レイが好き! 第43話 お花見

「さてと、こんなものかな?」 「うん。とっても、おいしそっ」 最後に僕たちは、切った卵焼きを詰めてから、ニコリと顔を見合わせながら、重箱に 蓋をし、少し大き目の手提げに入れる。 「トウジたち待ってるかな?」 「うふふっ、そうね、ちょっと時間かかっちゃったものね」 「だって、僕が料理してると、レイがさ・・・」 「な〜〜ぁにぃ?」 スリスリと頬を僕の背中に摺り寄せながら、レイが甘えた声を出す。 すりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすり すりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすり 「うふふ」 すりすりすりすりすりすりすりすっ 「ふふふっ。それじゃ、行こっか」 突然、エプロンを外しながら、僕が歩き出す。 「わあっ!も、もう。ズルイ、シンジ」 僕にもたれ掛かっていたレイは倒れ掛かりながら、僕の後を追う。ぶつぶつ言いながら。 「もう・・昨日は、シンジが・・・わたしはじっと支えてて・・・シンジ、ズルイ」 「あはは、だって、トウジ達が待ってるじゃない」 追いかけるレイに僕は肩越しに降り返りながら、笑いかける。 「シンジはわたしより、友達を選ぶのね?フンだ!」 レイは、拗ねたようにそういって、ソッポを向く。まったく、可愛らしいったら・・ 「ふふふ、可愛いよ、レイ」 「そんなんじゃ許してあげないも〜ん」 ◇ ◇ ◇ 「なぁ、ヒカリぃ〜、はよ食おうなぁ〜」 「駄目よ。まだ、碇君たちが来てないじゃない。それに約束の時間まであと10分も あるんだから」 「そやから、そないに早う出ることはないて、ゆうたやないか」 「グズグズと、うるさいわねぇ・・・仕方ないわね、それじゃ少しだけよ」 「さすがわ、わしの委員長や、話がわかる」 「あはは、洞木の唯一の弱点は腹を空かせたトウジ、と。それじゃ、さっそくいった だきま〜す」 「あほぉ〜、わしが先やろ!またんかい、ケンスケ」 時計を見ると、なんとか約束の時間には間に合ったようだ。なんだか騒がしい声がする なと思って、声のする方を見ると、トウジたちが相変らずの様子で、騒いでいた。 「ごめんごめん、ちょっと遅かったかな?」 「おぉ、シンジか。コイツが妙にせかすもんやさかい、はよう来てしもてな」 「ちょっと、コイツって、誰のことよ。おはよう、碇君。レイ、おはよっ」 「うん、おはよ、ヒカリ。鈴原君も」 「俺もいるぞ〜」 「あ、ああ、おはよ。ケンスケ」 「うふふっ、おはよう。相田君」 「それで、アスカは、まだ・・・」 「当たり前や、あの女がこないにはようくるタマかいな」 「時間にはルーズだからね。でも、ミサトさんも連れてくるようなこと言ってたから 手間取ってるのかもしれないよ。とにかく、座ってもいいかな?」 「ええ、どうぞ。レイ、こっちにいらっしゃい。ほら、碇君も」 「ありがとう、ヒカリ」 「う、うん」 「この人たち、待ちきれないって、さっきから食べ始めっちゃったのよ。アスカたちは 待ってても、どうせ、いつ来るかわからないし、私たちも食べ始めましょ」 「うふふっ、そうね。それじゃあ、わたしたちのも出すわ」 「うん、今朝、二人で作ったんだ。洞木さんにはかなわないだろうけど。トウジたちも よかったら、こっちも食べてよ」 「おぉ、綾波の手作り弁当かいな、感動やなぁ〜」 「ちょっとぉ、トウジ、それ、どういう意味よ?私の料理は、もう飽きたとでもいう気 かしら?」 「そ、そないなこと、いとことも言うてへんがな」 「うふふっ、でも、ほとんど、シンジが作ったから。わたしはそれを手伝っただけ」 「そんなことないよ。レイも一生懸命、卵焼き焼いてくれたじゃない」 「ううん、でも、シンジの方が手際もいいし、シンジが作ったほうが美味しいから・・」 「でも、僕はレイの料理が好きだよ。一生懸命作ってる姿もね」 「わたしはシンジの料理の方が美味しいと思うのに」 「僕はレイの料理の方が美味しいと思うよ」 「どうしてかしら?」 「どうしてだろうね?」 「シンジは、わからないの?」 「レイは?」 「シンジは?」 「わかるような気もするけど」 「教えてくれる?どうしてだか?」 「うん、それはね」 「うん、それは?」 レイは、僕にそう問い掛けて、じっと僕の瞳を見つめる。