レイが好き!増刊号
第八号
シンジが好き!第弐話「おなじ」


「レイ、また、読んでるの?」
「う、うん」

学校の休み時間、わたしが本を読んでいると、ヒカリが飽きれたような顔で、
話しかけて来た。わたしは、ちょっと、照れながら、顔をあげて答えた。

「まーたく、よく飽きないものね。そんな恋愛小説ばっかり読んで」
「あら?ヒカリだって、こういうの好きだっていったじゃない」

「まあ、いったけどさ・・・・そうね、そうかもね」
「うん・・・読んでると、なんだか、小説の中の女の子になったような気にな
って・・・だから、わたしも普通の女の子になれたような気がして、だから、
いいなって思えるから・・・・」

ヒカリは、途中から、なんだか優しく顔になって、同意してくれた。ヒカリだ
って、わたしとおんなじ恋する女の子なんだから、きっと、わかってくれると
思ってたけど、でも、やっぱり、わたしだから・・・ヒカリもなんとなく気づ
いてるけど・・・普通の女の子じゃないから・・・ううん、それでもいい。今
は、まだ。

「だから、わたしの参考書なの。わたしは小説の中の女の子のように、かわい
い、素敵な女の子になるんだから」
「そうね・・・」

ヒカリは、相変わらず、優しい声で答えた後、ニヤッと笑って、続けた。

「だから、勉強してるんだー?・・碇君のために」
「も、もう!ヒカリったら、すぐ、そうやって、冷やかすんだから。ヒカリだ
って、鈴原君に夢中なくせに」

「私はいいのよ。どんな私だって、トウジは愛してくれるんだから・・・キャ
ッ、何いわせんのよ!」」
「ヒカリが勝手にいったんじゃないの」

ヒカリは、いっつもそうだもの。わたしがそういうと、ヒカリは、慌てたよう
にわたしの肩を叩きながらわたしを励ましてくれた。

「と、とにかく、レイも自信持ちなさいってことよ」
「わたし、そんな自信ないもの・・・」

「なーに、いってのよ。レイは、かわいいわよ。私なんかより、よっぽど素直
だし、魅力的な女の子よ」
「でも・・・」

わたしは・・・本当は・・・

「だいいち、碇君は、レイにベタ惚れじゃない。そうでしょ?」
「・・・うん」

「認めたわね?」
「あー、もう!ヒカリったら!・・・読書の邪魔するんだったら、あっちいっ
てて!」

「はいはい、お勉強中だったもんね。がんばってね!碇君のために」
「もう!」

そういって、ヒカリは、鈴原君の方に駆けていった。わたしは、ヒカリがうら
やましい。あんなに自分に自信があって、ううん、本当に実力があるから・・・
だから、いつも明るく輝いてる。それで、わたしを勇気づけにいつも声をかけ
てくれる。本当に、自信があって、余裕があるんだわ。わたしは、明るくたの
しそうに鈴原君と話をしているヒカリをしばらく眺めた後、再び、本に目を落
とした。

本は、やっぱり、わたしを幸せな気分にしてくれる。こんなわたしでも、普通
の幸せな女の子になれるから。ううん、わたしが幸せじゃないってわけではな
いとは思ってる。幸せだと思うもの。シンジも優しく見守ってくれて・・・わ
たしを愛してくれるし・・・わたしもシンジを・・・でも・・・やっぱり、わ
たしは・・・人じゃないから・・・それは、事実だから・・・ううん、いつま
でも、そんなこといっててはいけないと思ってる。でも、やっぱり、不安・・・
わたしは、このまま人とおなじになれるの?それに、わたしは変わるわ。変わ
っていくわ。変わった後のわたしをシンジは、愛してくれるの?ううん、シン
ジが愛してくれるような素敵な女性に変わっていかなくちゃ・・・そう思うか
ら・・・やっぱり、これは、勉強・・・素敵なオンナになるための・・・そう
思うから・・・

いつの間にか、シンジもわたしの隣に座って、本を読んでるわたしを眺めてる。
優しい包み込むような目で、いつも見つめてくれる。わたしもいつの間にかシ
ンジの方を見てる。いつも、いつも、見つめあって、そして、現実から逃げる
のは、いけないことだけど・・・でも、幸せだから・・・だから、いつまでも、
このまま、シンジに見守られて、幸せでいたい・・・


