レイが好き! 第44話 小鳥

「シンジ、これ、なにかしら?」 今日は、ちょっと遠くのスーパーまで、ふたりで自転車で買い物にきていた。 スーパーから買い物を終えて出てくると、レイの自転車の前カゴに紙製の手提げ袋が入れられていた。 レイは、恐る恐るという感じで、自転車に近づき、持ち手をもって、紙袋を持ち上げる。 「キャッ!・・・な、なんか、動いた」 紙袋の中で、ガサゴソと何かが動いている。レイは思わず持ち上げかけた紙袋を自転車の前カゴの中に落とす。 僕は、そっと、袋の中身を上から覗く。 「なんか、虫かごみたいなものが入ってるよ?」 袋の中の緑色の網状の蓋のついた小さな透明の容器のなかで、何かが動いている。 黄緑色・・・小鳥?インコ? 「小鳥・・・みたいだよ。レイ」 「なんで?・・・どうしよう?シンジ」 なんで、こんなものが、レイの自転車に?誰が?忘れ物?・・・僕たちはお互いに困った顔を見合わせた。 僕も、どうしていいかよくわからない。でも、とりあえず・・・ 「そうだね、じゃあ、交番に届けるのはどうかな?落とし物っていうか、拾得物って感じだし」 「そうね。きっと、それがいいわ」 買い物袋を僕の自転車の前カゴにいれて、僕とレイは自転車を押して、最寄りの交番に向かう。 その間も、レイの前かごの袋の中の小鳥はガサゴソと動いている。 この炎天下、こんな小さなカゴに入れられて、小鳥も苦しいのかもしれない。 餌はあるのだろうか?水は?・・・僕はそんなことを心配しながら、交番への道を急いだ。  ◇ ◇ ◇ 「なるほど、事情はわかりました。それで、どうしますか?」 交番で、おまわりさんは、僕から事情をきいたあと、僕たちに問いかけた。 僕は、おまわりさんに問い返す。どうするって言われたって、僕たちは、落とし物を届けただけなんだから、 「どうするって、どうなるんですか?」 「そうですね。このまま6ヶ月経過しても、落とし主が現れなかった場合は、拾い主に引き取る権利が生じます。」 「その・・6ヶ月の間は、これは、どうするんですか?」 「警察で保管しますが、保管が困難なモノの場合、例えば、食べ物とか、今回のような生き物の場合は、 数日保管して、破棄する場合があります。もちろん、保管できるもの、カゴなどは保管しますが」 「そんな、カゴだけ保管したって、意味ないじゃないですか?」 「それは、そうなんですが、一応、規則ですし、なかなか、細かく対応するのは難しいのも分かっていただければと・・・」 それは、そうかもしれない。でも・・ 「例えば、落とし主、っていうか、今回の場合、落としたというか、間違えて、置いていった可能性もありますよね。 なら、持ち主が探してるって可能性もあるじゃないですか?」 「もちろん、そうです。ですので、持ち主が警察に遺失物届を提出してくれればいいのですが」 「警察では、探してくれないんですか?」 「それは・・・現実的には、警察ではそこまでは難しいところです。申し訳ありません」 このおまわりさんは、いい人なのだと思う。でも、確かに、警察でできることは限りがあるし、 こんな些細な紛失物の持ち主を探すことまでは、できないのだろうと思う。でも・・・ 僕がやりきれない気持ちをおさえて、考えていると、おまわりさんが気を取り直したように続ける。 「ともかく、書類を作成しますので、袋の中の内容を一緒に確認して、いただけますか? もし、持ち主がすぐにわかるようなものが入っていましたら、こちらから連絡をとってみることもできますので」 そういって、おまわりさんは袋の中身を取り出して、机に並べ始める。僕とレイは、並べられるものを食い入るように見る。 「メッシュの蓋付きの水槽、小鳥・・・インコでしょうかね?」 「はい、セキセイインコだと思います」 「それから、小鳥用の餌の袋・・・ほんのちょっと残ってるみたいですね。」 水槽の中にもタネのような小鳥の餌がバラまかれていて、それとは別にペットショップで売ってるような 小鳥の餌の袋が入っていた。 「あ、底にメモ用紙が入ってますよ。読みますか?」 「は、はい。お願いします」 「ええと・・・病気で入院することになり、飼い続けられなくなりました。申し訳ありませんが、よろしくお願いします」 「・・・・」 「うーん、どうも、持ち主が遺失物届を提出する可能性は、かなり低いようですね。 