僕は、見なれたレイの綺麗な 赤い瞳を見つめ返す。 「それはね」 「それは?」 その自明の問いかけに僕は、じらすように同じ言葉をささやき、レイもまた、同じ言葉 で問い掛ける。レイの瞳の中の僕が優しげに微笑む。レイも幸せそうに、そして、玩具 をおねだりする子供ように、甘えたように微笑む。僕は、そのレイの可愛らしい笑みに 心の中から、暖かい気持ちになり、そして・・・・ 「ゴホン。と、とりあえず、わいは、食うで」 「え、ええと、そうね。はい、トウジ」 「お、俺は・・・俺も、とにかく、食うぞ!そうだ、トウジ、例の奴持ってきたか?」 「おぉ、まかせとけ」 「トウジ、例のものってなんなの?そういえば、何かコソコソと用意してたけど」 「あ、ああ、その・・・なんや、花見といえばやなぁ・・・」 「も〜っちろん、ビールよね!さあ、ぷわぁ〜っと行きましょ!」 「「「ミ、ミサトさん!!」」」 「は〜い、こんにちわ、青少年諸君。ビールなら、ちゃ〜んと自前でも用意して 来たから、心配しないでね・・・と、ビールはまだかしらね?アスカぁー」 「ちょっとぉ、ミサト、アンタ、さっさと行っちゃわないでよね。重いんだから」 「ジャンケンに負けた、アンタが悪いのよ。ほら、さっさと運んでちょうだい」 「ぐぐぐ・・ぐやじぃい・・・」 「まあまあ、いいじゃない。代金はアタシが払ってあげたでしょ」 「うっさいわね。ちょっと、シンジ、アンタ、なにそんなとこで、レイといちゃいちゃ してんのよ!さっさと手伝いに来なさいよね!」 ◇ ◇ ◇ アスカとミサトさんも合流して、トウジが持ってきた日本酒とミサトさんが買ってきた (結局、ミサトさんの車から運んだのはほとんど僕だった)ビールに、洞木さんとレイ と僕の作ったお弁当をつまみに、必然的に花見は酒盛りへと発展していった。 そもそも、この花見は、レイが言い出したものだった。去年の春の桜の季節の終わりに、 散りゆく桜の花のはかなさに感動して、桜の花のファンになったのだ。そんな話を僕と して、全盛期に花見をするのも、いいものだよということで、去年の春からレイは 楽しみにしていたのだ。 折角だからと、レイが皆を誘うことを提案した時から、このメンバーでおとなしく 花見をするとは、思わなかったが、こういうのが日本の花見の基本形かな?とも 思い、それもいいだろうと思ったのだ。 宴もたけなわ、少し酔い加減のレイは洞木さんと静かに話をしている。僕は、トウジ たちの相手をしながら、ときたま、レイの方を気にして、そちらを伺う。 「ところでさ、レイ、結婚って考えてる?」 「そうね、考えることもあるわ」 「したいって思う?」 「うーん、そうねぇ・・・いつまでも、このままシンジの家に住んでるのも不自然なの じゃないかしら?と、時々思うの」 「確かにそういわれると、そうかもしれないわね。で、いつなの?碇君」 突然、レイと静かに語らっていた洞木さんが僕の方を向いて、訊いた。 「え?・・・なにが?」 「いつ、レイと結婚するか?って聞いたの」 「なんやぁ?シンジ、綾波とそんなところまでいっとんのか?」 「シンジ〜、おまえ、いつの間にぃ〜」 「そ、そんな、別に、そんなところって・・僕は、別に、なにも・・・」 「いいから、アンタたちは黙ってて!そうよねぇ、まだ、高校生だし、実感はない かもしれないわね。でも、漠然と、卒業したらとか、就職したらとか、考えたりしない?」 「う、うん。一応、僕がひとりで稼いで、生活ができるようになった時に、そうなれれ ばって、思ってるけど、でも、そんな先のことわからないよ」 「わからないの?シンジ」 アルコールのためか、ほんのりと頬を赤く染めたレイが悲しそうに、そうつぶやく。 「い、いや、だから、分からないってのは、それがいつになるかってことで、その時まで、 レイが僕のことを好きでいてくれるかとか・・」 「シンジはわたしのこと嫌いになるかもしれないの?」 「そ、そんなことは、ないけど・・ご、ごめん。違うってば、だから、そうじゃなくて、 とにかく、まだまだ先のことだからって・・・」 「綾波、そないに、悲しい顔すなや。大丈夫やて。シンジは、アホやから纏められへん けど、つまりやな」 「なによ。トウジ、偉そうに」 「そやから、シンジは、自立したらプロポーズするてゆうとるんやろ。ほんで、そん時、 綾波がなんて答えるか不安や、いうとる訳や。