    ◇  ◇  ◇


「わたし、図書館で、本借りて来るから・・・・シンジ、ちょっと、待ってて
くれる?」
「うん・・・・僕もついていこうか?」
 
「ううん、いいの。シンジ、つまんないでしょ?ついてきても」
「そんなことないよ。レイを見てるのがつまんないなんて」
 
「でも、それじゃあ、わたし、いつまでたっても、本、選べないもの」
「そ、そうだね」
 
「じゃ、いって来る」

放課後、わたしはそういって、図書館に駆けていった。シンジは、ついてきて
くれるっていったけど、わたしも本当は、二人で行きたかったけど、でも、図
書館で見つめあってしまったら、本当に本が選べないもの。だから、残念だけ
ど、一人で、図書館にいった。でも、シンジが待ってるから、急がなくっちゃ!
わたしは、急いで、本を選ぶと、カウンターへ持って行って、貸出手続きをし
て、教室へ走っていった。
 
「もう!シンジ、待ちきれなかったの?ダメじゃないの」
「う、うん。ごめん」

シンジは待ちきれなかったみたいで、ローカをわたしのほうへ歩いてきてくれ
ていた。わたしは、シンジを見つけて、ちゃんと待っててくれなかったシンジ
を叱った。シンジは、それに謝ってくれる。でも、本当はうれしかったの。わ
たしはシンジの腕にしがみついて甘える。
 
「うふふっ、嬉しい・・・・ホントは」
「う、うん。ありがと」
 
「さあ、帰りましょ」
「う、うん」

シンジは、なんだか、考えごとをしているようで、ちゃんと返事をしてくれな
い。でも、きっと、わたしのことを考えてくれてるから、だから、やっぱり、
わたしって、幸せなんだと思う。シンジは、いつもわたしのことを想って、悩
んでくれるから。でも、本当はその悩みを直接わたしにも教えて欲しい。それ
が無理なら、せめて、シンジが悩まなくてもいいような普通の女の子にならな
くちゃと思う。シンジは、わたしの考えが分かったのか、突然、気をとりなお
したように、明るい声で、話かけくれた。だから、わたしも明るく、少し甘え
て答える。
 
「レイ、どんな本借りて来たの?」
「うふふっ、ヒ・ミ・ツ」
 
「また、例によって、ラブコメ?・・・・たのしい?そんなの」
「いいの。だって、わたし、しらなすぎるんだもの。だから、参考書なの、わ
たしの」
 
「でも、レイ。本からだけじゃあ、世界が狭くなっちゃうよ。もっと、現実か
らも学ばないと」
「うん、分かってる。だから、参考書。シンジがわたしにとっての現実だから・・・」
 
「僕は、レイを守るからね。しっかりとした男になって」
「うん」

そうね。シンジは、優しくそういってくれる。わたしを守るために強い男にな
る。シンジの口ぐせ。だから、わたしはシンジが強い男になるために存在する
のかもしれない、と思う・・・それがわたしの存在意義・・・だから、わたし
はいつでも、シンジにそう思わせる素敵な女でいなければいけない。そう思う
から、やっぱり、いまは、本で勉強する・・・
 
「いっけない。わたし、本、図書室に置いて来ちゃった。カウンターのとこ!」
「え?」

「シンジが別れぎわにあんなこというからよ。取って来る」
「う、うん。ちゃんと、待ってるからね、今度は。だから、ゆっくりでいいよ」
 
校門を出たあたりで、わたしは、手で持ってきたはずの・・・鞄に入れるのも
時間が惜しかったから・・・本がないことに気づいて、シンジにそういったあ
と、走って取りにいった。なんだか、今日は、走ってばっかりな気がする。
 

    ◇  ◇  ◇


「綾波レイ」

下駄箱のところで、わたしが靴を履き替えているとき、突然、背後から声が聞
こえた。澄んだ・・・でも、とても冷たい声で呼ばれて、わたしは後ろを振り
向いた。

「君は僕とおなじだね」

その人は、下駄箱に寄りかかりながら、冷たい寂しげな笑みを浮かべるとさっ
きと同じように、冷たい感情のない声でそういった。

『わたしとおなじ?・・・なにが?』

わたしは、その人の瞳がわたしとおなじであることに気づいた。深い真紅の瞳、
瞳の奥が、なにか悲しみをもったように揺れるのが分かる。きっと、シンジが
いってた悲しみの瞳・・・わたしとおなじ?わたしが黙って、見つめていると、
その人は、再び静かな声で話かけてきた。

