月近く開いてしまいましたね。
実は、今回の話も、もう少し進めておきたいところなんですが、
この先、ちょっとかかりそうなんで、ひとまず、ここで区切ってアップします。
たぶん、次回ぐらいには、このシリーズにメドがつくであろうと
期待しております。
このまんま、入れ替わったままで延々というのも、楽しそうだけど、
きっと、すぐに辛くなるに違いない(笑)
でも、まあ、41話は書いてなかったけど、200,000万ヒットも書いたし、
某所にイラストとかバナーまで贈ったし、最近、いろいろやってはいるんですよ。
なんとなく、少しノってる期間ではないかと思ってます。
この勢いで、42話を書いてしまいたいな・・・
それでは
もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、
また、次回、お会いしましょう。
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