他には何も入ってませんし、ちょっと、こちらで持ち主を探すのは困難だと思います。」 「そんな・・・じゃあ、どうなるんですか?」 「ですから、6ヶ月間保管して・・・・」 「でも、生き物ですよ!?」 「は、はい。ですから、保管が難しいものについては、処分ということに・・・」 処分という言葉に、一瞬、レイがピクンと身体を震わせて反応する。僕は、レイの肩に置いた手に力を込める。 「他に手はないんですか!?」 「そうですね。拾い主さんが、6ヶ月間保管していただくということも可能です。 6ヶ月後に落とし主が現れていなければ、そのまま、引き取っていただくということになりますので」 「それじゃ、僕たちが引き取るしかないってことですか?」 「いえ、強制ではありません。こちらで保管するのが原則ですので・・・」 「で、でも。それじゃあ、この鳥は処分されるんでしょ?じゃあ、選択肢はないじゃないですか?」 思わず僕がそう言い放つ。レイもおまわりさんの反応を食い入るように見る。 おまわりさんは、レイを見た後、僕の顔をじっとみて、すまなそうな顔で答える。 「申し訳ありません。警察ではどうにもなりませんので。それに、持ち主の方も、あなたたちを見込んでと いうことなのかもしれませんね。なにか、こころあたりはありませんか?」 僕は、おまわりさんの言葉を少し考える。もちろん、こころあたりはない。そして、他に選択肢はない・・・ レイが何か言いたげな顔で僕を見る。僕もレイの方をみる。 「・・・・」 レイは、僕の表情から何か読み取ったようで、少し悲しげな瞳で僕をみたまま何もいわない。 そう。僕だって、このまま引き取るしかないことは分かる。でも・・・僕は・・・ レイは、たぶん、反対しない。それどころか、レイは・・・だから、僕は・・・ 僕は、しばらく考えて、そして、僕が選ぶことのできる、唯一の選択肢を選んだ。 帰り道、僕たちは、ペットショップによって、鳥籠を飼って帰った。  ◇ ◇ ◇ 「可愛いわね、シンジ。こんなに人に慣れてる」 レイは、金網越しにレイの指先をついばんで、、チチチとさえずるインコを眺めて、楽しそうに微笑む。 「ふふふ、レイは、ずっと、わたしが飼うって、言いたくで我慢してたでしょ?」 「うん。でも、わたしにお世話できるかしら?と思って」 レイは、満面の笑みをたたえて、僕をみる。 それは・・・生き物の世話は、確かに大変かもしれないけど、そして、生き物を飼うことの責任。 でも、そんなことは大きな問題じゃない。 「それは大丈夫なんじゃない?でも・・・」 ・・・小動物は可愛いし、僕だって嫌いじゃないけど・・・でも・・・ 僕の表情をみて、レイは、少し不安そうな、悲しい瞳で僕をみる。僕もきっと、こんな表情をしてるんだ。 レイが口をひらく。 「でも、こんな小さなカゴの中に閉じ込めておくなんて、可哀想ね。 ねぇ、シンジ、ちょっとカゴからだしちゃだめかしら?」 「やめて!」 レイがカゴから小鳥を出そうとするのに、僕は、思わず、反射的に叫んでしまった。 レイは、驚いたように、手をとめて、僕を見る。僕は、思わずだした大声に自分でも驚いて、レイに謝る。 「ごめん。実は、僕には・・・その・・・思い出があるんだ」 「思い出?」 「うん。僕は・・・僕は小鳥を・・・昔、小鳥を飼ってたことがあるんだ。」 僕は、しばらくうつむいて、絞り出すように声を出す。 「その小鳥を・・・僕は・・・踏みつぶしてしまった」 僕が小さく呟くようにそういって黙り込むと、レイは僕の方をじっと見つめる。僕のこころを覗き込むように。 きっと、レイには僕の気持ちがわかる。そう思う。僕は、今でも覚えている。あの時の感触を・・・ レイは、しばらく考え込んで、そして、小さく呟く。 「そう・・・悲しい思い出ね」 「僕が悪かったんだ。僕が小鳥を篭からだして、部屋の中を飛ばしてたから・・・ それで、僕の足元に飛んできて・・・ちょうど僕が足を下ろす、その、本当に悪いタイミングで・・・」 「でも・・・」 「うん。僕も、ずっと、かごの中に閉じ込めっぱなしじゃ可哀想だと思ったんだ。でも、きっと、 それは間違いだったんだ。安全なかごの中なら、小鳥は死なずにすんだのに・・・僕がカゴから出したせいで・・・」 「シンジ・・・でも、きっと、それが、その小鳥の運命。その小鳥は幸せだったと思うわ」 「そうかな?」 「そうよ。だって、シンジは、その時、泣いたでしょ?」 