「そうだね、突然、声をかけて失礼だったね」
「・・・なに?」

「忘れものを持ってきてあげたよ」
「・・・・あ、ありがと」

わたしが図書館にわすれた本を差し出した。わたしは礼をいって本を受け取る。
その人は、相変わらず、感情のこもらない冷たい笑顔で、それに答える。

「いいよ。ミスをしない人間はいないからね。それに、君はシンジ君に夢中な
んだね?」
「・・・・」

なにをいうの?この人は・・・・初対面だというのに・・・・なにがいいたい
の?それに・・・・なにがそんなに・・・

「フフッ、君は好意に値する人間だよ・・・そして、彼もだね」
「・・・なにがいいたいの?あなた」

「今日はこれくらいでいいよ。でも、僕は君ともっと話がしたいな。そのうち
ね・・・フフッ」

そういうと、その人は、ローカを歩いて、去っていった。なんだか、意味深な
ことをいろいろいわれて、わたしは、なにを言われたのかよく分からず、とま
どってしまい、しばらく、その場で黙りこんでしまった。


    ◇  ◇  ◇


「いったい、何だっていうの!」

その人がいなくなってから、しばらく、下駄箱の前にたちつくしたあと、わた
しは、思わず、大声で叫んでしまった。周りにいた数人の人が振り返る。でも、
わたしは昂ぶってくる感情を抑えることが出来なかった。いったい、何だって
いうのよ!なにが、わたしと同じだっていうのよ!目が同じように赤いってだ
けじゃない!

わからないけど、なぜだか、とてもイライラする。でも、とにかく、シンジが
まってるから、早くいかなきゃ。きっと、シンジの顔を・・・優しい微笑みを
見れば、収まるわ。そう思って、わたしは、本を鞄にしまって、シンジの待っ
ている校門へ向かった。

「シンジ、お待たせ!」
「ど、どうしたの?なんか、すごい顔してるけど」

「わかる?」
「うん、なんか、怖いよ、レイ」

「うん、わたし、怒ってるの」

わたしは、シンジにあの人のことを話した。話してみても、なんで、自分が怒
ってるのかわからなかった。でも、とにかく、初対面なのになれなれしく、い
きなり、フルネームを呼び捨てにして、それに・・・・とにかく

「ホント、嫌な奴だったわ。恩着せがましくって。それになれなれしくって」
「でも、本、届けてくれたんだろ?いい人じゃないか」

シンジは、そういって、わたしに優しく微笑みかけてくれる。そうね、いい人
だったんだわ、きっと、そうかもしれない。シンジに微笑みかけられるとなん
で、こんなに落ち着くのかしら?そうね、いい人だったのね。だた、わたしが
怖かっただけ・・・だから、もうちょっと、シンジに甘えたいから、怒ったふ
りをするの。

「でも、失礼よ。いきなり、女性に話かけてくるなんて」
「フフフ・・・・でも、それなら、僕なんか、いきなり、レイの裸見ちゃった
けど」

も、もう!シンジはどうして、そういうこというの?・・・うふふっ、でも、
シンジだから、いいもの・・・シンジにはわたしの全てを見てもらいたいから・・・
そんなことを思ったら、なんだか、顔が急に熱くなって、きっと、真っ赤にな
ってるわ、わたし・・・・やっぱり、恥ずかしいっ!
 
「その節は、大変、失礼致しました」
「も、もう!シンジの意地悪」

「い、痛いよ。レイ・・・・でも、とっても、綺麗だったよ。まるで、天使の
ように、真っ白で」
「もう・・・・」

ありがと、シンジ・・・嬉しい・・・綺麗だなんて・・・ うふふっ、それに、
わたし、知ってるわ、女の人の裸を見た男の人は、責任をとって、その女の人
をお嫁さんにするのよ!
 
「責任、とってもらわなきゃね!乙女の肌を見たんだもの、シンジは」
「そんなあ、レイが、突然、現れたんじゃないか・・・・服も着ずに」
 
「あら?だって、わたしの部屋だもの。ジンジは、乙女の部屋に勝手に上がり
込んだのよ。どっちが悪いと思う?」
「そ、それは・・・・」

うふふっ、シンジ、困ってる。わたし、悪い子だから、シンジが真っ赤になっ
て困ってるのだーい好き!だから、シンジの目をのぞき込んで、かわいい声で
いうの。
 
「どっち?」
「・・・・僕かな・・・・やっぱり」
 
「うふふっ、よろしくね」
「う、うん」

うふふっ、聞いちゃった。よろしくしてくれるって、いってくれたもの!