綾波がYESゆうたらしまいの話やんけ。 な?そういうこっちゃろ?シンジ」 「う、うん。まあ、そんな感じ・・かな?」 「まっ、そういうこっちゃ、な、綾波、よかったやないか」 「ゴメンね、レイ。僕、そういうことあんまり、考えてなかったから・・」 「うん、いいの、ゴメンね、シンジ。ありがとう鈴原君」 「よっしゃ、ほんなら、そういうことで、めでたしめでたしや」 「それじゃあ、シンジと綾波の結婚を祝して、乾杯といこーぜ!」 「あほぉ、それはまだ早いわい」 「まあ、いいじゃないの。大まかに言えば、そういうことなんだろ?」 「ま、それもそやな。ほたら、そーゆーことで」 なにがそういうことでなのか、だんだん分からなくなってきたが、とにかく皆で乾杯・・ 今日何回目の乾杯なんだか、すでに分からなくなっているが・・・をする。 ◇ ◇ ◇ 宴は、いつもの様に、酔っ払い集団によるバカ騒ぎのまま、特にきっかけもなく、 いつのまにか、なんとなくお開きとなり、比較的酒量の少なかった毎度おなじみの 3人で後片付けをした後、レイと僕は、手を繋いで桜並木の道を歩いて帰る。 レイと二人でもう少しゆっくりと桜の花を見たかったこともあり、ミサトさんの 酔っ払い運転での送迎は、丁重にお断りしたのだ。 僕は、隣を歩くレイと同じように桜の花を見上げながら、なにげなく先ほどから 考えていたことを口にしてみる。 「レイはさ、僕でいいのかな?」 「え?」 「うん・・・だから、なんで、僕なのかな?って」 「シンジは?」 「僕は、レイじゃなきゃ嫌だよ」 「どうして?」 「うん・・・」 僕は、その理由を考え込む。 「あの時、僕は、寂しかったんだと思うんだ。だから、きっと本当は、誰でもよかった んだと思う」 レイは、ちょっと意外そうな顔をしてから、優しく僕に微笑みかける。 「でも、そんな時出会ったのが、レイだったんだよね。だから、僕はラッキーだったと 思うんだ。そう思わない?」 「うふふ、そうかしら?案外後悔してたりして」 「そんなことないよ。僕はラッキーだったよ。後悔なんて一生しないさ」 「うん、わたしも」 「好きになるきっかけなんて、案外単純なことなのかもしれないと思う。でも、好きに なると、最初は盲目なのかもしれないけど、でも、だんだんとその人のことが見えるように なってくる。そして、もっともっと好きになっていく」 「そうね」 「うん、今は、レイじゃなきゃ嫌だ。だから、レイがどう思ってたって、僕はレイを 離さないからね」 「ありがとう、シンジ」 僕たちは、桜の木の下で静かにキスをした。
つづく

あとがき どもども、お久しぶりの筆者です。 で、4月に書き出していたお話を、7月も終わろうかという今ごろ ようやく書き上げたというところです。 いや、別に、この話、お花見じゃなくてもいいんですよね。 だから、舞台を変えるとか、なんとでもなるんですけど、 まあ、それやってるといつまでも終わらんでしょうからね。 もちろん、最後の方のふたりの会話が書きたいことだった訳です。 さて、どうすれば、そこに持っていけるかだけを考えながら書いたもんで その辺までは、めちゃいい加減やなと読みなおして思っております。 だってさ、アスカとミサトさんは、何してると思う? まったく、文章に出てこないもんね。 完全にちょい役にしてしまったなぁ・・・とやや反省です。 みんながちゃんと絡むような話って、台詞が交錯して難しいんだよね。 ストーリーももちろん複雑になるしさ。 ふむ、ひとまず、これで、アップ致します。 なにもしないよりは、マシだろうと思うのです。 で、なぜにこれほどまでに遅くなってるのか? うん。最後の方の会話は、実は、ちょっとだけノンフィクションなのね。 というか、レイが好き!自体、大分ノンフィクションの部分があるんだけど、 つまり・・・・そういうことでして・・・ ・・・いやぁ〜、忙しいわ、最近(自滅) (なにが言いたいのか読み取れない人は、すいませんが、読み飛ばして下さい) ま、そゆことで、次の更新は、なんとか年内を目指すって感じです。 更新遅くてゴメンナサイ。 それでは もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。 2000年7月頃

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