「う、うん」 「そして、ずっと覚えてる」 「うん・・・」 「なら、幸せよ。わたしなら・・・幸せだと思うから」 「レイなら?」 「そうよ。わたしも安全なカゴの中から、シンジに出して貰ったのだもの。だから・・・ そして、わたしに何かあったら、シンジは絶対に泣いてくれるもの。」 レイは、静かな口調でそういって、僕の目を見る。うっすらと涙を湛えた真紅の瞳。 「ごめんね、レイ」 「なんであやまるの?」 「ううん。ありがとう、レイ」 「うん。たぶん、そっちが正解ね。うふふっ、シンジ、元気でてきた?」 「うん、ありがとう、レイ。でも、ごめん」 「もう、どっちなのよぉ?」 レイは、少し怒ったように頬を膨らませてそういったあと、僕の腕に両手を絡めて、僕の胸に頭を預けて、静かに呟く。 「ごめんね、シンジ。嫌なこと、思い出させちゃって」 「う、うん。ごめん。こんなことで・・・思い出なんかで、イチイチ落ち込んでちゃ、ダメだよね?」 「ううん。いいの。それが優しいシンジだから。わたしはそんなシンジが好きよ」 「うん、ありがと」 「でも、わたしは死なないわ。シンジが泣くのは嫌だから」 レイは、真っ赤な瞳に涙をためて、そう呟く。僕だって、レイが泣くのを見るのは嫌だから・・・ 「あはは、そりゃあ、レイは死なないでしょ?僕に踏まれたぐらいじゃ」 「もう!シンジの意地悪!」 「ありがとう。レイ」
つづく

あとがき どうも、筆者です うーん、既に15年放置中・・・たしか、あれは、2000年のお花見シーズン・・・を過ぎて、 書き上がったのが7月とか書いてあるなぁ・・・今日は2015年七夕・・・ということは、キッチリ15年。 ・・・どうしよっかなぁ〜と、思って 43話の最後はこういう感じかぁ・・・なんか、これでFINつけても良かったのかも? なんて思いも、ないことはないんですが、つづけるとすれば、どうすっかなぁ?・・と。 でね、書けませんけど、仮に、あの直接の続きを書くとすれば、どんな感じかなぁ〜?と、 考えだすと、どう考えても、このページのコンセプトからは外れて、一気にオトナの世界へ(瀑) (あ、レイが、シンジの質問に答えてないやん!とかって、ツッコミはしちゃだめですから) だって、どう考えても、これだけ長いキスしてたら、途中で、しどけなくネックレス外しちゃうでしょぉ!(笑) (あ、「さりげなく」が正解か。なんか「しどけなく」の印象が強くて・・・2番の歌詞だね(^^; ) フフっ、俺もオトナになったものだ(・・どこが?) で、つづくとすれば・・・いや、あの直接の続きにはできないから・・・まったく別のシーンですよねぇ・・・ というわけで、短編「小鳥」をお届けしました。 この話は・・・ですね。なんというか・・・・ やっぱり、覚えてるんです。あの時の感触。もう、四半世紀ほども前のことなんだけど。 カヲル君を握りつぶしたシンジの身体の記憶として残る感触・・・分かる気がして で、怖くて、動けなくなるんです。 小鳥が部屋の中を飛んでたりすると、身動きできなくなるんです。 ほかの人が動くのも、いちいち気になって、怖くてならないんです。 ・・・こういうの、トラウマっていうんでしょうか? それで・・・・  だから、そういう奴に拾われるところに、インコを捨てていくんじゃない!(>_<)8 というお話です(笑) 生き物を飼う責任です。最後まで面倒みましょう。 どうしても処分しなければならない状況なら、他に手がないなら、キチンと自らの手で処分しましょう。 そして、ちゃんと、泣いてあげましょう。嫌な思い出となっても、ちゃんと覚えていましょう。 自分の手も汚さず、安易に、優しそうな人に責任を押し付けちゃいけません。 それが責任というものです。(←エラそぅ!)、誰にだって、事情はあるんだから・・・ なんか、久々のレイが好きなのに、説教臭いはなしになっちゃいました。スイマセン。 次からは、それなりに、掛け合い漫才で進めてみます。 アスカ様も出したいし・・・インコちゃんに名前もつけてあげなきゃね♪ それでは もし、あなたがこの話を気に入ってくださったとして、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。 2015年7月7日 某所にて

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