「ち、違うよ。卑怯だよ、レイ。そんな風にいわせるなんて!・・・・その、
そういうのは、もっと、ふたりっきりで・・・・いまも、そうだけど・・・・
その、もっと、いい雰囲気のなかで・・・・いや、その、僕がいうかどうかは・・・・
あの・・・・」

シンジは、曖昧に返事をしたあと、慌てたように、でも、それを打ち消す訳で
もなく、そういってくれる。いいの、はずみでも、わたしは、嬉しいから・・・
幸せだから。

「ありがと、シンジ」
「・・・だから、そうじゃなくて・・・・」

だから、いいの。いまは約束してくれなくても・・・いまは、優しく見つめて
くれるだけで、幸せだから・・・でも、いつか絶対、そうなりたいなぁ、と思
う。わたしは、素敵な女になるんだから。わたしは、シンジの腕を抱きしめて、
シンジをにっこりと見上げて、ささやくの。

「わたし、待ってるから、いつまでも・・・・うふふっ」
「う、うん。僕こそ、よろしく」

つづく

あとがき えーと、筆者です。 なかなか、先に進みません。 なにかを期待して、読んで下さった方、どうもすいません。 その、なにかなわけですが・・・・ そもそも、それを書こうとして、書きはじめた訳なんですけど、 とても、一話では終わりそうにありませんので、 このへんで、『つづく』なわけになってしまいました。 この話は、つまり、「レイが好き!」の第18話「責任」の最後の一小節の レイ一人称ヴァージョンであります。 で、事件のはじまりでもあるわけなんですが・・・・ごめんなさい。 「シンジが好き!」第壱話のあとがきでも書いてますけど、 セリフは変えられないし、レイはなにを思ってこんなこといったんだ? という矛盾が山程でてきてしまうじゃありませんか! ホント、困ってしまう。 でも、なかなか、かわいいレイが書けたんじゃないかとおもってますけどね。 でも、皆さんのイメージにあうかどうかは知りませんけどね。 でも、筆者はこういう子が好きなんだからしょうがないっすよね。 ・・・「でも・・ね」三連発だ! ところで、もうひとつ困ったことがあるんですよ。 何かといいますと、 「シンジが好き!」第壱話「出会い」の次の第弐話がこれって、 なんか、やばいですよね。いいんだろうか?こんなに飛んで。 なにせ、前回の話は「出会い」っていうぐらいで、出会ったばっかりで、 終わり方だって、 『・・・・ありがとう・・・・感謝の言葉・・・・はじめての言葉・・・・』 『・・・・たのしい・・・・これも、はじめて・・・・』 『・・・・碇君・・・・』 『・・・・手当してくれた人・・・』 『・・・・わたしを・・・・好きだとういう人・・・・好きって何?』 なわけで・・・ つまり、まだ、全然らぶらぶじゃなかったのに、 間がなくて、いきなり、これですからね・・・・ まあ、そのうち、1.5話を書くとか、 あるいは、編成を全面的に見直すかもしれません。 それは、そんなに、重要な問題ではないでしょう。 (作業としてもindex.html書き直すだけだし) 前から、増刊号を解体して、それぞれ、 「シンジが好き!」「嗚呼アスカ様!」「レイが好き!未来編」「ハジメはじめ!」 という不定期連載小説に分けて整理していく可能性はあると思ってましたから。 (「ハジメはじめ!」は構想あるんですけど・・・会話が少しだけ・・・かけるかな?) (「サルでもかける・・・」はどうしよう?) ・・・・はい、わかってます。 みなさんが、知りたいのは、そういうことじゃないですね。 わかって、脱線しております。 だから、いま、重要なのは、 その・・・カヲル君との絡みなんですけどね。(ああ、触れたくなかった) 次号では、それが中心になるはずです。絶対そうなるはずなんです。 だから、その、まあ、次号に期待ということで・・・・ ・・・・ごめんなさい。 あっ、今回のレイのイライラってなんとなく分かりますよねぇ? それでは、 もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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